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第一部 婚約と攻防
09.夜の庭
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離宮の庭園のお隣にある邸宅の敷地は、一体、どこからが庭園で、敷地であるのかその境がよくわからない。陽の光の下で細かく見ればまた違っていて、手入れの行き届いている離宮の庭園との境が見分けがつくかもしれないけれど。
建物同様、庭も管理はされていたようで荒れた感じには見えなかった。
ところどころ植え込みが影の塊になっている。
濃紺のローブを着ている魔術師の姿は青く沈んだ夜の闇に溶け込むようだった。
夜空にかかっている月のように美しい銀色の髪が揺れる頭が闇に浮いて見えるから見失うことはなかったし、彼のことをあらためて伝説めいた魔術師だと思わせる、夜の風景の中の彼の姿だった。
「昔々の言い伝えのお話で、竜の血を飲んだ荒くれ男の話があるでしょう?」
「はい?」
唐突な魔術師の言葉に、彼の一歩後ろでわたしは頓狂な疑問符の声をあげる。
竜の血を飲んだ荒くれ男の話。
たしか――腕っ節の強い荒くれ男がその猛々しさを人々に知らしめようと、竜に挑み、猛毒と言われるその血を飲んだ。
荒くれ男は七夜毒の苦しみに耐えて生き延び、竜の力を手に入れてそれまで以上に暴れるようになり、とうとう捕らえられ兵隊の槍に串刺しにされて処刑された。
そんな話だったかしら。
「オドレイはその荒くれ男の子孫です」
「えっ、でもあれってただの……」
お話しじゃ、と言いかけたわたしに、言い伝えというからにはそれなりの話の元があるのですよと魔術師は言って、わたしを振り返った。
「人間だけの血筋ではない者は案外多く存在します。たしかこの先に東屋があったはずです、あまり外にいても冷えてしまいますからね」
たしかに、秋も深まりつつあって夜はもう冷える。
外出用の上着を羽織らないドレスだけでは少し肌寒く、ふるりと両腕を組んで身震いすると、わたしの背をその長い袖で包むように魔術師の手が肩に回されて、跳ね除けようか迷っている間に彼の隣に引き寄せられてしまった。
いつものような人を揶揄う気配もないので抵抗はせず、彼の話に耳を傾けることをひとまず優先させることにする。
オドレイさんのあの様子、とても辛そうで普通ではなかった。
「フォート家の使用人の大半はそういった者達です。血筋といっても遥か昔のご先祖様ですから、少々個性的な特徴を持つ程度で、ほとんどただの人と大差はありません」
「え、でも彼女のあの目は」
ただの人と大差ないとはとても言い難い。
わたしの考えを読み取ったように、魔術師は頷いた。
それにしても静かだ。
なんとなく静けさが恐ろしいように思えて、父は一人で大丈夫かしらと少し屋敷の建物を振り返った。いくつかの窓に明かりが灯っている。
玄関とはまた別の出入口から降りた庭側から、わたしの客間は死角になるはずで、魔術師の部屋の方向の明かりを除けば、もっとも庭に近い側の部屋に明かりが灯っているのがおそらくは父の客間なのだろう。客間へは魔術師が父を案内したはずだった。
「お父上なら流石に今日は疲れたと言って、すぐお休みになると仰っていましたよ」
「そう、ですか」
「さてオドレイの話に戻りますが、彼女の場合は少々古い血が濃く出ていて、いわゆる先祖返りといわれるもので、時折その血が彼女自身をああして食い破ろうとする。私はそれを抑える術を知っている。彼女は隣国との争いの際の拾い物でしてね」
「拾い物って……」
「そうとしか表現のしようがない。私が従えている竜というのは彼女のことです。それにまつわる話は訂正する気も削がれるほどに尾ひれがついて、もはや元の出来事の片鱗すらも留めていませんがね。人の噂話とはいい加減なものです」
わたしを睨むような目に、魔術師の彼に追いすがるようなあの表情を見れば、恋を知らないわたしでもわかる。きっと彼女は……。
とはいえ、わたしのような今日あったばかりの他人が、憶測で口を挟むことでもない。だから口を噤んだけれど、魔術師は察したようで、ええそうですよと言った。
