輪廻を終える方法~無限進化と創造神の法則~

たぶり

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人類進歩の大役

78話 石英さんの導きを一旦終了する

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 ケガをした母親の代わりに、石英さんが家事をするようになって1週間。
 (基本的に、人間の行動に介入する時以外では、アースとメルシアとで時間の流れ方が違うらしく、俺達からすると1日過ぎたぐらいだ)

 石英さんのお金に対する価値観に変化が出始めた。

 お金を稼ぐ事への拒否感が徐々に弱まっていき、すでに、イラスト制作の依頼受付の案内もブログに設置していた。
 それと同時に、石英さんの描いたイラストを気に入った固定読者がちらほら現れている。
 ちなみに、読者が集まるのに、俺達が何かしたわけではない。


 石英さん本人も、苦手な家事をすることで、なぜか仕事に良い影響があるという因果関係を理解しはじめたらしく、家事に対するやる気も上がってきたらしい。

 ただ、彼が早々にこの因果関係を認識できたのは元々の知性が優れている点にあると思う。

 彼は優しい人間だ。優しさは知性の現われでもある。
 その優しさは彼に賢い行動を無意識に取らせ、人生の奥深い法則を悟らせることになるだろう。

 いかに知能が足りなくても、優しさに溢れていれば無自覚に賢い行動を取る事になる。


 
 ん......なんか俺、導きの仕事を始めてから人が変わってきたような。

 石英さんと一緒に成長してるってことか?
 そうだったらなんかやる気出るな。

 
 ただ......石英さんの理解が深まったところで、次の一手が大切になるだろう。

 もう一歩先の理解へと導く必要がある。

 というのも、人間は頼りになる一つの方法を見つけると、それに依存してしまうものだからだ。
 その依存は弱さを生み、精神の進歩を遅らせる元になる。

 実際、今の石英さんを観ると、家事が仕事に結びつくという理解があるゆえに、若干、家事をやりすぎているように感じる。囚われているといっても良い。

 石英さんの精神的課題が” 目標に囚われやすい点 ”にあるのだが、目標を達成するための手段として家事をしているという点で、やはりまだ目標に囚われていて、広い視野を得ているとは言い難い。

 で、ここで大切なのは

 『過剰なまでに目標に囚われやすいのは何故なのか?』

 という点である。

 簡潔に言うと、親の影響である。
 大部分の人間は親からの影響を受けて人格を形成する。
 だが、親からの影響により出来上がった人格は.......本当の人格ではない。

 あくまでもアースの中で出来た、仮の自我人格である。

 だから、人生では、親の影響から脱するのが最初のステップになる。
 仮の自我を脱するまでは、親の影響から脱する行動のほうが長期的に良い結果を生むだろう。

 家事が苦手なのは両親も関係があるため、家事により良い結果が生じているのもその一つである。


 ちなみに、石英さんが目標に囚われやすいのは、目標も無くフラフラ生きている両親を反面教師にしたからである。彼は、母親の事を好きな反面、自分はこうはなりたくないとも思っている。

 親の逆を行きたい!という考え方は、一見、親の影響じゃないように見えるが、やはり親に反応して作られた人格なので、これも親の影響により出来上がった性格と言える。

 石英さんが、親の影響により出来た人格を抜け出せたなら、アース仮相界を離れ真相界に来た時に、数段高い世界に行きつくことになるだろう。

 
 で....どうするか?

 俺は3人に指示を出すことにした。

 「石英さんが家事の合間に瞑想を取り入れるよう導く。
 そのために、石英さんが瞑想するよう意念を送ってくれ。
 石英さんが瞑想しているのを思い浮かべるだけでいい」

 「分かったぜ!ボス!」
 「分かりました」
 「あいあいさー!!」

  本当は俺の意念であれば石英さんに瞑想を行わせるのは容易いのだが、3人の成長のためと、石英さん本人のために3人に任せるのが良いと思った。

 というのも、強い意念に動かされた人間による行動は、自発的行動とはみなされないからである。
 操り人形のように動かされたところで精神の筋肉はつかないのだ。

 だから、まだ意念の強くない3人に任せた。
 しかし、俺も何もしないわけではない。

 
 .........3人が意念を送ってから数時間後、意念の影響か、掃除をすることに空虚な気持ちを感じはじめたらしく、何をするでもなく、石英さんは綺麗に片付けられた自室の椅子に座った。
 瞑想とは言えないような、ふとした休憩のようなものだったが、十分である。

