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第一章 湖の村攻防編

4.展開

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ビアンの心の咆哮が上がっているころ、

ヴィートは露店ろてんのおばちゃんに、「壁借りるよー」と声をかけ壁を蹴って飛びあがっていた。
 その隣の家の壁を器用に蹴り、瞬く間に二階の屋根の上に上がる。
 丁度村の中央にある小さい櫓のすぐそばだ。
 小さい櫓には丸い盾のようなものが吊り下げられている。
 下を見ると、自警団装備の小柄な少年がヴィートに気づき、櫓に向かう梯子を駆け登っていた。
「ケット!大きく鐘を一回!音が鳴り終わったらもう一回の三回たのむ!」
 梯子を上る少年は軽く手を挙げながら梯子を上る。
 踵を返し二階から飛び降りると、
「ヴィート!」と呼び止める声が聞こえる。
 声の方に視線をやると、同じく自警団装備をして、ヴィートと同じくらいの年頃か、金髪の振る舞いにやや品のある青年が馬に乗り、もう一頭を手綱を曳いて乗って来た様だ。
 ヴィートの前で停まる。
「ルラース、ありがとう。」
 ヴィートはルラースと呼んだ男の曳いて来た馬に跨る。
 ゴーンと大きな鐘が鳴り響く。
「アルテの魔法石で話は聞いた。自分は村の外の人を。」
「ああ、頼む。終わったらアルテに。」
 ヴィートと馬上でそう交わし、お互いで片手の手の平を叩いて、向かう方向に馬首を
向ける。
 自分が来た方向とは違う門に向け、馬を走らせ始めるルラースを目で追い、ケットの上った櫓の方に少し馬を歩ませる。
 まるでいつもの出来事のように、流れるように動きに迷いや無駄がない。
「隊長!森の櫓には連絡しますか?」
とケットの声。
「大丈夫だ、アルテの魔法石の範囲だろうし、鐘で判る。」
 了解したかのようにケットは軽く頷き、
二回目の鐘を鳴らす。

「オヤジにも一応伝えとくか。」

 ヴィートはアルテ達のいる櫓の方に馬を走らせ始めながら呟いた。

********************

 村には大きく4箇所の門がある。

 灰の山、魔の森と村の間にある、王都に向かう道に面した、他の門よりもやや幅広く大きい北側の門の通称『王の門』。

 貴族、王族や大規模の商団はこの門から出入りする。
 湖から伸び、途中村の食糧となる作物等の畑のある道なりに村に続く東の門、
通称『湖の門』。
 その湖の門から間をあまり置かず、3匹の子豚・・・ならぬ、ゴブリン達が
居る、放牧に適した草原の拡がる南、

通称『白布・・・もとい、『草の門』

 村の西側は、また「魔の森」程驚異のいない、中央の山脈に連なった名もなき森に続く西側の門、通称『森の門』や『自警団の門』と言われている。
 なぜ、『自警団の門』なのか?
 自警団が主に、付近の巡回や、森に作った下水処理施設の点検、管理によく使われる為
である。
 この村は数年前まで疫病や、魔物の襲撃に合い、壊滅寸前であった。
 そこを、『智の勇者』の一番弟子や、今では自警団となったヴィート達によって「湖の村」として復活したのだ。
 以前は人の排せつ物などは、道端や家の裏等に廃棄や放置などが普通であった。
 しかしそれらが乾燥し、人が吸引することや、足元からの不衛生で病気やその他の汚染の危険もあった。
 そこで湖の水を村に引き、上下水を設置し、汚物を名も無き森に誘導、ろ過や希釈して小川に流したり、肥料の原料としている。

 その『自警団の門』から南に向かい、名も無き森と草の門から広がる草原の間に、南の辺境区へとつながる小道があった。
 小さい馬車ならぎりぎり一台は通れる小道。
南の辺境区に向かう道と言っても、その道は大きく円を描いて、湖の方に向かう道が本線で、途中草の門への分かれ道や、南の辺境区へと向かう分岐があって、帝国沿いの本線へとつながっていた。
 
「ピギュ!」

 名も無き森の、無造作に生えた草むらから一匹の野兎が勢い良く飛び出してきた。
 普段ならそのまま小道を越え、草原の方に入り込めば、彼(かのじょ?)は生き永らえていた。
 
 だがしかし、痛みと同時に鳴いたその一言が、こと切れる最後のひと鳴きとなった。
 「今日・・・多いね。」
 栗毛の、自警団装備の革鎧に身を包んだ小柄な少年はそう呟くと、野兎の背中から胸に向かって突き刺さった、剣先を少し延ばした様な刃物を野兎から引き抜きながら、彼はそのまま野兎の後ろ脚をもち、吊るされた野兎の首先をその刃物で横薙いだ。
 手慣れた作業で血抜き作業を終えると、後ろ足をひもで縛り、腰に吊るす。その腰には同じ様に吊るされた野兎が何匹か占拠していた。
 栗毛の少年のすぐ後ろに、同じように自警団の革鎧を着た少年がいた。
 彼の革鎧は、縦長の板状の様な物を重ねて、鱗の様にして取り付けて組み上げられている革鎧で、他の団員と同様手入れもしっかりされていた。
 事の他、一枚一枚手入れするような形になるので、普通の革鎧よりも手入れが面倒ではあるが、手先が器用で几帳面な性格なら、むしろ喜んでするだろうし、強度や動きの面で性能はかなり上がる。
 個人個人少し装備が異なるが、個人の技能や能力を活かせるよう、王国の規律縛りの騎士団とは違い、実践的な装備である。

 野兎ハンターの栗毛の少年の両耳には、羽の様な飾りが付いている。
 貴族の女性方が関心を持ちそうだが、それはそういった飾り物の類ではない。
 彼の名は『イート』、 そして板状の皮鎧スケイル・レザーを着た少年を『フィート』と言った。
 村の鐘を鳴らした『ケット』と、『イート』と『フット』の3人はこれでもほぼ、成人である。『草原の小人』や
『草原を走る者』と言われ、グラスランナーという種族で、狩りで生計をたて旅する種族だ。
 よって、格好の野兎エモノが目に飛び込んで、本能的に狩猟本能が発動するのは致し方(?)の無いことなのだ。

「警戒心もあって、臆病だから、滅多に道に飛び出て来ないのにな。」
 イートの後ろのフィートが歩きながら
言う。
「そうだよね。森の方で何かあったのかな?」
 返事を返すイート、そしてまた道に出て来た野兎飛び出てきた物に狂いも無く刃物が突き立つ。
「あ、鐘がなった。」
 イートがそういって、片耳の耳飾りを耳の裏につける。
 少し尖った耳と飾りが重なり、より音を拾いやすくする。
「あ、鏑矢の音も。外の鐘に当たった音もするよ。」
 イートはもう片方の耳の耳飾りも耳裏につけ集中する。
「何かあったけどそのまま巡回、合流せよって指示だよな。」
 フィートがイートの背中に向かって声をかける。
 イートが頷く。
「野兎が無警戒に出てくるのも関係してるんだろうな・・・原因は・・・多分これか!」
 フィートは尻より少し上の腰の辺りに収めていた、くの字に曲がった様な短剣を引き抜くと、森の方に向かって投げた。
それは旋回しながら森の木の陰に吸い込まれる様に消え、野兎の一鳴きとは違う野太い声が一つ。

 木の陰から脳天にフィートの投げた、くの字の短剣を生やし、ばたりと倒れるゴブリンの姿だった。

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