86 / 180
第三部 王都の社交
86.真面目な話のはずなのに
しおりを挟む
おかしい。
そもそもこの夫婦の寝室では、おかしなことが度々起きる。
初夜に用意されていたお茶が、実は得体のしれない怪しい効果のあるお茶であったり。
三階の部屋なはずが、領地に仕事に出ていたはずの旦那様が窓からひょっこり戻って寝台で休んでいたり。
いまとなってはそれを施されることがどれほど特異な事態であるかわかる、おそらく他の誰にも真似できないような緻密な加護の術を修復がてら仕込み直されていたり。
楽器の演奏を褒めたら……まあ、それはいいとして。
「ルイ」
「なんですか?」
お茶ですかと尋ねる声とともに、わたしのカップがふよふよと手元にやってくる。
たしかに少しお茶は飲みたかったと、宙に浮いているカップをしっかり手に取って口付ける。
だから魔術って、そんなにほいほい使ってよいものではないのでは?
蝕まれるとかなんとか……。
複雑な思いでカップに口をつける。
美味しい。
フォート家のお茶はとても美味しい。
ついうっとりしてしまう――じゃなくて。
「話を聞かせてくれるのでは?」
「勿論」
「真面目な話なはずですよね? 結構、込み入った話もあるはずですよね?」
「そうですよ」
「……あの、でしたらいまのこの状態はなに?」
長椅子に二人で座っているのだけれど、わたしが身を預けているのは長椅子じゃない。 腰からルイの膝の上に引き寄せられて横抱きにされるような格好で、長椅子の背もたれにではなく、ルイの体にもたれかかっている状態となっている。
夜食を終えたところで謎の夜の宣言をされて、ルイが口にした志半ばだとかいった言葉への疑問は残るものの、それ自体はさらりと流れて、屋敷の庭の様子やわたしがエンゾに渡した薬草のメモのことなどとりとめない会話となった。
これは適当なところで、そろそろ就寝支度して寝ましょうかなとど促されて終わりになるのでは、だったらその前にわたしからちょっと失礼して本当に就寝しても構わない状態に整えることにした。
王都の邸宅で着替えた時に、さっと湯浴みは済ませてある。
口をゆすいで、髪を梳き直してまとめ、羽織っているものが皺くちゃにならないようにして絹織りのストールに取り替えれば完了。すでに簡易な装いになっているから、リュシーの手を借りなくても自分で出来る。
わたしとしては眠り落ちてしまうその寸前まで、ルイから話を聞き出す構えのつもりだった。
そうして戻れば、夜食のお皿は片付けられお茶も入れ直されていたのはまあ想定通り。
ルイがお酒の入った硝子杯を傾けているのも、フェリシアンあたりが用意したのだろう。
けれど彼もまた宮廷用ローブから室内用ガウンを羽織った姿になっていたのには少しばかり驚いた。
まさかルイも、わたしが寝入ってしまってもいい状態にしている間で就寝支度をしてくるなんて……これじゃあいつでもじゃあ寝ましょうかなんて、彼に寝かしつけられてしまいかねない。
そうじゃなくても本当に身内くらいしか見られないルイの姿は、無駄に悩ましくて……わたしにとっては幾夜もの夫婦の夜の記憶とも結びついて、落ち着かない気にさせられるといいますか。
とにかくこれは、誤魔化されないようにしなくては!
そう、意気込んだはずだったのに……気がつけばルイの膝の上。
でもってたぶん魔術だろう、半日広い王宮を歩いて移動した足の怠さも和らいでいて、手を伸ばさずともお茶の方から手元にやってくる至れり尽くせりな……どうしてこんな状態に。
「夫婦水入らずの時間ついでに、込み入った話をするのでしょう?」
「逆です、逆! 込み入った話が優先です!」
「まあよろしいではないですか、結果的にどちらも適うなら問題ないでしょう」
そうだけど、そうじゃないような。
それに魔術、疲れるのでは?
