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3 皇帝ティニアスとナルセウス
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「ペルセウスよ。この者が俺の新しい従騎士というのか?」
「はい」
将軍のペルセウスは、重々しい鎧を着ている。動きが鈍いが、ゆっくりとティニアスに頭を下げた。
「ナルセウスと言ったな。顔を上げよ」
ティニアスは今、執務室の椅子に座り、ナルセウスとペルセウスの前にいる。声をかけると、ナルセウスはゆっくりと顔を上げた。
ナルセウスの目は潤んでおり、唇はピンクで顔は上気している。中性的ではあるが、とても妖艶な表情をしている。
「うっ。ナルセウスよ。貴様なぜ俺の寝所に忍び込んだ? 暗殺者を始末したのは尊敬に値するが、なぜ許可もなく俺のベッドで寝ていた」
「私は従騎士です。どんな時もご一緒します」
ナルセウスには話が通じない。従騎士というものがよくわかっておらず、皇帝のそばにいればいいと思っている。
「ペルセ。これはどういうことだ。この者は従騎士がよくわかっていないのではないか?」
「申し訳ありません。何分、田舎貴族ゆえ、教育が行き届いておらず……」
ぺこぺことベルセウス将軍は頭を下げる。逆にナルセウスはふんぞり返っている。
「ナルセウスよ。お前の有能さは昨日の暗殺者でよくわかった。戦闘力は高いようだ。将軍が用意した人材であるし、信頼もできる。俺はペルセウス将軍を第二の父と思っているからな」
「は! ありがたきお言葉!!」
ペルセウスは涙目で喜んでいる。
「だが! 朝の貴様の行いは目に余る! 俺の指を舐めるとは何を考えている!?」
「いや、ティニアス様から花のようないい匂いがしたので……」
ティニアスは毎日風呂に二回は入る。バラやラベンダーと言った花を湯に浮かべ、風呂を楽しむ。
「確かに俺は風呂を好んで清潔にしているが、いくらなんでもありえんだろう……」
「申し訳ありません! この失態はきつく言いか聞かせておきますので、なにとぞご容赦を!」
将軍は執務室の絨毯に頭をこすり付け、許しを乞うている。
「いや、俺はその程度で処罰はせん。暗殺者の件もあるし、ナルセは命の恩人だ。多少頭がおかしいのは良しとしよう」
「ははぁ! ご寛大な処置、ありがとうございます!」
将軍は床に頭をこすり付けているが、隣にいるナルセウスはふんぞり返ったままだ。どうやらナルセウスの頭はぶっ飛んでいるらしい。皇帝を前にして恐れない農民娘はまずいない。
「ナルセウス。俺には他に従騎士のクロムがいる。そいつは私の命令によく背く男だ。今日の朝もいなかった。本当は解雇してやりたいところだが、宮内での俺の権力は無いに等しい。将軍の部下を通さないと、何も命令出来ん」
一応、皇帝の勅命を発動すれば解雇は可能だが、手続きが面倒くさい。
「お前がどんな男かは分からんが、俺の力になってくれ。そして、今後指は舐めないと誓ってくれ」
「は! 命の限り、お尽くしいたします!」
ナルセウスは深々と頭を下げる。
ティニアスがナルセウスを男と呼んだあたり、まだナルセウスが女とは気づいていない。
「よし。この話は以上だ。ペルセウスは下がれ。ナルセウスに仕事を任せたいことがある」
「かしこまりました。ではナルセウス。くれぐれも粗相のないようにな」
「はっ!」
ナルセウスは大きな声で返事をするが、何を考えているか分からない顔をしている。これが農民娘のする顔とは思えない。
何度も頭を下げつつ、将軍は執務室を退室した。残されたティニアスとナルセウスは、少し気まずい雰囲気になる。
「お前の履歴書を先ほど渡されたが、分からないことがある」
「はっ。どの部分でしょうか?」
「得意なことに、料理、裁縫、乳搾りとあるが、この乳搾りとはなんだ?」
「それは牛の乳を搾ることでございます。私はものすごく速く牛の乳を搾れます」
ナルセウスの顔はドヤ顔だ。牛の乳搾りが得意技らしい。
「お前の家には、牛がいたのか?」
「それはもう、何頭もいました」
「……どうやら、とんだ野生児を見つけたようだな。将軍は……」
ナルセウスは「今度お見せしましょう」と無い胸を張っている。
「お前のその美しい顔と、放たれる言葉の数々に、驚きを隠せんよ。まぁいい。とにかく、俺の世話を頼むぞ。それから、書類整理が終わったら風呂に入る。準備しておけ」
ナルセウスは風呂と聞いてよくわからなかったが、「かしこまりました」と返事をした。
これがよくなかった。
「では、そこで待っていろ。そのテーブルにあるクッキーは食べていいから、静かにしていろ」
ナルセウスはクッキーと聞いて飛びついた。もぐもぐむしゃむしゃ食べ始める。
皇帝はその野蛮さを見てがっかりする。貴族はこんな物乞いのような食べ方はしない。
「お前は本当に従騎士の訓練を受けたのか? 美しいのは顔だけか?」
男と偽っているナルセウスだが、中身が女とは思えない行動をする。乙女心はあるようだが、それよりも食欲がまさっていた。貧しい農民だったので、仕方のない行動だった。将軍がナルセウスを見つけたのもつい最近だったので、教育が間に合わなかった。
「まぁいい。風呂の用意は忘れるなよ」
「は。もぐ。用意しておきます。もぐもぐ」
