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2023年8月

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2023年 8月

 マスクは任意となってから半年、東京は再び暑い夏をむかえていた。無事に学生となることができた茗は初めての大学生活というものを満喫している。
 大きなカフェの中、暑さを軽減するためにユヅと茗はフラペチーノを飲んでいた。まだ朝の10時過ぎで、フラペチーノには早い時間だったのかカフェはかなり空いていた。涼しい冷房の風がノースリーブワンピースの二の腕に当たって涼しかった。
 「順調?最近は」前髪を鏡を見て直しながらユヅが茗に聞いた。
 「おかげさまで楽しく大学生やってる」
 ふたりはある程度までフラペチーノを飲むと交換する。茗が飲むのはチョコレート系のフラペチーノで、ユヅは抹茶系だ。滅多なことがない限り、ふたりはこれ以外のチョイスをしたことがない。
 「よかったよね、茗」ユヅが言う。「受験日前に電話した時はやばかった…」ユヅがニコニコしている。「高校生の時の茗が復活して安心したよ」
 「その節はお世話になりました」茗は勿体つけて敬語で返した。
 「この後は?予定あるの?」
 ユヅの質問に、茗は新しく買ったカメラを差し出して言った。
 「東京スカイツリーに行くの」
 「お!新しいカメラ!なんで?」ユヅは無造作に茗のカメラを操作しはじめた。かっこいい~と感嘆の声も漏らしている。
 「都市伝説あったでしょ?あれ聞いて思ったんだよね。今の景色が明日、来年、10年後20年後同じとは限らないって。だからカメラで撮っておきたいなって思ったんだよ。二十歳の時見ていたものはこんな景色でした、って」
 「良いじゃん。1人で行くの?」
 「ううん、近藤と一緒」
 「まじ?」
 「まじ」
 ユヅは目をまん丸にして茗のフラペチーノを飲み干した。
 「あ、ごめん。間違えた」

***

 「今日はありがとう」
 茗がいうと近藤は照れたように笑って、また行こうなと言ってくれた。

 それから定期的にふたりは会うようになった。デートとは言えないが、楽しく出掛けられる友人が増えたのは、茗にとってとても嬉しいことだった。会えば必ずと言って良いほど都市伝説の話で盛り上がり、次第に話題は日常的な話に移って行った。なにが好き?やこの間あったこと、経験談や大学の授業内容の話だけで1日が潰れた。
 『自分は生き残れる自信があるよ。2年後の7月5日』
 近藤はふと言った。何があっても乗り越えてやるっていう意気込みが必要な時もあるんだ、と彼は言った。

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