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第一章 湖の村攻防編

1.剣で語る。

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「一度、ミカゲ殿と手合わせ願えないだろうか?」

 角の人はミカゲにそう言った。この店を紹介してくれた武人に、ここなら大概の武具は治せるし、治すのが無理でも、それより良いものを作れると。
 そして、興味があるなら、そこの店主と一合でも打ち合ってみればいいと。
 聴いたときは、鍛冶屋の主人に打ち合いを???とは思ったのだが、先ほどの会話から、「ブレ」を見抜いた観察眼だけでは無いものを感じるし、それに、自分の『威圧』がまるで、
 睨んだだけ受け流されている。つまりは、彼自身に底知れぬ、

 

 感じてしまっていたのだ。
 ミカゲは一瞬動きを止めると、朗らかな雰囲気を保ち、
「いくつか聞いても?」角の人に言った。
 角の人は不躾ぶしつけだったかとおもいつつも、首を縦に振る。
「お客様を紹介された方はどなたですか?」
「デューハンという、竿状武器(ポールアックス)と両刃斧(ブロードアックス)の双斧を使う者です。」
「髭面で恰幅の良い方ですよね?」
「ええ、どちらの武器にも、『黒い眼帯の刻印』が、斧の横面に彫られていました。」
「なるほど。これは答えれなければ結構ですが、『魔界』で出会ったのですか?」
 今度は角の人の動きが止まる。
 しかし先ほどの言葉の言い間違いと、ミカゲ自身の魔界の共通語の切り替えしとされてしまっては、隠す事もないと肩を落とした。
「そうです、彼とは魔界で私が傭兵として魔王軍に参戦していた折、出会いました。
 そして彼は王国の同盟軍の傭兵として。ミカゲ殿は、私が魔物のハーフオーガ等の『混血種』でなく、魔人との『半魔』ということももうわかっているのでしょう?」
「はい。そして『半魔』がどういう扱いを受けているかもある程度は。」
 ミカゲは顔を曇らせた。彼は知っていた。『半魔』という種族が魔界やそのほかの国で、どうゆう扱いを受けているかと言う事を。
「・・・いえ、仕方のないことです。戦とはそういうもの。私は弟をつれ、デューハンに教わるがまま、魔界には戻らず、帝国に流れ着き、いまは帝国の兵士としてですが扱われています。」

 先の大戦、魔王軍と王国率いる同盟軍の戦いは、
 ある意味苛烈かれつな戦いであった。
 平和の女神を崇める「教会」から啓示けいじがあり、何人かの『勇者』も顕現けんげんし、それは数十年と渡り戦いはつづいたのだ。
 むろん魔物自体は元から各地には居たものの、魔王の進軍にて『活性化』が起こり、この地域の辺境地でも村や集落が襲われ、壊滅、多くの人命が奪われ、蹂躙じゅうりんされた。
 魔物との間にも戦争孤児扱いとして半妖の混血児が生まれ、地域によっては迫害、侮蔑ぶべつの対象となった。
 生まれた子たちに罪はないのだ、原因は、大本は、「戦争」という大きな災いきっかけのせいなのだ。
 特に魔界に住み、人よりも知識も高い魔人という種族も、同意、拒否、強制は
 ともかく、人族との間に子を成《な》すことができ、その子たちは『半魔』として魔界からも、人族の統一する王国からもさげすまれる
 対象であった。
 帝国は半妖魔戦団という混血種だけの部隊をもち、彼らの矛先を魔物に向けさせることで、味方につけ、自国の防衛の強化にうまく運用していた。
『半魔』は傍目早々はためそうそう『混血種』と思われ、見破ることもできず、だが、個体も強力な種族となるため、帝国では王国や魔界のような、、雑な扱いは受けない。
 ましてや魔界の様に奴隷の扱いなど受けにくいのだ。
 角の人は少しうつむいて物思いにけていたが、ミカゲの持ってきた、大きな樽を置く音で顔をあげる。
 樽の中には様々な武器の形をした、練習用の木製の物がはいっており、どれも綺麗に作られ、仕上げられていた。角の人は、その中に入っていた直刀の片刃の柄頭つかがしらに彫られた刻印を見た。

 黒い眼帯の刻印。

「ウチの作った製品は皆それが刻まれていますよ。めいを彫る時は違いますがねw・・・」
「先ほど直したお客さんの武器を使うと、また痛めてしまうかもしれんので、木剣なら、構わないでしょう?」
 ミカゲはまたニカッを笑ってみせて、樽を角の人に寄せた。
 角の人は、自分の使っている両刃剣と同じ木剣をとる。
 様々な長さがあり、その木剣もほぼほぼ、自分の持っている剣と同じ長さ、バランスだ。
「では自分はこれを」
 ミカゲは先程角の人の持った片刃の変わった木剣を手に取る。
 自分の持つ剣よりかは少し短い。
 彼自身の膂力はともかく、もう少し大型の剣を振り回しそうな感じではあるが。
「では台の上で。」
 二人は台の上で、お互い良い距離を取り、向き合う。
 ミカゲは気を付けをして浅く一礼する。
「?」
 角の人は何かの合図なのだろうと木剣を中段に構える。
 ミカゲもゆっくりと片刃の木剣を持ち、刃先は地面に向け、下段といった所か。 やや半身に角の人に向けて構えた。
「いつでもどうぞw」
 ミカゲが言うと同時に、角の人は、先程ミカゲに全く意に介されなかった「威圧」を全力で放った。
 先ほども警戒していたのと驚いたので、かなりの殺気と魔力で放ってしまったのだが、家屋の柵周りの野鳥はそれを感じ逃げたものの、ミカゲは何とも思っていなかったのだ。
 しかし、
 この状況で、ミカゲは目を瞑っていた。
 ゆっくりと眼を開けると、角の人の瞳を見る。

「!」
 
 自分の放った「威圧」以上の何かが、角の人の、動きを、動くことを。。。

 ・・・動くことが・・・できない・・・。

 先ほど木の杭に放ったような刺突も、他に考えられるどの動きも動いた瞬間、ミカゲの木剣で打たれ、下手をすれば気を失う終わらない結果イメージしか出て来ない・・・。
 なにより、あの眼、、、だ。恐怖や威圧などではない、むしろ形容しがたい、無感情の「殺意」のようなものが、協力な魔術師などが使う『暗示』や『縛り』の様に、指先一つ動かせない。
「-----」
 ミカゲはよく聞き取れない言葉を紡ぐ。
 柵の外の木々が大きく揺れ、何かが飛び立つような音。
 馬小屋の中から馬ではない獣のような一声。
 ほんの数秒、長くてもまだ数十秒。しかし、ミカゲとの対峙は、何十分のようにも、角の人には感じられた。置物の石像の様に全く動かないミカゲ。

 片や、
 
 全く、出来ない角の人。
「良い判断です。そこで切っ掛けを作るだけに動けば、当たる攻撃いっても当たらないでしょう」
 ミカゲが口を開くと、角の人は、その束縛された様な緊張から解き放たれたかの
 様に、大きく息を吐きながら、
「私の負けだ、ミカゲ殿、動けぬ上に、打ち込みようがない」
 と言った。






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