リスのようにクッキーを頬ぼるナルセウスだった。
「はい」
将軍のペルセウスは、重々しい鎧を着ている。動きが鈍いが、ゆっくりとティニアスに頭を下げた。
「ナルセウスと言ったな。顔を上げよ」
ティニアスは今、執務室の椅子に座り、ナルセウスとペルセウスの前にいる。声をかけると、ナルセウスはゆっくりと顔を上げた。
ナルセウスの目は潤んでおり、唇はピンクで顔は上気している。中性的ではあるが、とても妖艶な表情をしている。
「うっ。ナルセウスよ。貴様なぜ俺の寝所に忍び込んだ? 暗殺者を始末したのは尊敬に値するが、なぜ許可もなく俺のベッドで寝ていた」
「私は従騎士です。どんな時もご一緒します」
ナルセウスには話が通じない。従騎士というものがよくわかっておらず、皇帝のそばにいればいいと思っている。
「ペルセ。これはどういうことだ。この者は従騎士がよくわかっていないのではないか?」
「申し訳ありません。何分、田舎貴族ゆえ、教育が行き届いておらず……」
ぺこぺことベルセウス将軍は頭を下げる。逆にナルセウスはふんぞり返っている。
「ナルセウスよ。お前の有能さは昨日の暗殺者でよくわかった。戦闘力は高いようだ。将軍が用意した人材であるし、信頼もできる。俺はペルセウス将軍を第二の父と思っているからな」
「は! ありがたきお言葉!!」
ペルセウスは涙目で喜んでいる。
「だが! 朝の貴様の行いは目に余る! 俺の指を舐めるとは何を考えている!?」
「いや、ティニアス様から花のようないい匂いがしたので……」
ティニアスは毎日風呂に二回は入る。バラやラベンダーと言った花を湯に浮かべ、風呂を楽しむ。
「確かに俺は風呂を好んで清潔にしているが、いくらなんでもありえんだろう……」
「申し訳ありません! この失態はきつく言いか聞かせておきますので、なにとぞご容赦を!」
将軍は執務室の絨毯に頭をこすり付け、許しを乞うている。
「いや、俺はその程度で処罰はせん。暗殺者の件もあるし、ナルセは命の恩人だ。多少頭がおかしいのは良しとしよう」
「ははぁ! ご寛大な処置、ありがとうございます!」
将軍は床に頭をこすり付けているが、隣にいるナルセウスはふんぞり返ったままだ。どうやらナルセウスの頭はぶっ飛んでいるらしい。皇帝を前にして恐れない農民娘はまずいない。
「ナルセウス。俺には他に従騎士のクロムがいる。そいつは私の命令によく背く男だ。今日の朝もいなかった。本当は解雇してやりたいところだが、宮内での俺の権力は無いに等しい。将軍の部下を通さないと、何も命令出来ん」
一応、皇帝の勅命を発動すれば解雇は可能だが、手続きが面倒くさい。
「お前がどんな男かは分からんが、俺の力になってくれ。そして、今後指は舐めないと誓ってくれ」
「は! 命の限り、お尽くしいたします!」
ナルセウスは深々と頭を下げる。
ティニアスがナルセウスを男と呼んだあたり、まだナルセウスが女とは気づいていない。
「よし。この話は以上だ。ペルセウスは下がれ。ナルセウスに仕事を任せたいことがある」
「かしこまりました。ではナルセウス。くれぐれも粗相のないようにな」
「はっ!」
ナルセウスは大きな声で返事をするが、何を考えているか分からない顔をしている。これが農民娘のする顔とは思えない。
何度も頭を下げつつ、将軍は執務室を退室した。残されたティニアスとナルセウスは、少し気まずい雰囲気になる。
「お前の履歴書を先ほど渡されたが、分からないことがある」
「はっ。どの部分でしょうか?」
「得意なことに、料理、裁縫、乳搾りとあるが、この乳搾りとはなんだ?」
「それは牛の乳を搾ることでございます。私はものすごく速く牛の乳を搾れます」
ナルセウスの顔はドヤ顔だ。牛の乳搾りが得意技らしい。
「お前の家には、牛がいたのか?」
「それはもう、何頭もいました」
「……どうやら、とんだ野生児を見つけたようだな。将軍は……」
ナルセウスは「今度お見せしましょう」と無い胸を張っている。
「お前のその美しい顔と、放たれる言葉の数々に、驚きを隠せんよ。まぁいい。とにかく、俺の世話を頼むぞ。それから、書類整理が終わったら風呂に入る。準備しておけ」
ナルセウスは風呂と聞いてよくわからなかったが、「かしこまりました」と返事をした。
これがよくなかった。
「では、そこで待っていろ。そのテーブルにあるクッキーは食べていいから、静かにしていろ」
ナルセウスはクッキーと聞いて飛びついた。もぐもぐむしゃむしゃ食べ始める。
皇帝はその野蛮さを見てがっかりする。貴族はこんな物乞いのような食べ方はしない。
「お前は本当に従騎士の訓練を受けたのか? 美しいのは顔だけか?」
男と偽っているナルセウスだが、中身が女とは思えない行動をする。乙女心はあるようだが、それよりも食欲がまさっていた。貧しい農民だったので、仕方のない行動だった。将軍がナルセウスを見つけたのもつい最近だったので、教育が間に合わなかった。
「まぁいい。風呂の用意は忘れるなよ」
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リスのようにクッキーを頬ぼるナルセウスだった。
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