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さよならのあと(3)※R-18
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どうやって、バスルームからここまできたのか覚えていない――。
身体が怠くて、力が入らない。
重みの分だけベッドに沈み込んだ手足に、柔らかく熱を孕んだシーツがまとわりつくのが心地よくて瞼が重い。
「……ん」
「眠いか?」
尋ねる声に塔子は閉じていた目を薄く開いてゆるく首を振った。
「少し……そんなに寝てなくて」
「どっちだよ」
苦笑に息を漏らした音がして、上津原に、首の後ろから後頭部を支えるように手を添えられ、背中から引き上げるように抱き起こされて塔子は目を開けた。
「う……ん、っ」
塔子の長い睫毛の先が、緩くうねる前髪に触れそうに近い位置に輪郭の引き締まった整った顔があるなとぼんやりと思う間に口付けられる。
バスルームで、重ねたのは二度目だと思ってからまだ一時間も経っていないはずなのにもう何度目かわからない。数えきれない。浅く深く、何度も繰り返されて、上津原の舌に探られる違和感にも慣れてしまって、知らず応じてしまう自分がいる。
「塔子……」
熱い溜息と共に低く囁かれる声にぞくりと塔子はふるえた。
上津原が名前を口にするたびに、居た堪れないようなふるえともどかしさが身体の奥底から生じてはさざ波のように指先にまで広がっていく。
首筋に唇を押し当てられて、塔子は上津原の胸に触れている手を握り込んだ。
「あッ……」
更に引きつけるように抱き寄せられて、中途半端な胡座になった上津原を跨ぐように塔子はベッドの上に膝立ちになり、上津原の肩から首の後ろへと額を預けて塔子は俯いた。頬が熱い。頬だけじゃなくて腕も胴体にも熱がある。
「真っ昼間から三十路の処女相手になにやってんだかな……」
耳打ちする上津原の声と熱を帯びた吐息が塔子のうなじをくすぐる。
普段の荒っぽい言動からは意外なほど上津原の触れ方は丁寧で、まさに愛撫といったその二文字を塔子に想起させ、またその意味をも意識させる。
首筋から肩に下りて二の腕まで辿る唇が、背骨のラインをなぞるように滑る指が、逃げ出せないようなだらかな曲線をとる細い腰を捕らえている掌が、塔子の息を上げさせる。
くちっ……と微かな粘質な水音がして、塔子は一瞬息を詰めて顔を顰め、上津原の肩に取りすがった。背骨を辿った上津原の指はそのまま、臀部の谷の線を撫で下ろした先のぬかるみに触れ潜り込もうとしている。
襞の重なるそこに触れて表面をなぞられるのなら、その感覚に翻弄されるだけだったが、中にまで潜り込もうとすれば、身体が勝手に圧迫感のある痛みを伴って緊張した。
逡巡するような上津原の指の動きにぬかるむ場所が、徐々に溶けるようにその熱を増していくのを感じながら塔子は頭を持ち上げる。
「……上津原さん……ぁっ」
再びそろりと奥へと進んだ指に塔子は眉を顰める。
「一回イッても挿れるのはきついか、いますぐでも咥えられそうではあるんだがな」
どこかのんびりした調子で上津原がひとりごちているうちに、奥から流れ落ちてくるものを感じて塔子は狼狽に再び頭を元の場所に戻して上津原ににじり寄る。
「や……っ、……それ、やっ……めっ…っ――」
細いように見えて塔子より二回りは太く骨張った上津原の指が、流れ落ちてきたものを絡めとって塗すように襞を探り、塔子を一度追い詰めた膨らみに触れたのに、塔子は腰をがくんと不安定に揺らして上津原に縋り付いた。
ウエストを掴まれていた手で不意に顎先を捕らえられ、強引に唇も舌も奪われ、うっと塔子は呻いて目をつぶる。目をつぶれば互いに重ね絡み合わせている唇や舌も、触れている肌の熱さも、膨らみを嬲りながら塔子の内側に潜り込んでいく上津原の指と溢れてくる滴りの感触もより鮮明に感じられて塔子はぞくりと再び戦慄した。
上津原の指先を襞の奥へと塔子の身体が沈み込ませていくのをじっと待ち、同じくらいの慎重さで入口へと引き上げる。もどかしさすら感じる程のゆっくりした動きで抜き差しする上津原の指の動きに、圧迫感のある痛みは徐々に薄れ、塔子の息が弾んでいく。
上津原の指を強請るように身体の奥を蠢かせ、ゆらりと立ち昇って全身を侵食していく感覚から逃れようと塔子は身を捩ったがそれを許してくれるような上津原ではなかった。
ま、また、さっきみたいに……おかしく、なる。
喘ぎ途切れる声で切なげに塔子が訴えれば、愉快そうに上津原は口元を吊り上げた。
どうして笑うのそこで――?!
「痛いだけにはならなさそうか?」
訝しんだのも束の間、執拗さを増す上津原の指に、塔子は堪えられずに啜り泣くような声を上げる。
こんな自分の耳にも濡れた響きの声は上げたくないのに、勝手に出てしまう。
押し寄せてくる快楽と、羞恥と、触覚が伝える上津原の指の動きに翻弄され、塔子は我を忘れた。
「や、あ……あ、あ、や……上津、原さ……っ」
陸に上げられた魚が跳ねるように上津原から逃がれ、シーツの上に背中から落ちて塔子は、両腕を顔の前で交差させて自分で自分の前髪を掴んで後ろに流すように頭の上に手を下ろすとそのまま顔を横にそむけ、はあ……と深く息を吐く。
指一本動かすのも億劫なほどに泥のように身体が気怠くて、緩やかに責め立てられた奥が切ないような甘い痺れと痛みを伴ってひくりと引きつるのを感じる。下肢に力が入らない。
「……や、も……っ……無理……」
「十代二十代のガキじゃねぇから、それならそれでもいいけど」
溜息混じりにそう上津原に頬を軽く撫でられ、一抹の物淋しさも感じて塔子はそむけた顔を動かし彼を見上げる。
「あんま無理って顔じゃねぇな」
「え……」
塔子を両膝で囲うように立って見下ろしている上津原に、撫でられた頬に乱れかかった髪を指で直すようにシーツへと流され、宥めるように軽く唇を啄ばまれた。
「こっちはこんなだし」
ぼそりと低く漏らして、さっきまで塔子を翻弄していた側の手を口元へ、濡れ光る指を軽く舐めた上津原に、半ば悲鳴に近い言葉にならない声を上げ塔子はガバリと上半身を起こした。
「な、な……に、して……」
尋ねる間にも一気に顔に血が上って熱くなるのがわかる。
「なに今更、真っ赤な顔してんだよ」
起こした上半身を肩から押さえつけるように再びベッドに沈められ、きゃっと塔子は小さく驚いて瞠目した。ふっと顔が陰って、塔子を組み敷いている上津原の伸びた髪の先が彼女の額をくすぐる。
「挿れんの無理なら、口でするか?」
「え? ひっ、やぅッ……――っ」
言うが早いか、体の位置を下げた上津原に抵抗する間も無く両脚を掴まれ、閉じようとするのを割開かれたそこに顔を埋められる。
まだ鋭敏さと昇り詰めた余韻を残すそこにひたりと触れた舌先の湿った感触と目眩がしそうな羞恥に狼狽し、官能を刺激する抗えない痺れに戦慄きながら塔子は目を固く閉じた。
*****
前に、弾みでキスした時から薄々思ってはいたが――。
この女、体質的にものすごくエロいのじゃないのか?
