輪廻を終える方法~無限進化と創造神の法則~

たぶり

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マルフィに起きた大異変

68話 ムスカリ君の正体

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 65話続き
 前回のあらすじ

 神殿の中の輝くオーブに触れる
 ↓
 古代人であるファンネルとフェリシアの夢を見る



 野田周視点


 オーブにアリシャが触れたら、一瞬、アリシャの意識が途絶えた。
 そして、意識を共有している俺にもアリシャが観ている”夢”が見え始めた。

 ファンネルとフェリシア、古代の街か.......

 それが何を意味するか全く分からないが、古代の人達が異世界に精神のみで行くことができたというのは妙に納得できる。
 古代人は、当時の文明ではできないであろうことをやってのけていた、という話はよく聴いていた。

 その割に、最小限の文明しか築いてないと感じていたのは、異世界の方が素晴らしいから余分な文明を築く必要が無かったと考えると色々辻褄があうな。
 瞑想状態に入ることで、異世界から情報を得て、異世界で娯楽を嗜んでいたらしいことが夢の内容から垣間見えた。

 ただ、そう易々と異世界にいけるなら、試練の場であるアースの存在意義が霞むような気もするんだが。

 だから今のアースの人類は異世界へ行けないようになっているのか?


 ファンネルとフェリシアが暮らしていたのは何年前のアースなのだろうか?

 古代人.....古代人.....はて?

 ムスカリ君って古代人だったよな。
 ファンネルやフェリシアと同じことをしていたって可能性は無いだろうか。

 改めて考えると、俺は、いまだにムスカリ君の事が全く分かっていない事に気付かされる。



 .....あ...............

 とんでもない事に気が付いた。

 俺、ムスカリ君の解析をしていない。
 
 アガパンサから解析方法を教えてもらったのはムスカリ君と出会った後だから、すっかり忘れてた............

 ムスカリ君の解析をすれば、もっと情報を得られるんじゃないか。
 早速、解析だ!!

 俺はアリシャの視界に映るムスカリ君の内側を覗き込むよう意識した。

 ---------------------------
 実体 魔神ガンジャス・ベルギウス
 マルフィ顕現体 ムスカリ
 
 忍耐強く、穏和な性格。今世の課題点は過去の過ちを身をもって経験し、反省を行うことである。実体である魔神ガンジャス・ベルギウスは約11万年前、真相界アナスタの妖精族を滅ぼした。
 その目的は、アナスタの妖精族が支援する仮相界メルセルの人間を堕落させることである。
 
 妖精族の支援を失ったメルセルの人間は良心を忘れ、争い始め、当時のメルセルの人口38億人が21億人にまで減少するという事態にいたった。

 その結果、魔神ガンジャス・ベルギウスは変異し、邪神セビュー・アルテルズとしての自覚を得た。
 しかし、約7万年前、邪神セビューはマルフィにて破壊神ディストル・ブロアに消滅させられる。
 その闘いの余波はアースの環境にも及び、世界各地で巨大地震が頻発し、現在、インドネシアに属するスマトラ島の巨大火山も噴火し、アースの環境に深刻な影響をもたらした。

 邪神セビューは消滅させられたため、現在は、魔神ガンジャス・ベルギウスとしての実体が残っている。
 
 過去の罪は巨大なものではあるが、ムスカリにはその罪を償うのに相応しい力も与えられている。
 奇しくも、それは魔神としての生き方により築かれたものであるが。

 ---------------------------

 絶句。


 まじかよ。誰かウソだと言ってくれよ。
 あまりものひどい情報に眩暈がした。

 し....信じたくない。ムスカリ君は魔神とか邪神だったのか?

 過去に妖精族を滅ぼしたから、ムスカリ君はオーディンとかいう妖精に一族もろとも殺されるという因果にいたったのだろうか。

 パンドラの箱を開けちまった気分だ。


 ただ.............
 
 これが事実なら、救いもある。
 巨大な罪を償うのに相応しい力もムスカリ君には与えられているということだ。

 なら、ムスカリ君に備わるその力とやらが、人類の助けになるよう俺が導けたらいいのではないか?

 元が魔人や邪神だからといって、ムスカリ君を放り出すことなどできない。
 当初の約束どおり、ムスカリ君の家族を探そう。

 さらには、ムスカリ君に備わるという力を解放し、人類のために使ってもらおう。
 それが一番ムスカリ君のため、世界のためになるんじゃないか。

 この事はアリシャには伏せておこう。
 ただ、意識を共有しているので、この事実をどこまで伏せられるのかは分からないが。

 ムスカリ君の純粋無垢な感じからは、邪神だったとは想像もできないな。
 もしかして、邪神の部分を中和できるほどの良い部分として、ムスカリ君という存在が生まれたのだろうか。

 
 ・・・・・・・・・・

 アリシャ視点

 ムスカリ君って古代から来たんだよね。
 
 背中からムスカリ君を降ろし、聴いてみた。

 「ムスカリ君はアースに居た時、他の世界に行くことってできたの?」
 しゃがんで目線を同じ高さにして聴く。

 「うん。そうだよ。お姉ちゃんも、お父さんも、お母さんもできたよ」

 やっぱりできたんだ。
 
 「ムスカリ君はこの街って見覚えある??」
 神殿に並ぶ柱の間から見える景色を指さし、聴いてみた。

 「ううん.....ぜんぜん、観たことない」

 そうか。少なくとも、ムスカリ君はこの街の人間ではないのね。
 古代といっても、同じ時代じゃない可能性も高い。

 まあ、真相界では、行こうという思いさえあれば、いつか目的地にたどり着けるみたいだし、先に進めば大丈夫か.......と、ムスカリ君を背負おうとした時。


 ズガァアアアアアン!!

