輪廻を終える方法~無限進化と創造神の法則~

たぶり

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マルフィに起きた大異変

57話 闇魔法に恐怖を揺り起こされる

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 野田周視点

 アリシャが赤黒い膜に触れて痛がった事をきっかけに、俺はひどく動揺していた。

 まずい事に、アリシャも恐怖により動揺しきっていて俺の声が届かないようだった。

 だから、ムスカリ君を通じてアリシャに落ち着きを取り戻させた。

 ”お姉ちゃんならあいつらなんて余裕でやっつけられるよ!!”

 と、ムスカリ君が親指を立てて言い放つイメージをしたのだが、ムスカリ君も怖がっていたので、実際は震えながらアリシャを勇気づける形になった。

 結果はオーライである。ムスカリ君の怯えがアリシャに伝わった事で、アリシャが奮起した。

 
 それにしても...... 

 クソ.....アリシャを痛い目に合わせちまった!!
 俺の危機感が足りなかった。それで、今、アリシャはこんな酷い状況に.....
 許してくれなんて、とても言えない。すまない。


 しかし、俺が後悔した所でアリシャは救えない。


 だから、冷静さを取り戻したアリシャに対して助言をした。

 この状況を打開するには現状あのヤギミイラを倒すしか無い、と俺が思っていること。

 攻撃手段には魔法で強化した拳や足による物理攻撃。
 または、適性があると観られる時空魔法による攻撃がある、などの事を伝えた。

 時空魔法の適正については俺の心の内側から湧いた知識である。

 どうやら、アザラシの時のあれは時空魔法によるものらしい。もしかしたら、俺が今まで使っていたのも時空魔法なのかもしれない。同様の適性がアリシャにあるということか。

 過去、俺が水や土など色々な物を操作できたので、時空魔法は水・土・火などの属性魔法よりも高度なものなのだろうか?
 よく分からないが、俺が使っていたものと同様の性質なら、アリシャに勝機はあると思える。
 
 
 それにしても、俺のかけた魔法障壁が効かないってどういう事なんだ?
 あと、アリシャを通じない形で、俺個人としては魔法によりどこまで援護できるのだろうか?
 洞窟内を照らすといった事ができるんだから、そこそこの事ができると信じたい。

 ........チクショウ!こういうのは洞窟に入る前に試すべきだったんだ。
 俺はいつも抜けている。

 そもそもあのヤギミイラは何者なんだ?
 何は無くとも、相手の情報を掴む必要がある。

 俺はヤギミイラの内側を覗き込むように意識を集中させた。

 ・・・・・・・・・・・・
 実体 邪神オスクリタ
 マルフィ顕現体 アークスケレトゥス

 狡猾な思考力を持ち、強力な魔法を行使する。また、周囲のミイラを支配しコントロールする力を持つ魔物である。
 多くの場合、魔法の主たる属性は闇。

 人間がミイラに対して持つイメージが積み重なり、真相界にアークスケレトゥスが出現するに至った。
 また、この個体にはアークスケレトゥスと波長の合う魂が入り込んでいる。
 その名はナルバ・ラミレス。56年前にアースのアメリカ合衆国に誕生。

 幼少期から悪魔に関心を持ち、悪魔の関心を引こうと”悪魔への捧げもの”と称し、頻繁に小動物を虐殺していた。
 その後、21歳になると本格的に悪魔と同化しようと、連続殺人を企て実行した。
 6世帯の家を銃にて襲撃し、家にいた全ての人間を殺害した後、自身の頭部を銃で撃ち抜き自殺。

 その後は真相界バゴスにて”悪魔”による責め苦を約30年ほど受け続けた。
 (悪魔崇拝から精神を抜け出させるための処置であり、ナルバがイメージしていた通りの悪魔によってその責め苦は行われた)
 
 が、ナルバの悪魔崇拝は精神全体に根を張っていて悔恨の思いが湧く事は無く、それどころか、より強い悪魔になる事で地獄から抜け出そうという思いが定着していった。
 
 様々な事情により、現在ではミイラの上位存在であるアークスケレトゥスとして転生するにいたった。

 ・・・・・・・・・・・・

 こいつ....転生者なのか!!
 悪魔崇拝から魔物になった人間なんだな。

 しかも、実体は邪神だと?
 このヤギミイラはこの先邪神にいたるほどの魔物なのだろうか。
 どういう条件で邪神にいたるのかはよく分からないが。

 こういう情報がアリシャに伝わらないのは良い面かもしれない。
 相手が元人間である事、実体が邪神である事なんて知ったら冷静ではいられないだろう。
 

 いつもなら殺さずに無力化してこの場を切り抜けようと考える所なのだが、今回ばかりは、そんな余裕は無いかもしれない。



 ...........やるしかねえか。



 ---------------------------

 アリシャ視点

 ピラミッドの下段に立ち微動だにしなかったヤギミイラが動きを見せた。

 黒曜石がついた杖を地面にカツッ!と、打ちつけると、ヤギミイラの足元に魔法陣が広がる。
 

 うぅ、怖い....何を仕掛けてくるの?