カップを持ったまま彼の顔を仰げば、にこにこと上機嫌で目が合えば額に唇なども降ってくる。カップへ視線を移して、じっと手元のそれを黙って見るわたしの考えを察したのだろう。
これくらいは魔術のうちにも入らないとルイは言った。
「物をそこからここまで動かす、蝋燭を吹き消すなんていうのは魔術院でも初手の初手。ちょっとした疲労の軽減も汎用魔術でもごく簡単な部類ですしね」
そういえば、手元の燭台の蝋燭やランプを点けたり消したりみたいなことを、彼が自分の手を動かしてやってるところを見たことがない。いつの間にか明かりは点り、消えている。
たまに寝台から手を出して一振りするようなこともあるけど、そういった時は大抵部屋全体の明かりが一気に消える。
これまできちんと聞いたことがなかったけれど。
「以前、魔術師にとって体調の良し悪しを見るようなものって言っていたけれど、ルイにとって、疲れるとか実際行うのは楽しくないとか、蝕まれるなんてあまりよろしくなさそうな魔術ってどういった魔術なの?」
「そうですね……中級魔術の少々手の込んだものあたりからでしょうか。慣れているものはそうでもないですが」
とはいえ、慣れているものや手の込んだものでなくても、連発するとか広範囲に展開するとか長時間だとか、複数の異なる魔術をどれほど同時に動かすかにもよるらしい。
それはなんとなく、“密談”の魔術に応じる時のことを考えるとわかる気がする。
今度、ソフィー様あたりに標準的な魔術師について聞いてみようかしら。
魔術師として最強とか、魔力が強大とかいったことを抜きにしても、なんとなくルイは標準とは外れているような気がするもの。
ふと視線を感じて上目にルイを仰げば、何故かうっとりとした甘さを滲ませて彼の青味がかった灰色の瞳がわたしを見下ろしているのに、思わず不審を覚えて眉を顰めてしまう。
「なに?」
「魔術のことで私の心配をするなど、貴女位のものです」
「そんなことは……オドレイやフェリシアン、シモンだって……」
「彼等は私を主として仕える人達ですから、また違いますよ」
「そうかしら」
「少なくとも、私を魔術師として見る人はそうではありませんね」
頬をよしよしと撫でてくる手に、首を振って抵抗の意を示してみたけれど止めない。
むずがるようにわたしが抵抗するのを面白がって、時折、人を猫可愛がりするように揶揄うことがある。
ルイは概ね表面穏やかなので掴みづらいところがあるけれど、こういったことは大抵ご機嫌がよろしい時で、わたしを屋敷に誘ったり、翌朝の食事は優雅にお庭でなどと提案してくるあたり、明日はお休みなのかもしれない。
それなら好都合。話をする時間がある。
王都にいると、王宮の御用に、人付き合いが悪いながらも一応交流している方もいるらしく殿方の集まりに出かけたり、出資先の工房の方や取引している商会の方やトゥール家の養父が訪ねてきたりとなにかと用事が入って慌ただしい。
それにルイは王都にいても、ロタールの領主としての仕事もある。
大半、統括組織とフェリシアン任せだけれど、重要事項の決裁や領民の訴え、人外の領域に属することは、かつてロタールの地を治めていた偉大なるヴァンサン王の末裔であるルイの仕事で、ここのところ王宮の御用と領地の用で行ったり来たりが続き、邸宅は不在がちだった。
「明日はご用事は?」
「ないですね。貴女もでしょう?」
言いながらルイは、いまは簡単に編んで結い上げた人の髪の編み目を指で辿って遊んでいる。
これは……あれだ、ルイが構うのを気にしたら負けだ。
無視しして話を進めるのが良し。
ため息を吐き、ルイがここ最近していたことに話を戻そうと、わたしは話を切り替えることにする。
傾国の美中年なルイの膝の上に、幼女のように乗せられ構われていて、きっと顔を引き締めてみせたところでなんだか間抜けだけれど。
「ロベール王との契約内容はわかりました。ですが、どうしてそこまで保険をかける必要が? いまのところなにもと言っても、無意味にそんなことをする人じゃないですよね? 必要あってというのならそれは込み入った話とやらと関係があるのではないの?」
「……近頃、貴女これくらいでは動じなくなってきましたね」
近づいただけで距離を取って毛を逆立てる猫のようだった頃が懐かしい、などと言っているルイに元の席に戻ってもわたしはまったく問題ないですよと返せば、だめですと腰に回っている腕にさらに引き寄せられる。
頬が彼の胸に、ガウンも開いたその下のシャツ合わせも緩みがちなそこへぴったりと密着し、流石にそれにはちょっとどきりとする。
慌ててわたしは誤魔化すように咳払いして、少し改まった調子でルイに苦言を呈する。
「お茶がこぼれますっ……まったく」
真面目な話のはずなのに。
「ところでマリーベル。貴女、なにか忘れていませんか?」
「なにを?」
「王宮から疲れて戻ったとはいえ、貴女のような律儀な人が珍しいと思っていたのですが」
「だからなに?」
「モンフォールの三男氏を夕食に招いていたはずでした」
「――あ」
そういえば。
脳裏に逆光した時間の記憶が駆け巡り、ルイが坊ちゃまを招いた場面が甦る。
完全に、忘れていた――!
