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第1章 最強の父と最愛の娘 編
第3話 父、ギルドへ行く
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「これで良し。父とのお約束、守れるかな?」
「あいっ♡ おやくそくなのだ!」
出掛ける前、ラディオが玄関先で娘に問い掛ける。
すると、元気良く手を上げながら、しっかりと返事をしたグレナダ。
いつもの様に頭を撫でて褒めてやると、フニャリと幸せ一杯の笑顔を見せる。
「くまさんっ♡」
背中に縞模様の入った黄色い着ぐるみ―顔部分が途轍もなく不細工だが―を身に纏い、ご機嫌に尻尾をフリフリする娘。
顔部分の耳を触りながら熊だと信じて疑わず、嬉しそうにしているのだが――
「……猫ちゃんだよ」
「ねこちゃんっ!?」
中年の切ない声が、青空に吹き抜けて行く。
その横では、目を見開き、『やっちまった!!』という顔で固まってしまったグレナダ。
分かっている……自分に可愛い物を作る才能が無い事ぐらい。
「……ちち?」
静かに微笑みながら、遠~くの方を見つめていたラディオは、娘に呼ばれハッと我に返った。
「これは……ふむ」
少しの心配を宿す紅玉の瞳。
ちちのズボンをギュッと掴み、上目遣いで此方を見上げる小さな姿……何と愛らしいのだろう。
最早、フードが如何に不細工であろうと問題無い。
娘には、それを補って余りある魅力があるのだから。
自己完結した中年は微笑みを浮かべ、待っている娘に手を差し出した。
「ごめんよ、待たせてしまったね。行こうか」
「あいっ♡」
とびきりの笑顔を咲かせ、即座に手を握り締めたグレナダ。
頭をフリフリ、尻尾をフリフリ、とても上機嫌である。
そんな娘をデレデレ見つめながら、ラディオはふと考えた。
(髭は良いとして、髪はもう少しか)
実は、短く綺麗に整えてあった髪を、ラディオはこの1ヶ月伸ばしっぱなしにしている。
目的は、少しでも人相を分かりづらくする為。
だが、まだまだ短いと言わざる負えない。
目元が隠れるぐらいまでは……前髪を摘みながらそんな事を考えていると、下から呼ぶ声が聞こえて来た。
「ちーちっ♡」
「うん?」
すると、グレナダは瞳をキラキラと輝かせ、ラディオの足に抱き付く。
そして、幸せ一杯にこう答えたのだ。
「だいすきなのだぁ♡」
「……父も大好きだよ」
英雄を育て上げた、世界最強の力を持つラディオ。
だが、3歳に満たない娘の不意の攻撃には成す術が無い。
原型を留めない程に、しまりの無い顔になってしまっているのだから。
2人同じ顔でデレデレしながら、娘の歩幅に合わせてゆっくりと、親子は街道を歩いていく。
▽▼▽
下段中央・『城門前』――
(いつ見ても、見事な造りだ)
ランサリオンに到着したラディオは、都市の外観を見上げながら、感心した様に頷いた。
聳える2つの見張り台に守られた、高さ凡そ50m程の堅牢な門。
其処から、ぐるりと都市を囲む様に設けられた城壁。
そう、ランサリオンは所謂『城郭都市』である。
だが、通称はその特異性に則って付けられていた。
その名は『迷宮都市』。
世界で唯一、迷宮の上に造られた都市という意味である。
更には、住民の多様性も他に類を見ない。
人口は約6万人であり、大国に比べればやはり一都市に過ぎない。
だが、様々な種族が混在しながら共生する為に、大国にも引けを取らない生活基盤が築かれていた。
三日月型に都市が形成されるランサリオンは、元々の地形の起伏を利用して、3つの階層に分けられている。
それらは、下段・中段・上段と呼ばれ、其々に特色を有していた。
