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人類の見守り役
41話 マルファーニが救出した女の子の解析をする
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野田周視点
マルファーニは女の子が繋がれていた鎖を、剣で断ち切る。
抜刀から鎖を切り、剣を鞘に収めるまでが一瞬すぎて、女の子は怖がる間も無かった。
「お姉ちゃん、私のことを知ってるの?」
優しく声をかけられた事で、少し緊張が解けた様子だ。
銀髪でエルフのような耳をした女の子が問いかける。
「知ってるわよ。あなた大賢者の娘なんだって?ベルガモアの国王から聴いて、ここまで助けに来たの」
マルファーニは、フラフラと立ち上がる女の子に手を貸しながら言った。
大賢者の娘?
事情が全く分からない俺とアガパンサは二人の様子をじっくりと観察する。
「お姉ちゃん、お父さんの事知ってるんだ。そ、そういえば!お父さんはどこに行ったのかお姉ちゃん知ってる?襲われて、私を逃がすために父さんは........」
そう言い、最後に観た父の様子を思い出したのか、悲しそうに眼を伏せる女の子。
俺は思った。
父親がこの娘を逃がしたのなら、この娘は誰に捕まって縛られてたんだろう。
「.............残念だけど、あなたのお父さんの事は知らないの。でも、これから私達と一緒に探そう!きっと見つかるよ」
マルファーニは励ますように女の子の頭を荒々しく撫でた。
その振る舞いに、豪快だが面倒見の良さそうな性格が見て取れる。上品で冷静な吾郎の面影はほとんど無いな。
「だけど、お父さんがあなたを逃がしたなら、誰があなたを捕まえたの?国王からはそれは聞かされてないのだけど......」
俺と同じ疑問をマルファーニが女の子に問いかける。
「お父さんが逃がしてくれて.......森の中を走って.........気が付いたら、私、ここに縛られてたの」
記憶をたぐるように思い出そうとしているが、捕まえた犯人は知らないようだ。
色々な事情があるようだし、この子の正体について気になったので女の子を解析を試みた。
俺の脳裏に情報が押し寄せる。
----------------------------
実体 ???
ニンファル顕現体 メルミア
争いが嫌いで引っ込み思案な性格だが、逆境とストレスに強い。
今世における課題点は、主に、複雑な概念を理解できる知能を得ること・トラブルを経験する中で前世の反省を行うこと。
10年前のベルガモア帝国とワルディア・ニクトパラスの連合国との戦争において多くの戦果を上げた魔法使いマハトーラの娘である。種族はエルフ族。
前世は仮相界メルセルでハンターを生業としていた”バラック”という名前の獣人の男性である。血気盛んゆえに引き起こした問題は数知れず、それゆえ今世においては多くのトラブルを経験するようになっている。
また複雑な概念を理解できるようになるために、今世においては魔法使いを父に持ち、幼少期から魔法使いとして訓練を父から受けている。
試練のために知能が抑制されているため、前世の記憶はまだ思い出せる状態に無い。
----------------------------
特に犯人に繋がる情報は得られないみたいだな。
しかし、気になる事は沢山ある。
” 実体??? ”ってどういうことだ?