「彼女は私が好きです。しかし応えることは出来ない。身分や血筋などとは関係なく彼女にとって私は主で、私にとっては彼女は従者である以外になにもない。ですから本人にもそうはっきりと伝えています。言ったでしょう、邪なものはないと」
「そんな……」
「残酷とでも? 彼女は私に仕えなければおそらく数年と保たないでしょうし、私としても彼女のような護衛として強力な者は必要です。強いて言うなら共生関係のようなものです」
きっぱりした口調にそれ以上なにも言えなかった。
言えるはずもない、わたしは彼女のことどころか、この人の事もよく知らない。
「貴女のその柔軟な賢さは嫌いじゃないですよ、マリーベル」
東屋は白い箱のような簡素な建物だった。
庭を楽しむためというよりは、庭の手入れのための休憩所といった雰囲気で、石造りの建物は室内も石で出来たテーブルと、壁にそってベンチのように腰掛ける場所が作られていた。
奥に小さな暖炉が備わっていて、彼はわたしにベンチの暖炉の側に腰掛けるよう促すと、手近な吹き込んで溜まったらしい枯れ草や、床に散らばっているたぶん薪として積まれていたと思われる木片を暖炉の中へ投げ入れて、うずくまり、枯れ草に手をかざした。
しばらくしてぼぅっと音がして、パチパチと音を立て赤く光る種火とゆるゆると立ち上る煙が暖炉の中に見えた。まるでさっき見た彼女の瞳のようだと、わたしはもうはっきりと火として燃え上がりつつある暖炉の中の火を見る。
暖炉から、熱を持った空気がじわじわと近づいてくるのを感じる。
「やっぱりわたし、あなたの妻になれません」
「おやどうしました突然」
「突然?」
本当にそう思っているのだろうかこの人は。
立ち上がってわたしに近づき、すぐ隣に座った魔術師にわたしは怒鳴り声を上げそうになったのをぐっと抑えて、言葉も飲み込んだ。
こんなお屋敷見せつけられて、おまけにオドレイさんみたいなあなたを側で想いながら仕えている方もいると知って、どうしてわたしがそう思わないでいられないなんて思うの?!
「フォート家が莫大な資産を持っているのは、別に私の責任ではありません。それに随分と同情的ですがオドレイに対する遠慮はまったく無用のものです。というより、ついさっき出会ったばかりで貴女にこんなに気遣われている彼女に少々嫉妬を覚えます」
顔だけをこちらに向けて、拗ねたようにそんなことを言う魔術師に呆れる。
暖炉から火の爆ぜる音がする。火の勢いを強めた種火が木片へと移ったのだろう。
肌寒くもなくなっていた。
「なんの嫉妬なのか意味不明です。それにやはりお家柄にふさわしい方を選んでください」
「お家柄にふさわしとは、例えば?」
「もっと素敵で身分の釣り合う教養豊かな美女は貴族のご令嬢にいくらでもいらっしゃるでしょう?! お相手だってあなたなら喜んでお受けすると思います」
「貴女、全然喜んでお受けしてくれないではないですか」
すかさず返してきた魔術師の言葉にうっ、と一瞬言葉に詰まりかけたけれど、いや毎回毎回この人の話術に丸めこまれてたまるものかと、わたしと貴族のご令嬢では事情が全然違いますとその旨彼に申し上げれば、ふむと彼は自分の顎先を摘んだ。
「しかし、この期に及んで貴女まだそんなこと仰るんですねぇ」
「当たり前です」
そう答えれば、やれやれ貴女はどうも婚姻に関してはその柔軟な賢さは働かないようだと魔術師は肩をすくめた。
「これはもう、この際はっきりと言葉にして聞かせるのがよさそうですね」
「な、なにを?」
「仮に、貴女の仰るような貴族の娘を娶って一体、私になんの益が?」
「は?」
「ですから貴女の仰るその、身分? 贅沢とお喋り以外にする事もなさそうな甘ったれた貴族の娘なんぞ一夜限りの閨の戯れならともかく、側において一体私にどんな益が? と聞いているんです」
「どんな益って……そりゃフォート家の」
家の力をますます高めることになるだろう。貴族の婚姻関係とはそういったものだ。
それにわたしのような平民に毛が生えたような娘より、フォート家の奥方として堂々と振る舞えるような女性のが、オドレイさんも仕えていて気が楽なような気もする。
