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25 玲の仰天行動

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 ある日曜日。

 神木斗真かみきとうまは、体力づくりに河原で一人、運動をしていた。ジャージを着て、普通に運動をしていた。

 河原なので、近くには大きな川が流れており、釣り人の姿もちらほら見える。空も晴れているし、すごく平和な休日である。

 この神木斗真かみきとうまと言う少年は中学三年生で、亜里沙の道場に通う男の子である。玲や武尊とは幼馴染のような関係で、小さいころからの付き合いだ。

「はぁはぁ。勉強ばかりで体力が落ちてるなぁ。今度の市民マラソンで優勝できるかなぁ?」

 斗真は勉強の合間を縫って、運動をするのが日課になっている。マラソン大会も毎年出場しているので、受験があろうとなかろうと関係ない。

「よーし。もう一本ダッシュ練習するか」

 息を整えると、よーいドン。斗真はダッシュを開始する。

 普通の人から見たら、中学生が走り込みをしているだけの普通の光景だ。とくになんとも思わない。斗真はこの河原の背景の一部として溶け込んでおり、まさに空気のような存在。好青年を絵に描いたような斗真は、誰が見ても人畜無害であった。

 この、平和でのどかな河原に、一人の女? が現れた。

 彼女は白のワンピースに麦わら帽子をかぶっており、右手には虫網が握られていた。肩には虫かごもかけられている。

 どこかのお嬢様が、のどかな河原に、虫をとりに来た。そんな出で立ちであった。

 彼女は陽気な鼻歌を歌いながら、土手を降りると、いきなり這いつくばった。雑草が生い茂る土手の下を、匍匐前進ほふくぜんしんしているのだ。彼女は虫網を持ってガサゴソと何かをしており、見た目は完全に不審者だ。

「な、なんだあの人は」

 斗真は、その変な女をすぐに見つけた。見た目はものすごく清楚で綺麗なのに、土手を這って移動している。動きがかなり素早いので、ゴキブリのように見えてしまう。

 ものすごく平和な河原だったのに、この不思議な女が来たせいで、雰囲気はぶち壊し。川で釣りをしていたおじさんたちも気づいたようで、その不思議な女に注目していた。

 斗真はダッシュ練習を止めて、その不思議な女を遠くから観察した。何をしているのかと思ったら、バッタを捕まえていた。

 他の虫には興味が無いようで、バッタだけを捕まえている。あっという間に虫かごがいっぱいになり、女は満足そうな顔をしている。白いワンピースが、土で汚れてしまっていたが、気にしてない感じだ。

 斗真は彼女を観察していると、見覚えのある顔だと気づいた。

 しかし、あんなにプロポーションの良い美女は、斗真の知り合いにいない。胸もお尻も、グラビアアイドル並みに突き出ており、顔もめちゃくちゃ可愛い。

 だが斗真にはその女が、「知り合いの男」に似ていると思った。

 まさかと思ってその女に近づくと、なんと向こうから手を振ってやってきた。

「おっ! 斗真じゃないかぁ! 最近道場に来ないから心配したんだぞぉ! なんだ? 学校が忙しいのか?」

 その女はニコニコした顔で、斗真に走り寄った。胸がブルンブルン揺れていて、斗真には目の毒だ。

「えっと、どなたですか?」

「何言ってんだ。俺だよ俺」

「俺って言われても」

 新手のオレオレ詐欺かと思ったが、斗真にはその女性が「斉藤玲」に見えて仕方ない。玲に姉や妹がいたとは聞いていないし、一体誰だとおもった。

「あぁそうか。斗真には俺が女になったって言ってなかったな。俺だよ。斉藤玲だよ」

「…………」

 斗真は絶句してしまう。一瞬、脳みそが思考停止した。

「斗真、急に道場来なくなったけど、学校や塾が忙しくなったのか?」

「…………」

 斗真はフリーズしたまま、しばらく動かない。玲の巨大なロケットおっぱいと、見事な腰のクビレ。そしてムチムチなお尻に圧倒されて、何も言えない。ワンピースの上からでも、玲の見事なボディラインは、丸わかりだ。