先ず、城門から向かって右手に入ると、食品、雑貨、日用品や工芸品、武器防具からペットに至るまで、多種多様な商店が乱雑に立ち並ぶ『バザール』へ通じている。
一方、左手に入ると酒場や飲食店、宿屋等が密集した『宿場街』がお目見えだ。
三日月の両端に向かう程、主に住民や下位ランク冒険者の居住スペースとなる。
加えて、城門から直進すると見えてくる『大広場』までを、『下段』と呼んでいる。
次に、下段区画の上が『中段』となっている。
城門から向かって右手には『教会』が、左手には『娼館街』が、それぞれ区画分けされていた。
更にその上には、有名な冒険者チームの拠点ホームが多く立ち並ぶ『上段』がある。
それだけで無く、高級な品々を扱う商店や、貴族等の有力者御用達の五ツ星ホテル等が建ち並んでいる事も、上段の特色の1つとなっている。
三段の間に通行制限等は存在せず、住民達は気ままに往来している。
どんな種族でも分け隔てなく、『自由』に生きるランサリオン。
だからこそ、ラディオは此処を選んだのだ。
最愛の娘が、安心して暮らせる様にと。
番兵に挨拶をしつつ城門をくぐった親子は、いつものバザールでは無く、『大広場』の更に先を目指して歩き出す。
何故なら、今日の目的は冒険者登録。
父として、娘の為にも何時までも無職では居られない。
その意気込みを見せつける様に、しっかりと前方に向かって――
「ちちぃ! あっちがいいのだぁ~!」
「先に父の用事を済ませてからでも良いかい? その後で、お菓子を買いに行こうね」
……歩けなかった。
お気に入りの焼き菓子店の匂いにつられたグレナダが、ジリジリと右側に寄って行ってしまうのだ。
なんとか娘を宥めながら、ラディオもジリジリと歩を進める。
大丈夫……概ね前方には向かっている。
そうこうしている内に、『大広場』が見えて来た。
初代ギルドマスターの銅像を中央に配置した、大きく見事な噴水。
其処を中心として、半径200mは優に超える巨大な敷地。
その活用性は幅広く、ギルド主催で催し物をする際は、大概の会場に此処が選ばれる程。
加えて、世界各地から露天商が集まり、毎日の様にしのぎを削る。
癒しと活気を兼ね備えた大広場は、住民達の大切な憩いの場である。
大広場を抜けると、魔石製の巨大な跳ね橋が見えて来た。
その奥には、これまた巨大な湖の様な水堀が設けられている。
そして、その中央には雲を突き破る程の高さを持つ、白蠟の円柱が聳え立つ。
これぞランサリオンの象徴、通称『タワー』。
迷宮に潜る冒険者の玄関口であり、都市機能の管理を一手に担う、ギルドの総本部である。
その歴史は古く、嘗ての『英雄』の中にはタワー出身の冒険者も居る程。
ランサリオンが定義する、決して曲げない信念は『自由』。
どの国にも属さず、どんな軍事介入も許さない。
そんな、初代から変わらぬ想いを護るのは、現ギルドマスターと、12人の選ばれし補佐官である。
▽▼▽
タワー1階・『ギルド受付』――
「これは……中々だな」
「はむっ! あまいのだぁ♡」
室内を見渡し、ラディオは感嘆の声を漏らす。
横ではグレナダが、買って貰ったリンゴ飴―露店の前で、ねだる娘にラディオが根負けした結果―を夢中で頬張っている。
昼過ぎという事もあってか、人でごった返しているギルド内。
入り口から、向かって右側一番奥の新規受付カウンターは長蛇の列を成し、その左隣の鑑定所も何やら怒号が聞こえる。
中央の通路の奥は、迷宮への入り口。
多種多様な冒険者達が、続々と足を踏み入れていく。
向かって左は、迷宮へ行く際の申請カウンター。
4つある窓口は、どれもそこそこに混雑している。
中には、受付嬢を口説いている者もいるが、軽くあしらわれていた。