要はわたしがフォート家に相応しいと納得できないから、彼女はその異議申し立ての思いも込めてわたしを睨んだのではないかしら。
「貴女わかっていませんねぇ。前にも言ったはずですよ、私は大抵の貴族より身分は上です。そもそも地位も名誉も財力も持て余す程持っていますからね、婚家のご威光など面倒なものは結構なんです」
「でもだからってっ、わたしでは開きが大きいって……わたしも前に言いましたっ」
「なんとかしましょうと答えたはずですが? おまけに言うに事欠いて、教養などと……はっ、森羅万象の理に通じ魔術を操る私を前に、そんなこと口に出来るご令嬢がこの世にいるというのならお目にかかってみたいものですよ」
完全に、高貴なるお嬢様方を馬鹿にしきっている。そりゃただ気位の高いばかりでこちらも呆れ返るほど愚かで鼻持ちならない方も、たしかにいらっしゃることはいらっしゃいますよ。
けれどそんな方々ばかりといったわけでは、むしろそんなご令嬢は少数派でお優しく、貴族の妻としての威厳を持ち良き母となるべくお勉強やお稽古事に励むいじらしい方が多数派です。
とはいえ、王宮で過ごす彼の様子を見ていて――なにかと付きまとってくださるので側で眺めることになる――なんとなくこの人、そういったことはどうでもよさそうと薄々感じてはいたけれど。
実はまだ結婚には至っていないからと、彼の前に、王宮にいらっしゃることは聞き及んでいましたがまさかこんなところでお会いできるなんてと、“偶然”お美しく磨き上げたお姿で現れ、完璧な淑女の礼節でもって御挨拶と会話をなさろうとするご令嬢を何人も見ている。
――心配しなくても、お嬢さん方が気の毒になるほどその手の社交に関しては冷淡でとりつくしまがない人だし、わたしも王様もあの人に関してはとっくに諦めているくらいなんだから。
いつだったか、王妃様が彼のことをそう説明した通りに、本当に側で見ていてこちらがひやひやするほどのとりつくしまのなさで……。
性格悪いに違いないと思っていたけれど、あからさまに嘲るような笑みを浮かべて言い放った魔術師の様子は、これまで胡散臭く甘ったるい態度でいた彼よりもずっとわたしには違和感のない納得のいくものだった。
ですよねあなたそういった方ですよね、なんとなくわかっていました。
わたしだって王妃様の第一侍女、伊達に丸二年、王宮で接する色々な方の表裏を見極めようと日々注意を払って過ごしてきたわけじゃない。
「貴女がお持ちの植物を育てることに関する技能や知識のが、まだ私を感嘆せしめます」
「お褒めいただき光栄ですけど、そういったこととは違います……それに貴族の結婚といったら……」
「ああ、念の為申し上げておきますが後継など必要があれば、必要な資質を備えた者を養子に迎えれば済むことです。もはや滅びかけた一族の末裔として後世に血を残す気もありませんしね。でも貴女が望むというのなら試みるのはやぶさかではありませんが」
にやりと、若干好色っ気を帯びた笑みを見せた魔術師に、その意味を悟ってぶんぶんと音が鳴りそうなほど強く首を横に振った。
なに言ってるのこの人、貴族には貴族の血筋でしょう? そういったものではないの?!
「貴女はどうも貴族に対して固定観念に縛られ過ぎです。少なくともフォート家はそれには当て嵌りません。もう諦めてはいかがです? 間も無く半ばが過ぎる頃ですし」
「嫌です」
「……他人には漏らすことはない家の内部の話まで包み隠さずお伝えしてまで、貴女に誠意を尽くしている私の気持ちなど考えもしないで拒絶の言葉ばかりを口にする」
先ほどまでの高慢ともいえる態度から一転、落胆を滲ませた声音で肩を落としてわたしから正面へと頭と目線を動かした魔術師に、えっとわたしは彼から背けていた顔を戻して瞬きした。
「これでも出来うる限りあなたを尊重して譲歩しているつもりですが? 言ったはずです気にそまぬならきっぱりと断ってくださいと。私を嫌いなわけではない、納得できないからなどと気を持たせることを言っているのはあなたですよ」
「えっと……」
あれ、どうしてこんな話に?
