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4 変わっていく肉体

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「進行が速いですね。すでにステージ2が終わりそうだ」

 玲はあれから大学病院に通院している。医者の診察を受け、玲は現在の状態を聞いていた。

「骨格が女性になり始めています。痛みが出るでしょうから、痛み止めを差し上げます。それと、女性ホルモンの分泌で、容姿が変わっていくでしょうが、それは仕方ありません」

 診察室で、医者の話を聞きながら、玲は青ざめていた。

 自分の肉体から筋肉が減っていく。顔が女みたいになっていく。股間の一物もすっかり小さくなってしまった。なんだか胸も出て来た。

 病気の進行が速すぎる。まだ一か月と経っていないのに。

「先生! これじゃ学校に行けねぇよ! なんとか卒業まで男の体でいられるようにしてくれ! 頼む!!」

 玲は頭を下げるが、医者は首を横に振る。

「男性ホルモンを打って進行を遅らせる方もいますが、止めた方がいいです。ホルモンバランスがさらに崩れ、下手をしたら死にますよ」

 医者の言葉を聞き、玲は愕然とする。

 このままでは学校で笑いものになる。それどころか、今まで俺にペコペコ頭を下げていたやつらが、手のひらを返す可能性がある。

 こんな状態で男に襲われたら、一発でヤラれる。
 
「やべぇな。本気で鍛えねぇと」

 玲は診察室を後にすると、今後の身の振り方を考える。

 女になるのはもう仕方ない。ただ、これからどう生きていくかだ。医者が言うには子宮が作られ、子供を産める体になるという。信じられないが、男であった玲が子供を産めるようになるのだ。

「俺が男とセックスする? 勘弁してくれよ……」

 玲は自宅に向かってトボトボと歩き始めた時、一人の男が見計らったように現れた。

 宮藤武尊だ。玲の親友である。

「よ、よう? 大丈夫か? 病気の方はどうだよ?」

 実は武尊は玲のことを誰よりも心配していた。玲は腐れ縁ではあるが、それでも唯一無二の親友と呼べる奴だ。武尊は、玲を陰ながら守っていた。

「あ? 武尊か? なんでここにいる? お前今日はバイトじゃねぇのかよ」

 武尊は工事現場のバイトをしている。自慢の腕力を活かしたバイトである。

「いや、今日は現場が休みなってよ。たまたまこっちを通りがかっただけだ」

 ウソである。武尊は玲が心配になって、病院付近でウロウロしていた。バイトは連絡を入れて休んだ。

「そうかい」

 玲は「はぁ~」と深いため息をつく。

「お、おい。お前らしくねぇぞ? ため息なんて」

「それは分かってるけどよ。見ろよこれ」

 玲は恥ずかしげもなく、着ていたシャツをはだけた。膨らんだ胸を武尊に見せる。

「な!?」

 武尊は玲の大きくなった胸を見る。まだAカップくらいだろうか? 小さいが、確実に膨らんでいる。

「顔だって、女顔になってきてるしよ。マジだなこりゃ。武尊さぁ、明日俺と稽古してくんねぇか? 久しぶりに合気道やるからよ。ほんとはアイツの道場に行くべきだと思うんだけど、なかなか行きづらくてよ」

 玲は稽古相手になってくれと言ったが、武尊は言葉を無くして直立不動。

 武尊は玲に見せられた胸が信じられない。驚愕しているようだ。

「あ? なんだよ。そんなにびっくりしたかよ。まぁそうだよな。今まで男だったからな。ガキの頃は一緒にちんこ触り合いっこしたよな! ははは! どうだ? 触ってみるか? 武尊ならいいぞ。触らしてやる」

