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三章
3-71 喧嘩売ってんのか? 買うぞ?
しおりを挟む「上の奴は下の奴の事なんかマジで考えねぇよな。自分たちが良ければそれでいいんだからよ。気楽でいいですね!」
このタイミングで、異を唱えたのはカラーだった。今は部下に上司が振り回されていたように思えるが、彼にとっては違ったのだろう。
非常に苛立った様子で、がなり立てた。
「カラーさん、そういった言い方は無いのでは?」
「そうですよぉ。リリウムさんは性格に難があるとは思いますけどぉ、自分達だけぇ、っていうのじゃないと思うんですぅ」
すぐにジギタリスと得体のしれない人が注意したが、カラーは思いっきり顔をそむけた後、偶然視線の先にいたオレを睨みつける。
「魔法使い様や精術師様も、勝ち進んでオメデトウございます。やっぱいいよな、特別な力を持っている奴らは」
なんか腹立つな。上司に向かってグチグチしてたかと思えば、急に精術師の悪口かよ。喧嘩売ってんのか? 買うぞ?
「は? どういう意味だよ」
まずは買う準備を整えて返す。
「そのまんまの意味だよ。一応、魔法使いには魔法は魔陣符のみって制限があるけどよ、お前等精術師はなんも制限ねえじゃねえか」
カラーはこちらに文句を言ってから、チロっとライリーさんの方を見て、大袈裟に肩を竦めた。
「ま、精術師がカサブランカ様の従者になったからな。その関係での贔屓だろ? いいよなぁ、権力者にコネがあって!」
はぁぁぁ? 本格的に喧嘩売ったな? 買うからな?
イラっとしたのはオレだけではなく、スティアは勿論、エーアトベーベン兄弟に、ベルンシュタイン姉弟、テロペアに至るまで「はぁ?」と、眉間に皺を寄せる。精術師の中で唯一反感の色を示さなかったのは話題に上がったライリーさんで、彼女は「そうきますかー」と困ったように笑った。
この状況で笑顔を絶やさないってすごくないか? オレは無理だ。眉間に刻まれた皺がぜんっぜんゆるむ気配がない。
「ま、あながち間違いでもないかな?」
「ちょ、ちょっと、それ、どういう意味ですか!?」
この緊迫した状況の中で、のんびりと声を上げたのはリリウムさんだ。彼が贔屓を肯定したものだから、慌ててライリーさんが咎める。
思わぬ追い風に、端的に言えば「贔屓だやーいやーい」ってしているカラーは、フン、と大きく鼻を鳴らすと「そら見た事か!」と大声を出した。めんっどくせぇ! うぜぇ!
「最近まで精術師が管理官になる事はなかったからね。皆、精術や精霊の重要性や、厄介さを分かってないんだよね。だから、この大会でちょっとでもその辺が周知されればいいなぁ、というのはあるよ。管理官にとっては訓練にもなるしね。言わなかったっけ?」
「言ってないですよ……」
上司に意図を伝えてなかったのか、はたまたカサブランカ様から先にリリウムさんが聞いて、そのまま伝えていなかったのか。なんにせよ、どこからどう見てもライリーさんの受難だ。
あと、精術師を厄介扱いって、結構複雑な気分になるんだけど。
「やっぱり特別扱いじゃねぇか!」
カラーはムッとした顔をしながら、オレのチームやベルのチームの面々を睨む。
よーし、そろそろ喧嘩を買っちゃうんだからな!
「ふんっ、権力者にコネがあるのなら、もっと生きやすいだろうな」
……買う、つもりだったんだけどな。
オレが口を開くよりも先に、スティアがサクッと口を挟んだ。オレが怒ってるって事は、当然スティアも怒っているっていう事だ。
オレ達兄妹は、迫害されこそすれ、優遇をされてきたことは無い。かなり思う所はある。
「しらばっくれやがって! じゃあ、今までどんな酷い目にあってきたのか言ってみろよ!」
「不幸自慢をするつもりは無い。お前と違ってな」
「何だと――」
スティアは軽く文句を言っただけで、立ち上がる。これ以上カラーと話すつもりは無いようだ。
「どこに行くんだ?」
とはいえ、立ち上がった意図は気になる。オレはスティアに聞くと、直ぐに料理の方を指差された。
「出来立ての料理が追加されたようだからな。こんな奴に構うよりも、美味しい物を美味しいタイミングで取りに行く方がよほど有意義だ」
指差した方に視線を向ければ、確かに新しい物が追加され、湯気がほかほかと上がっている。見るに、どうもスティアの好物であるジャガイモ料理のようだ。
「なるほど、いってらっしゃい」
「あっ、スティアちゃん。わたしも一緒に行きます」
オレが大きく頷くと、フルールも立ち上がる。
「あ、アリアの分もおねがーい」
「へっ? ま、まって、いらない……」
「おねがーい」
「任せておけ」
続いたのはテロペアと、アリアさんだ。もはや完全にカラーを無視し、いつものペースへと強制的に移行している。
「あたしも行きたい!」
「はい、シアは座って。まずはさっき持って来たのを食べてからにしなさい」
すかさずシアも手を上げたが、こっちは所長に止められて撃沈。最初にテンションが上がって沢山の料理を取ってきていたシアの前には、食事が乗った皿が数多く並んでいた。
「ぬぅ」
「食べた頃に、新しいのが出来立てで出るから。きっと」
「確かに。今回のタイミングはあたしを呼んでいなかったんだね」
「え? あ、ああ、うん、そう、だね?」
さては所長、全然意味が分かってないな?
適当に相槌を打っているのがまるわかり状態だが、シアは納得したようで目の前の食事に手を付け始めた。
こうしてスティアとフルールが料理を取りに行くのを見送ると、カラーは舌打ちをし、そのカラーをジギタリスと得体のしれない人が指導。リリウムさんは一皿分食べ終えると、今度はシアの周りに行ってちょっかいをかける。
ライリーさんは大きくため息をついて、先ほどまでリリウムさんが座っていた席に着くと、やっと食事にありついた。思わず「お疲れッス」とルースが声をかけてしまう程度には、笑顔に疲れが滲んでいる。どんまい。
ラナはカラーに物申したそうではあったが、こちらはディオンが止め、おおよそ普通の食事の席へと雰囲気を変えたのであった。
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