魔術師が落ち込んで、わたしが彼を弄んでいるみたいなことになっているの?
「たしかに私は人に褒められるような人格者ではありませんし、王や王妃が言うように変わり者かもしれませんが、貴女に嘘をついたことはありません」
おまけに東屋の開いただけの窓に、都合よく月の光が差してきて、憂いを帯びた眼差しがなにか思い詰めるように真っ直ぐに遠くを見ている、その麗しい横顔を照らす。
まるで物語絵のようだわと思ってしまったわたしに、彼は、自分にそんな表情をさせているは明らかにわたしだと自覚させるように、一瞬だけこちらを流し見て、その長いまつ毛を伏せて静かに深く息を吐き出した。
魔術師の息吐く音がやけに大きく耳に聞こえて、虫の鳴く音すらも聞こえない静けさが東屋に、庭全体に満ちる。
その気詰まりな雰囲気に、思わず膝に落として組んでいる手を見るようにわたしは俯いた。
「いや……その……、けど……」
「私は魔術師です。偽りの言葉を発する怖しさを誰よりも知っている……」
――マリーベル。
深く染み渡るような声がわたしの名を、そっと囁きかけるように紡いだ。
まるでわたしの名前がなにかの魔術の元にでもなりそうなそんな響きを持って、耳に届く。
同時に、頬に彼の手が触れて、思わず顔を上げる。
月の光を背に、逆光に暗くなった彼の顔が間近にわたしを見下ろしていた。
「婚約期間中の審議は両家の事情だけではない。当人同士のもっと現実的な相性も含まれる。それを盾にし、貴女にこうして触れてなんの支障もないことも当然貴女はわかっていますよね?」
「えっ……と……、ちょっ、ちょっと待って……っ」
「待つとは、なにを?」
青みがかった灰色の瞳でわたしの目を覗き込むようにして問いかけられて、わたしは彼への答えを考えて頭の中で像を結んだその考えに、顔が熱くなる。暖炉の熱じゃない。
たしかに結婚生活となれば相性は大事だ、それは気持ちのといったことではなくてむしろ婚姻後の目的の一つを考えるならば――。
いやでも、急にそんなことっ、待って待って、やだ――!
「っ……くくくくっ、ブッフフフフフ……ッ、本当にっ、可愛らしいというか、なんというかっハハハハッハハハハッげふっ、ぐふんっ、ふふふ……」
突然、喉を笑みに鳴らしたかと思えば、そのまま耐えられないとてもいった様子で声を上げて笑い出し、途中むせてまだなお笑い続けている魔術師に、はぁ? とわたしは知らぬ間に固く閉じてしまっていた目を開けて顔を顰めた。
「いや、すみません。私とてそう拒絶され通しだと愉快ではありませんからね。ちょっと意地悪のつもりだったんですがっフフフフ……あなたが、あまりに新鮮かつ可憐な反応を見せるものですから……くくくっ満足しました」
以前にも、笑いながらお茶にむせていたけれど。
どうも一度笑い出すとなかなか止まらない人らしい。
「って、満足っ!? 人を揶揄って満足ってなんですかっ!!」
「だから謝ったでしょう……ふふ、まあでもそのご様子なら望みはありそうです」
「なっ、どうしてそう思うわけ?!」
「本当に、本気で嫌なら、そんな目を閉じて真っ赤になったりしませんよ」
さっき部屋に怒って乗り込んできたのも、私とオドレイがただならぬ関係と誤解したからでしょう?