 俺は

 《石英さんが両親を旅行に連れて行っているイメージ》

 を思い浮かべた。

 その意念は石英さんに届き....徐々に石英さんの思考に根付き始めた。

 実は、石英さんは浪費グセを持つ両親を反面教師にし、自身は過剰なまでの倹約家になっていた。
 そのため、必要なことにお金を使えないのももちろん、誰かのためにお金を使うなどもできないし、それは悪いことだと思っているふしがあった。
 両親も自分のためにお金を使ってほしくないし、自分も両親のためには使わないと固く思っている。

 特に、このあたりの価値観は強烈で、ここを突き崩すことで、親により出来た仮の人格を脱する機会になると思った。


 そして・・・・・・・
 
 アースにしてその数週間後、母親のケガが治ったので、石英さんは、なけなしの貯金で家族を伊豆の旅行に連れていき、楽しい時間を過ごせたようだ。父の仁王丸さんとは仲は悪くないもののギクシャクする関係だったが、以前よりも仲良くなれたようだ。

 旅行の中で石英さんは「僕が成功して、今よりも、もっと両親に楽をさせてあげるよ」というような決意を語り、それにより、両親に良い変化があったようだ。

 両親は以前よりも生活習慣が良くなり、自制心が少し育ったようである。
 息子の成長に、自身もしっかりせねばと思ったのかもしれない。


 ただ、石英さんの”成功の基準”がまだ、経済力に優れた存在になることに留まっている点は、今後の課題点である。

 
 それで、石英さんに関しては、両親を旅行に連れて行った数日後.....初の依頼が来た。

 広告のイラストを描いてほしい、というものである。
 実は、これは俺が工面した縁である。
 
 中学生向けの塾のウェブ広告で、そこに萌え絵を導入したいらしい。
 それで塾のオーナーがイラストレーターを探していた所、石英さんのブログに辿り着く....ように導いた。

 今回のような自身の進歩につながる良いお金の使い方は、どこからともなく、収入を発生させるものである。それを石英さんに知らせるために初の依頼を用意した。

 実は、”広告”という分野を選んだのは、石英さんの資本主義に対する嫌悪感を解消させるためである。芸術家志向の人は資本主義に対する苦手意識が強くなりやすい。そのため、広告という分野を経験させることにした。

 実は......石英さんの直近の前世は、1800年代のスペインの大実業家である。
 慈善事業なども積極的に行う優れた実業家だったが、経済的合理性を追求しすぎてそれ以外が観えなくなりがちだった所から、死後、真相界のグランディにてお金を介さずに人を助ける方法などを学び、再度アースに山田石英として転生するにいたった。

 ほとんどの人に共通するが、やはり精神の成長が進むほど、前世の自分が得意としていた分野に近づいていくものである。


 それはさておき......その後、彼の描いた萌え絵の広告は、かつてないほどの人を集めた。それをきっかけに、石英さんは広告の依頼が多く舞い込むようになり.....ついに、イラストレーターとして収入を得られるようになっていた。

 俺達は彼が慢心せずに、家事や瞑想・親孝行などを続けているのを見届け、一旦、彼の導きから離れることにした。ただ、石英さん家族の今後は定期的にチェックする。


 今回、導きとしては、ある程度、良い形になったと思う。

 俺達3人はモニターにあるポイントを観てみることにした。

 「そういえば、ポイントなんてぜんぜん見てなかったよな......まあ、ハッキリいってポイントなんてそんなにいらないけど......」

 と言いつつ、モニターに現在の所有ポイントを表示してみた。

 《1084888》

 .........多いのか少ないのか、さっぱり分からん。
 ただ、0よりは多いのは分かる。

 「一気に100万越えかー!さすが周さんだなぁ」

 いやいや、ケンゴ君もこれが多いのか少ないのか分かってないだろ。

 まあ、数字はいいとして、ポイントの下に目ん玉が飛び出るような記載があった。

 ---------------------------------
 
 今回の導きの内容を精査した結果、野田周さんの街に3000人預ける事を決定しました。
 2日後、その件について、神 エスプランダー・カーンが説明にそちらに伺います。
 
 なお、それまでに、そちらの街の名前を決めておいて頂けると幸いです。

 ---------------------------------

 「一気に3000名の増員かよ!!?」
 
 そんなに来たら組織化しないとどうしようもないじゃん。
 
 俺、組織のトップなんて経験したこと無いんだけど.....
 どうしたらいいの?

 あと、この街の名前、どうしよう.........
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