対象の実体が分からない事もあるのか。
前世はアース以外の仮相界であるメルセル........か、とても興味深い。
それにしても、トラブルを経験することが宿命づけられてるのは大変だな。どうにかしてトラブルを経験せずに過去の反省ができるといいのだが。
と、そう考えたその時、新たな文字が俺の脳裏に浮き出た。
----------------------------
今世で見舞われるトラブルを回避するには、複雑な概念を理解できる知能をより速く向上させる事が有効でしょう。なぜなら、前世にバラックであった時に起こした問題は知能の不足に起因するものだったからです。
今世においてはトラブルを経験する中で知能が向上するように一生涯が組まれていますが、同時に、知能の向上と共に経験すべきトラブルは少なくなるようにもなっています。
----------------------------
そうなのか。
でも、知能の向上なんてどう導いたらいいか分からないな。
《なあ、アガパンサなら知能を向上させる場合どういう風に導く?》
隣で俺と同様に二人の様子を観察していたアガパンサに聴いてみた。
《私であれば、知能を妨げる偏見を外すのに集中することが多いですね》
《それってどういうこと?》
《例えば、どこかの国に偏見を持っている場合、その国の人間にも様々な人がいて、様々な良い点があることがこの偏見があるだけで一気に見えなくなります。これは著しく知能を低下させる元でして、そのために偏見を外すことを重要視しています》
《そういうことか.......でも、小さい女の子に偏見ってあるのかな》
《小さい女の子でも8歳ともなれば、何らかの偏見が観られるでしょう。偏見は前世から引き継いだ精神由来のものですから》
《そうか.....偏見ね.....》
と、女の子を観た瞬間、俺の脳裏に再度、文字が浮かび上がった。
----------------------------
メルミアは争いで物事を解決しようとする人間に偏見を持っています。それは、バラックであった頃に暴力で物事を解決する同様の性質があったからです。
進歩の過程では、前世の自分のような人間に対し偏見が産まれる事が多いです。
武力で物事を解決する傾向のあるマルファーニに助けられたのは、その偏見を外すための一つの巡りあわせでしょう。
また、10年前の戦争で英雄とされるマハトーラが父である事も、この偏見を外すための巡り合わせです。
----------------------------
争いで物事を解決する人間が苦手って、偏見って言えるのだろうか?
あ!?でも、それって俺にも同じ傾向がある。
俺は争いが何よりも嫌いだったのに、真相界に来てから俺は襲われっぱなしだ。結局、武力で何とかするしかない局面が多かった。その中で”武力で何とかせざる得ない境遇の人間”っていうのもいるのだって事を、身をもって理解した。
あと、過去の俺は基本受け身だったけど、襲われてきた経験の中で、世界を自分の手で変えていく事に対して苦手意識が無くなりつつある。(まあ、アガパンサに気絶させられた後から急激にそうなってきている、といった感じだが)
となると、引っ込み思案っていう所を解消するのと、争い嫌いの偏見の解消は繋がっているのではないか?
と、再度、メルミアの方を見たら、マルファーニがメルミアを背負って駆けだそうとしていた。
この”ビツラウラ洞窟”とやらから出る事にしたらしい。
マルファーニは女の子が繋がれていた鎖を、剣で断ち切る。
抜刀から鎖を切り、剣を鞘に収めるまでが一瞬すぎて、女の子は怖がる間も無かった。
「お姉ちゃん、私のことを知ってるの?」
優しく声をかけられた事で、少し緊張が解けた様子だ。
銀髪でエルフのような耳をした女の子が問いかける。
「知ってるわよ。あなた大賢者の娘なんだって?ベルガモアの国王から聴いて、ここまで助けに来たの」
マルファーニは、フラフラと立ち上がる女の子に手を貸しながら言った。
大賢者の娘?
事情が全く分からない俺とアガパンサは二人の様子をじっくりと観察する。
「お姉ちゃん、お父さんの事知ってるんだ。そ、そういえば!お父さんはどこに行ったのかお姉ちゃん知ってる?襲われて、私を逃がすために父さんは........」
そう言い、最後に観た父の様子を思い出したのか、悲しそうに眼を伏せる女の子。
俺は思った。
父親がこの娘を逃がしたのなら、この娘は誰に捕まって縛られてたんだろう。
「.............残念だけど、あなたのお父さんの事は知らないの。でも、これから私達と一緒に探そう!きっと見つかるよ」
マルファーニは励ますように女の子の頭を荒々しく撫でた。
その振る舞いに、豪快だが面倒見の良さそうな性格が見て取れる。上品で冷静な吾郎の面影はほとんど無いな。
「だけど、お父さんがあなたを逃がしたなら、誰があなたを捕まえたの?国王からはそれは聞かされてないのだけど......」
俺と同じ疑問をマルファーニが女の子に問いかける。
「お父さんが逃がしてくれて.......森の中を走って.........気が付いたら、私、ここに縛られてたの」
記憶をたぐるように思い出そうとしているが、捕まえた犯人は知らないようだ。
色々な事情があるようだし、この子の正体について気になったので女の子を解析を試みた。
俺の脳裏に情報が押し寄せる。
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実体 ???