「大抵のものが望むまでもなく手に入る人生でしたから、奮闘するというのは面倒ながらなかなか楽しくもある」
「なんの話ですか……」
「ん、そうですね」
軽い音を立て、乾いた柔らかな感触が額に触れて離れる。
立ち上がった魔術師を、わたしはぱくぱくと口を閉じたり開いたりして見上げた。
いま、いまなにを……。
頭が真っ白に動転してしまって発するべき言葉が浮かんでこない。
「あなたは可愛らしいですねといった話です。おやすみ、マリーベル」
にっこりとそれはそれは美しい微笑みを見せて、わたしを庭に置き去りに、魔術師は屋敷へと戻っていった。
建物同様、庭も管理はされていたようで荒れた感じには見えなかった。
ところどころ植え込みが影の塊になっている。
濃紺のローブを着ている魔術師の姿は青く沈んだ夜の闇に溶け込むようだった。
夜空にかかっている月のように美しい銀色の髪が揺れる頭が闇に浮いて見えるから見失うことはなかったし、彼のことをあらためて伝説めいた魔術師だと思わせる、夜の風景の中の彼の姿だった。
「昔々の言い伝えのお話で、竜の血を飲んだ荒くれ男の話があるでしょう?」
「はい?」
唐突な魔術師の言葉に、彼の一歩後ろでわたしは頓狂な疑問符の声をあげる。
竜の血を飲んだ荒くれ男の話。
たしか――腕っ節の強い荒くれ男がその猛々しさを人々に知らしめようと、竜に挑み、猛毒と言われるその血を飲んだ。
荒くれ男は七夜毒の苦しみに耐えて生き延び、竜の力を手に入れてそれまで以上に暴れるようになり、とうとう捕らえられ兵隊の槍に串刺しにされて処刑された。
そんな話だったかしら。
「オドレイはその荒くれ男の子孫です」
「えっ、でもあれってただの……」
お話しじゃ、と言いかけたわたしに、言い伝えというからにはそれなりの話の元があるのですよと魔術師は言って、わたしを振り返った。
「人間だけの血筋ではない者は案外多く存在します。たしかこの先に東屋があったはずです、あまり外にいても冷えてしまいますからね」
たしかに、秋も深まりつつあって夜はもう冷える。
外出用の上着を羽織らないドレスだけでは少し肌寒く、ふるりと両腕を組んで身震いすると、わたしの背をその長い袖で包むように魔術師の手が肩に回されて、跳ね除けようか迷っている間に彼の隣に引き寄せられてしまった。
いつものような人を揶揄う気配もないので抵抗はせず、彼の話に耳を傾けることをひとまず優先させることにする。
オドレイさんのあの様子、とても辛そうで普通ではなかった。
「フォート家の使用人の大半はそういった者達です。血筋といっても遥か昔のご先祖様ですから、少々個性的な特徴を持つ程度で、ほとんどただの人と大差はありません」
「え、でも彼女のあの目は」
ただの人と大差ないとはとても言い難い。
わたしの考えを読み取ったように、魔術師は頷いた。
それにしても静かだ。
なんとなく静けさが恐ろしいように思えて、父は一人で大丈夫かしらと少し屋敷の建物を振り返った。いくつかの窓に明かりが灯っている。
玄関とはまた別の出入口から降りた庭側から、わたしの客間は死角になるはずで、魔術師の部屋の方向の明かりを除けば、もっとも庭に近い側の部屋に明かりが灯っているのがおそらくは父の客間なのだろう。客間へは魔術師が父を案内したはずだった。
「お父上なら流石に今日は疲れたと言って、すぐお休みになると仰っていましたよ」
「そう、ですか」
「さてオドレイの話に戻りますが、彼女の場合は少々古い血が濃く出ていて、いわゆる先祖返りといわれるもので、時折その血が彼女自身をああして食い破ろうとする。私はそれを抑える術を知っている。彼女は隣国との争いの際の拾い物でしてね」
「拾い物って……」
「そうとしか表現のしようがない。私が従えている竜というのは彼女のことです。それにまつわる話は訂正する気も削がれるほどに尾ひれがついて、もはや元の出来事の片鱗すらも留めていませんがね。人の噂話とはいい加減なものです」
わたしを睨むような目に、魔術師の彼に追いすがるようなあの表情を見れば、恋を知らないわたしでもわかる。きっと彼女は……。
