60 / 79
フォンルージュ家編
57-わからずや
しおりを挟む喉…乾いた…
失っていた意識が浮上する。
目を開けると見覚えがある天井が見える。
僕の部屋だ。僕は今自分の部屋で寝ているのか。
長い間眠ったように頭はスッキリしていた。
寝起きでぼーー…としていると部屋の扉が開く。
タオルとバケツを持ったラルクが起きている僕を見つけた瞬間、心底安心したような、泣きそうな顔で僕を見る。
どうやら僕の看病をしてくれていたみたいだ。僕が起きたから横に落ちてしまっているが、水に濡れたタオルが枕横に落ちていた。
「あにうえ…ッ、」
タッタッタッ…ぼふんっ!
「グェッッ!」
ラルクが生きているという安心もつかの間、バケツとタオルを床に置き、走ってベットにいる僕に体当たりかの如くラルクが抱きついてきた。
重い、乗っかるな、痛いと抗議しようと思ったが、肩に暖かい雫が落ちる感覚がして、やめた。
「ッ良かったぁ…!も…起きないと、おもって…ッ」
ラルクが僕を抱きしめながら泣いている。
抱きしめ返そうと手で背中を掴もうとするが、前に襲ってしまった時の、僕に怯えたラルクを思い出して、手を下に降ろした。
「…手大丈夫なの?」
グスグスと僕の肩で泣くラルクに問いかける。
僕が母上を屠ろうとしたのを防いだ手。
僕が傷つけてしまった手。
「…なんでとめたんだよ…」
自然と毀れてしまった疑問に泣いていたラルクがピクッと反応する。
僕の肩に手を置き、抱き締めていた身体を引き剥がす。右肩に置かれた手には包帯が巻いてあった。
僕が刺したところだ。
そのまま僕を真っ直ぐ見つめ、目を赤くしたまま真剣な顔で僕を見据える。
「止めなかったら兄上が人殺しになってた。それがどういう事か分からないんですか」
「…なってもよかったのに」
「っ…なんだよそれ…あんな奴でも殺せば処刑されるんだぞ!
しかも、あんな…魔法まで晒して……おれのせいですか。俺がいたから?
おれ、あにうえが、辛くなるくらいなら、いくらでもあんなの我慢したのに…
あんな危ないことしなくたって…父上にバレたらきっと、」
ラルクの為なんかじゃない。僕が耐えれなかったんだ。穏便に済ませた方が、我慢した方が良かったのは分かってる。
でももう、耐えれなかった。前世の分まで蓄積されてるのに、ルークの分も追加されたら断罪される前に潰されてしまう。
だからやった。ラルクの為とか、そんな良い奴じゃない。僕は卑怯で弱いクソみたいな人間だから。
「…何勘違いしてんの、ラルク。
僕はただ死にたかっただけ。誰の為でもなく自分のため。
あいつらを脅したのもただ気に食わなかったから。
バレて処刑されるなら、殺してくれるなら本望だよ。父上のせいで自分だけでは死ねないからね」
ラルクが信じられないものを見るかのような顔で僕を見る。
…僕に何を期待してるの。僕はラルクが思うような聖母でも何でもない。
ただ死にたいだけのクソ野郎だ。
だから君を襲った。刺した。傷つけた。
ラルクがジュエルと同じ道を辿ると思って助けただけじゃない。
僕は綺麗な人間じゃないから。
醜くて汚くて気持ち悪くて、それが僕だから。
「…そんなにいなくなりたいんですね。
おれを置いていきたいんだ。母様みたいに、おれの前から勝手に消えるんだ」
ハイライトをなくした瞳が揺れている。
きっとラルクの地雷に触れている。
でも今更、ルークを演じきれてる訳でもないし、どうでもいいか。
もう何もかもどうでも…
もう疲れた…。
「…俺が甘かったんだ。おれが思ってる以上に兄上は、何も分かってなかったんだな」
ラルクはふらりと幽霊みたいな足取りで、ベットから降りて棚から木製の箱を出して、蓋を開ける。
中には色とりどりの前世で言う『大人の玩具』が沢山入っていた。
「おれが馬鹿な兄上を躾直す。死にたいなんて思えないように。自分がした事後悔するまで、教えてやる」
85
お気に入りに追加
288
あなたにおすすめの小説
変なαとΩに両脇を包囲されたβが、色々奪われながら頑張る話
ベポ田
BL
ヒトの性別が、雄と雌、さらにα、β、Ωの三種類のバース性に分類される世界。総人口の僅か5%しか存在しないαとΩは、フェロモンの分泌器官・受容体の発達度合いで、さらにI型、II型、Ⅲ型に分類される。
βである主人公・九条博人の通う私立帝高校高校は、αやΩ、さらにI型、II型が多く所属する伝統ある名門校だった。
そんな魔境のなかで、変なI型αとII型Ωに理不尽に執着されては、色々な物を奪われ、手に入れながら頑張る不憫なβの話。
イベントにて頒布予定の合同誌サンプルです。
3部構成のうち、1部まで公開予定です。
イラストは、漫画・イラスト担当のいぽいぽさんが描いたものです。
最新はTwitterに掲載しています。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
ヤンデレ化していた幼稚園ぶりの友人に食べられました
ミルク珈琲
BL
幼稚園の頃ずっと後ろを着いてきて、泣き虫だった男の子がいた。
「優ちゃんは絶対に僕のものにする♡」
ストーリーを分かりやすくするために少しだけ変更させて頂きましたm(_ _)m
・洸sideも投稿させて頂く予定です
転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!
めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。
ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。
兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。
義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!?
このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。
※タイトル変更(2024/11/27)
買われた悪役令息は攻略対象に異常なくらい愛でられてます
瑳来
BL
元は純日本人の俺は不慮な事故にあい死んでしまった。そんな俺の第2の人生は死ぬ前に姉がやっていた乙女ゲームの悪役令息だった。悪役令息の役割を全うしていた俺はついに天罰がくらい捕らえられて人身売買のオークションに出品されていた。
そこで俺を落札したのは俺を破滅へと追い込んだ王家の第1王子でありゲームの攻略対象だった。
そんな落ちぶれた俺と俺を買った何考えてるかわかんない王子との生活がはじまった。
普通の男の子がヤンデレや変態に愛されるだけの短編集、はじめました。
山田ハメ太郎
BL
タイトル通りです。
お話ごとに章分けしており、ひとつの章が大体1万文字以下のショート詰め合わせです。
サクッと読めますので、お好きなお話からどうぞ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる