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第三部 王都の社交

95.大聖堂と祝福の祈り

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 赤、黒、緑や白の大理石が幾何学模様を描く床から、円蓋ドームの天井を見上げれば、昼と夜の空を背景に祝宴を繰り広げる、神々と精霊達の姿があった。
 賑やかな昼と夜の世界。
 二つを繋ぎ、ひとつにまとめるように描かれた金の輪。
 輪の内側は、賑やかな祝宴とは切り離された静かな様子で、一人の女神が美しいベールの布の幕を垂らし、その下には両の手に金色の糸を渡し糸を紡ぐ乙女が輪の縁に腰掛けるように描かれている。

「時を司る命運の女神は、この世界そのもの。光と闇を司る女神、とも……」

 不意にどこからか聞こえた声に、わたしは天井を見上げていた頭を戻す。
 首を軽く巡らせれば、背後に控える侍女のマルテと、ひと夏の臨時雇いで護衛騎士となった騎士服の坊っちゃまが目の端にちらりと見えた。
 前方、祭壇から斜め右の手前、白い柱と同化するような白絹の姿に気がつく。
 赤い絹の裏地の色が目立つ法衣を纏い、金の帯を首から掛けた、明らかに高位の聖職者とわかる老年の男性。
 近づいてくるその人に、淑女の礼をとる。

「なににせよ別格の存在。輝きの乙女を伴い、他の神々とは離れたところにいることを表している絵です」
「司祭長様」

 なんて偶然。
 柱の影から姿を見せたのは、ルイとの婚儀を執り行った司祭長様だった。
 わたしの取った淑女の礼に柔和な微笑みで応じながら、司祭長様はすぐ近くまでやってくる。
 聖職者は神と精霊に仕える身だから、王様にだって膝を落とす必要はない。

「お祈りですか? いつも大聖堂にお越しのマリーベル様が、こちらへいらっしゃるのは珍しい」
「いえ……その」

 白大理石の壁と柱に豪奢な天井画。
 なにより目立つ金の祭壇が特徴的な王宮礼拝堂は、滅多なことでは王宮の外に出ることはない、王族の方々のための祈りの場所だ。
 吹き抜けの二階建て。
 上階はやんごとなき方々の礼拝のためのもので、礼拝堂をぐるり巡る通路は大廊下とも連絡している。
 階下はその他の人々のための場所だった。

「ふむ、では私共への御用でしょうか」

 わずかに顎先を引いて、目線をわたしの手元に落とした司祭長様がそう言ったのに、わたしは自分の手で持っている小さな木箱の中身を思い浮かべて、ほんのわずかに頬が熱を帯びるのを感じる。

 中には、絹糸を編み上げた飾り紐が入っている。
 春の祝いからは随分と遅れてしまったけれど、ルイに贈ると約束したもの。
 取り寄せたロタールの絹糸を交差させ、生まれ季節を象徴する雪の図案を織り出し、縁取りの色が均一になるように、なるべく心落ち着かせて手を動かし、暇を見つけてはこつこつと編み上げたものだった。

「今日はもうこちらには私以外、誰もおりません」
「そうですか」

 王宮礼拝堂や大聖堂に属する聖職者達は、王宮にほど近い大聖堂の側にある修道院で生活し、また彼等の務めに勤しんでいる。
 王宮の礼拝は毎朝あり、午の鐘が鳴る頃までは聖職者の方々が何人かいらっしゃる。
 午前のお茶の時間を知らせる、休息の鐘が鳴ってまだ間もないのに、もう司祭長様を最後に、皆、修道院に戻ってしまったらしい。

「よろしければ、私がお伺いしましょう」
「えっ、ですが……」

 流石にそれは気が引ける。
 大聖堂に属する聖職者の中でも王族絡みの儀式を執り行うことから、王宮の会議でも一定の発言権を持つくらい、高位の中にも高位に位置する一人。
 司祭長様直々に、対応してもらうようなことではない。