とはいえ、わたしのような今日あったばかりの他人が、憶測で口を挟むことでもない。だから口を噤んだけれど、魔術師は察したようで、ええそうですよと言った。
「彼女は私が好きです。しかし応えることは出来ない。身分や血筋などとは関係なく彼女にとって私は主で、私にとっては彼女は従者である以外になにもない。ですから本人にもそうはっきりと伝えています。言ったでしょう、邪なものはないと」
「そんな……」
「残酷とでも? 彼女は私に仕えなければおそらく数年と保たないでしょうし、私としても彼女のような護衛として強力な者は必要です。強いて言うなら共生関係のようなものです」
きっぱりした口調にそれ以上なにも言えなかった。
言えるはずもない、わたしは彼女のことどころか、この人の事もよく知らない。
「貴女のその柔軟な賢さは嫌いじゃないですよ、マリーベル」
東屋は白い箱のような簡素な建物だった。
庭を楽しむためというよりは、庭の手入れのための休憩所といった雰囲気で、石造りの建物は室内も石で出来たテーブルと、壁にそってベンチのように腰掛ける場所が作られていた。
奥に小さな暖炉が備わっていて、彼はわたしにベンチの暖炉の側に腰掛けるよう促すと、手近な吹き込んで溜まったらしい枯れ草や、床に散らばっているたぶん薪として積まれていたと思われる木片を暖炉の中へ投げ入れて、うずくまり、枯れ草に手をかざした。
しばらくしてぼぅっと音がして、パチパチと音を立て赤く光る種火とゆるゆると立ち上る煙が暖炉の中に見えた。まるでさっき見た彼女の瞳のようだと、わたしはもうはっきりと火として燃え上がりつつある暖炉の中の火を見る。
暖炉から、熱を持った空気がじわじわと近づいてくるのを感じる。
「やっぱりわたし、あなたの妻になれません」
「おやどうしました突然」
「突然?」
本当にそう思っているのだろうかこの人は。
立ち上がってわたしに近づき、すぐ隣に座った魔術師にわたしは怒鳴り声を上げそうになったのをぐっと抑えて、言葉も飲み込んだ。
こんなお屋敷見せつけられて、おまけにオドレイさんみたいなあなたを側で想いながら仕えている方もいると知って、どうしてわたしがそう思わないでいられないなんて思うの?!
「フォート家が莫大な資産を持っているのは、別に私の責任ではありません。それに随分と同情的ですがオドレイに対する遠慮はまったく無用のものです。というより、ついさっき出会ったばかりで貴女にこんなに気遣われている彼女に少々嫉妬を覚えます」
顔だけをこちらに向けて、拗ねたようにそんなことを言う魔術師に呆れる。
暖炉から火の爆ぜる音がする。火の勢いを強めた種火が木片へと移ったのだろう。
肌寒くもなくなっていた。
「なんの嫉妬なのか意味不明です。それにやはりお家柄にふさわしい方を選んでください」
「お家柄にふさわしとは、例えば?」
「もっと素敵で身分の釣り合う教養豊かな美女は貴族のご令嬢にいくらでもいらっしゃるでしょう?! お相手だってあなたなら喜んでお受けすると思います」
「貴女、全然喜んでお受けしてくれないではないですか」
すかさず返してきた魔術師の言葉にうっ、と一瞬言葉に詰まりかけたけれど、いや毎回毎回この人の話術に丸めこまれてたまるものかと、わたしと貴族のご令嬢では事情が全然違いますとその旨彼に申し上げれば、ふむと彼は自分の顎先を摘んだ。
「しかし、この期に及んで貴女まだそんなこと仰るんですねぇ」
「当たり前です」
そう答えれば、やれやれ貴女はどうも婚姻に関してはその柔軟な賢さは働かないようだと魔術師は肩をすくめた。
「これはもう、この際はっきりと言葉にして聞かせるのがよさそうですね」
「な、なにを?」
「仮に、貴女の仰るような貴族の娘を娶って一体、私になんの益が?」
「は?」
「ですから貴女の仰るその、身分? 贅沢とお喋り以外にする事もなさそうな甘ったれた貴族の娘なんぞ一夜限りの閨の戯れならともかく、側において一体私にどんな益が? と聞いているんです」
「どんな益って……そりゃフォート家の」
家の力をますます高めることになるだろう。貴族の婚姻関係とはそういったものだ。
それにわたしのような平民に毛が生えたような娘より、フォート家の奥方として堂々と振る舞えるような女性のが、オドレイさんも仕えていて気が楽なような気もする。