左奥の壁面には大きな掲示板が吊るされ、何百という依頼書が隙間なく貼られている。
冒険者達は、日々更新されるこれらを受注し、迷宮に潜るという訳だ。
ドーム型の天井はとても高く、壁一面に立体的な彫刻が施されている。
床は白と黒の大理石マーブルを使い、美しい市松模様に装飾されていた。
掲示板から向かって左には、広く取れられた談話スペースがある。
その奥には地下へ続く階段があり、『酒場』と『大浴場』が併設してある。
迷宮で一仕事終えた冒険者が、汗を流し、酒を流し込みながら戦果を語る、常に賑やかな空間だ。
(見知った顔は……居ないな)
不自然にならぬ様気を配りながら、周囲を確認するラディオ。
過去には、冒険者と共闘した事もある。
顔見知りがいないかどうか、事前に調べる事も忘れてはいけない。
全ては身バレを未然に防ぐ為。
思わず、娘を握る手に力が入る。
(!……ちちっ♡)
すると、不意に手をギュッとされて、グレナダは嬉しくなってしまった様だ。
ラディオの腕を引っ張り、両手を高く伸ばす。
それに気付いた中年は、即座に娘を抱き上げた。
「ちちにもあげるのだ! あ~ん♡」
大きく太い腕の中で、齧ったリンゴ飴を幸せそうに差し出すグレナダ。
そんな娘を見ていると、心が和んでいくのを感じる。
どうやら、身バレの心配も杞憂に終わってくれそうだ。
「有難う――うん、甘くて美味しいね」
「あいっ♡」
満開に笑顔を咲かせ、再びリンゴ飴を頬張るグレナダ。
しかし、これは困った。
娘を連れたままでは、登録の列に並ぶに並べない。
無駄に注目を集めるのは避けたい所だ。
(どうしたものか……ん?)
そんな事を考えていた矢先、登録の列から罵声が響いて来る。
「この野郎! 順番は守りやがれっ!」
「あんだぁ! 俺が先に並んでたろーがっ!」
割り込みだ何だと、若い男2人が喧嘩を始めてしまったのだ。
周囲は止める事もせず、囃し立てる声まで聞こえる始末。
その間にも喧嘩はドンドン大きくなり、職員の制止も掻き消されてしまう。
(これは……日を改めるか)
空気の悪さに、更なるトラブルの予感を感じたラディオ。
ギルドを出ようと歩き出すが、喧嘩で吹き飛ばされた男が此方に飛んで来てしまった。
ラディオは瞬時にそれを躱したが、突然の速過ぎる動きにグレナダは対応出来ず、リンゴ飴を落としてしまう。
「あっ!? うぅ……うわぁぁぁぁん!!」
そのショックから、大きな声で泣き始めてしまったグレナダ。
ラディオは体を揺らして必死にあやすが、泣き止む気配は無い。
(しまった……視線が集まっている)
もう限界だ。
直ぐに此処から出なければ。
「うわぁぁぁん! うわぁぁぁん!」
「ごめんよ、父がいけなかったね。また買おうね」
娘に申し訳無く思いながら、玄関へ向かっていたその時――
「あらぁん、どうしちゃったのかしらぁ~ん?」
玄関前から、ドスの効いた声がギルド内に木霊する。
見ると、180cmを超えるラディオより頭一つ飛び出た大男が立っているのだ。
その男は、グレナダ、床に落ちたリンゴ飴、吹き飛ばされた男、受付と瞬時に視線を走らせる。
そして、後ろに控えている連れの1人に何かを伝えると、真っ直ぐラディオ達の方へ歩いて来た。
「あらまっ! このおバカさん達のせいで飴が落ちちゃったのねぇん。でぇも! 大丈夫よぉん♡」
グレナダに目線を合わせる為、中腰になりながら和かに話し掛ける大男。
すると、先程の連れが戻って来た。
その手に、新品のリンゴ飴を握り締めて。
大男は飴を受け取ると、ピンと小指を立てながらグレナダに差し出した。
「はぁ~い、お待ちどうさまぁん♡」
見る見る内に、グレナダの泣き声が止んでいく。