バスルームで、好意も隠さず逃げるなと言わんばかりの目で射抜かれて。
キスした流れで部屋へと連れ出し、急にまたなにか考え出したのか足を止めたのを振り返れば俯き加減にバスローブの襟元を閉じるように握って緊張した面持ちでいるのに、だから人を強姦色魔扱いするんじゃねえと半ば呆れて、馬のたてがみみたく柔らかでコシある髪に触れれば、少し緩んだ表情がなんというか……やけにそそられた。
気がつけば再度キスして首筋などにも口付けて、そのまま倒れこむのにまた丁度いい位置にベッドがあり、泥酔した時と同じく妙にいい反応を返されて、しかもたどたどしくも応じるような仕草をされたら……身も蓋もないが、する事はひとつな状態へと自ずと絞られる。
本当にこいつわざとじゃねぇだろうなと、上津原はちらりと胸中ひとりごちた。
こっちはテーブルセットのソファにでも落ち着かせた後、軽く湿った服が乾くまで仮眠でも取らせるかと考えていたはずなのに。
触れれば長いまつ毛を震わせて、出る声を抑えようとしながらも求めるように腕など掴んでくる女相手に、中断して、寝ていろなんて言える男がいたらお目にかかりたい。
あまりの挙動不審さや仕事人間ぶりが勝って忘れがちだが、甘糟塔子は男が十人いたら七人くらいはなんらかの好意は持ちそうな美人だ。
ここ最近、自己評価の異常な低さが改善されたせいか、不意に目に入る横顔など客観的に見ても綺麗だと思う。透き通るように色白な肌とコントラストを成す黒く濡れたような艶の髪と瞳、通常の血色でも紅く目に留まる唇。
肌は雪のように白く、髪は黒檀のように黒く、唇は血のように赤いって……白雪姫かよ。
それにどういうわけか……。
「ひとつ聞いていいか?」
「ん……あ、はい……」
「前に介抱した時も思ったが、洒落っ気ねえのになんで下着はエロいんだ?」
「はっ? ……えっ、え?」
あきらかにインポート物のいいやつだ。清楚なデザインではあるものの肌馴染みのいいカラーリングや繊細なレースに薄く華奢な作りは、盛るとか見せるとかいった好戦的なものより遥かに淫靡で剥ぎ取ってくださいといった風情すらある。
「答えろ」
肉が薄くて若干心配になるデコルテから、アッシュグリーンの薄い生地に包まれた胸を掌で覆ってなだらかな膨らみの陰にある黒子に口付ければ、ん……と鼻から抜けるような低い吐息の声に、だから処女のくせにどうしてこう仕込まれたみたいな反応するんだこの女はと妙な苛立ちすら覚える。
「あ……べ、別に……そんなつもり、は……ゃっ、なく……」
へえ、と。下着の上からかるく掴むようにして、肌と布の隙間に指先を滑り込ませ、尖りかけた頂きを軽く嬲りながら上津原は相槌を打つ。意地の悪い顔をしているだろうと自覚していたが、こうも素直に反応してくれると多少は虐めてみたくなる。
「……ぁあ……ん……はぁ、ッ……ぇ、っと……」
「うん?」
途切れがちにも律儀に答えた塔子の言葉を繋ぎ合せれば、肉付きが薄いため、補正力に優れるがゆえに国産ブランド物はワイヤーなどが骨や筋に痛く不快になるそうで、松苗女史に欧州ブランドを勧められてのことらしい。まったくあの女……実にいい趣味を教え込んでくれたものだ。
薄膜でも剥がすように下着を脱がせれば、羞恥心なのか塔子は俯せに身体の向きを変えて上津原に背中を見せた。長い黒髪がしみの影一つ見えない細く滑らかな背中に乱れている様はなかなか視覚的にくるものがある。
弓月が深く撮りたいなどと言っていたのが今更ながらわかる気がする。
上津原は、着ていたシャツの襟元から手をかけて脱ぐと塔子の背に覆い被り、朱の昇った耳元に横顔を近づけた。
「跳ね除けんならいまのうちだ」
「上津原さん……?」
「じゃなきゃ、いやって言ってもやる」
「……っ、り」
「ん?」
「こんな捕まえられてたら無理っ」
いつもの、突っかかってくる時に似た調子の言葉に上津原は目元から軽く笑んだ。
抱き締めている細い身体が熱く、けれど肌は上津原の手よりもひんやりとしている。
「そりゃ、みすみす逃す気もないからな」
塔子、と囁けば振り返ったのをこめかみから寄せるようにして、紅く目立つ唇を奪い、仰向けに抱き合う形に戻しながら何度も口付ける。
正直、どうやってお互い着ていたものを全部床に脱ぎ落としたのか、上津原の記憶にもあまり残っていない。
違和感なく馴染む肌と、香料ではなさそうな仄かに甘く鼻腔をくすぐる匂いと、抑えても滴るような声と喘ぐ吐息にそれだけ夢中になっていた。
普段の様子を長い期間見ていなければ、初めてだとは信じられない順応ぶりで、抱きかかえた身体は柔らかく上津原に絡みついて程なく果てた。これで本人無自覚だろうから半ば呆れる。
うつらうつらしている様子に、そのまま寝かせるのがよいのだろうなと思いつつ、止めようとすれば切なげな表情を見せるのに誘われて止められず、最初の痛みは避けられないにしてもできる限り軽減しようと壊れ物でも扱うように触れていたつもりの上津原だったが、つい昇りつめるまで指で責め立ててしまい、完全に力が抜けてしまった様子にやりすぎたかと塔子の頬を軽く撫でた。
いやと言ってもやる、などと塔子には言ったが二十代、三十代の盛りの時期はもう過ぎている上津原としてはこのまま眠ってしまってもよかった。正直、この歳になると自分の肉体的な快楽よりも相手が乱れている様を堪能出来ればいいかといった気分のが勝る。
そう、乱れている様が――。
「ああっ、ひぅ……上っ原さ……あ、あぁあ――っ!」
両脚を抱えて押さえているから上半身を捻って啜り泣くような声を上げ、ひくひくと上津原の舌を受け入れ蜜を滴らせている塔子に、このまま寝かせて満足? 馬鹿を言うなと上津原はあっさり考えを翻す。
嬌声を上げては喘ぐ塔子の声とシーツの衣摺れの音に混じって、じゅっぐじゅっと淫靡な水音をさせているのは、他ならぬ自分の舌と指だと思うと、頭に血が上りそうな程興奮する。
