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第二章

55 ふんどし祭り ~リザの国へ行く道中で~

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 俺たちはリザの国へ行くため、牛車での旅を再開した。

 俺たちは不毛な荒野を延々と走らなければならず、まったくもって楽しくない。

 木々は枯れて地面はひび割れ。地上で生きている動物はおらず、ほとんどは地中深くで生活しているようだ。

「リザ。見渡す限り荒野しかないが、本当にこっちの方角であってるのか?」

「あっているはずだ」

「本当か? よくそれで国境を越えて来たな。水と食料は大丈夫だったのか?」

 俺は御者台に乗るリザに、水筒を渡しつつ聞いてみる。

「なにか勘違いしてないか? 私は一人で国境を越えて旅をしてきたわけじゃない。遠出するときは、大体キャラバンに便乗して旅をする」

「キャラバン?」

「隊商のことだな。砂漠を行く、商人の一団のことだよ」

 ほう。そうなのか。てっきり一人で来たかと思ったぞ。出会った時は一人だったからな。話を聞いた時も、不法入国した感じだったし、一人で来たのかと思った。

「ある程度まで一人で来たが、途中途中でキャラバンの世話になっている。すべて一人で国境線を越えたわけじゃない」

「ふーん」

 リザは俺が渡した水を飲みながら、いろいろと教えてくれる。

 時々俺の太ももをイヤらしく触ってきたり、頭を撫でてくるのは煩わしいが、リザは俺に対してとても優しい。気を抜いていると股間まで触って来そうなのでかなり危険だが、リザは基本的に優しい。

「そうか。じゃぁリザ。今日はどこで一泊するんだ?」

「どこか岩に囲まれた地形があれば、そこに停めて一泊しよう」

「分かった。着いたら呼んでくれ」

「了解した」

 俺は御者台から牛車の荷台に移動する。荷台へ行くには御者台の後ろにある木の扉を開ければ移動できる。俺は扉を開けて荷台に移動した。すると、プルウィアがせっせと食事の用意をしているのが見えた。

 プルウィアは、メルカ(玉ねぎ)とモイ(ジャガイモ)の皮を剥いて、木のボウルに入れている。ナイフの使い方も達人級で、ものすごい速さで野菜の皮を剥いていく。

「プルウィア。牛車に酔ったりしてないか? 気持ち悪くなったら料理はやめるんだぞ。ナイフを持っていると危ないからな」

「大丈夫です! この牛車、全く揺れません!」

 今、牛車は荒れ地を走っているが、スプリングが優秀なのか、揺れはあまりない。牛車の荷台で、プルウィアは料理の下ごしらえを頑張っている。

 カレー粉を用意しているし、夕食はカレーかな? すごく楽しみだ。

 ちなみに言っておくが、この世界ではカレーと言う料理名ではない。もっと長ったらしい名前の料理だ。俺が勝手にカレーと言っているにすぎない。野菜の名前も、本来はジャガイモとか、ニンジンとか言わない。俺が地球の名前で言っているだけである。
 
 残りのメンバーであるクーとライドだが、ライドは寝ていた。彼は早朝からずっと牛車の操縦をしていたので、仮眠を取っている。

 クーは自分が履いている替えのふんどしを、綺麗に折りたたんで衣装ケースにしまっている。彼女には羞恥心がまるでないので、みんながいるところでも、平気で裸になる。

 ちなみに、オーガのクーはパンツと言うのものを履かない。Tバックのふんどしである。しかも赤いふんどしを履いている。

 この前、クーの生着替えのシーンを見てしまったが、非常に煽情的で、エロティックだった。彼女の腹筋は美しく6つに割れ、胸は零れ落ちんほどの巨乳。足も筋肉質で太く、背も高い。リザも相当なプロポーションを持っているが、クーはさらに上を行く。ただ、容姿はリザの方が圧倒的に上だ。クーは口から出る牙が目立つし、目も一重で鋭い。純和風の女って感じである。

「どうしたアオ。私に何か用か?」

 ふんどしを畳み終えたクーが、俺に聞いてきた。

「いや、特に用は無いよ」

「そうか? 私のふんどしを見ていたようだったが」 

 確かに見ていたが、今のところクーに用はない。用はないのだが、クーは俺をじっと見つめてくるので、一つ提案をしてみた。

「そ、そうだな。クーはふんどしを履くだろ? 今度、新しいふんどしを俺が買ってやろうか?」

 何気なしに、言ってみた。

 ちょっとしたジョークで、クーを笑わせるために言ったのだが、これが失敗だった。

 クーは目を見開いて驚き、大声を出した。 

「な、なにぃ!? ふんどしを私にくれるのか!? ふんどしを!? この私にか!?」

 クーは俺の肩を掴み、顔をギリギリまで近づけてくる。すごく驚いた顔をしている。

「アオ、君は本気で私にふんどしをくれるのか!?」

「な、なんだ!? どうしたんだよ! ちょっと痛いよ! 離してくれクー!」

「いいから! くれるのか!? 私にふんどしをくれるのか!?」

 なんだかクーの様子がおかしい。確かに、下着(ふんどし)を女に買い与えるなんて、ちょっと普通じゃなかったな。冗談でも言うことではなかった。

 クーを怒らせる、何かのスイッチを押してしまったかもしれない。

 俺たちが荷台の後方で騒いでいると、料理の下ごしらえを終えたプルウィアが近寄ってきた。

「何を騒いでるんですか? 何か問題でも?」

 プルウィアは興味津々で近寄ってくる。頼むから今は近寄らないでくれ。プルウィアには関係ない、ふんどしの話なんだ。

 クーがガクガクと俺の両肩を揺さぶっていると、彼女はとんでもないことを言い出した。

「アオ! もしかしてお前は知らないのか? 雌のオーガにふんどしを贈るということは、結婚を申し込むということだぞ! お前は私と結婚したいのか!?」

 え!? メスのオーガにふんどしをプレゼントすると、結婚することになるの!? どうしてだよ!

