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第1章 幼少期

アルト、図書館へ!(1)

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 キヨの娘はミヨと言った。

 初めはぎこちなかったものの、アルトがハンカチで象ったハンカチの
妖精さんの効果で、図書館に着く頃にはすっかり緊張もほぐせたと思う。

 図書館に入ると何人かの館員の方が出迎えてくれる。

 その中で更に威厳あるヒゲを蓄えた一人の男の人も、アルトの前で
膝をつき挨拶をする。

 館長さんらしい。

 それとなく本で見たとおりの所作で頭を下げる。

「なんと、まだ幼いとはいえ貴族の礼儀もわきまえてらっしゃる。
 さすがは辺境伯のご子息であらせられる」

「アルト様は特に覚えも早い。まだ子供だからとは思わないでくれ。
 先日お伝えしたとおりだ、すまないが個室を」

 館長も頷き直々に二階の個室へ案内する。

 大きなテーブルや座り心地の良さそうな椅子。

 メイド服を着た、あれ、コゥじゃない?

 どうやら室内の事はコゥがしてくれるようだ。

 キヨを真ん中に左にアルト、右にミヨ。

「アルト様、またハンカチさんに会いたいのですが」

 ミヨがキヨの腕に隠れながら申し訳なさそうに言う。

 気に入ってくれたようだ。

 キヨはたしなめるが、アルトは手を挙げていいよといった感じで微笑む。

「コゥ、驚くなよ」

 キヨはコゥに言う。

 コゥもアルトから溢れる魔力などを前々から感じていた一人で、
警戒はしていたが、アルトが取り出したハンカチが人形になり、しかも
喋り始めたのは流石に目を見開いてしまった。

 キヨから一言なければ声も出していたかもしれない。

「アルト様、魔力操作で人形、声は音律魔法ですか?」

 人型になったハンカチはテクテクとテーブルを歩き、ミヨの真ん前に。

 アルトはキヨの手を触り、

(初めは魔力操作でしていたんだけど、動きにムラがあって、何より
どこかに触れていないと動かせなかったから、物自体に魔力を分け与えて、
そこに発動させる魔法を組み込んでみたらうまくいったよ。
魔力が消えると元に戻るけどね。
 なんて言ったっけ?あ、そうそう、特定の場所や何かのきっかけとかで
発動する設置魔法の1つだよ笑)

 説明を受けながら娘のミヨの掌の上で踊っているハンカチの人型。

 形の成形、動き、そして声も出す魔法。

 形を成形して、簡単な動きだけならキヨでも出来る。

 しかし制御する魔法まではかなりの魔力量と集中力がいる。
 
 それを切り離し自由に動かせた上に声を発するのだ。
 
 その技をまだ幼いアルトが平然としていることに驚いた。

(常に魔力を消費してるわけではないんだよ?あの人型は設置軌道の魔法。
 それに付与魔法を添付してるだけさ)

「構成はある程度理解できるのです、アルト様、私が驚いているのはそれを
一瞬で無詠唱で発動できる魔力量、そして付与魔法自体扱えることが更に
驚きなのです」

 え?付与魔法凄いの??

『凄いといえば凄いですが、キヨ様が驚いているのは、アルト様が
まだ幼いのでそれを理解し、扱えている事でしょう』

 そうなんだ。

 まぁ喜んでくれればと思ってミヨにした事だし、理解すれば誰でも
できるでsy『確かに、理解する事はできますが、それをすぐに行使出来る程の
魔力や集中力はアルト様だから出来るとしかナビも言えませんよ?』

 ええ?!そんなんだ。

(えとね、キヨ、僕は生まれた時からの記憶も意識も有って、キヨが
兄さんや姉さん達に教えている事を理解できて、見様見真似で毎日
しているんだ。だから、なんと言うか、その)

「あ、ああっ」

 ミヨが萎れていくハンカチを名残惜しそうに見る。

 ハンカチは再びふらりと浮くと頭だけの形になる。

「オイラは眠くなっちゃったぜ、また後で会おうぜ♬」

 頭の横に手が出てフリフリして沈んでいく。

「さて、ミヨ、好きな本を持って来なさい、私が読もう」

 アルトはコゥを連れて一度部屋の外に。

 図書館の中に入った時に探知探索魔法である程度調べは済んでおり、
分厚い魔術教本、錬金や錬成などのマニアックな本を何冊かコゥにも
持って来てもらい部屋に戻る。

 大きなテーブルの上にその本を一冊づつ置き、アルトは椅子の上に立つ。

 テーブルの上に置いた本が勝手にめくれ始め、アルトは座り目を瞑る。

 一冊一冊がそれぞれのタイミングで一枚一枚ページがめくれていく。

 ミヨの持って来た絵本を読み聞かせ様としてアルトのその動きにミヨは
楽しそうに見ている。

「アルト様、同時読本の魔法ですか?」

 アルトは左手の人差し指で空中を指差し、ゆらゆらと動かす。

 空中に光の文字が浮き始める。

(そうだよ、これ、便利だよね♪)

 とても幼な子が発動させる魔法でもなく、規格外の魔力を持っていると
確信するキヨとコゥは、ただただ驚くしかなかった。

 ミヨはたのしそーに本のページの捲れる様や、突然空中に浮かんだ文字を
目をキラキラさせ見ていた。




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