少ししゃくり上げながら指を咥え、飴とラディオを交互に見やるのだ。
「そんな……頂く訳にはいきません」
「んん~、良いのよぉん。これは、ギルドからのお・わ・びぃん♡」
遠慮するラディオに、大男はバッサバサの睫毛でウインクを繰り出し始める。
暫し同じ問答を繰り返したが、ラディオは迷った末に頂戴する事にした。
「では……有難く。レナン、ちゃんとお礼を言うんだよ」
「……あいっ♡」
ちちの了承を得たグレナダは、瞳を輝かせてリンゴ飴に手を伸ばす。
そして、満面の笑みで大男にお礼を述べた。
「ありがとうなのだ!」
「あらまっ! 偉いわぁ~ん♡ ちゃーんとパパの事待ってたのねぇ~ん♡ おほほほほほほっ!」
手をパチパチと叩きながら褒める大男。
すると、グレナダはリンゴ飴を咥えながら、後頭部を手で摩り、嬉しそうに照れていた。
「可愛いわねぇ~ん♡ あっ、ちょ~っとだけ待っててくれるかしらぁん?」
思い出した様にそう言うと、大男は転がっている男の元へ歩いていく。
まるで糸屑の如く男を片手で拾い上げると、今度は登録の列へ向かった。
大男が発する異様なオーラにあてられて、気付けば騒ぎは沈静化している。
もう1人の騒ぎの男の肩を掴み、これまた軽々と持ち上げ――
「元気なのは良い事だけどぉん、他の人に迷惑を掛けちゃダメよぉん。それに、あんな小さな天使を泣かすなんて……何考えとんじゃぁぁぁぁ!!」
柔かな笑顔から一転、野獣の様な咆哮が轟いた。
両手に握られている男達は、小動物の様に震え上がってしまう。
大男はまた笑顔に戻ると、連れに男達を投げ渡した。
「貴方達はあっちで少~しお話ねぇん。はいはい、皆もこれで終わりよぉ~ん! お仕事に戻ってちょうだぁい♡」
快活な号令を受け、ギルド内は通常営業へ戻っていく。
引きずられていく男達を見届けた後、大男は再びラディオ達の方へやって来た。
「ごめんなさいねぇん。しっかり教育しとくから、許してやってくれないかしらぁん。そうそう、アタシはレイ・マキュリ。何かあったら、いつでも相談に来てちょうだいなぁん♡」
(マキュリ……成る程。ならば、この風格も納得だな)
差し出された手を握り返しながら、胸元で光る金のプレートと名前で合点がいったラディオ。
大男の名は、ドレイオス・マキュリ。
元Sランク冒険者にして、現・治安部隊隊長を務める猛者。
そして、ギルドマスターを補佐する役目を担う、選ばれし12人の1人だった。
「あいっ♡ おやくそくなのだ!」
出掛ける前、ラディオが玄関先で娘に問い掛ける。
すると、元気良く手を上げながら、しっかりと返事をしたグレナダ。
いつもの様に頭を撫でて褒めてやると、フニャリと幸せ一杯の笑顔を見せる。
「くまさんっ♡」
背中に縞模様の入った黄色い着ぐるみ―顔部分が途轍もなく不細工だが―を身に纏い、ご機嫌に尻尾をフリフリする娘。
顔部分の耳を触りながら熊だと信じて疑わず、嬉しそうにしているのだが――
「……猫ちゃんだよ」
「ねこちゃんっ!?」
中年の切ない声が、青空に吹き抜けて行く。
その横では、目を見開き、『やっちまった!!』という顔で固まってしまったグレナダ。
分かっている……自分に可愛い物を作る才能が無い事ぐらい。
「……ちち?」
静かに微笑みながら、遠~くの方を見つめていたラディオは、娘に呼ばれハッと我に返った。
「これは……ふむ」
少しの心配を宿す紅玉の瞳。
ちちのズボンをギュッと掴み、上目遣いで此方を見上げる小さな姿……何と愛らしいのだろう。
最早、フードが如何に不細工であろうと問題無い。
娘には、それを補って余りある魅力があるのだから。
自己完結した中年は微笑みを浮かべ、待っている娘に手を差し出した。
「ごめんよ、待たせてしまったね。行こうか」
