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第一章 湖の村攻防編

13.片鱗(へんりん)

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 ヴィートとティタの騎馬が自陣へと戻る。
 ティタの後ろに半妖魔戦団の騎馬隊が並ぶ。
 歩兵二人、妖魔の血の流れる者達の膂力でもそれだけの重さを持つ得物をティタの手元に持ってくる。
 鉄球の様な物が先端についており、その鉄球の周りには禍々しい牙が数本、方向を定めず反り立ち、手入れをしても取れぬどす黒い色がより不気味さを増していた。
 その鉄球から握りの部分までは規則的に棘が付き、フレイルの様な棒状の柄だ。
 握りの部分には握り手を守る護拳ごけんが付いており、そのまま殴れる仕様になっている。
 重装備や防御力の高い装備の上から粉砕、砕く鈍器の一つ、モルゲンステルンだ。
 それを簡単に片手で握り、体全体を分厚い鉄板の鎧で包んでいるティタは、ヴィート達の陣を睨む。
 頃合いを見て突撃、それで終わる。と彼は勝利の方程式シナリオが浮かんでいた。

 ルマリアはミカゲに勧められ、使い始めていた細剣(レイピア)の握りの、護拳代わりの装飾を見ていた。
 剣の魔王と剣の勇者が剣を重ね、鍔迫り合いをしている英雄譚にならった意匠。
 あまりにも有名な話だ。
 細剣の先端は鋭く、複雑な数種の鉱石を併せて作られており、簡易な鎧などは抵抗なく突き抜ける業物だ。
 馬上でも取り回し良く、鎧の隙間や急所を的確に刺突できるルマリアにとって、とても使い勝手良く、の沸く装備だった。
 現実逃避をしながら、ルマリアはミカゲの方に視線を向ける。
 ミカゲは大所帯の戦車の横に着け、何やら話している。
 ミカゲの戦車に乗っている、酒瓶を片手に持った、妙に露出の高い痴女ステイシアに少し苛立ちを覚えつつも、彼女以外はこれからの戦の段取りをしているのだろう。
 ミカゲを中心に会話しているようだ。

 ティタの事だ、真正面の騎馬を蹴散らして、壊滅、そして戦車を囲う算段であろうとルマリアは推測する。
 その攻め手の順番は納得できる。
 そうであっても・・・これだけの騎馬と兵士がいてもだ。
 ルマリアはミカゲに勝てないだろうという事は想像できた。

 ティタが咆哮を上げる。

 他の騎馬隊も同じように盾を叩き、武器を重ね、音を鳴らして、威嚇の咆哮を上げる。
 軍馬と言えど、自分たちを威嚇する、命の危険の及びそうな獣の声だ。
 当然萎縮したり暴れたりするものだが、ヴィート達の乗る馬はそれをぼんやり見ているだけ。
 上級の軍馬のそういった訓練は、もはや調教インストールずみであった。

 可能性としては、考えられなくも無かった、ミカゲと村との関係性。
 何度か通ううちに大櫓の者達とも挨拶は交わす程度にはなっていた。
 雰囲気と言い、ミカゲと通じる、重なるものがあった。
 顔に傷のある男と、妙にぴったりとした服を着た女とは、呼び止められ何度か世間話の様なものはしたのだが。

 ルマリアも、ティタ同様村を攻めたくはなかった。
 甘い考えなのはわかっている。しかし、ミカゲを相手に本気など到底、【発揮する間もなく倒されてしまうだろう】
 だが、戦いの影響で他の者達が、もしかすると村の人々に危害がと考えるだけでも、もはや戦い云々と意思を切り替えれずにいたのだ。
 魔人の血が入っているといえど、恩義には報いる倫理は持ち合わせている。
 混濁する思いと思考は、ティタ達の、騎馬の、大地を揺らす轟音でかき消された。