「これもなにかの引き合わせ。それに他ならぬフォート家のご夫人ですから」 
「他ならぬ……ですか?」
「先代の、アントワーヌ殿とは共同研究者のような間柄でした。総じて魔術師の方々は我々信仰を伝える者を軽んじるが、フォート家の魔術師は違う」

 先代の、アントワーヌ殿。
 間違いなく、ルイのお父様で先代フォート家の当主のことだった。
 アントワーヌ・アンナ・ヴァンサン・ラ・フォートと、ルイから聞くより先に、王宮の図書室で家名録に記されていたのを見覚えた、先代のフォート家当主の名前。

 そんな思いがけない人の名を司祭長様から聞いて、えっと驚きに目を見張れば、にっこりと柔和な微笑みを向けられ、片腕を差し出して促される。

「さあ、マリーベル様」

 こうして、礼拝堂の奥にある司祭長様の部屋へと案内されることになった。


*****


 公爵夫人にこんなものしかお出し出来なくて申し訳ない、とハーブを調合したお茶と穀物を挽いた粉を練って焼いた素朴なお菓子を出された。
 素朴といってもバターと蜂蜜をたっぷり練り込んであるので、見た目は似ているけれど、平民の堅くて脆い板のようなお菓子とはまったく異なる。
 修道院では色々なものが作られていると聞くけれど、これらもそうなのだろう。
 蜜蝋の蝋燭も作られているのだから、蜂蜜だってあるわね、と司祭長様の机の蝋燭立てに残る燃えさしを見てそんなことを思いながら、ハーブのお茶を頂く。
 爽やかな柑橘の香りと、ほのかに甘みがあった。
 シトロネルとレグリスかしらと、柑橘の香りと甘味を持つ心当たりのハーブを思い浮かべる。

「とてもおいしいです」

 お世辞ではなく、お茶もお菓子も美味しい。
 にこにこと勧められた椅子に座って、そう司祭長様にお伝えすれば、公爵夫人になられても貴女はお変わりないと言われた。

 大聖堂も、定期的に二年以上も通っていたら、偶に姿をみせる聖職者の方となんとなく顔見知りにもなる。
 それが司祭長様だった。
 王宮の礼拝や王女様のお祝いのお供で知ってはいたけれど、当時は雲の上の人。
 変わりないと言われたら、いまひとつ貴族夫人の振る舞いが掴めていないこともあって、なにか失敗したかしらと、少しばかり心配になる。

「……なにか不調法でしたでしょうか?」
「いいえ、そうではなく。大聖堂によくお祈りにいらしていた、敬虔なお嬢さんの頃と変わりなくて感心しておりました。貴族も目が眩むものがあの家にはある」

 司祭長様の言葉に、たしかにと真面目に頷いた。
 富が富を産むような財力だけでなく、フォート家は元小国王家といったフェリシアン曰く無駄に高い家格もある。
 加えて魔術の祖の家系。

「ですが、まったく変わりないのでは、わたくしも流石に哀しくなります」
「ははっ、成程。心映えの話でしたが、お嬢さんのままは公爵夫人に失礼でした」
「あ、いえそんな……」

 魔術師であるルイから色々と教わり、奥方教育もあって、神々と精霊達の祝福が集まるという大聖堂の凄さをいまさら知ったといいますか。

 ううっ、いま、こうして司祭長様と対面していると、ごめんなさいといった気持ちしかない……。

 だって、王宮勤めの頃。
 お休みの日に大聖堂へお祈りに行っていたのは、そこが由緒正しき聖堂だからでも、わたしが敬虔な娘だからでもなく、単に王宮から一番近くて一人静かに落ち着ける場所だったからで……。