「……ふっ、ぁあッ、やっ……またっ……ぃ……」
また上り詰めそうな塔子の様子に、腫れたように赤く膨らみ淫猥に濡れ光る芽に吸い付くように口付けて上津原は顔を上げ、両脚を震わせ、泣き濡れた悲鳴を上げかけて飲み込んだ塔子を見下ろしながら、臀部まで濡らすほど溢れさせているその中心に指先を埋めた。
「あぁぁっ――……っ」
さっきよりもずっと容易く第一関節まで沈み込み、細く長い掠れた悲鳴を上げた塔子に、上津原は深く息を吐いた。そろそろ自制心を保つのも限界だ、処女じゃなけばとっくに突き入れて腰を振っている。
*****
荒い呼吸は息も絶え絶えな自分だけではないと塔子が気がついたのは、上津原の舌と指で頭の中を真っ白にさせられた後、頬を上津原の熱い吐息が掠めてだった。
「上、津原さ……ん……?」
尋ねかければ口付けられた。深くもどかしいような荒々しさの隠せない口付けに塔子は目を閉じ身を委ねる。頭の上に上津原が腕を伸ばす気配がして、小さくカサリと乾いた音が聞こえ、ややあって、指や舌とは比べようもない、押し入れられる感覚と軋むような痛みに塔子はアッと声を上げ顔を顰めた。
「あ、やっ……ぅっ」
逃れようと腕で這い上るように動こうとすれば上津原にその手を取られ、指を絡めて握り締められると同時にシーツの上に動かないよう固定される。
「やっぱり痛いか……」
問いかけかれて、塔子は頷きかけた首を横に振った。痛い……のは痛い、ゆっくりと押し入ってくる上津原に圧迫されて苦しい。けれど、鈍い痛みの中に潜む身体の奥底が一瞬で変化させられるような感覚。
「や、だめ……奥……」
「煽るな、バカがっ!」
上津原の怒号に似た声と同時に肚の底に響くような圧力と鈍く広がる痛みに、うっ……と、塔子は息を詰め、深く吐き出す。熱い溜息を吐いた上津原とほぼ同じタイミングだった。
「……悪い」
「えっ? っ! ……んんっ、ぁッ――」
ずっ、ぐしゅと淫猥な音と共に内側を無理矢理硬い杭に蹂躙される。
痛い、苦しい……でも。
「アッ……っあぁぁッ、あっ、ぃ、ぁあっん――ッ!!」
突かれるたび、押し出されるように声が勝手に出てしまう。
ゾクリと背中から全身が震えるような慄きが広がり、鈍い痛みの奥底から甘い痺れと快感が溶け出して血が巡るように全身、指先まで広がっていく。
「や……上津、はらさ……っ、ぁあッ……ぃや、っ――」
「ああ……、っ」
抱え込まれるように抱き締められ、押し潰されそうなキスをされ、知らず閉ざしていた視界の中で感覚が一点に集中する。
上津原に口付けられたままなにか叫んだような気もするが覚えていない。
気がつけば、塔子は湿った暖かさのシーツに一人くるまっていた。
余程深く眠ったのか、あんなに気怠かった身体はすっきりしていた。
カタカタと、聞き馴染みのある無機質な軽い音に塔子はベッドの中で身じろぎし、位置の乱れた枕とクッションが重なっているところに寝起きでまだぼんやりとしている頭を乗せて首を起こすと室内を見回した。
吹雪いていた雪はどうやら止んだようだ。
窓の外はすっかり日暮れてビルや街頭の光に煌めいている。その窓の手前でオレンジ色のフロアランプに照らされたテーブルセットに、開いたノートパソコンに向かう上津原がいて、不意に鼻腔をくすぐった煙の匂いにぐすっと塔子が鼻を鳴らし衣摺れの音をさせれば、上津原は塔子の様子に気がついた。
「起きたか? まだ18時回ったとこだ」
灰皿に吸いさしの煙草を置いて、キーボードを叩いていた上津原が塔子へと顔を上げる。
「えっと……」
「着るもんなら、足元んとこにまとめてある。ま、そのままでも別にいいけど?」
煙草を取り上げて咥え、ニヤリとやや好色な笑みを浮かべて上津原が立ち上がったのに、き、着ますっと塔子は慌ててベッドから腕だけを足元へと伸ばす。
「起き上がりもせずに届くかよ……」
近づいてきた上津原に手首を取られて、見上げたと同時に唇が重ねられる。
ゆっくりと離れていく口元に、少し切ないような気がした塔子の胸の内を読み取ったように、再び惜しむように軽く啄まれて塔子は目を閉じた。
「あんま強請んな、きりがなくなる」
ごつっと骨に響くように額をぶつけてきた上津原に塔子が目を開ければ、煙草を挟んでいない側の手で軽く後頭部を撫でられ、屈めた背を伸ばし塔子から上津原は離れた。
煙草を口元に運んで塔子を見下ろして苦笑すると、足元に乱雑に積んだ羽織っていたバスローブや塔子の下着を彼女胴体のあたりに運んで落とす。
「体は?」
「あ、なんかやけにすっきりしてて、熟睡したからかも」
「……ったく、呑気な女だな。血とかはあんまなさそうだったけどよ」
「えっ?! ――ッ」
起き上がりかけて、不意に身体の中心からずくんと響くような痛みと普段はない違和感を覚えて、塔子は軽く食いしばるように唇を固く閉じた。
「ほらみろ。擦過傷みたいなもんだし粘膜だから一日二日もすればまあ治るだろうが、あまり下手に動くな」
そ、そんな明け透けに言わなくっても……。
頭が覚めてきたと同時に、あれこれと蘇ってくる記憶の恥ずかしさに俯いて塔子は肩を震わせる。すぐそばでそれを面白がっているような上津原の気配が伝わってきた。
「シャワーでも浴びてきたらどうだ?」
「い、言われなくても……なに見てんですかっ」
「いや、別に。さっきまで隠すどころじゃねぇコトしてたのに、今更固まるかねぇ」
「そ、それとこれとは別ですっ」
「あ、そ。ま、俺は仕事してるし好きにしてろ。ラウンジいけば軽食やドリンク各種飲み放題食い放題。地下鉄は通常運行で晩飯時も過ぎる頃には混雑も下火だろうが泊まってけ」
意外な言葉に塔子が瞬きをして上津原を見上げれば、なんだよと彼は不機嫌そうに咥え煙草で顔を顰めた。