「あいっ♡」
とびきりの笑顔を咲かせ、即座に手を握り締めたグレナダ。
頭をフリフリ、尻尾をフリフリ、とても上機嫌である。
そんな娘をデレデレ見つめながら、ラディオはふと考えた。
(髭は良いとして、髪はもう少しか)
実は、短く綺麗に整えてあった髪を、ラディオはこの1ヶ月伸ばしっぱなしにしている。
目的は、少しでも人相を分かりづらくする為。
だが、まだまだ短いと言わざる負えない。
目元が隠れるぐらいまでは……前髪を摘みながらそんな事を考えていると、下から呼ぶ声が聞こえて来た。
「ちーちっ♡」
「うん?」
すると、グレナダは瞳をキラキラと輝かせ、ラディオの足に抱き付く。
そして、幸せ一杯にこう答えたのだ。
「だいすきなのだぁ♡」
「……父も大好きだよ」
英雄を育て上げた、世界最強の力を持つラディオ。
だが、3歳に満たない娘の不意の攻撃には成す術が無い。
原型を留めない程に、しまりの無い顔になってしまっているのだから。
2人同じ顔でデレデレしながら、娘の歩幅に合わせてゆっくりと、親子は街道を歩いていく。
▽▼▽
下段中央・『城門前』――
(いつ見ても、見事な造りだ)
ランサリオンに到着したラディオは、都市の外観を見上げながら、感心した様に頷いた。
聳える2つの見張り台に守られた、高さ凡そ50m程の堅牢な門。
其処から、ぐるりと都市を囲む様に設けられた城壁。
そう、ランサリオンは所謂『城郭都市』である。
だが、通称はその特異性に則って付けられていた。
その名は『迷宮都市』。
世界で唯一、迷宮の上に造られた都市という意味である。
更には、住民の多様性も他に類を見ない。
人口は約6万人であり、大国に比べればやはり一都市に過ぎない。
だが、様々な種族が混在しながら共生する為に、大国にも引けを取らない生活基盤が築かれていた。
三日月型に都市が形成されるランサリオンは、元々の地形の起伏を利用して、3つの階層に分けられている。
それらは、下段・中段・上段と呼ばれ、其々に特色を有していた。
先ず、城門から向かって右手に入ると、食品、雑貨、日用品や工芸品、武器防具からペットに至るまで、多種多様な商店が乱雑に立ち並ぶ『バザール』へ通じている。
一方、左手に入ると酒場や飲食店、宿屋等が密集した『宿場街』がお目見えだ。
三日月の両端に向かう程、主に住民や下位ランク冒険者の居住スペースとなる。
加えて、城門から直進すると見えてくる『大広場』までを、『下段』と呼んでいる。
次に、下段区画の上が『中段』となっている。
城門から向かって右手には『教会』が、左手には『娼館街』が、それぞれ区画分けされていた。
更にその上には、有名な冒険者チームの拠点ホームが多く立ち並ぶ『上段』がある。
それだけで無く、高級な品々を扱う商店や、貴族等の有力者御用達の五ツ星ホテル等が建ち並んでいる事も、上段の特色の1つとなっている。
三段の間に通行制限等は存在せず、住民達は気ままに往来している。
どんな種族でも分け隔てなく、『自由』に生きるランサリオン。
だからこそ、ラディオは此処を選んだのだ。
最愛の娘が、安心して暮らせる様にと。
番兵に挨拶をしつつ城門をくぐった親子は、いつものバザールでは無く、『大広場』の更に先を目指して歩き出す。
何故なら、今日の目的は冒険者登録。
父として、娘の為にも何時までも無職では居られない。
その意気込みを見せつける様に、しっかりと前方に向かって――
「ちちぃ! あっちがいいのだぁ~!」
「先に父の用事を済ませてからでも良いかい? その後で、お菓子を買いに行こうね」
……歩けなかった。
お気に入りの焼き菓子店の匂いにつられたグレナダが、ジリジリと右側に寄って行ってしまうのだ。