「むっ。なんだ。その様子だと、本当に知らないようだな。オーガの女はな、婚約するまで下着をつけないんだ。結婚した女や、婚約したオーガだけが、ふんどしを履くんだ」

 え。オーガは下着を履かないの? 結婚した女だけが下着を履くのか? なら、クーは結婚しているのか?

「私は婚約こそしたが、婚約者は人間に殺された。本当は結婚はしていないが、すでにふんどしはもらっていた。だから未亡人と言う扱いで、ふんどしは履かなければならない」

 未亡人はふんどしを履くのかよ。意味不明な風習だな。いままでクーとずっと一緒にいたが、今知ったぞ。

「普通、ふんどしは男しか履かない。戦う男しか、履いてはいけない。その男の下着を女に履かせるということは、『この女は俺のものだぞ』っという証しなんだ」

 へぇ。オーガにとっての『ふんどし』は、結婚指輪みたいなもんか? 変な文化だな。

「ちなみに、赤いふんどしは、未亡人である証拠だ。だから、男はいつでも結婚を申し込んでいい」

 赤いふんどしは未亡人? 

 ん? ってことは、未亡人のクーに、俺が結婚を申し込んだことになるのか? 

「本当は自分が履いているふんどしを、女に履かせるのが習わしだ。男が直前まで履いていたふんどしを、女に履かせるんだ」

 なんだそりゃ。自分の使っているふんどしを、その場で女に履かせるのかよ。どこの変態だそりゃ。オーガはとんでもない文化を持っているな。

「私も考えが足りなかった。考えてみれば、ふんどしを買い与えるというのは、本当の結婚とは違う。すまない。私が勘違いをした」

 クーは勝手に自己完結して、しょんぼりした。大きなため息をついて、すごく残念そうにしている。

 まさか、本当に俺のふんどしが欲しいっていうんじゃないだろうな? 嘘だろ?

 クーとそんなやりとりをしていると、横にいたプルウィアがぽつりと呟いた。

「う、ウソでしょう? クーさんまでアオ様のことを?」

 プルウィアは、そわそわして落ち着かない。

「あの、クーさん。もしかしてクーさんは、アオ様のことが好きなんですか?」

「好きだ」

「え!?」

 即答するクーに、プルウィアは一歩後ずさる。クーは本気で俺を好きと言っている。いつの間に愛されたのか不明だが、クーは俺のことを好きらしい。

「水魔法使いと言うだけで、オーガにとっては素晴らしい相手だ。オーガは他種族と結婚できる種族だから、特に問題ない。私個人として、人間は好きじゃないが、アオは別だ。アオは、私の仲間を助けてくれた」

「…………」

 プルウィアはしばらく絶句していたが、正気を取り戻すと歯ぎしりをし始めた。

「くぅ。こんなところにライバルがいたなんてっ! アオ様を好きなのはリザさんだけだと思ってたのにぃ……」

 プルウィアはごにょごにょと何かを喋っている。
 
 しかし、俺は軽率なことを言ってしまったと後悔した。

 地球での記憶が、未だに残っている。その記憶を物差しに、口から出まかせを言ってしまった。ふんどしを女に買い与えるなんて、冗談でも言ってはいけなかったな。

 少し考えてから発言しないと、思わぬ地雷を踏みそうだ。

 俺は残念そうに項垂れているクーを見ると、少し可哀そうなことをしたと思った。彼女は婚約者を失くして、さみしい思いをしているんだもんな。

 どこの馬の骨とも知らない俺が、結婚を申し込んでいいわけがないよな。

 だから俺は、しょげ返るクーに、こう言った。

「クー。今度、俺が履いたふんどしをやるよ」

「え!?」

「・「@「;「@!?」

 クーとプルウィアが同時に驚いた。クーは久しぶりにオーガ語で驚いた。

 今さっき俺が言ったことは、前言撤回。結婚を申し込んでいいとか悪いとか、関係ないんだぜ。

 俺と一緒に旅をする女は、ハーレム要員として決定している。俺になついてくれるなら好都合。

 今度俺のホカホカになったふんどしをあげよう。

 クーは驚いていたが、さすがに今度は冗談だと思ったんだろう。

「ははは。5年後にまだ私が好きだったら、ふんどしをもらってやるよ」

 そう言って、俺の頭を撫でた。子供をあやすように、くしゃっと頭を撫でた。実際に子供だから仕方ない。やはりまだ結婚するには早すぎたか。

 そんなやりとりを見ていたプルウィアは、ギリギリと歯ぎしりをしており、新しいライバルを見つけて嫉妬の炎を燃え上がらせていた。
  
 そして横で寝ていたライドは、うるさい俺たちを見て、大きなため息をついた。

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