帰れと言われるかと思っていてそのつもりだったと塔子が言えば、上津原は不機嫌な顔をさらに歪めて、先にシャワーを浴びたのかまだ湿っている髪を掴むように後頭部へと流し、口元の煙草を離す。
「肉体的にそれなりにダメージ受けてる奴、雪ん中に放り出せるかよ」
「意外に面倒見いいですよね、上津原さんて」
塔子の言葉に、別に……と、上津原は煙草に口をつけ俯き加減に細く吐き出して沈黙した。
急に黙り込んだ上津原に、塔子はどうしたんだろうと薄く漂っている煙を眺める。
「……さらに意外かもしれんが、これで結構参ってたんだよ十数年前離婚してから」
「え?」
「重宝されはしたが大して治療できたわけでもない、結婚した女が事故っても側にいてやれず、挙句、未熟でも必要とされてる場所ごと放り出して……たまにあっちで講義すんのは罪滅ぼしみたいなものだ。ふと研究室の主宰者になってメンバー抱えて、大学に根を下ろしかけている自分に気がついた丁度その頃、たまたま『新星』のあんたの小説を読んだ」
「……はあ」
急に過去の話をしだした上津原についていけないまま塔子が相槌を打てば、上津原はおかしそうに苦笑する。
「これはフィクションだってわかってんのに、腹が立つほど俺と同じ轍を踏んでくれる……一体どんなクズが作者かと思って調べてみたら、一回りも歳下の女だろ? なんか吹っ切れちまってよ」
俺の懊悩なんて、エンターテイメントの範疇かって。
「おまけに会ってみりゃ、自意識拗らせた挙動不審な三十路女だし。こっちは前日学生に指示ミスするくらい神経張ってたのに」
「え、確か……徹夜明けで滅茶苦茶機嫌悪かったのって、それで?」
「そうだよ」
煙草を咥えながらテーブルに戻って、灰皿にその吸い殻を押し付けながらの上津原の言葉に、ひどいと思わず塔子は漏らした。
ひどい……ひどすぎる。こちらは泣くほど怖かったり精神的にダメージ受けたのに。
「悪かったよ。けど、萎縮しても怯むわけでもなく、いきなり切れるわバッグで殴ってくるわ泣くわ喚くわ散々だったくせによく言うよ。その後も松苗女史の思惑に沿って色々あってもなんかこう想定外な感じで甘糟塔子は甘糟塔子で変わらねえし、小説は小説で俺に似た人生の男は中途半端に置き去りにした過去をきっちり捨て直していくし……」
「上津原さん?」
「俺はそんなになにもかもきっちりやれる人間じゃない。正直仕事とその周りで手一杯だ。自分一人でいるうちは私生活もその延長で済む。それ以上は無理だ」
話しながら再び塔子に近づいた上津原に、緩く両腕を回すように抱かれる。
「ましてや女なんて、また本気になったところで手に負えないと思ってたのによ」
頬に上津原の湿った髪がくすぐったいそんなことを思いながら、なんとなく動けずに塔子はじっと上津原の言葉に耳を傾ける。
「――ったく、ままならんよ人生てのは」
進歩がないのも癪だから、今度はもうちょっと面倒みようと思っただけだ。
「どうでもいいような妙なところで、危なかっしいしな」
「……そ、そうですか」
すごく意外です、と塔子が答えれば、喉を鳴らすように上津原は笑い声を立てた。
この人、こういった笑い方もするのか。安心しきった子供みたいな寛いだ上津原の笑みに塔子はああそうか、私、結構前から好きだったのかもこの人の事と思った。
きっと怒るか面白がられるかだから言わないけれど。
「意外っていや、あのラスト」
「え?」
「『新星』の、過去の懊悩も今の人間関係のしがらみも解決して、何処へでもいけるようになってそこであえて踏み止まる展開になるとは思ってなかったんだが……」
塔子を解放し、ベッドの縁に腰掛けた上津原に言われて、うんと塔子は軽く握った手を口元にあてた。
「まあ……なんていうか三部作なんて言われて片付けられるのも進歩がなくて癪なので」
ずっと、指の間から溢れ落ちていくようなものを書いてきた気がする。
得られたと思っても実はそんなことはなかったり、いつの間にか無くなっていたり、失って失って……けれど何度も失っているなら何度も得ているともいえて、そこに目を向けてもいいのじゃないかとなんとなく思ったのだ。毎月毎月、上津原との対談仕事をきっかけに、目まぐるしく色々な出来事の起きた一年を過ごして――。
突然打ち合わせで話していたラストを変更したから、新星社の担当者も驚いていた。
「さよならの、あとを書いてみたくなっただけです。なんだかきれいに終わらないままならないのが人生みたいだし?」
塔子がそう答えて上津原を見れば、眉根を寄せるように目を細め塔子を見つめ返して彼は窓へと顔をそむけ、仏頂面でやっぱ掠め取ってんじゃねぇかよと呟いた。
「怖いねぇ」
顔を背けているから上津原がどんな表情をしているのか直接は見えなかったが、窓ガラスにうっすらとそれほど不機嫌ではなさそうな顔が写っている。
おどけた調子の言葉に、ふふと塔子は笑んだ。
おそらくいままで誰も見たことがない、固く閉じてなかなか開かない蕾がようやくふわりと開いたような、そんな笑みだった。
<完>
身体が怠くて、力が入らない。
重みの分だけベッドに沈み込んだ手足に、柔らかく熱を孕んだシーツがまとわりつくのが心地よくて瞼が重い。
「……ん」
「眠いか?」
尋ねる声に塔子は閉じていた目を薄く開いてゆるく首を振った。
「少し……そんなに寝てなくて」
「どっちだよ」
苦笑に息を漏らした音がして、上津原に、首の後ろから後頭部を支えるように手を添えられ、背中から引き上げるように抱き起こされて塔子は目を開けた。
「う……ん、っ」
塔子の長い睫毛の先が、緩くうねる前髪に触れそうに近い位置に輪郭の引き締まった整った顔があるなとぼんやりと思う間に口付けられる。
バスルームで、重ねたのは二度目だと思ってからまだ一時間も経っていないはずなのにもう何度目かわからない。数えきれない。浅く深く、何度も繰り返されて、上津原の舌に探られる違和感にも慣れてしまって、知らず応じてしまう自分がいる。