 なにしろ王宮は人が多すぎる。
 一人静かに過ごす時間の確保がとても難しい。
 お休みは交代制だから、私室にいても廊下を行き交う同僚達の気配がする。
 貴重なお休みの時間を無駄にせず、少しでいいから一人静かな時間も過ごしたい……といった、聖職者の方々から顰蹙を買いそうな理由だった。
 おまけに、すっかり若いのに信心深くて感心なお嬢さん扱いになってしまっているけれど、祈っていたことといえば。

 “いつもお願いした用事を物忘れする、文官さんが期限を守ってくれますように”、とか。
 “次のお休みの順番も無事に巡ってきますように、変更は絶対無しでお願いします”、とか。
 “ユニ領の作物にいい値がついて、皆が薪に困りませんように”、とか。
 “わたしにも、少しくらいは素敵な方との縁談話が舞い込みますように”、とか。

 我ながら、私欲に塗れたことを祈っていたわけで……。
 それに。
 ルイと知り合ってから結婚するまでは、“穏便に婚約破棄できますように”、とばかり祈っていた気がする。

「それはそうと、“祝福のお祈り”でしたね」

 流石は司祭長様。
 気まずいことはさらっと流してくれて、本題へと促され、わたしは膝の上の小さな木箱を手に目の前のテーブルへ、向かい合う司祭長様に差し出して置く。

「はい、こちらです」
「“祝福のお祈り”は、季節の祝いを迎えた人に行うものなのですが」
「存じております。やはり無理でしょうか?」
「物に施してはいけない戒めはなく、病気などで聖堂に来られなかった者に、時季を外して個別に行うことはありますから出来なくはないでしょうが……」
「で、ではっ……身代わりとして! 本で読んだのですが、遠く東の大陸の国では、本人の身代わりとする物を神に捧げたり、厄払いに使うこともあるそうです。そのようなものとして」
「ご本人がいらっしゃることは? 難しいならこちらが出向くことも、貴い身分の方ならないこともないのですが」

 司祭長様の言葉に、少しばかり考えたけれど難しそうだと思った。
 それが出来る性格の人なら、苦労しない。
 だからこうして、お守りになるようなものをとわたしも考えたのだ。

「ええと、その、どちらかといえば施す側の人なので。ご自分のことは全然といいますか、ですから……唯一の身内としてなにか出来ないものかと」

 魔術適性がわたしにあれば、おまじないで少しはなにか込められるかもなどと考えるけれど、残念ながら、まるで無いことがわかっている。
 もしかしたら、蔓バラ姫にお願いする事も出来なくはないかもしれないけれど、フォート家を苦めている元凶な精霊に頼むのはなんだか微妙だ。
 ルイがわたしの中に施した加護の術は、精霊すらも退ける強力なもの。
 それは大聖堂の婚儀の場、祝福の祈りを利用したらしいと聞いた、ルイの話から思いついた。
 
 大聖堂で、季節の祝いのお祈りをこの飾り紐に施せば……それを持つルイのお守りのようなものになるのではないかしら、と。

「身代わりとは、些か珍妙に思えますが。成程」

 唯一の身内といった言葉で察してくれたらしい。
 先代当主と懇意にしていたのなら、彼の境遇をまったく知らないわけもないだろう。

「ご夫婦愛とは貴いものです。神と精霊のもとにそれを認めた、婚姻の立ち会い人としてのご縁もあります。私が行いましょう」
「司祭長様が!?」
「この王都の大聖堂の季節の祝いは、私が執り行っているのですから当然かと」

 それはそうだけど……だから大聖堂の季節の祝いは、基本的に貴族の子供達や貴族の家に縁のある者が集まる。
 マルテも公爵家縁の者として、夏の祝いに参加させた。

 わたしが一人静かな時間のために訪れていただけあって、実は大聖堂って王都の人々にとってそれほど親しまれている場所じゃない。
 
 そもそも大聖堂は、神々と精霊達、恩寵を与えられし王とそれに連なる王家のための聖堂。
 礼拝所が開放されているからといって、訪れる人もあまりいない。
 主に儀式のための聖堂だから、常駐する聖職者もいない。

