上 下
23 / 85
第一章 伝説の水魔法使い

23 教会で食事

しおりを挟む
 教会に帰ると、神父のヌアザが壁を修理していた。焼け焦げた壁を剥がし、新しい板を壁に打ち付けている。塗料は無いのでそのままだが、壁が腐って落ちることは無くなる。

 俺たちが来た時とは違い、教会の中にはボランティアの信者も数名いた。彼らも教会を修理している。屋根に上って修理する者や、教会に設置されている椅子を直している者もいる。若い男たちばかりだが、その中に女の子もいた。

 彼らが修理する中、シスターのアリアンは大きな鍋でおかゆを作っており、炊き出しを行っている。どうやら、食べ物がない子たちに仕事を与え、食事を提供しているようだ。俺が見る限り、完全にホームレスを支援する団体である。

「やぁリザとアオ君。帰ってきましたか。ちょうど夕食を食べようと思っていたところです。さぁこちらに」

 神父は俺たちを快く迎えて入れてくれる。こんなに教会がボロボロなのに、俺たちに親切にしてくれる。

「みなさん。今日はありがとうございます! さぁ、夕食を食べましょう!」

 修理をしていた若者が手を止め、シスターのもとに集まってくる。顔はやつれていたが、笑顔がある。順番におかゆをもらっていて、俺も列に並ばされる。日本でもホームレスの炊き出しは見たが、まさか自分がもらうことになるとは思わなかった。しかも異世界で。

 木のお椀を近くにいたお姉さんからもらい、シスターにおかゆをすくって入れてもらった。

「さぁアオ君。いっぱい食べてね。リザもね」

「あ、あぁ。ありがとう」

「はい。ありがとうございます」

 俺の後ろに並んでいたリザも、おかゆをもらう。

 シスターの目の下には大きなクマがあり、彼女もやつれている。だが、笑顔を絶やさない。

「皆さん。いつものように、食事の前に祈りを捧げます。では、手を合わせてください」

 壊れかけた長椅子に座ると、先ほどの若者たちが全員手を合わせた。目をつむり、何やらぶつぶつと唱えている。なんだか、神様の名前を言っているが、俺にはよく分からない。

 この世界に生まれてから、俺は村の奴らの小間使いだった。宗教など知らない。日本でも、「いただきます」「ごちそうさま」しか言ったことが無いので、どうしたらいいか分からない。

「我が神ダーナよ、日々の糧に感謝します! さぁみなさん、食事をしましょう!」

 神父が祈りを終えると、スプーンでおかゆを食べ始めた。リザも食べている。俺はみんなにならい、一緒になって食事をする。食べてみると、おかゆは水のように薄かった。味もない。しかも使われている水が泥水のようで、ひどい匂いがする。

 周りを見ると、無言で食事を続けている。なんだか、すごくいたたまれない。

「おいリザ」

「なに?」

「さっき買ってきた食料。食べないのか? バッグに入っているだろ」

「みんながいるのに、私たちだけ肉や野菜を食べるのか?」

「俺たちだけ食べる? 何を言っているんだ。みんなに分けろ。神父のヌアザには、世話になっているんだろう?」

「ふふふ、その言葉を待っていたよ。やっぱりアオ君は神の御使い様だな」

「はぁ? 何を言ってるんだ?」

「アオ君だったら、みんなに食べ物を分けると思っていたから、言わなかったのさ」

 リザは俺の頭をくしゃくしゃに撫でる。すっと立ち上がり、バッグの中から干し肉と野菜、ビスケットを取り出した。

「神父様。私とアオ君から、差し入れがあるので、食べていただけませんか?」

 ヌアザとシスターはその差し入れを見て、びっくりする。

「リザ。これはどうしたのですか? 黒糖入りのビスケットまでありますが」

「盗んできたんじゃないですよ。買ってきました」

「あなたはいつもお金が無くて、食べ物に苦労していたでしょう。どうしたのですか?」

「それなら、アオ君が良いって言ったので、大丈夫です」

「え? アオ君が?」

 リザは余計なことを言った。全部リザの手柄にすればいいのに、俺の名前を出すな。

 神父は俺に近寄ってくると、頭を下げる。

「あなたはどこかの貴族様ですか? なぜ私たちに差し入れを?」

 貴族だと? この格好を見ろ。ボロのシャツにボロのズボンだぞ。どう考えても孤児にしか見えんだろう。さすがに貴族は話が飛躍しすぎだ。というか、教会に寄付する市民くらい、ここにはいないのか?