「塔子……」
熱い溜息と共に低く囁かれる声にぞくりと塔子はふるえた。
上津原が名前を口にするたびに、居た堪れないようなふるえともどかしさが身体の奥底から生じてはさざ波のように指先にまで広がっていく。
首筋に唇を押し当てられて、塔子は上津原の胸に触れている手を握り込んだ。
「あッ……」
更に引きつけるように抱き寄せられて、中途半端な胡座になった上津原を跨ぐように塔子はベッドの上に膝立ちになり、上津原の肩から首の後ろへと額を預けて塔子は俯いた。頬が熱い。頬だけじゃなくて腕も胴体にも熱がある。
「真っ昼間から三十路の処女相手になにやってんだかな……」
耳打ちする上津原の声と熱を帯びた吐息が塔子のうなじをくすぐる。
普段の荒っぽい言動からは意外なほど上津原の触れ方は丁寧で、まさに愛撫といったその二文字を塔子に想起させ、またその意味をも意識させる。
首筋から肩に下りて二の腕まで辿る唇が、背骨のラインをなぞるように滑る指が、逃げ出せないようなだらかな曲線をとる細い腰を捕らえている掌が、塔子の息を上げさせる。
くちっ……と微かな粘質な水音がして、塔子は一瞬息を詰めて顔を顰め、上津原の肩に取りすがった。背骨を辿った上津原の指はそのまま、臀部の谷の線を撫で下ろした先のぬかるみに触れ潜り込もうとしている。
襞の重なるそこに触れて表面をなぞられるのなら、その感覚に翻弄されるだけだったが、中にまで潜り込もうとすれば、身体が勝手に圧迫感のある痛みを伴って緊張した。
逡巡するような上津原の指の動きにぬかるむ場所が、徐々に溶けるようにその熱を増していくのを感じながら塔子は頭を持ち上げる。
「……上津原さん……ぁっ」
再びそろりと奥へと進んだ指に塔子は眉を顰める。
「一回イッても挿れるのはきついか、いますぐでも咥えられそうではあるんだがな」
どこかのんびりした調子で上津原がひとりごちているうちに、奥から流れ落ちてくるものを感じて塔子は狼狽に再び頭を元の場所に戻して上津原ににじり寄る。
「や……っ、……それ、やっ……めっ…っ――」
細いように見えて塔子より二回りは太く骨張った上津原の指が、流れ落ちてきたものを絡めとって塗すように襞を探り、塔子を一度追い詰めた膨らみに触れたのに、塔子は腰をがくんと不安定に揺らして上津原に縋り付いた。
ウエストを掴まれていた手で不意に顎先を捕らえられ、強引に唇も舌も奪われ、うっと塔子は呻いて目をつぶる。目をつぶれば互いに重ね絡み合わせている唇や舌も、触れている肌の熱さも、膨らみを嬲りながら塔子の内側に潜り込んでいく上津原の指と溢れてくる滴りの感触もより鮮明に感じられて塔子はぞくりと再び戦慄した。
上津原の指先を襞の奥へと塔子の身体が沈み込ませていくのをじっと待ち、同じくらいの慎重さで入口へと引き上げる。もどかしさすら感じる程のゆっくりした動きで抜き差しする上津原の指の動きに、圧迫感のある痛みは徐々に薄れ、塔子の息が弾んでいく。
上津原の指を強請るように身体の奥を蠢かせ、ゆらりと立ち昇って全身を侵食していく感覚から逃れようと塔子は身を捩ったがそれを許してくれるような上津原ではなかった。
ま、また、さっきみたいに……おかしく、なる。
喘ぎ途切れる声で切なげに塔子が訴えれば、愉快そうに上津原は口元を吊り上げた。
どうして笑うのそこで――?!
「痛いだけにはならなさそうか?」
訝しんだのも束の間、執拗さを増す上津原の指に、塔子は堪えられずに啜り泣くような声を上げる。
こんな自分の耳にも濡れた響きの声は上げたくないのに、勝手に出てしまう。
押し寄せてくる快楽と、羞恥と、触覚が伝える上津原の指の動きに翻弄され、塔子は我を忘れた。
「や、あ……あ、あ、や……上津、原さ……っ」
陸に上げられた魚が跳ねるように上津原から逃がれ、シーツの上に背中から落ちて塔子は、両腕を顔の前で交差させて自分で自分の前髪を掴んで後ろに流すように頭の上に手を下ろすとそのまま顔を横にそむけ、はあ……と深く息を吐く。
指一本動かすのも億劫なほどに泥のように身体が気怠くて、緩やかに責め立てられた奥が切ないような甘い痺れと痛みを伴ってひくりと引きつるのを感じる。下肢に力が入らない。
「……や、も……っ……無理……」
「十代二十代のガキじゃねぇから、それならそれでもいいけど」
溜息混じりにそう上津原に頬を軽く撫でられ、一抹の物淋しさも感じて塔子はそむけた顔を動かし彼を見上げる。
「あんま無理って顔じゃねぇな」
「え……」
塔子を両膝で囲うように立って見下ろしている上津原に、撫でられた頬に乱れかかった髪を指で直すようにシーツへと流され、宥めるように軽く唇を啄ばまれた。
「こっちはこんなだし」
ぼそりと低く漏らして、さっきまで塔子を翻弄していた側の手を口元へ、濡れ光る指を軽く舐めた上津原に、半ば悲鳴に近い言葉にならない声を上げ塔子はガバリと上半身を起こした。
「な、な……に、して……」
尋ねる間にも一気に顔に血が上って熱くなるのがわかる。
「なに今更、真っ赤な顔してんだよ」
起こした上半身を肩から押さえつけるように再びベッドに沈められ、きゃっと塔子は小さく驚いて瞠目した。ふっと顔が陰って、塔子を組み敷いている上津原の伸びた髪の先が彼女の額をくすぐる。
「挿れんの無理なら、口でするか?」
「え? ひっ、やぅッ……――っ」
言うが早いか、体の位置を下げた上津原に抵抗する間も無く両脚を掴まれ、閉じようとするのを割開かれたそこに顔を埋められる。
まだ鋭敏さと昇り詰めた余韻を残すそこにひたりと触れた舌先の湿った感触と目眩がしそうな羞恥に狼狽し、官能を刺激する抗えない痺れに戦慄きながら塔子は目を固く閉じた。
*****
前に、弾みでキスした時から薄々思ってはいたが――。
この女、体質的にものすごくエロいのじゃないのか?