要はわたしがフォート家に相応しいと納得できないから、彼女はその異議申し立ての思いも込めてわたしを睨んだのではないかしら。
「貴女わかっていませんねぇ。前にも言ったはずですよ、私は大抵の貴族より身分は上です。そもそも地位も名誉も財力も持て余す程持っていますからね、婚家のご威光など面倒なものは結構なんです」
「でもだからってっ、わたしでは開きが大きいって……わたしも前に言いましたっ」
「なんとかしましょうと答えたはずですが? おまけに言うに事欠いて、教養などと……はっ、森羅万象の理に通じ魔術を操る私を前に、そんなこと口に出来るご令嬢がこの世にいるというのならお目にかかってみたいものですよ」
完全に、高貴なるお嬢様方を馬鹿にしきっている。そりゃただ気位の高いばかりでこちらも呆れ返るほど愚かで鼻持ちならない方も、たしかにいらっしゃることはいらっしゃいますよ。
けれどそんな方々ばかりといったわけでは、むしろそんなご令嬢は少数派でお優しく、貴族の妻としての威厳を持ち良き母となるべくお勉強やお稽古事に励むいじらしい方が多数派です。
とはいえ、王宮で過ごす彼の様子を見ていて――なにかと付きまとってくださるので側で眺めることになる――なんとなくこの人、そういったことはどうでもよさそうと薄々感じてはいたけれど。
実はまだ結婚には至っていないからと、彼の前に、王宮にいらっしゃることは聞き及んでいましたがまさかこんなところでお会いできるなんてと、“偶然”お美しく磨き上げたお姿で現れ、完璧な淑女の礼節でもって御挨拶と会話をなさろうとするご令嬢を何人も見ている。
――心配しなくても、お嬢さん方が気の毒になるほどその手の社交に関しては冷淡でとりつくしまがない人だし、わたしも王様もあの人に関してはとっくに諦めているくらいなんだから。
いつだったか、王妃様が彼のことをそう説明した通りに、本当に側で見ていてこちらがひやひやするほどのとりつくしまのなさで……。
性格悪いに違いないと思っていたけれど、あからさまに嘲るような笑みを浮かべて言い放った魔術師の様子は、これまで胡散臭く甘ったるい態度でいた彼よりもずっとわたしには違和感のない納得のいくものだった。
ですよねあなたそういった方ですよね、なんとなくわかっていました。
わたしだって王妃様の第一侍女、伊達に丸二年、王宮で接する色々な方の表裏を見極めようと日々注意を払って過ごしてきたわけじゃない。
「貴女がお持ちの植物を育てることに関する技能や知識のが、まだ私を感嘆せしめます」
「お褒めいただき光栄ですけど、そういったこととは違います……それに貴族の結婚といったら……」
「ああ、念の為申し上げておきますが後継など必要があれば、必要な資質を備えた者を養子に迎えれば済むことです。もはや滅びかけた一族の末裔として後世に血を残す気もありませんしね。でも貴女が望むというのなら試みるのはやぶさかではありませんが」
にやりと、若干好色っ気を帯びた笑みを見せた魔術師に、その意味を悟ってぶんぶんと音が鳴りそうなほど強く首を横に振った。
なに言ってるのこの人、貴族には貴族の血筋でしょう? そういったものではないの?!
「貴女はどうも貴族に対して固定観念に縛られ過ぎです。少なくともフォート家はそれには当て嵌りません。もう諦めてはいかがです? 間も無く半ばが過ぎる頃ですし」
「嫌です」
「……他人には漏らすことはない家の内部の話まで包み隠さずお伝えしてまで、貴女に誠意を尽くしている私の気持ちなど考えもしないで拒絶の言葉ばかりを口にする」
先ほどまでの高慢ともいえる態度から一転、落胆を滲ませた声音で肩を落としてわたしから正面へと頭と目線を動かした魔術師に、えっとわたしは彼から背けていた顔を戻して瞬きした。
「これでも出来うる限りあなたを尊重して譲歩しているつもりですが? 言ったはずです気にそまぬならきっぱりと断ってくださいと。私を嫌いなわけではない、納得できないからなどと気を持たせることを言っているのはあなたですよ」
「えっと……」
あれ、どうしてこんな話に?