「気にするな。一晩泊めてもらうから、その礼だよ」

「ありがとうございます。人は見かけによりませんね。ハハハ」

「おい。一言余計だぞ」

 神父は俺を見て微笑んでいる。シスターや他の信者たちも、みな笑顔で俺を見ている。

 少ないが、リザと俺で買った食料を全員に渡し、水も渡した。

 透明な水を渡したことで少し騒ぎになったが、ヌアザがその場を収めると、深々と俺に頭を下げてきた。

 大人が子供に頭を下げるな。気分が悪い。

「おい。水を渡したのはリザだぞ。俺じゃない」

「お金が無かったリザが、こんな高級な水を出せるわけがありません。アオ君。あなたでしょう?」

「…………」

 ちっ。無駄に頭が回る奴は嫌いだ。子供が水を持ってくるなんて、普通思わないだろう。そこはリザが稼いで買っきた水だと思うだろう。すぐに俺だと気づくあたり、この神父は勘が良い。

「ありがとうございます」

「気にするな」

 俺は初めて異世界に来て、大人の優しさを感じた。リザも優しいが、神父のヌアザは損得勘定がない。困っている人がいたら誰でも助けるという感じだった。なんだか、日本の父さんや母さんを思い出した。

  
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

はずれスキル『模倣』で廃村スローライフ!

さとう
ファンタジー
異世界にクラス丸ごと召喚され、一人一つずつスキルを与えられたけど……俺、有馬慧(ありまけい)のスキルは『模倣』でした。おかげで、クラスのカースト上位連中が持つ『勇者』や『聖女』や『賢者』をコピーしまくったが……自分たちが活躍できないとの理由でカースト上位連中にハメられ、なんと追放されてしまう。 しかも、追放先はとっくの昔に滅んだ廃村……しかもしかも、せっかくコピーしたスキルは初期化されてしまった。 とりあえず、廃村でしばらく暮らすことを決意したのだが、俺に前に『女神の遣い』とかいう猫が現れこう言った。 『女神様、あんたに頼みたいことあるんだって』 これは……異世界召喚の真実を知った俺、有馬慧が送る廃村スローライフ。そして、魔王討伐とかやってるクラスメイトたちがいかに小さいことで騒いでいるのかを知る物語。

支援教師はリベンジする~秘められていたコーチングの力は支援系最強でした~

九戸政景
ファンタジー
魔王を倒した勇者が学長を務める学園で事務員として勤めていたティム・チャーチは恋人と親友に裏切られ、悲しみに暮れていた。そんな中、学長であるブレット・レヴィンにティムは倒されたはずの魔王であるマーシャ・オーウェルやその側近であるバート・ラーナー、更には魔王の四天王達と引き合わされ、ティムはマーシャが学長を務める学園での教職に誘われる。

元四天王は貧乏令嬢の使用人 ~冤罪で国から追放された魔王軍四天王。貧乏貴族の令嬢に拾われ、使用人として働きます~

大豆茶
ファンタジー
『魔族』と『人間族』の国で二分された世界。 魔族を統べる王である魔王直属の配下である『魔王軍四天王』の一人である主人公アースは、ある事情から配下を持たずに活動しいていた。 しかし、そんなアースを疎ましく思った他の四天王から、魔王の死を切っ掛けに罪を被せられ殺されかけてしまう。 満身創痍のアースを救ったのは、人間族である辺境の地の貧乏貴族令嬢エレミア・リーフェルニアだった。 魔族領に戻っても命を狙われるだけ。 そう判断したアースは、身分を隠しリーフェルニア家で使用人として働くことに。 日々を過ごす中、アースの活躍と共にリーフェルニア領は目まぐるしい発展を遂げていくこととなる。

他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!

七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?

平民として生まれた男、努力でスキルと魔法が使える様になる。〜イージーな世界に生まれ変わった。

モンド
ファンタジー
1人の男が異世界に転生した。 日本に住んでいた頃の記憶を持ったまま、男は前世でサラリーマンとして長年働いてきた経験から。 今度生まれ変われるなら、自由に旅をしながら生きてみたいと思い描いていたのだ。 そんな彼が、15歳の成人の儀式の際に過去の記憶を思い出して旅立つことにした。 特に使命や野心のない男は、好きなように生きることにした。

オタクおばさん転生する

ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。 天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。 投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)

異世界転生はうっかり神様のせい⁈

りょく
ファンタジー
引きこもりニート。享年30。 趣味は漫画とゲーム。 なにかと不幸体質。 スイーツ大好き。 なオタク女。 実は予定よりの早死は神様の所為であるようで… そんな訳あり人生を歩んだ人間の先は 異世界⁈ 魔法、魔物、妖精もふもふ何でもありな世界 中々なお家の次女に生まれたようです。 家族に愛され、見守られながら エアリア、異世界人生楽しみます‼︎

異世界でネットショッピングをして商いをしました。

ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。 それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。 これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ) よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m hotランキング23位(18日11時時点) 本当にありがとうございます 誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。

処理中です...