ニンファル顕現体 メルミア
争いが嫌いで引っ込み思案な性格だが、逆境とストレスに強い。
今世における課題点は、主に、複雑な概念を理解できる知能を得ること・トラブルを経験する中で前世の反省を行うこと。
10年前のベルガモア帝国とワルディア・ニクトパラスの連合国との戦争において多くの戦果を上げた魔法使いマハトーラの娘である。種族はエルフ族。
前世は仮相界メルセルでハンターを生業としていた”バラック”という名前の獣人の男性である。血気盛んゆえに引き起こした問題は数知れず、それゆえ今世においては多くのトラブルを経験するようになっている。
また複雑な概念を理解できるようになるために、今世においては魔法使いを父に持ち、幼少期から魔法使いとして訓練を父から受けている。
試練のために知能が抑制されているため、前世の記憶はまだ思い出せる状態に無い。
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特に犯人に繋がる情報は得られないみたいだな。
しかし、気になる事は沢山ある。
” 実体??? ”ってどういうことだ?
対象の実体が分からない事もあるのか。
前世はアース以外の仮相界であるメルセル........か、とても興味深い。
それにしても、トラブルを経験することが宿命づけられてるのは大変だな。どうにかしてトラブルを経験せずに過去の反省ができるといいのだが。
と、そう考えたその時、新たな文字が俺の脳裏に浮き出た。
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今世で見舞われるトラブルを回避するには、複雑な概念を理解できる知能をより速く向上させる事が有効でしょう。なぜなら、前世にバラックであった時に起こした問題は知能の不足に起因するものだったからです。
今世においてはトラブルを経験する中で知能が向上するように一生涯が組まれていますが、同時に、知能の向上と共に経験すべきトラブルは少なくなるようにもなっています。
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そうなのか。
でも、知能の向上なんてどう導いたらいいか分からないな。
《なあ、アガパンサなら知能を向上させる場合どういう風に導く?》
隣で俺と同様に二人の様子を観察していたアガパンサに聴いてみた。
《私であれば、知能を妨げる偏見を外すのに集中することが多いですね》
《それってどういうこと?》
《例えば、どこかの国に偏見を持っている場合、その国の人間にも様々な人がいて、様々な良い点があることがこの偏見があるだけで一気に見えなくなります。これは著しく知能を低下させる元でして、そのために偏見を外すことを重要視しています》
《そういうことか.......でも、小さい女の子に偏見ってあるのかな》
《小さい女の子でも8歳ともなれば、何らかの偏見が観られるでしょう。偏見は前世から引き継いだ精神由来のものですから》
《そうか.....偏見ね.....》
と、女の子を観た瞬間、俺の脳裏に再度、文字が浮かび上がった。
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メルミアは争いで物事を解決しようとする人間に偏見を持っています。それは、バラックであった頃に暴力で物事を解決する同様の性質があったからです。
進歩の過程では、前世の自分のような人間に対し偏見が産まれる事が多いです。
武力で物事を解決する傾向のあるマルファーニに助けられたのは、その偏見を外すための一つの巡りあわせでしょう。
また、10年前の戦争で英雄とされるマハトーラが父である事も、この偏見を外すための巡り合わせです。
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争いで物事を解決する人間が苦手って、偏見って言えるのだろうか?
あ!?でも、それって俺にも同じ傾向がある。
俺は争いが何よりも嫌いだったのに、真相界に来てから俺は襲われっぱなしだ。結局、武力で何とかするしかない局面が多かった。その中で”武力で何とかせざる得ない境遇の人間”っていうのもいるのだって事を、身をもって理解した。
あと、過去の俺は基本受け身だったけど、襲われてきた経験の中で、世界を自分の手で変えていく事に対して苦手意識が無くなりつつある。(まあ、アガパンサに気絶させられた後から急激にそうなってきている、といった感じだが)
となると、引っ込み思案っていう所を解消するのと、争い嫌いの偏見の解消は繋がっているのではないか?
と、再度、メルミアの方を見たら、マルファーニがメルミアを背負って駆けだそうとしていた。
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