なんとか娘を宥めながら、ラディオもジリジリと歩を進める。
大丈夫……概ね前方には向かっている。
そうこうしている内に、『大広場』が見えて来た。
初代ギルドマスターの銅像を中央に配置した、大きく見事な噴水。
其処を中心として、半径200mは優に超える巨大な敷地。
その活用性は幅広く、ギルド主催で催し物をする際は、大概の会場に此処が選ばれる程。
加えて、世界各地から露天商が集まり、毎日の様にしのぎを削る。
癒しと活気を兼ね備えた大広場は、住民達の大切な憩いの場である。
大広場を抜けると、魔石製の巨大な跳ね橋が見えて来た。
その奥には、これまた巨大な湖の様な水堀が設けられている。
そして、その中央には雲を突き破る程の高さを持つ、白蠟の円柱が聳え立つ。
これぞランサリオンの象徴、通称『タワー』。
迷宮に潜る冒険者の玄関口であり、都市機能の管理を一手に担う、ギルドの総本部である。
その歴史は古く、嘗ての『英雄』の中にはタワー出身の冒険者も居る程。
ランサリオンが定義する、決して曲げない信念は『自由』。
どの国にも属さず、どんな軍事介入も許さない。
そんな、初代から変わらぬ想いを護るのは、現ギルドマスターと、12人の選ばれし補佐官である。
▽▼▽
タワー1階・『ギルド受付』――
「これは……中々だな」
「はむっ! あまいのだぁ♡」
室内を見渡し、ラディオは感嘆の声を漏らす。
横ではグレナダが、買って貰ったリンゴ飴―露店の前で、ねだる娘にラディオが根負けした結果―を夢中で頬張っている。
昼過ぎという事もあってか、人でごった返しているギルド内。
入り口から、向かって右側一番奥の新規受付カウンターは長蛇の列を成し、その左隣の鑑定所も何やら怒号が聞こえる。
中央の通路の奥は、迷宮への入り口。
多種多様な冒険者達が、続々と足を踏み入れていく。
向かって左は、迷宮へ行く際の申請カウンター。
4つある窓口は、どれもそこそこに混雑している。
中には、受付嬢を口説いている者もいるが、軽くあしらわれていた。
左奥の壁面には大きな掲示板が吊るされ、何百という依頼書が隙間なく貼られている。
冒険者達は、日々更新されるこれらを受注し、迷宮に潜るという訳だ。
ドーム型の天井はとても高く、壁一面に立体的な彫刻が施されている。
床は白と黒の大理石マーブルを使い、美しい市松模様に装飾されていた。
掲示板から向かって左には、広く取れられた談話スペースがある。
その奥には地下へ続く階段があり、『酒場』と『大浴場』が併設してある。
迷宮で一仕事終えた冒険者が、汗を流し、酒を流し込みながら戦果を語る、常に賑やかな空間だ。
(見知った顔は……居ないな)
不自然にならぬ様気を配りながら、周囲を確認するラディオ。
過去には、冒険者と共闘した事もある。
顔見知りがいないかどうか、事前に調べる事も忘れてはいけない。
全ては身バレを未然に防ぐ為。
思わず、娘を握る手に力が入る。
(!……ちちっ♡)
すると、不意に手をギュッとされて、グレナダは嬉しくなってしまった様だ。
ラディオの腕を引っ張り、両手を高く伸ばす。
それに気付いた中年は、即座に娘を抱き上げた。
「ちちにもあげるのだ! あ~ん♡」
大きく太い腕の中で、齧ったリンゴ飴を幸せそうに差し出すグレナダ。
そんな娘を見ていると、心が和んでいくのを感じる。
どうやら、身バレの心配も杞憂に終わってくれそうだ。
「有難う――うん、甘くて美味しいね」
「あいっ♡」
満開に笑顔を咲かせ、再びリンゴ飴を頬張るグレナダ。
しかし、これは困った。
娘を連れたままでは、登録の列に並ぶに並べない。
無駄に注目を集めるのは避けたい所だ。
(どうしたものか……ん?)