 次の瞬間、ぎこちない動きでゆっくり向かってきていたミイラ達の速度が急激に上昇する。

 うわぁあああ!!一斉に距離を縮めてきたぁ!!!!

 その動きは操り人形が糸に引きずられるような感じだ。
 いかにも自身の意志ではなく、別の何かに強制的に動かされている。

 一体のミイラが私に向かってボロボロの黄ばんだ歯を剥き出しにして顔から突っ込んできた。
 瞬時に私は斜め上へ飛び、回避した。
 
 5mほど上の壁が出っ張っている部分に着地する。
 そして、片手で壁の岩を掴み体を支えて地面を見下ろす。

 先ほどのミイラが飛び込んだ勢いで、うつ伏せに転倒しているのが見える。


 ムスカリ君を背負った状態のまま壁に掴まるには腕力が心もとないので、魔法で強化する事にした。
 両腕を意識し、強くなった感覚を高めていく。
 すると、一瞬、私の両腕に紐上の魔法陣が出現し絡みついた後、消失した。

 両腕の存在感が増した感じがする。
 
 壁に掴まる手をグッと壁に差し込むと、メキメキィ!と壁の岩が圧縮され壊れる感覚がした。
 腕の強化に成功したようだ。

 そのまま岩石の壁に腕を差し込み、体を安定させる。



 そして、ヤギミイラを見下ろす。

 アイツは顔だけこちらに向けて見ている。
 動きを観察しているような冷静さだ。

 

 あのヤギミイラが司令塔であるのは間違いない。

 アイツさえ何とかすれば他のミイラは難なく倒せる気もする。
 そのためにはどうしよう....相手の手の内が分からないのに近づきたくないな。

 時空魔法を遠くからの攻撃手段として使えたらいいのだけど......
 時間の操作方法はまだ分からないけど、空間の操作はアザラシの時にやった通りにするのが良いと思う。

 さあ、どうする。
 考えろ、考えるのよ私!!


 試しにヤギミイラの足元にあるピラミッドの石材が鋭く尖り、ヤギミイラを串刺しにするイメージを浮かべてみた。

 が......反応しない。これはダメか。

 私は心の内に焦りを感じつつ周囲を見渡した。
 すると、足元の岩場に散らばった石に意識が向いた。
 先ほど腕を壁にめり込ませた時に散らばったものである。


 もしかしたら.....

 実験の意味でもやってみる。
 
 私は拳大の茶色く光沢のある石を拾い上げた。
 そして、その石が宙を舞い、地面をうろついている一体のミイラの後頭部に直撃するイメージを浮かべた。

 それと同時に、石を乗せた手のひらに魔法陣が描かれる。
 すると石は私の手のひらを離れ、こちらに顔を向けている一体のミイラに高速で向かっていく。

 そして......ミイラの背後へとカーブを描き後頭部に直撃した!
 ボグゥ!!という重い音が響いた。

 ミイラはうつ伏せに倒れた。

 後頭部は大きくひしゃげている。

 初めて生物?を殺したかもしれない。
 罪悪感があるが、この状況ではこちらも身を守るしかない。



 しかし.....普通なら石はあんな動きはしない。
 それがカーブまで描いて飛んで私のイメージ通りになるなんて。

 時空魔法は空間の中にある物に作用する力学までコントロールする魔法なのかしら。
 
 ピラミッドの石材はダメだったけど手持ちの石には効果があった。
 その理由はまだよく分からない。

 ヤギミイラを狙わなかったのは小さな攻撃で相手を過度に刺激をしないためだ。
 まだ実験したい事があるから少しでも時間を稼ぎたい。

 私はすぐにもう一体の地面をうろつくミイラに対し、地面を構成する岩石が尖り串刺しにするイメージを浮かべた。
 だが.........それも反応が無かった。

 今の私にそこまでの力は無いのかもしれない。
 少々残念な気持ちになるが、ぶっつけ本番でヤギミイラに対しやらなくて良かったと気持ちを切り替える。


 うっ!!?
 
 ヤギミイラに動きがあった。
 顔だけ向けていたのを体ごと向きを変え正面からこちらを見据えた。

 次の瞬間、ヤギミイラの上部に魔法陣が広がり、黒い玉のような物が出現した。
 何というか光を一切感じない、全てを飲み込みそうな不気味な黒さである。

 黒球は4個ほどある。黒球の大きさはサッカーボールほど。


 それで何するの?....え??....その1つをこちらに飛ばしてきた!?


 ぎゃー!!なにあれ気持ち悪い!怖い!!

 私は足場を蹴り弾丸のようなスピードで斜め下へ回避し、ズガガガ!と滑りながら地面に着地した。
 その周囲にはミイラがいないのは確認済みである。

 私は黒球の様子を伺おうと振り返る。


 そこで見たものは私を戦慄させるには十分であった。

 黒球が壁に着弾し、その後、一瞬3メートルほどの球体になると、全てを飲み込み消失した。
 残るは球体状に抉れた壁があるのみ..........


 ひぃいいいいいいーーーー!!

 私、あんな魔法を使う奴に勝てるの.....?

 また恐怖が私の心に押し寄せてきた。
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