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2024年7月

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2024年7月
 大学生2年目の夏が到来した。今年の夏は特に暑かった。気象庁は平年以上の暑さと報じており、外出するたびにその言葉を実感せずにはいられなかった。
 去年から続いている近藤との外出は夏の到来とともにめっきり減り、一方で茗は一人で過ごすことが増えた。
 2025年の都市伝説は能登地震を境に広まり、最近ではかなり有名な話になったように思う。たつきりょうさん以外にも7月5日の大災難を予言するものが注目されはじめ、茗は再びよく調べるようになった。隕石が落ちるかも、隕石落下が引き金となって災害が引き起こされるかもなど様々な話が飛び交い、憶測もふえ、果ては胎内記憶を持つ子どもたちの話、と都市伝説は大きくなっていた。
 「なんであんなの信じていたんだろうな?」
 6月に近藤に会った際、彼は言っていた。あんなの、とは2025年7月5日の大災難の都市伝説のことだ。
 「隕石なんて落ちるわけないし、もうすでに能登に地震来たんだから、もう来ないよ。それにここまで広まったら集団的潜在意識が働いくから、何も来ないよ」
近藤は高校の時ほど都市伝説を信じなくなっていた。反対に信じはじめていた茗は、近藤の考えの変わりように動揺を隠せずにいた。
 同様にユヅも話を逸らすようになった。「茗が信じることを否定する気はないけど、あんまり信じすぎるのも良くないよ。なんか煽ってるみたい…。盲目的に信じるってよくないと思うな。茗はそう言うところがあるよね」
 心外だった。昨日まで話を聞いてくれていた人が突然耳を貸さなくなったように感じた。
それから間も無くだった、近藤とユヅが付き合いはじめたと聞いたのは。
「私近藤が気になっているってユヅに相談したのにな」
他人の気持ちに干渉することは不可能だ。しかし、茗にとって一番不可解だったのはその結末になってしまった過程だった。起こってしまったことよりも、そこに通じるまでのルートに疑問を抱いた茗だった。
近藤とユヅの話を聞いたのは、弓瀬華蓮という名の高校生の時の同級生だった。彼女は茗のことを麻倉ちゃんと呼んだ。近藤の代わりによく会うようになったのは弓瀬華蓮だった。
 「久しぶり~麻倉ちゃん。在学中はそんなに喋んなかったよね。茗って呼ぶから、アタシのことは蓮って呼んで。今なに思ったかわかるよ~。蓮って男の子の名前みたいだよね。でもあだ名としては気に入っているの。彼氏とか大学の友達が蓮って呼んでくれるのが結構ツボでさ、だから蓮って呼んでね」
 彼女のファーストインプレッションならぬセカンドインプレッションは“おしゃべり大学生”だった。彼女はよく話すし、気が利く。移動中に話しながら360度目がついているように行動する人だった。
 一度、彼女から顆粒型の葛根湯を渡されたことがある。「風邪ひきそうなんじゃない?これ飲んで」といって無理やり渡されたのだ。茗の人生には今までいなかったタイプだった。
 「アタシはね、近藤と茗が付き合っていると思っていたんだ。ほら、近藤よくインスタあげていたじゃん?茗とのツーショ。高校生カップル爆誕かーと思ったんだけどね」
 蓮のしゃべり方はまるで現代の若者、という感じだった。
 「どこで知ったの?近藤とユヅが付き合いはじめた話」
 「佐藤ちゃんから聞いた。佐藤ちゃんと同じ大学に木村がいて、木村は野球部繋がりで近藤とよく会っていたんだって。その経由で聞いたんだ。もうびっくりだった」
 「結構高校の時の同級生と会ってるんだね」
 「実を言うとね、アタシ茗と話してみたかったんだ。在学している時から…。茗って高校生とは思えないミステリアスさがあって、なーんか話してみたかったんだよね。雰囲気っていうの?雰囲気がなんか気になってたんだ」
 蓮と一緒にいるのは想像以上に楽しかった。人見知りが激しい茗は昔の知り合いと久しぶりに会うのさえ苦手だったが、その気持ちを完全に払拭してしまえるくらい蓮と茗は意気投合した。
 蓮も茗と同様、写真を撮るのが好きだった。ただ違うのは、茗は自身の目に映るものを起こしておくために取っていたが、蓮は彼女の思い出を残すために撮っていた。
 「共有アルバム作るから、メアド教えて~」
 そう言って蓮が作った共有アルバムの名前は『草かんむりっ子』となっていた。
 「私たちの名前、草かんむりつくじゃん?はまっ子みたいにしてみた」
 もう一度言おう。弓瀬華蓮は茗の人生には今までいなかったタイプだった。アイディアが面白い、というか茗が見ない部分までよく見ているのだ。視野が広く、本当に同い年か疑ってしまう人物。この人と一緒にいたら、新しい何かに会えるかもしれない、茗にとって蓮はそう思える存在になった。

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