そんな事を考えていた矢先、登録の列から罵声が響いて来る。
「この野郎! 順番は守りやがれっ!」
「あんだぁ! 俺が先に並んでたろーがっ!」
割り込みだ何だと、若い男2人が喧嘩を始めてしまったのだ。
周囲は止める事もせず、囃し立てる声まで聞こえる始末。
その間にも喧嘩はドンドン大きくなり、職員の制止も掻き消されてしまう。
(これは……日を改めるか)
空気の悪さに、更なるトラブルの予感を感じたラディオ。
ギルドを出ようと歩き出すが、喧嘩で吹き飛ばされた男が此方に飛んで来てしまった。
ラディオは瞬時にそれを躱したが、突然の速過ぎる動きにグレナダは対応出来ず、リンゴ飴を落としてしまう。
「あっ!? うぅ……うわぁぁぁぁん!!」
そのショックから、大きな声で泣き始めてしまったグレナダ。
ラディオは体を揺らして必死にあやすが、泣き止む気配は無い。
(しまった……視線が集まっている)
もう限界だ。
直ぐに此処から出なければ。
「うわぁぁぁん! うわぁぁぁん!」
「ごめんよ、父がいけなかったね。また買おうね」
娘に申し訳無く思いながら、玄関へ向かっていたその時――
「あらぁん、どうしちゃったのかしらぁ~ん?」
玄関前から、ドスの効いた声がギルド内に木霊する。
見ると、180cmを超えるラディオより頭一つ飛び出た大男が立っているのだ。
その男は、グレナダ、床に落ちたリンゴ飴、吹き飛ばされた男、受付と瞬時に視線を走らせる。
そして、後ろに控えている連れの1人に何かを伝えると、真っ直ぐラディオ達の方へ歩いて来た。
「あらまっ! このおバカさん達のせいで飴が落ちちゃったのねぇん。でぇも! 大丈夫よぉん♡」
グレナダに目線を合わせる為、中腰になりながら和かに話し掛ける大男。
すると、先程の連れが戻って来た。
その手に、新品のリンゴ飴を握り締めて。
大男は飴を受け取ると、ピンと小指を立てながらグレナダに差し出した。
「はぁ~い、お待ちどうさまぁん♡」
見る見る内に、グレナダの泣き声が止んでいく。
少ししゃくり上げながら指を咥え、飴とラディオを交互に見やるのだ。
「そんな……頂く訳にはいきません」
「んん~、良いのよぉん。これは、ギルドからのお・わ・びぃん♡」
遠慮するラディオに、大男はバッサバサの睫毛でウインクを繰り出し始める。
暫し同じ問答を繰り返したが、ラディオは迷った末に頂戴する事にした。
「では……有難く。レナン、ちゃんとお礼を言うんだよ」
「……あいっ♡」
ちちの了承を得たグレナダは、瞳を輝かせてリンゴ飴に手を伸ばす。
そして、満面の笑みで大男にお礼を述べた。
「ありがとうなのだ!」
「あらまっ! 偉いわぁ~ん♡ ちゃーんとパパの事待ってたのねぇ~ん♡ おほほほほほほっ!」
手をパチパチと叩きながら褒める大男。
すると、グレナダはリンゴ飴を咥えながら、後頭部を手で摩り、嬉しそうに照れていた。
「可愛いわねぇ~ん♡ あっ、ちょ~っとだけ待っててくれるかしらぁん?」
思い出した様にそう言うと、大男は転がっている男の元へ歩いていく。
まるで糸屑の如く男を片手で拾い上げると、今度は登録の列へ向かった。
大男が発する異様なオーラにあてられて、気付けば騒ぎは沈静化している。
もう1人の騒ぎの男の肩を掴み、これまた軽々と持ち上げ――
「元気なのは良い事だけどぉん、他の人に迷惑を掛けちゃダメよぉん。それに、あんな小さな天使を泣かすなんて……何考えとんじゃぁぁぁぁ!!」
柔かな笑顔から一転、野獣の様な咆哮が轟いた。
両手に握られている男達は、小動物の様に震え上がってしまう。
大男はまた笑顔に戻ると、連れに男達を投げ渡した。
「貴方達はあっちで少~しお話ねぇん。はいはい、皆もこれで終わりよぉ~ん! お仕事に戻ってちょうだぁい♡」
快活な号令を受け、ギルド内は通常営業へ戻っていく。
引きずられていく男達を見届けた後、大男は再びラディオ達の方へやって来た。