バスルームで、好意も隠さず逃げるなと言わんばかりの目で射抜かれて。
キスした流れで部屋へと連れ出し、急にまたなにか考え出したのか足を止めたのを振り返れば俯き加減にバスローブの襟元を閉じるように握って緊張した面持ちでいるのに、だから人を強姦色魔扱いするんじゃねえと半ば呆れて、馬のたてがみみたく柔らかでコシある髪に触れれば、少し緩んだ表情がなんというか……やけにそそられた。
気がつけば再度キスして首筋などにも口付けて、そのまま倒れこむのにまた丁度いい位置にベッドがあり、泥酔した時と同じく妙にいい反応を返されて、しかもたどたどしくも応じるような仕草をされたら……身も蓋もないが、する事はひとつな状態へと自ずと絞られる。
本当にこいつわざとじゃねぇだろうなと、上津原はちらりと胸中ひとりごちた。
こっちはテーブルセットのソファにでも落ち着かせた後、軽く湿った服が乾くまで仮眠でも取らせるかと考えていたはずなのに。
触れれば長いまつ毛を震わせて、出る声を抑えようとしながらも求めるように腕など掴んでくる女相手に、中断して、寝ていろなんて言える男がいたらお目にかかりたい。
あまりの挙動不審さや仕事人間ぶりが勝って忘れがちだが、甘糟塔子は男が十人いたら七人くらいはなんらかの好意は持ちそうな美人だ。
ここ最近、自己評価の異常な低さが改善されたせいか、不意に目に入る横顔など客観的に見ても綺麗だと思う。透き通るように色白な肌とコントラストを成す黒く濡れたような艶の髪と瞳、通常の血色でも紅く目に留まる唇。
肌は雪のように白く、髪は黒檀のように黒く、唇は血のように赤いって……白雪姫かよ。
それにどういうわけか……。
「ひとつ聞いていいか?」
「ん……あ、はい……」
「前に介抱した時も思ったが、洒落っ気ねえのになんで下着はエロいんだ?」
「はっ? ……えっ、え?」
あきらかにインポート物のいいやつだ。清楚なデザインではあるものの肌馴染みのいいカラーリングや繊細なレースに薄く華奢な作りは、盛るとか見せるとかいった好戦的なものより遥かに淫靡で剥ぎ取ってくださいといった風情すらある。
「答えろ」
肉が薄くて若干心配になるデコルテから、アッシュグリーンの薄い生地に包まれた胸を掌で覆ってなだらかな膨らみの陰にある黒子に口付ければ、ん……と鼻から抜けるような低い吐息の声に、だから処女のくせにどうしてこう仕込まれたみたいな反応するんだこの女はと妙な苛立ちすら覚える。
「あ……べ、別に……そんなつもり、は……ゃっ、なく……」
へえ、と。下着の上からかるく掴むようにして、肌と布の隙間に指先を滑り込ませ、尖りかけた頂きを軽く嬲りながら上津原は相槌を打つ。意地の悪い顔をしているだろうと自覚していたが、こうも素直に反応してくれると多少は虐めてみたくなる。
「……ぁあ……ん……はぁ、ッ……ぇ、っと……」
「うん?」
途切れがちにも律儀に答えた塔子の言葉を繋ぎ合せれば、肉付きが薄いため、補正力に優れるがゆえに国産ブランド物はワイヤーなどが骨や筋に痛く不快になるそうで、松苗女史に欧州ブランドを勧められてのことらしい。まったくあの女……実にいい趣味を教え込んでくれたものだ。
薄膜でも剥がすように下着を脱がせれば、羞恥心なのか塔子は俯せに身体の向きを変えて上津原に背中を見せた。長い黒髪がしみの影一つ見えない細く滑らかな背中に乱れている様はなかなか視覚的にくるものがある。
弓月が深く撮りたいなどと言っていたのが今更ながらわかる気がする。
上津原は、着ていたシャツの襟元から手をかけて脱ぐと塔子の背に覆い被り、朱の昇った耳元に横顔を近づけた。
「跳ね除けんならいまのうちだ」
「上津原さん……?」
「じゃなきゃ、いやって言ってもやる」
「……っ、り」
「ん?」
「こんな捕まえられてたら無理っ」
いつもの、突っかかってくる時に似た調子の言葉に上津原は目元から軽く笑んだ。
抱き締めている細い身体が熱く、けれど肌は上津原の手よりもひんやりとしている。
「そりゃ、みすみす逃す気もないからな」
塔子、と囁けば振り返ったのをこめかみから寄せるようにして、紅く目立つ唇を奪い、仰向けに抱き合う形に戻しながら何度も口付ける。
正直、どうやってお互い着ていたものを全部床に脱ぎ落としたのか、上津原の記憶にもあまり残っていない。
違和感なく馴染む肌と、香料ではなさそうな仄かに甘く鼻腔をくすぐる匂いと、抑えても滴るような声と喘ぐ吐息にそれだけ夢中になっていた。
普段の様子を長い期間見ていなければ、初めてだとは信じられない順応ぶりで、抱きかかえた身体は柔らかく上津原に絡みついて程なく果てた。これで本人無自覚だろうから半ば呆れる。
うつらうつらしている様子に、そのまま寝かせるのがよいのだろうなと思いつつ、止めようとすれば切なげな表情を見せるのに誘われて止められず、最初の痛みは避けられないにしてもできる限り軽減しようと壊れ物でも扱うように触れていたつもりの上津原だったが、つい昇りつめるまで指で責め立ててしまい、完全に力が抜けてしまった様子にやりすぎたかと塔子の頬を軽く撫でた。
いやと言ってもやる、などと塔子には言ったが二十代、三十代の盛りの時期はもう過ぎている上津原としてはこのまま眠ってしまってもよかった。正直、この歳になると自分の肉体的な快楽よりも相手が乱れている様を堪能出来ればいいかといった気分のが勝る。
そう、乱れている様が――。
「ああっ、ひぅ……上っ原さ……あ、あぁあ――っ!」
両脚を抱えて押さえているから上半身を捻って啜り泣くような声を上げ、ひくひくと上津原の舌を受け入れ蜜を滴らせている塔子に、このまま寝かせて満足? 馬鹿を言うなと上津原はあっさり考えを翻す。