「……やはり失念していましたか」
「え、でもっ、向こうも訪ねてきていませんよね……あれっ、でも迎えをってたしか……あれっ? どうして?」
「王宮を出る前に、また日を改めてと言伝をお願いしました。貴女がとても来客に応じられる様子には見えませんでしたので」
「そう……でしたか……えっと、ごめんなさい。有難うございます」
あまりにも失敗以前な失敗すぎて、自分が信じられない。
いささか落ち込んで俯けば、お茶がこぼれますとルイがわたしの手からカップを取り上げテーブルに戻した。
「ジュリアン殿や貴女自身の評判にも関わる話です、動揺して成り行きで入った予定を忘れても無理はない」
「でも……だからって」
こちらから急に招いておいて、すぐ取り止めだなんてあまりに失礼だ。
そもそも約束自体をすっかり失念するなんて、礼儀以前の問題であるし。
「いくら坊ちゃま相手とはいえ……奥方失格だわ」
坊っちゃまはあれで結構寛容なところもあるし、騎士団の大隊長で軍部にも属する人だから、きっとルイが魔術師であることも考えて、腹は立てても騒いだりはせず次に会った時に文句を言う程度で済ませてくれるだろうけど、他の貴族相手だったらそうはいかない。
「あの男だから、そうなったような気もしないでもないですけどね」
「たしかに……そんなところがなかったとは言いきれません」
坊っちゃまなら、多少のことはなんとかなるといった意識がなかったとは言い切れない。
そんな、この人なら蔑ろにしても大丈夫みたいな考えを持つこと自体、最低だ。
「……当主様のこと言えないわ」
「別に責めたわけではありませんよ。それだけ気を許している相手かと思ったまでです」
姿勢を直して、ルイの膝から長椅子へと座り直そうとすれば、また引き戻されてしまう。
「ルイ?」
「そもそも招いたのは貴女でなく私です。第一、私は公爵ですよ。妻である貴女に対し企てし制裁を受けた伯爵家ごときの三男相手にその程度の気まぐれ、貴族社会ではよくあることです。悪意を持ってやったとしてもまったく問題ない」
「問題ありますっ、人として」
どれだけ歪んでるんですか、貴族社会!
「モンフォールについては断罪もされたのでもういいです。わたし自身は父様とあなたのおかげで実害もなかったし」
「私はもういいとは言えないですね。あの男は、過去に貴女が結婚すると言った男で……」
「だからそれは五歳の頃の話ですっ」
「過ぎた時間だけは、魔術でもどうにもできない……」
「あの……わたしが五歳だと、ルイは二十四歳で、それって立派に幼女趣味では?」
仮に、五歳の幼女の言葉を本気に取ったとして。
十歳の少年相手ならぎりぎりよしとしても、二十四歳の青年はない。
思わず真顔になってしまったけれど、それだけわたし達は年が離れてはいる。
「……わかっていますよ。ええ、いまだってもう二十年もしたら私は立派に老ぼれの身で、貴女は四十……ああ、いいでしょうねえ。いまの初々しい貴女も素敵ですが、なにもかも知り成熟した女性は、それはそれで若い女性にはない良さがある」
「さらっと好色な半生を匂わさないでもらえますか……坊っちゃまとは子供のおままごとのような話で、その後は彼のおふざけですから」
過ぎた時間だけは……って、それはこちらが言いたい。
殺到する縁談やいい寄るご令嬢に、とりつくしまのない冷たい対応をしていた一方で。
不道徳とされるようなことが色々と……色々と色々と、色々とっ、おありだったようですしっ!
「わたしは、あなたの妻なんですからっ!」
ガウンとシャツの襟元の重なりを掴んで引っ張れば、そうですねっと上機嫌に抱き締められる。
苦しい。
それに、肝心な話を避けてる……。
「もうっ! わたしも明日は特に用事はありません。話を聞くまで寝ませんからねっ」
「誤魔化されてはくれませんか」
「誤魔化されません!」
だけど、どうやら話す気がなわけではなさそう?
話す気がなければ、そもそもわたしを連れて屋敷に戻り、こんなお喋りに興じてはいない。
さっさとわたしに邸宅で休むよう促して、もっともらしい理由をつけて自分だけ屋敷に向かうか、ご自分の部屋に閉じこもるなりするはずだもの。
「勿体つけられるだけ、気になります」
「勿体つけているわけではないのですが……半月ぶりに折角ゆっくり過ごせる夜に、語り合うならもっと別のといった欲が強い……」
「別?」
「……保険をかける理由など、貴女以外になにがあります」
「わたし?」
「どのようなことがあっても妻と領地を守るのが、夫であり領主の務めでしょう。それこそ貴女のお父上のジュリアン殿のように」
「父様?」
「ええ」
目下のところ、勝ち目が無いと認めざるを得ない相手はあの人だけですからね……と、なにか大変複雑なものを含むような声音の呟きに首を傾げる。
「父様となにを競っているのか知りませんけど、いくら法科院の一員でも田舎領主と最強の魔術師な公爵ではそもそも勝負にならないと思いますよ……養父様ならともかく」
「ふむ……本当に、娘だというだけでこれほどまでに無頓着に、いえ、これもまたあの人の手腕なのでしょうね」
「なんなの?」
「とにかくジュリアン殿は仰ることがまったくもってごもっともなので、意見が割れた時は分が悪い……」
「フォート家の法務顧問ですもの。わたしの支度金の為とはいえ、父様は引き受けた以上きちんと務めは果たすはずだわ」
「そうですね。本当に……貴女を巡って、彼と真正面から対立しなくて心底よかったと思っています」
対立もなにも父様を言い包めたのは彼のはずだ。
いつの間にかわたしが知らないところで結託していて、妙にわたしに対して足並み揃える仲の良さなのだけど、そこは男の人のことだからなにか立場や力関係のことがあるらしい。
わたしの実父ということで、蔑ろに出来ないのはあるかもだけど。
それにしたって雇用関係を抜きにしても、爵位なしの小領地の領収と公爵の大領地の領主では力関係もなにもない。
しかもいまやユニ領は実質、フォート家の庇護下にある。
それとも養父様側から、なにか無茶でも言われてるのかしら?
