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16 神木斗真

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 玲と同年代の門下生は、御堂流道場にはいなかった。この道場には、地域に住む会社員、定年を過ぎた老人、小学生から中学生が多かった。人数もそれほど多いわけではなく、毎日7~8人程度だ。それ以外は道場をフリースペースとして貸与し、収入を得ている。

 玲も亜里沙の家計を助けると思って、合気道に打ち込んでいる。玲は少し疲れたので、道場の端っこで休んでいたら、門下生の一人に声をかけられた。

 近所に住む中学生、「神木斗真かみきとうま」だ。

 彼はヤンチャボーズで、小さいころから玲と釣りなどをして遊んでいた。最近は交流が無かったが、亜里沙の道場に通い始めたことで、玲と斗真は偶然再会を果たした。

「玲兄ちゃん。久しぶりだな。なんだか雰囲気が変わってるけど、何かあったのか?」

 斗真はクラスでも一番のイケメンだ。亜里沙にも随分可愛がられている。

「お! 斗真か!? お前斗真か!?」

「あぁ。近所に住んでる斗真だよ」

「おお! ずいぶん背が伸びたなぁ! お前まだここに通ってたのか! 久しぶりだな!」

「うん。久しぶり。玲兄ちゃん」

 玲と斗真は拳を合わせる。

「最近はどうなんだ? 元気でやってんのか?」

 玲は親父くさい感じで、斗真に聞く。

「まぁ、最近は受験勉強が忙しいかな。合気道は俺の趣味みたいなもんだから、通わせてもらってるけど」

「そうか!」

 玲はニコニコと笑う。

「でも玲兄ちゃん。どうして急に道場に来たんだよ。亜里沙姉ちゃんとは喧嘩別れしたんだろ? 寄りを戻したのか?」

 玲は「うっ」と言葉を詰まらせる。まさかTS病とは言えない。

「いや、ちょっとな。亜里沙は関係ねぇよ。それにあいつとは付き合ってたわけじゃない」

「そうなの? でも、兄ちゃん雰囲気随分変わったぜ? なんだか可愛くなったっていうか、オカマっぽくなったっていうか。変に声も高いし」

「なに!? オカマだと!?」

 玲はその言葉を聞いて、斗真の胸倉を掴む。

「うわ!」

 斗真は急に胸倉を掴まれたのでびっくりする。オカマは玲にとって禁句であった。

「俺はオカマじゃねぇ! 断じて違う。俺はオカマじゃない! オカマじゃ……」

 玲の声がどんどん小さくなっていく。玲は斗真の胸倉を掴んだまましょげ返り、力がなくなっていく。

「ちょ、玲兄ちゃん、悪かった。苦しいよ。離してくれ」

「あ、す、すまん」
 
 玲はゆっくりと手を放した。

 斗真は元気のない玲を見て、何かあったんだと察っした。これ以上は言わないでおこうと思った。

 ただ、気になったことがあった。玲が胸倉を掴んできた時、玲の体や髪の毛から、いい匂いがしたことだった。まるで、クラスの可愛い子から漂う、シャンプーのような匂いだった。

 斗真も思春期の男の子。女の子の体や匂いには敏感だ。先ほど玲が胸倉を掴んできた時、玲から女の子の香りがしたのだ。それも、強烈に。

 斗真が不思議に思っていると、亜里沙が近寄ってきた。

「なにしてんの!? まさか喧嘩!? 道場で喧嘩はご法度だよ!」

 胸倉を掴んだ瞬間を亜里沙が見ていたのか、大声を上げて近づいてきた。

「ち、違います、亜里沙さん! ただ、玲兄ちゃんと久しぶりに会ったんで、じゃれてただけです!」

 斗真はあたふたと言いつくろう。

「そ、そうだぜ。亜里沙。喧嘩なんかしてない」

「そう? ならいいんだけど。もし喧嘩したら、うちの師範が黙ってないからね」

 師範とは、御堂巌のことだ。玲の苦手な男である。

「わ、分かった」

 玲と斗真はそれ以降何も言わず、合気道も別々に授業を受けた。ただ、斗真は久しぶりに会った玲の変貌ぶりに驚き、なんだか気になるのであった。


 
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