 王都は広いから、区画ごとに中聖堂や小聖堂がある。
 年中行事は、自分住む区画の聖堂で参加するのが普通だ。
 細々とした日常の相談事も、そこに常駐する聖職者にするのが一般的。

 王都の見所としても、いまひとつといった扱いだった。
 建物は、建国以前の礎を残し、大部分の増改築された箇所も古くて薄暗い。
 荘厳で歴史の重みと威厳を感じさせる外観と内装、神聖さに満ちたその雰囲気は素晴らしいけれど。王族や貴族達が集う行事以外では、人の気もなく陰鬱な古聖堂といえばその通り。

 中央広場にもう少し時代の下がった、凝った装飾が外観を飾り、美しい色硝子の薔薇窓も有名な聖堂もあるから尚更だった。
 人々が訪れる場所としては、中央広場の聖堂の方が圧倒的に人気がある。

 信仰の場としても観光の場所としても、大聖堂は恐れ多い。
 だからこんな、個人的なことをお願いする事、それ自体が烏滸がましいことなのに。

「……願ってもないことです」

 司祭長様のご好意に感謝すれば、いいえと司祭長様は柔らかく微笑まれた。

「王族や貴族の婚姻は、当人達よりも複雑な事情が優先されるものです。その中で幸福な人々を見るのは、執り行う私にとっても善き事なのですよ」

 にこにこしながら仲睦まじくてなによりと言われて、恥ずかしさに熱くなった頬を押さえる。
 背後からも、なんだか妙に生温かな視線の気配を感じる。
 マルテと……坊っちゃまと……。
 
 た、たしかに。
 これってよく考えたら、夫になにか特別な贈り物したいと言っているようなものだわ。
 それはそうではあるのだけれど。
 でも、司祭長様がお考えのような、微笑ましいことが主旨ではなくてですね……だめだ、説明すればするほど余計に恥ずかしいことになりそう。

「あ、ありがとう存じます。本当に、呆れてしまうほど遅れてしまった春の祝いなのですけれど。司祭長様」
「ああ、彼は冬生まれでしたね。フォート家の受洗式の出生届を見た覚えが……そう思えば、アントワーヌ殿と関わる以前からフォート家とは縁があります」

 何度と司祭長様にお礼を言って、飾り紐の入った木箱を預け、五日を過ぎて以降ならと言われて、それなら王家主催のお茶会の前日の朝に取りに伺いますと約束して、椅子から立ったその時。
 司祭長様の顔を見て、ふと、婚儀のことが脳裏を過った。

 神々と精霊達の祝福が集まる、大聖堂。
 ルイがわたしの中に施した加護の術は、精霊すらも退ける強力なもの。
 それは大聖堂の婚儀の場、祝福の祈りを利用したらしい。
 フォート家の“祝福”回避の儀式で、大聖堂での婚儀が絶対条件なのも、きっと大聖堂といった場に意味がある。

 そんな場で、司祭長様がわたしとルイの婚姻の祝福を祈ってくださった、まさにその時に。
 わたし――。

 “絶対、穏便に離婚する――”

 いいえ、と胸の内でわたしは咄嗟に否定した。
 言葉にして口に出してはいない。
 それに、わたしは魔術師でもないし……ルイだって察していて大それたことをと呆れていたくらいで、特に問題にしてはいなかったもの。
 
「どうかしましたか?」
「あの……司祭長様……」

 退室の挨拶をして、立ち上がって司祭長様を見下ろしたまま、じっと動かずにいたわたしを不審に思えたのだろう。
 わたしに声をかけた司祭長様に、尋ねる。

「その……誓いの時とは、考えが変わっても……」
「マリーベル様?」
「いえ、やっぱり、なんでもありません」

 別れたかったけれど、いまはそうじゃないとはいえ、明らかに口に出すべきことじゃない。
 そもそも前提として、別れることなど有り得ないのが婚姻だ。
 さっきの言い方では、人は逆の意味に捉えかねない。

