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15 御堂流合気道
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玲は学校の帰りに、亜里沙の家に寄って合気道を習うことになった。
完全な基礎からやり直すということで、今は受け身の練習から入っていた。激しい動きを出来るだけ避けて、ゆっくりとした動作で、確実に受け身の型を覚える。
玲は基本的なことはすでにマスターしているが、長年のブランクもあるので最初からやり直すことにした。
御堂巌が直接指導してくれることになり、体を激しく打ち付けないように、ゆっくりと受け身の練習をしていた。
「ふむ。玲ちゃんはやはり筋がいいな!」
「先生。玲ちゃんっていうのやめてくれ。昔は普通に呼び捨てだったろう」
「かわいい女の子にはちゃん付けで呼ぶのが礼儀だ」
「なんだその礼儀は……。あんた、そんなキャラだったか? 俺が子供の頃は鬼のように厳しかったのに」
御堂巌は、フェミニストだ。かわいい子にはとことん甘い。玲の顔つきもだいぶ丸くなり、かなり可愛く変化しているので、巌が気に入ったのだ。
玲は子供の頃、巌にこっぴどく扱かれていて、いつも床にぶん投げられていた記憶がある。玲はその時から、御堂巌を"オーガ“と呼んでいた。
それが今は、玲に対してすごく優しい。ものすごい掌返しで、逆に怖くなる。
「お父さん! 玲を甘やかさないでよ? みんなと同じようにちゃんと教えて!」
巌の娘、亜里沙が近づいてきた。他の門下生に投げの練習などを教えていたが、巌と玲のやり取りを見て黙っていられなくった。
「技を教えるのは上手いんだから、あとは言葉遣いを直して! 他の生徒が気味悪がるでしょ!?」
「いや、うちには女の子の門下生が少なくてな。俺も少しは女の子と絡みたくて」
巌はとんでもない言葉を口にする。とんだ変態道場主だ。まだTS病にかかって間もない玲も、巌のターゲットにされていた。
「はぁ!? そんなこと言ってるから、女の子が来ないのよ! 通報されるわよ!」
娘が父親を道場で叱る。門下生がみんな見ているのに、師範の巌は、威厳が無かった。
「亜里沙。先生って、こんなだったか? 昔はもっと、誰にでも厳しかった気がするが」
「あんたは知らないでしょうけど、うちのお母さんが亡くなってから、おかしくなったのよ。よっぽどお母さんを愛してたみたいで、それまでには他の女の子に目もくれなかったんだけど」
「そ、そうだったのか。悪いことを聞いたな」
娘に叱られて、しゅんとなっている巌。鬼のような男も、愛した人がいなくなると寂しくなるようだ。
玲はうなだれている巌に近づくと、手を差し伸べた。
「先生。俺に小手返しの技を教えてくれよ。昔みたいにさ」
気を落としている巌に優しく笑いかける玲。すると、巌は玲の手をギュッと握る。「よし、手取り足取り教えよう!」と、玲に体を密着させてきた。
「まずは入り身の動作からだ!」
巌は玲の手を取り関節を決め、流れる動作で玲を投げた。投げる時も優しくゆっくりとした動作だったので、玲は床にたたきつけられることはなかった。とても上手く、優しい教え方だったが、顔が鬼のように怖いので、玲は泣きそうだ。
「うぅ。昔のトラウマがよみがえる。やっぱり怖ぇよ~」
玲は涙目になって巌の指導を受け続けた。
亜里沙は巌と玲の不思議な合気道を見て、「はぁ」とため息をつくのだった。
完全な基礎からやり直すということで、今は受け身の練習から入っていた。激しい動きを出来るだけ避けて、ゆっくりとした動作で、確実に受け身の型を覚える。
玲は基本的なことはすでにマスターしているが、長年のブランクもあるので最初からやり直すことにした。
御堂巌が直接指導してくれることになり、体を激しく打ち付けないように、ゆっくりと受け身の練習をしていた。
「ふむ。玲ちゃんはやはり筋がいいな!」
「先生。玲ちゃんっていうのやめてくれ。昔は普通に呼び捨てだったろう」
「かわいい女の子にはちゃん付けで呼ぶのが礼儀だ」
「なんだその礼儀は……。あんた、そんなキャラだったか? 俺が子供の頃は鬼のように厳しかったのに」
御堂巌は、フェミニストだ。かわいい子にはとことん甘い。玲の顔つきもだいぶ丸くなり、かなり可愛く変化しているので、巌が気に入ったのだ。
玲は子供の頃、巌にこっぴどく扱かれていて、いつも床にぶん投げられていた記憶がある。玲はその時から、御堂巌を"オーガ“と呼んでいた。
それが今は、玲に対してすごく優しい。ものすごい掌返しで、逆に怖くなる。
「お父さん! 玲を甘やかさないでよ? みんなと同じようにちゃんと教えて!」
巌の娘、亜里沙が近づいてきた。他の門下生に投げの練習などを教えていたが、巌と玲のやり取りを見て黙っていられなくった。
「技を教えるのは上手いんだから、あとは言葉遣いを直して! 他の生徒が気味悪がるでしょ!?」
「いや、うちには女の子の門下生が少なくてな。俺も少しは女の子と絡みたくて」
巌はとんでもない言葉を口にする。とんだ変態道場主だ。まだTS病にかかって間もない玲も、巌のターゲットにされていた。
「はぁ!? そんなこと言ってるから、女の子が来ないのよ! 通報されるわよ!」
娘が父親を道場で叱る。門下生がみんな見ているのに、師範の巌は、威厳が無かった。
「亜里沙。先生って、こんなだったか? 昔はもっと、誰にでも厳しかった気がするが」
「あんたは知らないでしょうけど、うちのお母さんが亡くなってから、おかしくなったのよ。よっぽどお母さんを愛してたみたいで、それまでには他の女の子に目もくれなかったんだけど」
「そ、そうだったのか。悪いことを聞いたな」
娘に叱られて、しゅんとなっている巌。鬼のような男も、愛した人がいなくなると寂しくなるようだ。
玲はうなだれている巌に近づくと、手を差し伸べた。
「先生。俺に小手返しの技を教えてくれよ。昔みたいにさ」
気を落としている巌に優しく笑いかける玲。すると、巌は玲の手をギュッと握る。「よし、手取り足取り教えよう!」と、玲に体を密着させてきた。
「まずは入り身の動作からだ!」
巌は玲の手を取り関節を決め、流れる動作で玲を投げた。投げる時も優しくゆっくりとした動作だったので、玲は床にたたきつけられることはなかった。とても上手く、優しい教え方だったが、顔が鬼のように怖いので、玲は泣きそうだ。
「うぅ。昔のトラウマがよみがえる。やっぱり怖ぇよ~」
玲は涙目になって巌の指導を受け続けた。
亜里沙は巌と玲の不思議な合気道を見て、「はぁ」とため息をつくのだった。
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