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12 学校での生活 昼食編
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玲には武尊以外に何人か友達がいる。ほとんどが悪友でろくでもない奴らだが、いざという時には頼りになった。しかし、それも玲が男だったらの話だ。腕力もカリスマ性もなくなってしまえば、玲と一緒にいる理由がなくなる。心から信頼できるのは、玲にとって武尊だけであった。
朝のホームルームから始まり、午前中の授業、トラブルを避けて、なんとか昼休みになった。玲は決まって、体育館裏など、人がいないところで昼食をとる。飯時は喧嘩に巻き込まれやすいので、落ち着いた場所で食べるようにしているからだ。
昼食だが、玲はかならず武尊と昼食をとる。仲が良いのもあるが、昔からの習慣になっているから、特に何も感じていない。玲と武尊にとっては、当たり前の行動だ。
ランチの内容は、武尊はいつも学食のパンか、コンビニのおにぎりだ。対して、玲は母親の手作り弁当。武尊の家庭事情がうかがえるが、そこは玲も突っ込まない。
「玲の弁当はいつもうまそうだな」
「まぁ、母親が料理上手いからな」
「そうか。うらやましいよ」
「うーん。でも、おせっかいだぜ? 俺に料理を教えたがってさ。大変なんだよ」
「お前に料理を?」
「ああそうだ」
武尊は玲を見て、びっくりした顔をしている。家庭科の授業では、いつもひどい飯を作る斉藤玲が、料理。武尊は玲が料理をしていると聞いて「大丈夫か?」と聞き返す。
「まぁなぁ。でも、嫁に行くには必要だっていうからさ」
「嫁か……」
今の時代、嫁に行かなくても生きていける。子供を産むことが幸せならそれでいいが、男だった玲が、女になったからと言って嫁に行く必要はない。
「本気で言っているのか? お前は嫁に行くつもりなのか?」
「ん? いや、今はそんなこと考えてねぇけど、女になった時、武器が無いと困るからよ」
「武器か。お前の腕力はなくなりそうだしな」
玲は、女になることに対して、いろいろと覚悟を決めているようだ。
「そうだ。このだし巻き卵。俺が作ったんだ。ほら、食べろよ」
玲は武尊に向かって、「あーん」と言った。だし巻き卵を箸で持って、食べさせようとしている。
「ばっ! お前!」
「ほら食えよ。なかなかうまくできたんだ」
あーんと言って、無理やり食べさせようとする。ほとんど面白半分でやっているが、目の前にだし巻き卵を出されたので、武尊は仕方なく口を開ける。かなり恥ずかしがっている。
玲は武尊が口を開けたので、食べさせるふりをして自分が食べるつもりだった。恥ずかしがっている武尊を見て、笑いものにするつもりだったが、なぜか玲は武尊にだし巻き卵を食べさせた。まるで彼女が彼氏にするように、手を添えて、優しく食べさせてあげた。
「ん、むぐ」
「…………ど、どうだ?」
「お、おいしい。腕を上げたな」
「ほんとうか?」
「あぁ。本当においしい」
「そうか! おいしいか!」
玲は喜ぶが、武尊は恥ずかしい。
「その、雰囲気を壊して悪いが、お前、玲だよな?」
「え?」
「いや、すごい速さで性格が変わっているから、びっくりしているんだ」
「あっ……」
玲はそこでだし巻き卵食べさせた手が止まる。
二人はなんだか、気まずい雰囲気になってしまう。本当はこんなことをするつもりではなかったが、なぜか口を開ける武尊に、玲は食べさせたくなった。
「武尊、ごめん。男の俺がこんなこと、気持ち悪いよな。どうしてこんなことをしたのか、俺にもわからねぇんだ。前は出来なかったけど、今はやりたいっていうか。いや、武尊だから出来るんだけど。それが俺にはよく分からなくて」
玲はしどろもどろになっている。
「玲、俺こそすまねぇ。追い詰めるつもりはないんだ。ただ、びっくりしただけだ。悪かったよ。気にしないでくれ」
武尊はそういった後、再び二人の間に沈黙が流れる。幼稚園から一緒の二人は、今までこんな空気になったことが無い。
一秒がすごく長く感じたので、玲は耐え切れずにこんなことを言ってしまった。
「あ、ははは。そ、そうだ。こ、今度、俺が弁当を作ってきてやるよ」
「え?」
「いつも、菓子パンばかりだろ? 体に悪いから、俺が弁当を作ってくるよ。どうだ?」
「ま、まじでか?」
武尊は、玲の突然の行動にびっくりする。
「だ、だめか?」
上目づかいに聞いてくるので、武尊は唾をごくりと飲み込む。ほとんど女のような顔で、甘えるように聞いてくるのは、幼馴染でもドキドキする。
武尊はノーマルだが、玲が女になってきているのは知っている。だから、玲の行動を気持ち悪いとまでは思わなかった。
「あ、あぁ。作ってくれるなら、喜んで食べるよ」
「そうか! 毒見役が見つかって助かったぜ!」
玲は毒見役と言ったが、武尊が食べただし巻き卵はうまかった。形は崩れていたが、味はおいしかったのだ。
「期待して待ってろよ!」