嬌声を上げては喘ぐ塔子の声とシーツの衣摺れの音に混じって、じゅっぐじゅっと淫靡な水音をさせているのは、他ならぬ自分の舌と指だと思うと、頭に血が上りそうな程興奮する。
「……ふっ、ぁあッ、やっ……またっ……ぃ……」
また上り詰めそうな塔子の様子に、腫れたように赤く膨らみ淫猥に濡れ光る芽に吸い付くように口付けて上津原は顔を上げ、両脚を震わせ、泣き濡れた悲鳴を上げかけて飲み込んだ塔子を見下ろしながら、臀部まで濡らすほど溢れさせているその中心に指先を埋めた。
「あぁぁっ――……っ」
さっきよりもずっと容易く第一関節まで沈み込み、細く長い掠れた悲鳴を上げた塔子に、上津原は深く息を吐いた。そろそろ自制心を保つのも限界だ、処女じゃなけばとっくに突き入れて腰を振っている。
*****
荒い呼吸は息も絶え絶えな自分だけではないと塔子が気がついたのは、上津原の舌と指で頭の中を真っ白にさせられた後、頬を上津原の熱い吐息が掠めてだった。
「上、津原さ……ん……?」
尋ねかければ口付けられた。深くもどかしいような荒々しさの隠せない口付けに塔子は目を閉じ身を委ねる。頭の上に上津原が腕を伸ばす気配がして、小さくカサリと乾いた音が聞こえ、ややあって、指や舌とは比べようもない、押し入れられる感覚と軋むような痛みに塔子はアッと声を上げ顔を顰めた。
「あ、やっ……ぅっ」
逃れようと腕で這い上るように動こうとすれば上津原にその手を取られ、指を絡めて握り締められると同時にシーツの上に動かないよう固定される。
「やっぱり痛いか……」
問いかけかれて、塔子は頷きかけた首を横に振った。痛い……のは痛い、ゆっくりと押し入ってくる上津原に圧迫されて苦しい。けれど、鈍い痛みの中に潜む身体の奥底が一瞬で変化させられるような感覚。
「や、だめ……奥……」
「煽るな、バカがっ!」
上津原の怒号に似た声と同時に肚の底に響くような圧力と鈍く広がる痛みに、うっ……と、塔子は息を詰め、深く吐き出す。熱い溜息を吐いた上津原とほぼ同じタイミングだった。
「……悪い」
「えっ? っ! ……んんっ、ぁッ――」
ずっ、ぐしゅと淫猥な音と共に内側を無理矢理硬い杭に蹂躙される。
痛い、苦しい……でも。
「アッ……っあぁぁッ、あっ、ぃ、ぁあっん――ッ!!」
突かれるたび、押し出されるように声が勝手に出てしまう。
ゾクリと背中から全身が震えるような慄きが広がり、鈍い痛みの奥底から甘い痺れと快感が溶け出して血が巡るように全身、指先まで広がっていく。
「や……上津、はらさ……っ、ぁあッ……ぃや、っ――」
「ああ……、っ」
抱え込まれるように抱き締められ、押し潰されそうなキスをされ、知らず閉ざしていた視界の中で感覚が一点に集中する。
上津原に口付けられたままなにか叫んだような気もするが覚えていない。
気がつけば、塔子は湿った暖かさのシーツに一人くるまっていた。
余程深く眠ったのか、あんなに気怠かった身体はすっきりしていた。
カタカタと、聞き馴染みのある無機質な軽い音に塔子はベッドの中で身じろぎし、位置の乱れた枕とクッションが重なっているところに寝起きでまだぼんやりとしている頭を乗せて首を起こすと室内を見回した。
吹雪いていた雪はどうやら止んだようだ。
窓の外はすっかり日暮れてビルや街頭の光に煌めいている。その窓の手前でオレンジ色のフロアランプに照らされたテーブルセットに、開いたノートパソコンに向かう上津原がいて、不意に鼻腔をくすぐった煙の匂いにぐすっと塔子が鼻を鳴らし衣摺れの音をさせれば、上津原は塔子の様子に気がついた。
「起きたか? まだ18時回ったとこだ」
灰皿に吸いさしの煙草を置いて、キーボードを叩いていた上津原が塔子へと顔を上げる。
「えっと……」
「着るもんなら、足元んとこにまとめてある。ま、そのままでも別にいいけど?」
煙草を取り上げて咥え、ニヤリとやや好色な笑みを浮かべて上津原が立ち上がったのに、き、着ますっと塔子は慌ててベッドから腕だけを足元へと伸ばす。
「起き上がりもせずに届くかよ……」
近づいてきた上津原に手首を取られて、見上げたと同時に唇が重ねられる。
ゆっくりと離れていく口元に、少し切ないような気がした塔子の胸の内を読み取ったように、再び惜しむように軽く啄まれて塔子は目を閉じた。
「あんま強請んな、きりがなくなる」
ごつっと骨に響くように額をぶつけてきた上津原に塔子が目を開ければ、煙草を挟んでいない側の手で軽く後頭部を撫でられ、屈めた背を伸ばし塔子から上津原は離れた。
煙草を口元に運んで塔子を見下ろして苦笑すると、足元に乱雑に積んだ羽織っていたバスローブや塔子の下着を彼女胴体のあたりに運んで落とす。
「体は?」
「あ、なんかやけにすっきりしてて、熟睡したからかも」
「……ったく、呑気な女だな。血とかはあんまなさそうだったけどよ」
「えっ?! ――ッ」
起き上がりかけて、不意に身体の中心からずくんと響くような痛みと普段はない違和感を覚えて、塔子は軽く食いしばるように唇を固く閉じた。
「ほらみろ。擦過傷みたいなもんだし粘膜だから一日二日もすればまあ治るだろうが、あまり下手に動くな」
そ、そんな明け透けに言わなくっても……。
頭が覚めてきたと同時に、あれこれと蘇ってくる記憶の恥ずかしさに俯いて塔子は肩を震わせる。すぐそばでそれを面白がっているような上津原の気配が伝わってきた。
「シャワーでも浴びてきたらどうだ?」
「い、言われなくても……なに見てんですかっ」
