死にたがり(愛されたがり)の悪役令息

たまも。

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フォンルージュ家編

60-歪んだ兄弟

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久々の父上との食事、黙々とラルクと食事をとる。カタカタとナイフとフォークで食事をする静かな音だけ、この食卓に響いていた。


「あの女が珍しくもうここを離れると言ってきた」


僕から逃げたのか。…何だか呆気なさすぎる。ああいう奴は自分に反抗する者が現れ、窮地に立たされたと思うと周りを巻き込んで何かしら嫌がらせをしてくると思ってた。

いくら僕が脅したとはいえ、こんなにあっさりいなくなるもんかな。自分がままで?


…まあ、とりあえずいいや。今は何もしてこないようだから。僕も相手したくないし。良かった。


「何かあの女に言ったか?」


父上が珍しく僕とラルクの方を真っ直ぐ見据える。
普段僕たちに視線すら寄越さないのに、珍しいね。父上。

ナイフとフォークを置き、ナプキンで口元を少し拭いてから答える。


「いいえ、何も」


僕も真っ直ぐ父上の目を見て答える。やましい事など何も無いと言う意思表示のためだ。

僕の目を探る様に見た後、興味を失ったかのように視線を逸らし、また父上はナイフを動かし始める。


「…まあいいだろう。あの面倒な女が自分からいなくなると言うのだからな。手間が省けてむしろ良かったと言うべきか」


「……」


何もない。なんの感情もない。淡々とした会話。早く終わればいいのに。何も意味など無いのだから。

そう願っていると、父上はもう食べ終わったのか、席を立って食卓を離れる。


「くれぐれも面倒な事はするなよ」


今更何を言っているんだこの男は。

勝手にあんな奴と結婚してルークを作って、ラルクを引き取って、あいつの相手をさせて、面倒な事ってなに。

冷めた目で部屋を出て行く父上の後ろ姿を見る。


そんなに面倒事が嫌いなら子どもなんてつくるなよ。
まともに面倒も見たくないなら産むな。

勝手だよ。何もかも。


「兄上」


暗い顔をしていたのに気付いたのだろうか。何かを察したラルクが隣から話しかけてくる。

席を立ち、座ってる僕の横に来る。
何だと思って不思議にラルクを見上げる僕の顔を両手で優しく挟み込み、少し屈んで座ってる僕に唇を重ねてくる。

最初は啄むようなキス。

ペロっと下唇を少し舐められて、僕が口を少し開けると口の中に舌が入り込んでくる。


「ふっ……は…くちゅ……んん…ン……」


使用人が部屋のドアの前に立ってようがお構いなし。僕たちは自分たちの世界に入ったかのように夢中になってお互いの舌を絡める。虚しい気持ちを見ないようにするように、慰め合うように。


ラルクが僕の左耳たぶについてるピアスをスリっと触る。

ラルクがこの間僕に渡してきたもの。

ラピスラズリのような青い石が付いたピアス。


穴を空けられた時はヒリヒリして痛かったけど、今は少し慣れてきて痛みよりも擽ったさが勝つ。

ピアスの周りをなぞるように触られて、耳の穴と後ろを軽く擦る。

擦られる音と刺激にゾクゾクと快感が走り、背中がしなる。



僕たちは何もやっているんだろう。

血縁が親子より遠いとはいえ兄弟なのに。

男同士なのに。

歪んだ関係。歪んだ呪い



ちゅっと音を立ててラルクの舌が僕の口から出ていく。


僕の耳の横の髪を撫でながら、うっとりとした顔で僕を見つめて恍惚とした表情でラルクが口を開く。



「大好きだよ。兄上。

俺だけは兄上の味方だよ。


あいしてる」



青い濃い空の色のような瞳が僕を捕えているようで捕らえていない。

僕じゃない誰かを見ている。

僕じゃない誰かに言ってる。



ひどいな。ほんとうに、ひどいや。


ぼくも、ラルクも。


僕たちはもう頭がおかしくなっているんだ。



本当に、どうしようもないや。


今度は僕からラルクの口に軽く口ずける。




顔を赤くしたラルクが幸せそうに笑った。
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