 そう言って、玲は武尊に体を寄せる。

「ちょ! ちょっと待て! 何言ってんだ玲! 俺たちは男同士だろ!」

「は? 別にいいぜ武尊なら。今さら恥ずかしがることか? 病気になる前だって銭湯一緒に行ったろ。この体のこと知ってるの、家族以外にお前だけだし、確かめてくれよ」

 玲ははだけた胸を、武尊に無理やり触らせた。玲自身、誰かに触れるとどうなるか、確認しておきたかった。

 胸は女の弱点でもあるらしい。喧嘩の時邪魔ならば、考えなければならなかった。

「ちょ、ちょっとおい! うわ! やわらけぇ!!」

「ん! かなり敏感なんだな。女の胸って」

 玲は武尊に胸を触られて、ビクッと体を震わせる。

 一つ言っておくが、ここは人通りこそ少ないが、車通りは多い国道脇の歩道だ。その歩道の隅っこで、玲と武尊は乳繰りあって変態みたいなことをしている。ホモか、ゲイか。とにかく腐女子が見たら飛び上がって喜ぶ光景だ。

「でもよく分かった。胸がどんなもんか。喧嘩にでもなって、胸が殴られたらどうなるか知りたかったんだ。そうか。これは殴られたら一発で終わりだな」

 玲は武尊の手を取ったまま、胸を揉ませまくる。

「す、すげぇやわらけぇ」

 人通りが少ないとはいえ、これはまずい光景だ。早くやめないとまずい。

「いい加減にしろ玲! 誰かに見られたらヤバい!!」

 武尊は玲から勢いよく離れる。顔を赤くして、呼吸を荒げている。

「なんだよ。そんなに騒ぐなよ。でも分かった。とりあえず胸にはさらしでも巻いておくか」

 クールな玲は、胸を揉まれても普段通り。いつも筋肉の触り合いみたいなことをしていたので、武尊に胸を触られても何も感じない。

「玲! お前やべぇぞ! 胸のこともそうだが、羞恥心がない!!」

 武尊は案外ウブだ。今まで女と付き合ってきたことは一度もない。逆に玲はかなりの女をとっかえひっかえしている。この程度のことで動じない。というか、武尊だから動じないのだ。これが気持ち悪い中年親父なら、玲も気持ち悪くてなってぶん殴っている。

「武尊。なに赤くなってんだよ。まさかお前、俺に惚れたのか? うぇ。気持ち悪いやつだな」

 玲は笑いながら冗談交じりに言うが、武尊は笑っていない。

「玲。よく聞け。恥ずかしいから一回しかいわねぇぞ。俺、お前のこと守ってやる。お前が他の男に犯されるのなんか、絶対見たくねぇ」

 玲は武尊の言葉に、一瞬フリーズする。

「え? は? 犯されるって、お前、俺はまだ男だぞ? 何言ってんだ?」 

 確かに玲は女に近づいているが、まだまだ男顔だ。使える筋肉や、腕力もばっちり残っている。

 他の男に犯されるなど、今すぐ騒ぐことではない気がする。

「おい。俺はまだ男だ。女になってない。まだ時間はある。そこまで心配しなくても大丈……」 

「大丈夫じゃない!!」

 いつもボーっとしていて、ボサボサ髪の武尊。垂れ目でやる気のないこの男が、いつになく真剣である。武尊は、玲を本気で心配していた。

「お前、マジで病気だ。本当に女になって行ってる。玲、俺が助けてやる。お前には何度も助けられてっから、ようやく借りを返せる」  

「お、おう。そうか。た、助かるよ」

 玲は、武尊の急な心変わりに驚いている。

 いきなりどうしたんだこいつは? 俺の胸を触らせたからか? あれだけで? マジかこいつは。チョロ過ぎるぞ。

 とにかく玲は助かった。怪物級の腕力を誇る武尊は、他校でも敵なしだ。こいつといれば絡まれることはない。余計な喧嘩も避けられる。合気道の稽古相手にもちょうどいい。

「今度からは出来るだけ俺と行動しろよ。暗い所を歩くなよ!!」

「あ、ああ。だけど武尊、お前さ、お袋みたいなこと言うんだな。まじキモいぞ」

「いいから言うことを聞け!」

「わ、分かった」

 玲は武尊が本気で助けてくれることになって、非常に助かった反面、心の中がぐちゃぐちゃになっていた。

 武尊の「守ってやる」という言葉に、なぜか心がモヤモヤしたのだった。


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