「ごめんなさいねぇん。しっかり教育しとくから、許してやってくれないかしらぁん。そうそう、アタシはレイ・マキュリ。何かあったら、いつでも相談に来てちょうだいなぁん♡」
(マキュリ……成る程。ならば、この風格も納得だな)
差し出された手を握り返しながら、胸元で光る金のプレートと名前で合点がいったラディオ。
大男の名は、ドレイオス・マキュリ。
元Sランク冒険者にして、現・治安部隊隊長を務める猛者。
そして、ギルドマスターを補佐する役目を担う、選ばれし12人の1人だった。
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時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。
制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。
そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。
(各20話編成)
1章:ダンジョン学園【完結】
2章:ダンジョンチルドレン【完結】
3章:大罪の権能【完結】
4章:暴食の力【完結】
5章:暗躍する嫉妬【完結】
6章:奇妙な共闘【完結】
7章:最弱種族の下剋上【完結】
異世界で穴掘ってます!
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「まさかよりにもよって、死亡フラグしかない悪役キャラに転生するとは……だが、このまま何もできず殺されるのは御免だ!」
レストの持つスキル【テイム】に特別な力が秘められていることを知っていた俺は、その力を使えば死亡フラグを退けられるのではないかと考えた。
それから俺は前世の知識を総動員し、独自の鍛錬法で【テイム】の力を引き出していく。
「こうして着実に力をつけていけば、ゲームで決められた最期は迎えずに済むはず……いや、もしかしたら最強の座だって狙えるんじゃないか?」
狙いは成功し、俺は驚くべき程の速度で力を身に着けていく。
その結果、やがて俺はラスボスをも超える世界最強の力を獲得し、周囲にはなぜかゲームのメインヒロイン達まで集まってきてしまうのだった――
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しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
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ダンジョン内で生活し、10年間一度も地上に帰っていなかった男が、とある事件から配信者達と関わり、己もダンジョン内の様子を配信することを決意する。
10年間のダンジョン生活。世界の誰よりも豊富な知識と。世界の誰よりも長けた戦闘技術によってダンジョンの様子を明らかにする男は、配信を通して、やがて、世界に大きな動きを生み出していくのだった。
*本作は、ダンジョン籠もりによって強くなった男が、配信を通して地上の人たちや他の配信者達と関わっていくことと、ダンジョン内での世界の描写を主としています
*配信とは言いますが、序盤はいわゆるキャンプ配信とかブッシュクラフト、旅動画みたいな感じが多いです。のちのち他の配信者と本格的に関わっていくときに、一般的なコラボ配信などをします
*主人公と他の探索者(配信者含む)の差は、後者が1~4まで到達しているのに対して、前者は100を越えていることから推察ください。
*主人公はダンジョン引きこもりガチ勢なので、あまり地上に出たがっていません
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