魔術師が落ち込んで、わたしが彼を弄んでいるみたいなことになっているの?
「たしかに私は人に褒められるような人格者ではありませんし、王や王妃が言うように変わり者かもしれませんが、貴女に嘘をついたことはありません」
おまけに東屋の開いただけの窓に、都合よく月の光が差してきて、憂いを帯びた眼差しがなにか思い詰めるように真っ直ぐに遠くを見ている、その麗しい横顔を照らす。
まるで物語絵のようだわと思ってしまったわたしに、彼は、自分にそんな表情をさせているは明らかにわたしだと自覚させるように、一瞬だけこちらを流し見て、その長いまつ毛を伏せて静かに深く息を吐き出した。
魔術師の息吐く音がやけに大きく耳に聞こえて、虫の鳴く音すらも聞こえない静けさが東屋に、庭全体に満ちる。
その気詰まりな雰囲気に、思わず膝に落として組んでいる手を見るようにわたしは俯いた。
「いや……その……、けど……」
「私は魔術師です。偽りの言葉を発する怖しさを誰よりも知っている……」
――マリーベル。
深く染み渡るような声がわたしの名を、そっと囁きかけるように紡いだ。
まるでわたしの名前がなにかの魔術の元にでもなりそうなそんな響きを持って、耳に届く。
同時に、頬に彼の手が触れて、思わず顔を上げる。
月の光を背に、逆光に暗くなった彼の顔が間近にわたしを見下ろしていた。
「婚約期間中の審議は両家の事情だけではない。当人同士のもっと現実的な相性も含まれる。それを盾にし、貴女にこうして触れてなんの支障もないことも当然貴女はわかっていますよね?」
「えっ……と……、ちょっ、ちょっと待って……っ」
「待つとは、なにを?」
青みがかった灰色の瞳でわたしの目を覗き込むようにして問いかけられて、わたしは彼への答えを考えて頭の中で像を結んだその考えに、顔が熱くなる。暖炉の熱じゃない。
たしかに結婚生活となれば相性は大事だ、それは気持ちのといったことではなくてむしろ婚姻後の目的の一つを考えるならば――。
いやでも、急にそんなことっ、待って待って、やだ――!
「っ……くくくくっ、ブッフフフフフ……ッ、本当にっ、可愛らしいというか、なんというかっハハハハッハハハハッげふっ、ぐふんっ、ふふふ……」
突然、喉を笑みに鳴らしたかと思えば、そのまま耐えられないとてもいった様子で声を上げて笑い出し、途中むせてまだなお笑い続けている魔術師に、はぁ? とわたしは知らぬ間に固く閉じてしまっていた目を開けて顔を顰めた。
「いや、すみません。私とてそう拒絶され通しだと愉快ではありませんからね。ちょっと意地悪のつもりだったんですがっフフフフ……あなたが、あまりに新鮮かつ可憐な反応を見せるものですから……くくくっ満足しました」
以前にも、笑いながらお茶にむせていたけれど。
どうも一度笑い出すとなかなか止まらない人らしい。
「って、満足っ!? 人を揶揄って満足ってなんですかっ!!」
「だから謝ったでしょう……ふふ、まあでもそのご様子なら望みはありそうです」
「なっ、どうしてそう思うわけ?!」
「本当に、本気で嫌なら、そんな目を閉じて真っ赤になったりしませんよ」
さっき部屋に怒って乗り込んできたのも、私とオドレイがただならぬ関係と誤解したからでしょう?
「大抵のものが望むまでもなく手に入る人生でしたから、奮闘するというのは面倒ながらなかなか楽しくもある」
「なんの話ですか……」
「ん、そうですね」
軽い音を立て、乾いた柔らかな感触が額に触れて離れる。
立ち上がった魔術師を、わたしはぱくぱくと口を閉じたり開いたりして見上げた。
いま、いまなにを……。
頭が真っ白に動転してしまって発するべき言葉が浮かんでこない。
「あなたは可愛らしいですねといった話です。おやすみ、マリーベル」
にっこりとそれはそれは美しい微笑みを見せて、わたしを庭に置き去りに、魔術師は屋敷へと戻っていった。
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