そちらは大いに有り得えそうだわ。
娘が欲しかったが恵まれなかったらしいトゥール家の養父母は、名目上の養子縁組なはずのわたしをとても可愛がってくださるし、養父様に至っては少々暴走気味。
ルイとの結婚にあたって、わたしを迎え入れてくれたトゥール伯爵家当主の養父様から仲介を頼まれれば父様は断れないだろうし。
なにしろトゥールの本家は、王妃様のご実家の侯爵家。
南部系貴族の筆頭の、大領地を治める一族。
名目上でも養女は養女。
その嫁ぎ先が、表向き王家に頭を下げない元小国王の末裔公爵で最強の魔術師とあれば、貴族社会の政治だけでなく、領地同士の取引においても利益をとなにか打診しても不思議じゃない。
「よくわかりませんけれど、父様はフォート家の法務顧問ですもの。いくらなにかしがらみがあってもルイの不利益になることはしないと思います」
「ええ、わかっていますよ。その点においては大変に心強い方です」
だからこそ……と、なおもぼやくルイに大丈夫なのにと肩をすくめる。
いくら子供の頃から大領地の領主の重責を背負ってきたとはいえ、妻の身内くらいは信じてほしい。
でもそうは言っても、貴族社会ではお身内のが厄介な事例はいくらでもあるものね。
法科院の上層とも折り合い悪いようだし、ある程度は仕方がないことかも。
元々、自分でなんでも抱え込んでしまう人のようだし。
「ルイ?」
「とにかく、ロベール王との件はなにかあって貴女が困ったことになったら私が嫌だからというのが最大の理由です」
「あなたになにかある時点で、大いに困ると思いますけど……」
なんとなくそこで言葉を中断した。
とにかく、あらゆる可能性を考えて王様に持ちかけたらしい。
これ以上はなにを言っても聞いても堂々巡りになりそうだ。
それにしてもこんな追加条件、ロベール王も困ってしまうと思うのだけれど。
一旦は受け取ったということは、受け入れていい余地があるということだ……それほどまでにこの人は尊重するべき立場の魔術師なのかと思った。
ほとんどなにも教えられないまま、妻になってしまった身としてはフォート家やルイの事が見えてくるたびに途方に暮れる。途方に暮れていても仕方がないからどう振る舞うか考えるのだけれど、考えれば考えるほど、たしかにルイの言う通り、彼の妻である公爵夫人として暢気になにも気にせず堂々と振る舞うのが最良に思えて、それがまたちょっとだけ癪に障る。
「困る?」
「ええ」
「困る、とは? 後ろ盾の話なら、トゥール家もいまとなってはジュリアン殿もいます。ロタールはロベール王が面倒見てくれるし、実際には統括組織とフェリシアンがそれまでと変わらず機能するでしょう。貴女ご自身も王妃やお茶会の夫人達が味方にいる」
「ねえ……」
このわからずやっ、といった思いでルイを仰ぎ見た。
ぶつかった眼差しが思いの外、熱ぽい目に見えてしまってどきりする。
き、きっとお酒のせいよと思いながらも、年相応に目元に翳りや細かな皺が見えても端正なルイがわたしを見詰めているのに、なんだかずるいと思う。
「……こうして文句も言えなくなるようなこと、困ります。気持ちのやり場がなくなるじゃない。聞きたいことあっても、言って欲しい言葉があっても聞けないの、大いに困ります」
言葉にしたら、具体的な想像が迫ってきて本当にわかってないとルイを睨みつけてしまった。
彼の髪が頬をくすぐり、ふっと目の前が翳るのに目を閉じて触れてきた唇を受ける。
深くなって、それでももっとといった気持ちが止められないのが悔しい。
真面目な話をしているのに。
「……ずるい……んっ」
「これでも、結構がんばったつもりですよ……」
ちゅっと、音を立てて吸いついて離れた口元が、完全には離れ切らないうちに言葉を紡ぐ。
「貴女を怒らせて口もきいてもらえないのは困りますから……きちんと話します……」
「本当……?」
「私は魔術師です……マリーベル」
後で存分に甘える、後より先がいいと囁かれて、後で時間切れは無しなんだからと言えば、勿論と苦笑しながら彼は答えた。
そもそもこの夫婦の寝室では、おかしなことが度々起きる。
初夜に用意されていたお茶が、実は得体のしれない怪しい効果のあるお茶であったり。
三階の部屋なはずが、領地に仕事に出ていたはずの旦那様が窓からひょっこり戻って寝台で休んでいたり。
いまとなってはそれを施されることがどれほど特異な事態であるかわかる、おそらく他の誰にも真似できないような緻密な加護の術を修復がてら仕込み直されていたり。
楽器の演奏を褒めたら……まあ、それはいいとして。
「ルイ」
「なんですか?」
お茶ですかと尋ねる声とともに、わたしのカップがふよふよと手元にやってくる。
たしかに少しお茶は飲みたかったと、宙に浮いているカップをしっかり手に取って口付ける。
だから魔術って、そんなにほいほい使ってよいものではないのでは?