「ああええとっ、人って勝手なものですから……その、心変わりもすることもあるではないかと……そうなった時の事を思うと不安で……」

 慌てて単に夫の心が離れたら不安だとでも、きっと人は捉えるだろう一般論へと話をすり替える。
 多少気恥ずかしい気はするけれど、ルイが呆れた通りにわたしがあの時怒り任せに考えたことは、たしかに大それたことなのだ。
 わたし達の結婚は、王様や王妃様の後ろ盾もあってのことなのだから。
 
「その、わたくし……」

 衣擦れの音がして、司祭長様が立ち上がる。
 そうして、穏やかだけれど、なにもかも見透かすような眼差しでわたしを見て、そっと微笑むように司祭長様はその眼差しを軽く伏せると、わたしにだけ聞こえるような囁き声で唇を僅かに動かした。
 
ᛐ'ᛁᚿᛩᚢᛁèᛐᛂ憂うるなかれᛁᛂᛔᛂᚿᛋᛂ共にàᛐᚮᛁある
「え?」

 なんの言葉かまるでわからないのに、なんとなくその意味は伝わってくるようなその感覚。
 かつて、ルイが“古精霊にこちらの意思を伝える言葉”と説明し、わたしに睦言らしいことを囁き揶揄からかってきた時と同じ。

「あの……それは」

 古い言葉ですかと尋ねれば、司祭長様は頷いた。
 古い聖典を読み解く、聖職者にとっては決まり文句のようなものであると。

「なにも憂うことはない。神々も精霊達も、我々のすぐ側に寄り添う“善き隣人”です。彼等の祝福はそれを真に願うのならば何度でも惜しみなく、どのような時も必ず与えられます」
「……司祭長様」
「少なくとも、いま・・のお二人の間で、憂いはないと思いますが?」

 たしかに。
 現状、わたしがあの時に願ったこととは真逆のことになっている。
 それにあれはルイに対する意地も半ばに含んだものだ、いま振り返ればルイが本当に去っていくことなんてきっと考えていなかった。
 ただあの強引に進められた経緯を白紙に戻して、きちんとやり直したかっただけなのだ。
 
 それに司祭長様には悪いけれど、わたしはそんなに信心深くもないから、だったらどうしてルイがあんな幼少期を過ごして辛いものを抱えなければいけなかったのかと思う。

「そう……ですね。たしかにそうです」

 そうだ。
 いまのわたしとルイの結婚に、憂うようなことはない。
 なにかと面倒事や厄介事は付き纏うけれど、それも少しずつ解決しているし。
 そうなるように、わたし達は動いてきたのだもの。
 以前はたしかにばらばらで、ルイは色々とわたしに隠し事をして、わたしもわたしで勝手に考えて目の前のことに対処してきたけれど、最近では違う。
 尋ねればルイはきちんと話してくれるし、彼がそれほど万能な人でもないこともわかっている。

「……その通りです」
 
 大丈夫。
 ルイならともかく、考えたのはわたしだもの。
 言葉にもしていない。
 そもそも半ば王命にも近いような結婚なんて、覆したくてもそう簡単に覆せる訳がない。
 なによりも、どうしたら離婚要件が成立するか考えていた、わたし自身が一番よくわかっている。

 もう一度、司祭長様にお礼を言って王宮礼拝堂から出た。
 帰る馬車で、同乗のマルテから、旦那様が心変わりなんて有り得ませんと力説され。
 馬で伴走していた、坊っちゃまことベルトランには邸宅に到着後、君にそんな恋する乙女のようなことを言わせるとは、あの魔術師は本物だなと……意味不明な感心をされて。

 司祭長様の祝福の祈りと大聖堂という場に対して、一瞬、過った不安など。
 最早、どうでもよいものになってしまった。
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