武尊はうれしくもあったが、悲しくもあった。病気と言うのは、心まで変えてしまうものだと。玲の男らしさが無くなくなるのは悲しいが、かわいらしくなっていく玲もまた、武尊にはうれしかった。
「あぁ。期待しないで待ってるよ」
朝のホームルームから始まり、午前中の授業、トラブルを避けて、なんとか昼休みになった。玲は決まって、体育館裏など、人がいないところで昼食をとる。飯時は喧嘩に巻き込まれやすいので、落ち着いた場所で食べるようにしているからだ。
昼食だが、玲はかならず武尊と昼食をとる。仲が良いのもあるが、昔からの習慣になっているから、特に何も感じていない。玲と武尊にとっては、当たり前の行動だ。
ランチの内容は、武尊はいつも学食のパンか、コンビニのおにぎりだ。対して、玲は母親の手作り弁当。武尊の家庭事情がうかがえるが、そこは玲も突っ込まない。
「玲の弁当はいつもうまそうだな」
「まぁ、母親が料理上手いからな」
「そうか。うらやましいよ」
「うーん。でも、おせっかいだぜ? 俺に料理を教えたがってさ。大変なんだよ」
「お前に料理を?」
「ああそうだ」
武尊は玲を見て、びっくりした顔をしている。家庭科の授業では、いつもひどい飯を作る斉藤玲が、料理。武尊は玲が料理をしていると聞いて「大丈夫か?」と聞き返す。
「まぁなぁ。でも、嫁に行くには必要だっていうからさ」
「嫁か……」
今の時代、嫁に行かなくても生きていける。子供を産むことが幸せならそれでいいが、男だった玲が、女になったからと言って嫁に行く必要はない。
「本気で言っているのか? お前は嫁に行くつもりなのか?」
「ん? いや、今はそんなこと考えてねぇけど、女になった時、武器が無いと困るからよ」
「武器か。お前の腕力はなくなりそうだしな」
玲は、女になることに対して、いろいろと覚悟を決めているようだ。
「そうだ。このだし巻き卵。俺が作ったんだ。ほら、食べろよ」
玲は武尊に向かって、「あーん」と言った。だし巻き卵を箸で持って、食べさせようとしている。
「ばっ! お前!」
「ほら食えよ。なかなかうまくできたんだ」
あーんと言って、無理やり食べさせようとする。ほとんど面白半分でやっているが、目の前にだし巻き卵を出されたので、武尊は仕方なく口を開ける。かなり恥ずかしがっている。
玲は武尊が口を開けたので、食べさせるふりをして自分が食べるつもりだった。恥ずかしがっている武尊を見て、笑いものにするつもりだったが、なぜか玲は武尊にだし巻き卵を食べさせた。まるで彼女が彼氏にするように、手を添えて、優しく食べさせてあげた。
「ん、むぐ」
「…………ど、どうだ?」
「お、おいしい。腕を上げたな」
「ほんとうか?」
「あぁ。本当においしい」
「そうか! おいしいか!」
玲は喜ぶが、武尊は恥ずかしい。
「その、雰囲気を壊して悪いが、お前、玲だよな?」
「え?」
「いや、すごい速さで性格が変わっているから、びっくりしているんだ」
「あっ……」
玲はそこでだし巻き卵食べさせた手が止まる。
二人はなんだか、気まずい雰囲気になってしまう。本当はこんなことをするつもりではなかったが、なぜか口を開ける武尊に、玲は食べさせたくなった。
「武尊、ごめん。男の俺がこんなこと、気持ち悪いよな。どうしてこんなことをしたのか、俺にもわからねぇんだ。前は出来なかったけど、今はやりたいっていうか。いや、武尊だから出来るんだけど。それが俺にはよく分からなくて」
玲はしどろもどろになっている。
「玲、俺こそすまねぇ。追い詰めるつもりはないんだ。ただ、びっくりしただけだ。悪かったよ。気にしないでくれ」
武尊はそういった後、再び二人の間に沈黙が流れる。幼稚園から一緒の二人は、今までこんな空気になったことが無い。
一秒がすごく長く感じたので、玲は耐え切れずにこんなことを言ってしまった。
「あ、ははは。そ、そうだ。こ、今度、俺が弁当を作ってきてやるよ」
「え?」
「いつも、菓子パンばかりだろ? 体に悪いから、俺が弁当を作ってくるよ。どうだ?」
「ま、まじでか?」
武尊は、玲の突然の行動にびっくりする。
「だ、だめか?」
上目づかいに聞いてくるので、武尊は唾をごくりと飲み込む。ほとんど女のような顔で、甘えるように聞いてくるのは、幼馴染でもドキドキする。
武尊はノーマルだが、玲が女になってきているのは知っている。だから、玲の行動を気持ち悪いとまでは思わなかった。
「あ、あぁ。作ってくれるなら、喜んで食べるよ」
「そうか! 毒見役が見つかって助かったぜ!」
玲は毒見役と言ったが、武尊が食べただし巻き卵はうまかった。形は崩れていたが、味はおいしかったのだ。
「期待して待ってろよ!」
武尊はうれしくもあったが、悲しくもあった。病気と言うのは、心まで変えてしまうものだと。玲の男らしさが無くなくなるのは悲しいが、かわいらしくなっていく玲もまた、武尊にはうれしかった。
「あぁ。期待しないで待ってるよ」
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