蝕まれるとかなんとか……。
複雑な思いでカップに口をつける。
美味しい。
フォート家のお茶はとても美味しい。
ついうっとりしてしまう――じゃなくて。
「話を聞かせてくれるのでは?」
「勿論」
「真面目な話なはずですよね? 結構、込み入った話もあるはずですよね?」
「そうですよ」
「……あの、でしたらいまのこの状態はなに?」
長椅子に二人で座っているのだけれど、わたしが身を預けているのは長椅子じゃない。 腰からルイの膝の上に引き寄せられて横抱きにされるような格好で、長椅子の背もたれにではなく、ルイの体にもたれかかっている状態となっている。
夜食を終えたところで謎の夜の宣言をされて、ルイが口にした志半ばだとかいった言葉への疑問は残るものの、それ自体はさらりと流れて、屋敷の庭の様子やわたしがエンゾに渡した薬草のメモのことなどとりとめない会話となった。
これは適当なところで、そろそろ就寝支度して寝ましょうかなとど促されて終わりになるのでは、だったらその前にわたしからちょっと失礼して本当に就寝しても構わない状態に整えることにした。
王都の邸宅で着替えた時に、さっと湯浴みは済ませてある。
口をゆすいで、髪を梳き直してまとめ、羽織っているものが皺くちゃにならないようにして絹織りのストールに取り替えれば完了。すでに簡易な装いになっているから、リュシーの手を借りなくても自分で出来る。
わたしとしては眠り落ちてしまうその寸前まで、ルイから話を聞き出す構えのつもりだった。
そうして戻れば、夜食のお皿は片付けられお茶も入れ直されていたのはまあ想定通り。
ルイがお酒の入った硝子杯を傾けているのも、フェリシアンあたりが用意したのだろう。
けれど彼もまた宮廷用ローブから室内用ガウンを羽織った姿になっていたのには少しばかり驚いた。
まさかルイも、わたしが寝入ってしまってもいい状態にしている間で就寝支度をしてくるなんて……これじゃあいつでもじゃあ寝ましょうかなんて、彼に寝かしつけられてしまいかねない。
そうじゃなくても本当に身内くらいしか見られないルイの姿は、無駄に悩ましくて……わたしにとっては幾夜もの夫婦の夜の記憶とも結びついて、落ち着かない気にさせられるといいますか。
とにかくこれは、誤魔化されないようにしなくては!
そう、意気込んだはずだったのに……気がつけばルイの膝の上。
でもってたぶん魔術だろう、半日広い王宮を歩いて移動した足の怠さも和らいでいて、手を伸ばさずともお茶の方から手元にやってくる至れり尽くせりな……どうしてこんな状態に。
「夫婦水入らずの時間ついでに、込み入った話をするのでしょう?」
「逆です、逆! 込み入った話が優先です!」
「まあよろしいではないですか、結果的にどちらも適うなら問題ないでしょう」
そうだけど、そうじゃないような。
それに魔術、疲れるのでは?
カップを持ったまま彼の顔を仰げば、にこにこと上機嫌で目が合えば額に唇なども降ってくる。カップへ視線を移して、じっと手元のそれを黙って見るわたしの考えを察したのだろう。
これくらいは魔術のうちにも入らないとルイは言った。
「物をそこからここまで動かす、蝋燭を吹き消すなんていうのは魔術院でも初手の初手。ちょっとした疲労の軽減も汎用魔術でもごく簡単な部類ですしね」
そういえば、手元の燭台の蝋燭やランプを点けたり消したりみたいなことを、彼が自分の手を動かしてやってるところを見たことがない。いつの間にか明かりは点り、消えている。
たまに寝台から手を出して一振りするようなこともあるけど、そういった時は大抵部屋全体の明かりが一気に消える。
これまできちんと聞いたことがなかったけれど。
「以前、魔術師にとって体調の良し悪しを見るようなものって言っていたけれど、ルイにとって、疲れるとか実際行うのは楽しくないとか、蝕まれるなんてあまりよろしくなさそうな魔術ってどういった魔術なの?」
「そうですね……中級魔術の少々手の込んだものあたりからでしょうか。慣れているものはそうでもないですが」
とはいえ、慣れているものや手の込んだものでなくても、連発するとか広範囲に展開するとか長時間だとか、複数の異なる魔術をどれほど同時に動かすかにもよるらしい。
それはなんとなく、“密談”の魔術に応じる時のことを考えるとわかる気がする。
今度、ソフィー様あたりに標準的な魔術師について聞いてみようかしら。
魔術師として最強とか、魔力が強大とかいったことを抜きにしても、なんとなくルイは標準とは外れているような気がするもの。
ふと視線を感じて上目にルイを仰げば、何故かうっとりとした甘さを滲ませて彼の青味がかった灰色の瞳がわたしを見下ろしているのに、思わず不審を覚えて眉を顰めてしまう。
「なに?」
「魔術のことで私の心配をするなど、貴女位のものです」
「そんなことは……オドレイやフェリシアン、シモンだって……」
「彼等は私を主として仕える人達ですから、また違いますよ」
「そうかしら」
「少なくとも、私を魔術師として見る人はそうではありませんね」
