女体化してしまった俺と親友の恋

無名

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 合気道の道場が終わると、すっかり日も暮れていて、夜になっていた。

 玲は武尊から、一人で暗いところを歩くなと言われている。たしかに、家の近くにまで不良たちが網を張っているとなっては、今の玲は危険すぎる。

 玲にとって、日本の安全神話は完全に崩壊しているが、どうしようか悩む。いちいちタクシーを呼んでいたのでは、お金が持たない。武尊の小遣いだって決まっているし、貯金だって限界がある。

 玲は仕方なく一人で帰ることにしたら、亜里沙が送っていくかと言ってくれた。

 女に送られる男がいてたまるかと、玲はすぐに断る。では、中学三年生の神木斗真ならどうかと思ったが、斗真は近所と言っても、家が反対方向だ。亜里沙の道場からだと、帰り道が違う。

 玲はため息をついて、スリッパのようになったローファーを履いた。「じゃぁな」と亜里沙に挨拶して、道場の玄関を出ると、武尊が待っていた。

「よ、よぉ。迎えに来たぜ」

 武尊は恥ずかしそうに、玲を見ていった。

「え? 武尊、お前、今日はバイトだろ?」

「いや、バイトは終わったよ」

「終わったって、まだ七時だぞ? 武尊のバイトって、九時くらいまでかかったろ?」

「今日はたまたまだよ。だから、そんなことは気にすんなよ」

 武尊は頭を掻いて恥ずかしそうにしている。

 玲には言わなかったが、玲が道場に通う火曜日と金曜日は、バイトが早く終わるように調整してもらっていた。わざわざバイト先に掛け合って、時間を調整してもらったのだ。

「俺のことはいいから、はやく帰ろうぜ」

 苦笑する武尊。びっくりする玲。その二人を見ている、亜里沙と巌。そして斗真。

「ねぇ、亜里沙姉ちゃん。あの人、武尊兄ちゃんだよね?」

「そうだね。武尊だね。斗真も久しぶりに会うんじゃない?」

「そうだけど。武尊兄ちゃん、玲兄ちゃんを迎えに来たように見えるけど?」

「あっははは。そ、それは違うんじゃない? たまたま帰りが一緒になったのよ」

 亜里沙はごまかすが、武尊と玲は見つめ合って顔を赤くしている。斗真から見たら、二人はデキているように見えて、かなり気持ち悪い。いくら玲が女体化してきているとはいえ、まだまだ男の体だ。もともと身長が180センチを超えている玲は、TS病にかかっても体は大きい。服装も学ランの玲は、まだ女の子には見えないのだ。

「なんだか、玲兄ちゃん、おかしくない?」

「だ、大丈夫よ。斗真が気にすることじゃないわ」

「そうかなぁ」

 昔の玲を知っているだけに、今の玲がおかしく見えて仕方ない斗真。かなり違和感を覚えたので、斗真は玲のことが気になって仕方なかった。

「それじゃ、亜里沙ちゃん、俺たちは帰るよ」

「あぁ、またな」

 玲と武尊は手を振って道場を後にする。二人を見ていた斗真は、なんだか腑に落ちなかった。


★★★


 武尊と玲は、道場を後にして、一緒に帰った。

 特に喋ることはなかったので、二人並んでテクテクと歩く。歩いている時、武尊は玲の横顔をチラチラと見た。玲の横顔を見ながら、武尊は思った。

 玲、本当に女になっちまうのか? まだ間に合うんじゃねぇのか? 本当に薬はないのか? 

 武尊は女になっていく玲を、黙ってみていられなかった。

 玲とは小さいころからずっと一緒だった。これからもずっと腐れ縁でいるものだと思っていた。それが、できなくなるのだ。玲がどこかの女と結婚することは予想できても、嫁に行くことは予想できなかった。
 

 親友が病気に負けて女になる。その現状に、指をくわえて見ているしかできない武尊は、複雑な心境だった。

 二人は無言で歩き続けていると、玲が急に立ち止まった。

「あ? どうした? 何かあったのか?」

 立ちどまり、黙った玲に武尊は近づく。玲の顔を見ると、真っ青になっている。

「おい。なにかあったのか? なんか言ってくれ」

 青ざめて黙り込む玲に、武尊は心配になる。

「武尊。近くのコンビニによってくれ」

「コンビニ?」

「あぁコンビニだ」

 武尊は玲の行動が理解できない。普通にコンビニへ行こうと言えばいい。コンビニくらい、いつも寄っている。なんで黙り込む必要があるのか? そう思ったが、玲は言った。

「股の間から血が出たみたいだ」

「え!?」

 武尊は玲の股間を見る。すると、制服が黒く染みになっている。

「ついにステージ3になってしまった。しかも、こんな時間に」

 玲は自分の血を見て気絶寸前だった。すでに何回か血尿を出しているが、今回は新しく出来た、女性器の方から出血しようだった。

「お、おい! 大丈夫なのか!?」

 股から血を流す親友を見て、武尊もパニック。不思議な踊りを踊って、非常にみっともない。

「きゅ、救急車か!?」

「ち、違う! コンビニに寄れ! そこで生理用品を買う!」

 玲も自分で言って恥ずかしくなるが、来るべき時が来たのだった。
 


 
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