「どうした? 熱でもあるのか?」

 顔を真っ赤にしている斗真。

 玲は普段通りに接しており、斗真のおでこに手を当てて熱を測ってみた。

「うん。平熱だな」

「うわわわぁ!」

 斗真は急におでこを触られたので、後ろに飛び退く。

「なんだ? どうした?」

「ちょ、ちょっと待ってよ! 玲兄ちゃん? ほんとに玲兄ちゃんなの?」

「あはは。そうだよ。もう女になるのを、隠さないことにしたんだ。学校にも女で通うことが決まったしな」

 玲は照れ臭そうに、舌をペロッと出した。そのしぐさが妙に色っぽくて、斗真は言葉を失う。

「え、えっと。失礼かもだけど、聞いて良い?」

「あぁいいぞ。何を聞きたいんだ?」

「その、玲兄ちゃんはニューハーフになったってこと?」

「ニューハーフ? いんや違うよ。まだ途中だけど、本物の女になるんだよ。TS病って奴で、男から女に性転換する病気なんだ。子供も産める体になるから、ニューハーフとは違うかな」

「えっ………」

 斗真は再び絶句する。

「ははは。黙っててごめんな。言う機会が無くてさ。でも、どうかな。まだ完全に女になってないんだけど、俺って結構女らしくなったかな?」

 玲は腰をくねらせて、ウッフンとわざとらしいポーズをする。先ほど土手を這いまわっていたせいで、顔に土が付いていたが、その美しさは本物だ。ボーイッシュな顔立ちをしているが、顔は女性その物。体はグラビアアイドルのようにムッチムチ。

「ク、クラスの女の子の誰よりも、可愛い」

 斗真は玲の変わりように驚く。最後に道場で見たのは結構前で、玲がおかしいとは思っていた。だが、いきなりここまで変わるとは思わなかった。

「玲兄ちゃん。その胸、本物?」

 斗真はシリコンでも入れたのかと思った。TS病と言われても、イマイチ信じられない。

「本物だよ」

 玲は巨乳を通り越した爆乳を、ゆさゆさと揺らしてみる。揺れ方がプリンのようで、シリコンのような感じではない。

「す、すごい……」

 目の前で揺れる爆乳に、ごくりと、つばを飲み込む斗真。ツンと上を向いた、見事なおっぱいだ。服の上からでも、その大きさがよく分かる。

「触らせてあげたいとこだけど、武尊や父さんに言われてるんだ。お前には貞操観念がないから気を付けろって。だから、おさわりは無しだ。ごめんな」

「…………」

 斗真も、あわよくば触らせてくれないかと思ったが、それは失敗した。斗真も女の子に興味がある年頃だ。目の前にこんな絶世の美女がいたら、触りたくもなる。

「あ、あのさ。玲兄ちゃんが病気になったのは、仕方ないと思うよ。それは驚いたけどさ、休みの日に土手で這いつくばって、何しているの? あんまり変なことすると、通報されるよ?」

 確かに、美女が土手に這いつくばって虫取りをしている姿は異様だ。誰にも迷惑をかけていないから良いが、警察官に見られたら職務質問されるかもしれない。 

「あぁそれか。バッタを取ってたんだ」

 玲は虫かごに入れたバッタを見せる。かなり大きなバッタが、ぎっしりと詰まっている。

「バッタ? こんなにバッタを取ってどうするんだよ」

「食うんだよ」

「…………え?」

 ギョッとする斗真。バッタを食べる? 虫だぞ? 