頬をよしよしと撫でてくる手に、首を振って抵抗の意を示してみたけれど止めない。
むずがるようにわたしが抵抗するのを面白がって、時折、人を猫可愛がりするように揶揄うことがある。
ルイは概ね表面穏やかなので掴みづらいところがあるけれど、こういったことは大抵ご機嫌がよろしい時で、わたしを屋敷に誘ったり、翌朝の食事は優雅にお庭でなどと提案してくるあたり、明日はお休みなのかもしれない。
それなら好都合。話をする時間がある。
王都にいると、王宮の御用に、人付き合いが悪いながらも一応交流している方もいるらしく殿方の集まりに出かけたり、出資先の工房の方や取引している商会の方やトゥール家の養父が訪ねてきたりとなにかと用事が入って慌ただしい。
それにルイは王都にいても、ロタールの領主としての仕事もある。
大半、統括組織とフェリシアン任せだけれど、重要事項の決裁や領民の訴え、人外の領域に属することは、かつてロタールの地を治めていた偉大なるヴァンサン王の末裔であるルイの仕事で、ここのところ王宮の御用と領地の用で行ったり来たりが続き、邸宅は不在がちだった。
「明日はご用事は?」
「ないですね。貴女もでしょう?」
言いながらルイは、いまは簡単に編んで結い上げた人の髪の編み目を指で辿って遊んでいる。
これは……あれだ、ルイが構うのを気にしたら負けだ。
無視しして話を進めるのが良し。
ため息を吐き、ルイがここ最近していたことに話を戻そうと、わたしは話を切り替えることにする。
傾国の美中年なルイの膝の上に、幼女のように乗せられ構われていて、きっと顔を引き締めてみせたところでなんだか間抜けだけれど。
「ロベール王との契約内容はわかりました。ですが、どうしてそこまで保険をかける必要が? いまのところなにもと言っても、無意味にそんなことをする人じゃないですよね? 必要あってというのならそれは込み入った話とやらと関係があるのではないの?」
「……近頃、貴女これくらいでは動じなくなってきましたね」
近づいただけで距離を取って毛を逆立てる猫のようだった頃が懐かしい、などと言っているルイに元の席に戻ってもわたしはまったく問題ないですよと返せば、だめですと腰に回っている腕にさらに引き寄せられる。
頬が彼の胸に、ガウンも開いたその下のシャツ合わせも緩みがちなそこへぴったりと密着し、流石にそれにはちょっとどきりとする。
慌ててわたしは誤魔化すように咳払いして、少し改まった調子でルイに苦言を呈する。
「お茶がこぼれますっ……まったく」
真面目な話のはずなのに。
「ところでマリーベル。貴女、なにか忘れていませんか?」
「なにを?」
「王宮から疲れて戻ったとはいえ、貴女のような律儀な人が珍しいと思っていたのですが」
「だからなに?」
「モンフォールの三男氏を夕食に招いていたはずでした」
「――あ」
そういえば。
脳裏に逆光した時間の記憶が駆け巡り、ルイが坊ちゃまを招いた場面が甦る。
完全に、忘れていた――!
「……やはり失念していましたか」
「え、でもっ、向こうも訪ねてきていませんよね……あれっ、でも迎えをってたしか……あれっ? どうして?」
「王宮を出る前に、また日を改めてと言伝をお願いしました。貴女がとても来客に応じられる様子には見えませんでしたので」
「そう……でしたか……えっと、ごめんなさい。有難うございます」
あまりにも失敗以前な失敗すぎて、自分が信じられない。
いささか落ち込んで俯けば、お茶がこぼれますとルイがわたしの手からカップを取り上げテーブルに戻した。
「ジュリアン殿や貴女自身の評判にも関わる話です、動揺して成り行きで入った予定を忘れても無理はない」
「でも……だからって」
こちらから急に招いておいて、すぐ取り止めだなんてあまりに失礼だ。
そもそも約束自体をすっかり失念するなんて、礼儀以前の問題であるし。
「いくら坊ちゃま相手とはいえ……奥方失格だわ」
坊っちゃまはあれで結構寛容なところもあるし、騎士団の大隊長で軍部にも属する人だから、きっとルイが魔術師であることも考えて、腹は立てても騒いだりはせず次に会った時に文句を言う程度で済ませてくれるだろうけど、他の貴族相手だったらそうはいかない。
「あの男だから、そうなったような気もしないでもないですけどね」
「たしかに……そんなところがなかったとは言いきれません」
坊っちゃまなら、多少のことはなんとかなるといった意識がなかったとは言い切れない。
そんな、この人なら蔑ろにしても大丈夫みたいな考えを持つこと自体、最低だ。
「……当主様のこと言えないわ」
「別に責めたわけではありませんよ。それだけ気を許している相手かと思ったまでです」
姿勢を直して、ルイの膝から長椅子へと座り直そうとすれば、また引き戻されてしまう。
「ルイ?」
「そもそも招いたのは貴女でなく私です。第一、私は公爵ですよ。妻である貴女に対し企てし制裁を受けた伯爵家ごときの三男相手にその程度の気まぐれ、貴族社会ではよくあることです。悪意を持ってやったとしてもまったく問題ない」
「問題ありますっ、人として」
どれだけ歪んでるんですか、貴族社会!