「おw、おいでなすった!こっち来る奴は全部俺が相手するからな!
 うち漏らした奴は、気絶か捕縛だ。無理そうなら後ろで応援してくれ!!!!!!wwww」
 ティタ達がものすごい勢いで騎馬を進めてくる中、ヴィートはそう言うと、
 馬を降りて、後方のルラースの方に見送る。
 騎馬隊VS歩兵状態。明らかに自殺行為だ。
 しかし、ヴィートに後数十メートルといった所で馬の歩みは途端に遅くなった。
 シデレラの野太い一鳴きで馬は怯え、もう一鳴きで、主人の全身の意思も拒む程、動こうとしなかった。
 走竜の吠え声にも幾分かは慣れている軍馬もいるのだろうが、シデレラの口元につけていた装飾がぼんやり光っている。
 魔法の影響か。
 それだけではない、ティタ達の馬の足元には、死体の肉や壊れた鎧で、異臭の放つ沼のようにヌタ場が出来上がっていた。
 「?!」
 ティタは馬から降りる。
 「無理に馬を行かせるな!足を痛めて使い物にならなくなる!!」
 重量のある馬が入れば、装備の付けていない馬の脚は、深く沈み、鎧のかどで痛め、そのまま落馬する恐れもある。
 大地の地形を変える程の魔術師がいるのか???
 ティタは周りに魔法師団でもいるのかと見渡すが、物理メインの騎士騎馬兵士のみ、元々ある程度、土壌が湿地であったとしても、このような魔法を使える者など・・・
 歩兵程度の踏み込みなら、急場仕込みのヌタ場など、大したことではない。
 ティタは思考を切り替えた。
 ティタに続き騎馬隊は馬から降り始める。
 シデレラがもう一鳴き。
 馬が暴れ、騎馬隊の数人がそれに巻き込まれる。
 ルラースの周りから光のサークルができ、弓を持つ兵士たちが一斉に矢を放つ。
 距離的にも上空に向かって円を描くように降り注ぐ。
 遠距離の矢など彼らの鎧と体皮には然程深手を与えることはできない、しかし、矢に仕込みがあるのか、彼らの体に刺さった途端、手に持つ武器を落とし、膝から崩れ落ちる者、盾だけは必死に掲げ、気絶する者と様々だ。
 即効性の麻痺や気絶効果の毒を使用した矢攻めだ。
 しかもヌタ場で動きの取れない状態で。
 アルテや動き出した戦車から放たれるイートのスリング弾は、まっすぐ的確に馬や兵士を襲っている。
 ルマリアの矢は馬を主に狙い、刺さると即座に麻痺して倒れた。
 イートのスリングから放たれた球は顔に当たると兵士たちはくしゃみをしたり目を押さえ動けなくなる。
 ヴィートは、ヌタ場に埋もれている鎧などの上を飛び回り、凄まじい速さで兵士の元に。
 気付いて身構えた時には、ヴィートの持ったフレイルが顔面や足の膝などを襲い、たちまち行動不能となっていく。
 それよりも、だ。
 ステイシアを乗せたシデレラをフィートがはしらせはじめ、ミカゲがヌタ場の方に単騎、歩いてくる。
 明らかに軽装のミカゲを襲う兵士達。
 だが、一人は空中できりもみのような動きで体が回りながら吹き飛び、もう一人は上段から切り掛かったものの、その次の瞬間膝から崩れ落ち、パタリと倒れた。
 もう一人は鈍器で突き掛かるが、その鈍器を支点にはるか向こうに吹っ飛んでいく。
 異様な光景に兵士たちは囲むも、攻めあぐねていると、
 ミカゲは籠手の角の部分を引くと細い杭のようなものを取り出す。。
 素早く囲む兵士の一人に近づくと、兵士の急所急所きゅうしょきゅうしょにその杭を突き刺していく。
 鎧抜きという、鋭い、短い杭だ。
 腕の集中している神経やじん帯の辺りを鎧の上から突かれ、痛みと共に武器を落とし、掌底や手刀で意識を刈り取られていく。
 みるみる内に兵士が倒され、ティタの周りの兵もヴィートによって戦闘不能に落ちていく。
 ルマリアは馬から降り、ミカゲの前に立ちはだかる。
 敵わないまでも、責めて、足止めだけでも。
 しかし、ミカゲはいつもの威圧をしてくるでもなく、気づけば鎧の上から拳でルマリアの鳩尾みぞおちの辺りを打ち、意識を刈り取った。
 「ルマリアすまん。稽古はまた今度だ。」
 手も足も出せず、胃液を戻しながら行動不能になったルマリアは、ミカゲの肩にそのまま担がれた。
 ミカゲは腰のベルトの上に巻き付けている鎖を外す。握りには棘の付いた護拳がつき、丁度、ルマリアを助けようと飛び掛かった兵士の顔を護拳で、兜ごと殴り飛ばす。
 首をかしげるような感じに頭が動き、脳を揺らされ、その場に倒れる。
 鎖の先端にはフレイルの先端のような棘の付いた棒状の鈍器。
 鎖の鞭チェーン・ウイップだ。
 長さはそれほどないのだが、片手で動かすそれは飛んでくる矢も高速化した先端が弾き落とし、間合いの離れた兵士たちの武器を持つ手元、装備の薄い箇所に的確に打ち込まれていく。
 ミカゲはそれを振り回し、囲む兵士達を更に倒していった。

「おぉ、ミカゲめ、と本気か?」
 
 酒瓶ごと口に運びながら、フィートの手綱でシデレラのる、移動特等席のステイシア。
 後でその酒分けてくれよとフィートが言っている。
 終わる頃にはなくなるわい。と言いながら、が許せば他のをやるがのぉと戦闘が終わってからの話しをステイシアはしている。
 全く緊張感がない。
 ただ時折、遠くで傍観しているカラーデル達を見るステイシア。
 何かあるのだろうか?…。

 周りの兵士がミカゲの腕一振りで一人、たまに二人と、崩れ落ちていく。
 恐れをなした兵士たちは右往左往するも、大戦車から槍やフレイル、スリングの攻撃で、きづけばティタと数人の兵士のみを残す形になっている。
団長おやじ!!ティタと戦わタイマンさせてくれ」
 ヴィートはミカゲに獲物ティタを取られたくないのでそう言ったが、
「それは本人ティタ次第だろう。」
 と、譲る気がないミカゲ。ルマリア担いだままでも戦うやる気だ。
「あ、姉上には何もするな!!」
 ルマリアの安否が気になるティタは近づいてくるミカゲに言う。
「ぬ、ルマリアとは姉弟きょうだいか?」とミカゲ
「え?二人姉弟なん?」とヴィート。
 二人同時の質問に戦闘どころでないティタ。
 ティタに二人が聞き返し、三者三葉の時、

 --------離れたところで大型魔獣の雄たけびが聞こえた。

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