「いや、別に。さっきまで隠すどころじゃねぇコトしてたのに、今更固まるかねぇ」
「そ、それとこれとは別ですっ」
「あ、そ。ま、俺は仕事してるし好きにしてろ。ラウンジいけば軽食やドリンク各種飲み放題食い放題。地下鉄は通常運行で晩飯時も過ぎる頃には混雑も下火だろうが泊まってけ」
意外な言葉に塔子が瞬きをして上津原を見上げれば、なんだよと彼は不機嫌そうに咥え煙草で顔を顰めた。
帰れと言われるかと思っていてそのつもりだったと塔子が言えば、上津原は不機嫌な顔をさらに歪めて、先にシャワーを浴びたのかまだ湿っている髪を掴むように後頭部へと流し、口元の煙草を離す。
「肉体的にそれなりにダメージ受けてる奴、雪ん中に放り出せるかよ」
「意外に面倒見いいですよね、上津原さんて」
塔子の言葉に、別に……と、上津原は煙草に口をつけ俯き加減に細く吐き出して沈黙した。
急に黙り込んだ上津原に、塔子はどうしたんだろうと薄く漂っている煙を眺める。
「……さらに意外かもしれんが、これで結構参ってたんだよ十数年前離婚してから」
「え?」
「重宝されはしたが大して治療できたわけでもない、結婚した女が事故っても側にいてやれず、挙句、未熟でも必要とされてる場所ごと放り出して……たまにあっちで講義すんのは罪滅ぼしみたいなものだ。ふと研究室の主宰者になってメンバー抱えて、大学に根を下ろしかけている自分に気がついた丁度その頃、たまたま『新星』のあんたの小説を読んだ」
「……はあ」
急に過去の話をしだした上津原についていけないまま塔子が相槌を打てば、上津原はおかしそうに苦笑する。
「これはフィクションだってわかってんのに、腹が立つほど俺と同じ轍を踏んでくれる……一体どんなクズが作者かと思って調べてみたら、一回りも歳下の女だろ? なんか吹っ切れちまってよ」
俺の懊悩なんて、エンターテイメントの範疇かって。
「おまけに会ってみりゃ、自意識拗らせた挙動不審な三十路女だし。こっちは前日学生に指示ミスするくらい神経張ってたのに」
「え、確か……徹夜明けで滅茶苦茶機嫌悪かったのって、それで?」
「そうだよ」
煙草を咥えながらテーブルに戻って、灰皿にその吸い殻を押し付けながらの上津原の言葉に、ひどいと思わず塔子は漏らした。
ひどい……ひどすぎる。こちらは泣くほど怖かったり精神的にダメージ受けたのに。
「悪かったよ。けど、萎縮しても怯むわけでもなく、いきなり切れるわバッグで殴ってくるわ泣くわ喚くわ散々だったくせによく言うよ。その後も松苗女史の思惑に沿って色々あってもなんかこう想定外な感じで甘糟塔子は甘糟塔子で変わらねえし、小説は小説で俺に似た人生の男は中途半端に置き去りにした過去をきっちり捨て直していくし……」
「上津原さん?」
「俺はそんなになにもかもきっちりやれる人間じゃない。正直仕事とその周りで手一杯だ。自分一人でいるうちは私生活もその延長で済む。それ以上は無理だ」
話しながら再び塔子に近づいた上津原に、緩く両腕を回すように抱かれる。
「ましてや女なんて、また本気になったところで手に負えないと思ってたのによ」
頬に上津原の湿った髪がくすぐったいそんなことを思いながら、なんとなく動けずに塔子はじっと上津原の言葉に耳を傾ける。
「――ったく、ままならんよ人生てのは」
進歩がないのも癪だから、今度はもうちょっと面倒みようと思っただけだ。
「どうでもいいような妙なところで、危なかっしいしな」
「……そ、そうですか」
すごく意外です、と塔子が答えれば、喉を鳴らすように上津原は笑い声を立てた。
この人、こういった笑い方もするのか。安心しきった子供みたいな寛いだ上津原の笑みに塔子はああそうか、私、結構前から好きだったのかもこの人の事と思った。
きっと怒るか面白がられるかだから言わないけれど。
「意外っていや、あのラスト」
「え?」
「『新星』の、過去の懊悩も今の人間関係のしがらみも解決して、何処へでもいけるようになってそこであえて踏み止まる展開になるとは思ってなかったんだが……」
塔子を解放し、ベッドの縁に腰掛けた上津原に言われて、うんと塔子は軽く握った手を口元にあてた。
「まあ……なんていうか三部作なんて言われて片付けられるのも進歩がなくて癪なので」
ずっと、指の間から溢れ落ちていくようなものを書いてきた気がする。
得られたと思っても実はそんなことはなかったり、いつの間にか無くなっていたり、失って失って……けれど何度も失っているなら何度も得ているともいえて、そこに目を向けてもいいのじゃないかとなんとなく思ったのだ。毎月毎月、上津原との対談仕事をきっかけに、目まぐるしく色々な出来事の起きた一年を過ごして――。
突然打ち合わせで話していたラストを変更したから、新星社の担当者も驚いていた。
「さよならの、あとを書いてみたくなっただけです。なんだかきれいに終わらないままならないのが人生みたいだし?」
塔子がそう答えて上津原を見れば、眉根を寄せるように目を細め塔子を見つめ返して彼は窓へと顔をそむけ、仏頂面でやっぱ掠め取ってんじゃねぇかよと呟いた。
「怖いねぇ」
顔を背けているから上津原がどんな表情をしているのか直接は見えなかったが、窓ガラスにうっすらとそれほど不機嫌ではなさそうな顔が写っている。
おどけた調子の言葉に、ふふと塔子は笑んだ。
おそらくいままで誰も見たことがない、固く閉じてなかなか開かない蕾がようやくふわりと開いたような、そんな笑みだった。
<完>
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