「モンフォールについては断罪もされたのでもういいです。わたし自身は父様とあなたのおかげで実害もなかったし」
「私はもういいとは言えないですね。あの男は、過去に貴女が結婚すると言った男で……」
「だからそれは五歳の頃の話ですっ」
「過ぎた時間だけは、魔術でもどうにもできない……」
「あの……わたしが五歳だと、ルイは二十四歳で、それって立派に幼女趣味では?」
仮に、五歳の幼女の言葉を本気に取ったとして。
十歳の少年相手ならぎりぎりよしとしても、二十四歳の青年はない。
思わず真顔になってしまったけれど、それだけわたし達は年が離れてはいる。
「……わかっていますよ。ええ、いまだってもう二十年もしたら私は立派に老ぼれの身で、貴女は四十……ああ、いいでしょうねえ。いまの初々しい貴女も素敵ですが、なにもかも知り成熟した女性は、それはそれで若い女性にはない良さがある」
「さらっと好色な半生を匂わさないでもらえますか……坊っちゃまとは子供のおままごとのような話で、その後は彼のおふざけですから」
過ぎた時間だけは……って、それはこちらが言いたい。
殺到する縁談やいい寄るご令嬢に、とりつくしまのない冷たい対応をしていた一方で。
不道徳とされるようなことが色々と……色々と色々と、色々とっ、おありだったようですしっ!
「わたしは、あなたの妻なんですからっ!」
ガウンとシャツの襟元の重なりを掴んで引っ張れば、そうですねっと上機嫌に抱き締められる。
苦しい。
それに、肝心な話を避けてる……。
「もうっ! わたしも明日は特に用事はありません。話を聞くまで寝ませんからねっ」
「誤魔化されてはくれませんか」
「誤魔化されません!」
だけど、どうやら話す気がなわけではなさそう?
話す気がなければ、そもそもわたしを連れて屋敷に戻り、こんなお喋りに興じてはいない。
さっさとわたしに邸宅で休むよう促して、もっともらしい理由をつけて自分だけ屋敷に向かうか、ご自分の部屋に閉じこもるなりするはずだもの。
「勿体つけられるだけ、気になります」
「勿体つけているわけではないのですが……半月ぶりに折角ゆっくり過ごせる夜に、語り合うならもっと別のといった欲が強い……」
「別?」
「……保険をかける理由など、貴女以外になにがあります」
「わたし?」
「どのようなことがあっても妻と領地を守るのが、夫であり領主の務めでしょう。それこそ貴女のお父上のジュリアン殿のように」
「父様?」
「ええ」
目下のところ、勝ち目が無いと認めざるを得ない相手はあの人だけですからね……と、なにか大変複雑なものを含むような声音の呟きに首を傾げる。
「父様となにを競っているのか知りませんけど、いくら法科院の一員でも田舎領主と最強の魔術師な公爵ではそもそも勝負にならないと思いますよ……養父様ならともかく」
「ふむ……本当に、娘だというだけでこれほどまでに無頓着に、いえ、これもまたあの人の手腕なのでしょうね」
「なんなの?」
「とにかくジュリアン殿は仰ることがまったくもってごもっともなので、意見が割れた時は分が悪い……」
「フォート家の法務顧問ですもの。わたしの支度金の為とはいえ、父様は引き受けた以上きちんと務めは果たすはずだわ」
「そうですね。本当に……貴女を巡って、彼と真正面から対立しなくて心底よかったと思っています」
対立もなにも父様を言い包めたのは彼のはずだ。
いつの間にかわたしが知らないところで結託していて、妙にわたしに対して足並み揃える仲の良さなのだけど、そこは男の人のことだからなにか立場や力関係のことがあるらしい。
わたしの実父ということで、蔑ろに出来ないのはあるかもだけど。
それにしたって雇用関係を抜きにしても、爵位なしの小領地の領収と公爵の大領地の領主では力関係もなにもない。
しかもいまやユニ領は実質、フォート家の庇護下にある。
それとも養父様側から、なにか無茶でも言われてるのかしら?