 という轟音が辺り中に響き渡った。

 あたしが街に眼を向けると........
 
 壊れた石造りの建物の合間に、何か巨大な白く輝くものが立っているのが見えた。
 街の家々と比べると、その高さは5倍以上あった。
 はじめは煙突かと思ったが......何だか上部がせわしなく動いている。

 目をこらしてじっとよく見てみる。
 
 げげ........なにあれ、やだやだやだ。

 蛇じゃない!!?

 身体中の鱗から光輝を発していて、神々しい白蛇。
 巨大な目はつぶらで黒く真ん丸である。蛇なのにチワワのような眼をしていて、可愛く見えないこともない。

 ただ、神々しい白蛇もベルトぐらいの長さなら手を合わせたくなるが、あの巨大さだと、勘弁してくれと別の意味で手を合わせたくなる。

 こちらが蛇と認識したと同時に、あのチワワ蛇は舌をチロチロ出し、こちらを凝視しはじめた。

 その直後.........
 ちょ!?うわ....来る、くるぅ!!
 建物を壊しながら一直線に向かってくる!!

 ゴゴゴゴゴ!!!と轟音を響かせて迫る。

 たまらずあたしは時間停滞オラアダージオを発動した。
 チワワ蛇の動きはゆっくりとなる。破壊され宙を舞う瓦礫がれきもゆっくりになる。
 轟音も止んだ。

 あたしはムスカリ君を背負うと、すぐに神殿を出て、空洞の入り口とは逆にある穴から逃げようと走ろうとした。

 ゴッ...ゴゴッ....ゴゴゴゴ.....

 へ??

 ちょ....ちょっ待ってよ!?チワワ蛇が加速してる。
 これって、時間停滞オラアダージオが解けてきてる!?

 まさか.....強敵だといつまでも時間をスローにしておけないってこと?
 そこから2秒ほどでチワワ蛇は元の速度へと戻り、神殿に顔を突っ込ませた。


 ドゴォオオオンという音と共に、無惨にはじけ飛ぶ神殿。
 
 あたしはムスカリ君を背負って、右横へ跳び、チワワ蛇の体当たりを間一髪で回避した。
 神殿のあった丘より下部にある家の屋根へと着地する。

 はじけ飛んだ瓦礫がいくつかあたしに当たっているようだ。
 周さんの魔法障壁がガードしてくれているが。

 時間停滞オラアダージオを使って逃げる事はできなさそうだ。

 あのチワワ蛇の速さから言って、走って逃げることは不可能だわ。
 戦って切り抜けるしか無いかも......

 
 あのチワワ蛇は転生者なのかしら。
 今の所、土竜のように声は聞こえてこないようだけど。

 チワワ蛇は体を波打たせ、こちらに向き直った。

 ギャーーーー!!!

 あたしは蛇に近い石造りの家が空中を舞い、チワワ蛇の頭部へとぶち当たるイメージをした。
 その直後、石造りの家が浮き上がり、蛇の頭部へと激突する。

 ゴオオォン!という音をさせ、家は砕け散ったが、チワワ蛇は無傷なようだ。
 舌をチロチロ出してる。

 うわ........いやだぁ。

 私は手あたり次第に周囲の家を持ち上げ、チワワ蛇にぶち当てる。
 暴漢に追いつめられた女性が手あたりしだいに周囲の物を投げつける感じ。

 7軒ぐらいの家が蛇の頭部に激突し、辺りはもうもうと煙がたつ。
 その煙の中から、つぶらな眼の蛇が現れた。

 あたしの方に突進してくる。
 再度、時間停滞オラアダージオを発動し、あたしは横に出来るだけチワワ蛇から離れた場所へと移動した。

 さっきは元の加速に戻るのに5秒ぐらいかかったみたいだけど、今回は3秒ほどで元の加速に戻った。まさか、あたしの時間魔法に慣れてきてる!?そんな事が起こりえるの....?

 チワワ蛇はあたしが元居た家の屋根に顔を突っ込ませた。

 回避した事が分かると、顔だけをこちらに向け........
 
 チワワ蛇の眼が強く発光した。
 バシっ!!
 光なのに、あたしの身体に何かが当たった感じがする。

 これは....土竜モグラの時と同じだわ。

 動こうとしたが.....動けない!?

 これは麻痺を起こす魔法?

 うーん!!ダメ......ぜんぜん動けないわ!
 
 ああ!!!チワワ蛇がこっちに突進してきたぁ!
 も、もうダメかも.......

 あたしの脳裏に灰色の走馬灯がよぎる。
 映画のフィルムのように場面が横に流れていく。

 友達と遊んでる場面。
 両親が喧嘩をしている場面。
 アナント君と初めてキスをした時の場面。
 モロゾフと初めて会った時の場面。

 ......へ?モロゾフ??

 身に覚えの無い走馬灯に疑問を感じた瞬間......

 無数の巨大な氷塊がチワワ蛇の斜め上から怒涛に降り注ぎ、氷塊を食らいつつチワワ蛇が横へと回避していった。
 何が起こったのか分からず、私は呆然と立ち尽くす。
 どうやらチワワ蛇の集中力魔法維持力が乱れたのか、動けるようになった。
 
 
 「エルトロン!!!大丈夫!?.......え....私そっくり.....なんで?」
 「ちょっとぉ、ユリアナ.......エルトロンと話すのは私に任せるって言ってた......ふえ?....恵美ちゃん?」

 目の前にはサファイアブルーの髪色と美しい茶色の髪色をした二人の美女がいる。
 
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