 玲が採っていたのは、春にでもとれるツチイナゴという種類らしい。玲自身よく分からずに取っているが、昔から採っているので、問題ないと思っている。

「茶色いイナゴは、つくだ煮よりも焼いて食べる方が旨いんだ。多分」

 玲自身、調理法はよく分かっていない。いつも焼いて食べているから、気にしていなかった。

「た、食べるって、どこで?」

「今から家で焼いて食べるよ。斗真も食べるか?」

 斗真は首を横に振って遠慮する。バッタは虫の中でも好きな方じゃない。勘弁してもらいたい。

「なんだ、エビみたいでうまいんだぜ」

 玲は二カッと笑う。土まみれで笑った顔は、ワルガキそのもの。お嬢様みたいな恰好をしていても、中身は斉藤玲である。普通の女とはわけが違う。

「玲兄ちゃん、いつもそんなことしてたの?」

「いつもじゃないよ。たまに食べるんだよ」

 ケロッとした顔で、たまにバッタを食べると言う、美女。玲の心は乙女化している一方で、男の子の心も普通に残っている。バッタを食べるのは普通の男の子でもしないが、やんちゃな感じは斉藤玲そのものだ。

「………それ、全部食べるの?」

「いや、半分くらい武尊に食わそうかなと思ってる。弁当にでも入れてやるつもりだ。バッタ弁当だ!」

 武尊兄ちゃん、可哀想だな。頑張って食べてくれ。

「最初はびっくりしたけど、話してみると、やっぱり玲兄ちゃんだね。女の子になっても相変わらずだね」

「そうか? まぁ、俺だからな!」 

 玲は大きな胸を突きだし、えっへんとふんぞり返る。ブルンブルン揺れる巨乳に、斗真は釘づけだ。バッタなどどうでもいい。

「あはは。なんだ。俺のおっぱいが気になるのか? 悪いな。この体は武尊専用なんだ。武尊がもし俺を嫌いになったら、その時は斗真が俺を嫁にもらってくれよ。そしたら、好きなだけ触らしてやるからよ」

 あっけらかんと言う玲。歯に衣を着せない子であった。

「………。玲兄ちゃん、いや、玲姉ちゃん。そのセリフ、絶対に忘れないからね。約束だよ」

「ん? おういいぜ!」

 相変わらず、貞操観念がぶっ飛んでいる。出会った男に触らせないだけマシだが、とんでもない約束をしてしまう。

「でも、すごいな。まさか玲兄ちゃんが、こんなに美人だなんて……」

 斗真は玲の美しさに惚れ込んでしまった。化粧をして別人のように美しくなっていたので、クラスの女子よりも玲の方が好きになったのだ。

「さぁて、バッタの串焼きだぁ」

 玲は服に付いた土を払い落すと、スキップをしながら土手を走り去った。  

 斗真は、これから串焼きにされるバッタと、食べさせられる武尊に、合掌した。


★★★

 
 後日、バッタ弁当を出された武尊は、泣きながら食べた。だが、食べてみると意外と旨く、武尊も気にいった。週末には、土手でバッタを取る武尊と玲の姿が、たびたび目撃されるようになったという。





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感想 3

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みんなの感想(3件)

猫屋敷
2019.07.29 猫屋敷

一気読みしました。面白かったし二人のやり取りが、微笑ましかったです。
続き読みたいです。

解除
ことみん
2018.05.07 ことみん

とても面白いです!
一気に読んでしまいました。
玲くんが少しづつ女の子の心になる様子がとても自然で、本当にこんな病気があるかも…と思ってしまいます。
ぜひ続きをお願いします!

無名
2018.05.07 無名

ありがとうございます。ストックが4000文字ほどあるのですが、自分的に微妙な展開なので、公開していませんでした。更新が非常に遅いですが、よければお待ちください。

解除
あー
2017.10.03 あー

初めまして。あーともうします。
楽しく拝見させていただいています。

女性の生理について:生理というのは不要になった子宮粘膜が剥がれ落ちて血と一緒に体外へ流れ出ます。膣というのは、通り道です。膣の粘膜が剥がれ落ちることではないです。

無名
2017.10.11 無名

返信遅れ失礼しました。アドバイスありがとうございます

解除

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