そちらは大いに有り得えそうだわ。
娘が欲しかったが恵まれなかったらしいトゥール家の養父母は、名目上の養子縁組なはずのわたしをとても可愛がってくださるし、養父様に至っては少々暴走気味。
ルイとの結婚にあたって、わたしを迎え入れてくれたトゥール伯爵家当主の養父様から仲介を頼まれれば父様は断れないだろうし。
なにしろトゥールの本家は、王妃様のご実家の侯爵家。
南部系貴族の筆頭の、大領地を治める一族。
名目上でも養女は養女。
その嫁ぎ先が、表向き王家に頭を下げない元小国王の末裔公爵で最強の魔術師とあれば、貴族社会の政治だけでなく、領地同士の取引においても利益をとなにか打診しても不思議じゃない。
「よくわかりませんけれど、父様はフォート家の法務顧問ですもの。いくらなにかしがらみがあってもルイの不利益になることはしないと思います」
「ええ、わかっていますよ。その点においては大変に心強い方です」
だからこそ……と、なおもぼやくルイに大丈夫なのにと肩をすくめる。
いくら子供の頃から大領地の領主の重責を背負ってきたとはいえ、妻の身内くらいは信じてほしい。
でもそうは言っても、貴族社会ではお身内のが厄介な事例はいくらでもあるものね。
法科院の上層とも折り合い悪いようだし、ある程度は仕方がないことかも。
元々、自分でなんでも抱え込んでしまう人のようだし。
「ルイ?」
「とにかく、ロベール王との件はなにかあって貴女が困ったことになったら私が嫌だからというのが最大の理由です」
「あなたになにかある時点で、大いに困ると思いますけど……」
なんとなくそこで言葉を中断した。
とにかく、あらゆる可能性を考えて王様に持ちかけたらしい。
これ以上はなにを言っても聞いても堂々巡りになりそうだ。
それにしてもこんな追加条件、ロベール王も困ってしまうと思うのだけれど。
一旦は受け取ったということは、受け入れていい余地があるということだ……それほどまでにこの人は尊重するべき立場の魔術師なのかと思った。
ほとんどなにも教えられないまま、妻になってしまった身としてはフォート家やルイの事が見えてくるたびに途方に暮れる。途方に暮れていても仕方がないからどう振る舞うか考えるのだけれど、考えれば考えるほど、たしかにルイの言う通り、彼の妻である公爵夫人として暢気になにも気にせず堂々と振る舞うのが最良に思えて、それがまたちょっとだけ癪に障る。
「困る?」
「ええ」
「困る、とは? 後ろ盾の話なら、トゥール家もいまとなってはジュリアン殿もいます。ロタールはロベール王が面倒見てくれるし、実際には統括組織とフェリシアンがそれまでと変わらず機能するでしょう。貴女ご自身も王妃やお茶会の夫人達が味方にいる」
「ねえ……」
このわからずやっ、といった思いでルイを仰ぎ見た。
ぶつかった眼差しが思いの外、熱ぽい目に見えてしまってどきりする。
き、きっとお酒のせいよと思いながらも、年相応に目元に翳りや細かな皺が見えても端正なルイがわたしを見詰めているのに、なんだかずるいと思う。
「……こうして文句も言えなくなるようなこと、困ります。気持ちのやり場がなくなるじゃない。聞きたいことあっても、言って欲しい言葉があっても聞けないの、大いに困ります」
言葉にしたら、具体的な想像が迫ってきて本当にわかってないとルイを睨みつけてしまった。
彼の髪が頬をくすぐり、ふっと目の前が翳るのに目を閉じて触れてきた唇を受ける。
深くなって、それでももっとといった気持ちが止められないのが悔しい。
真面目な話をしているのに。
「……ずるい……んっ」
「これでも、結構がんばったつもりですよ……」
ちゅっと、音を立てて吸いついて離れた口元が、完全には離れ切らないうちに言葉を紡ぐ。
「貴女を怒らせて口もきいてもらえないのは困りますから……きちんと話します……」
「本当……?」
「私は魔術師です……マリーベル」
後で存分に甘える、後より先がいいと囁かれて、後で時間切れは無しなんだからと言えば、勿論と苦笑しながら彼は答えた。
0
お気に入りに追加
1,575
あなたにおすすめの小説
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】
Lynx🐈⬛
恋愛
ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。
それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。
14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。
皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。
この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。
※Hシーンは終盤しかありません。
※この話は4部作で予定しています。
【私が欲しいのはこの皇子】
【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】
【放浪の花嫁】
本編は99話迄です。
番外編1話アリ。
※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。
【R18】愛され総受け女王は、20歳の誕生日に夫である美麗な年下国王に甘く淫らにお祝いされる
奏音 美都
恋愛
シャルール公国のプリンセス、アンジェリーナの公務の際に出会い、恋に落ちたソノワール公爵であったルノー。
両親を船の沈没事故で失い、突如女王として戴冠することになった間も、彼女を支え続けた。
それから幾つもの困難を乗り越え、ルノーはアンジェリーナと婚姻を結び、単なる女王の夫、王配ではなく、自らも執政に取り組む国王として戴冠した。
夫婦となって初めて迎えるアンジェリーナの誕生日。ルノーは彼女を喜ばせようと、画策する。
冷淡だった義兄に溺愛されて結婚するまでのお話
水瀬 立乃
恋愛
陽和(ひより)が16歳の時、シングルマザーの母親が玉の輿結婚をした。
相手の男性には陽和よりも6歳年上の兄・慶一(けいいち)と、3歳年下の妹・礼奈(れいな)がいた。
義理の兄妹との関係は良好だったが、事故で母親が他界すると2人に冷たく当たられるようになってしまう。
陽和は秘かに恋心を抱いていた慶一と関係を持つことになるが、彼は陽和に愛情がない様子で、彼女は叶わない初恋だと諦めていた。
しかしある日を境に素っ気なかった慶一の態度に変化が現れ始める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる