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二章
2-3 チャラチャラしたメガネ。略してチャラメだよ
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そいつは唯一見えている口元をニヤっとさせると、一気に加速し、ベルを抱きしめる。……はぁ!? 抱きしめたぁぁぁ!?
なにこれ、セクハラ? 男相手だけど、セクハラか!?
「え、……え?」
ベルは目をまん丸くしながら、自分に抱き着いた相手を見る。至近距離過ぎてって、いうか、密着してるせいで、っていうか、至近距離なのにベルからも顔が窺えなかったのだろう。
すると男はベルから少し離れ、帽子のつばを上げて見せた。
猫を思わせる紫色の瞳にグラスチェーン付きのオシャレっぽい眼鏡、銀色の外跳ねの髪。人懐っこそうな表情を浮かべるそいつは、オレやベルとそれほど変わらない年齢に見える。
「ルース!」
「お久ッス、ベル!」
そのオレ達と同じくらいの男に向け、ベルは満面の笑みを浮かべた。
ジギタリスに対するものよりも更に明るい響きを持った声で、これまたかなり珍しく花が咲いたように無邪気に笑うベルは、男だが可愛い。
イケメンってズルいよな。無邪気に笑うだけでこれだけ魅力的に見えるんだから。同じ人間なのに、オレとはどうしてこうも違うのか。
「あー、ベルは今日もちょーカワイイッス! 持って帰って寮の部屋に置いて、行ってらっしゃいとお帰りを言って欲しいッス!」
「やだなぁ、ルース。それじゃあ俺が奥さんみたいだろ」
なんだその感覚。どっちもわかんねーぞ。
あと、こいつの存在も謎のままで、俺もシアも置いてけぼりだ。
アリアさんは……あ、肉体だけ置いていくとか止めて下さい。精神もこの世にしっかり置いておいて下さいね。
「オレの為に毎日パンを焼いて下さいッス」
「ヤーダよ。お前がたまに遊びに来ればいいだけの話なんだし」
「うわぁぁ、何言ってもカワイイッス。ベル、マジ天使」
オレの内心などなんのその。そいつはまたベルとの距離を詰めると、グイグイ頬ずりをかました。
ベルに嫌がっている様子は見られないし、まぁ、いいか。若干キモいけど。
「あ、フー先輩も、チーッス」
ベルに頬ずりをしながら、そいつはチラっと所長の方を見た。
「おやまぁ……相変わらずチャラチャラしてるね」
「お久の後輩に対して、キツくねーっスか?」
「ついでのように挨拶した君には言われたくないよ」
所長とも顔見知りだったようだが、そいつにそっけない態度をとる。だからといって、嫌な感情を持っている訳ではなさそうだ。
どこか親しみがあるような、あえてそっけなくしているような、そんな風に見える。
「……彼は――」
「チーッス、お初ッス。オレはフルゲンス・ドライツェーン・ヒルシュ。ルースでいいッス」
ジギタリスが紹介するよりも先に、チャラチャラした態度でチャラチャラしたやつが名乗る。
「オレはベルの幼馴染ッス。フー先輩は、同じ学校で先輩後輩だった時代があるんスよ」
「あー、ベルの幼馴染か」
それで仲がよさそうだったんだな。抱き着くくらい。
「うん。俺の幼馴染で友達。こんなにチャラついてるけど、成績は優秀だったんだぞ。チャラいけど」
「うッス。オレ、見た目通りチャラいッス」
自分で言うのか自分で。
ベルみたいな品行方正っぽい雰囲気のヤツの友達というにはチャラチャラし過ぎている気はするが、仲が良いし、友達っていうのはジャンル分け出来るものではないのだろう。友達のいないオレは憶測でしか語れないのが切ないが。
「つーワケで、オレと仲良くしてほしいッス。ボインのー……シアちゃん!」
ルースは少し考えた後に、シアに向かってウインクした。多分事前資料で覚えて来たのだろう。
「うわー、寄らないで。チャラメ」
「チャラメって何ッスか」
「チャラチャラしたメガネ。略してチャラメだよ」
シアがにっこりと答える。今回のニックネームは距離を感じる。
あーよかった、オレはルトで。ルトの方が明らかに仲良さそうじゃん。
「オッケーッス。オレ、今日からシアちゃんのチャラメッス」
「……ルト、あたしは逃げ隠れたい」
にっこり笑っていたはずのシアは、ジリっと下がってルースと距離を取った。本人的にもまさかの反応だったらしい。
「アリアちゃん、大丈夫なんッスかー?」
シアに逃げ腰になられたのもなんのその。全く気にした様子も見せず、今度はソファーに横たわる麗しきアリアさんを見た。
「ルース、アリアに近づいたら容赦なく攻撃するよ」
「えー、フー先輩キツくねーッスか?」
「体調の悪いか弱い女の子にお前を近づけたら、きっと後悔する事になると思うんだ」
所長に同意同意! オレの麗しきアリアさんを変な目で見んなー!
「んな事ねーッス。オレ、チャラい系紳士ッス」
「チャラいと紳士は同居しないと思うの……」
シアがじりじりと逃げ続け、ついにはオレの後ろに隠れながら呟いた。
「えー、そこまで言うなら、シアちゃんオレとデートしないッスか? そしたら紳士なのを証明できると思うッス」
「その前に絶対食べられる」
「それよりも先に、絶対お前は迷子になる」
「そんでもって、絶対行方不明大事件になるな」
「ホントだ! 容易に想像できちゃう!」
衝撃の事実! シアはデートっぽいものでも迷子になれる!
「……あー、続けてもいいですか?」
いつまでも何も始まらないオレ達にしびれを切らしたのか、ジギタリスが割って入る。割って入るっていうか、割って頂いたっていうか。
「え、えー? 久しぶりの再会なんだし、もうちょっとゆっくりとかー?」
「続けさせて頂きますね」
スティアがいないのでどうにか先延ばしさせようとした所長だったが、あえなく撃沈。そりゃそうだ。
「こちら、請求された前回の損害に対しての金額になります」
「はぇ!? え、あ、え?」
所長、動揺し過ぎ。
ジギタリスは懐から分厚い封筒を出すと、所長に手渡した。
「前回こちらの依頼により破損した衣類や、治療費などになります」
所長は早速袋から札束を出して数える。
「……所長、なんかちょっと多くないですか?」
オレ達の治療費と、シアのタイツ、あと制服って考えると、どうも計算が合わない。尤も、この計算をしたのはスティアだし、なにか水増ししている可能性があるわけだが。
「あぁ、多分金額が高いのはベルの武器だよ。あれ、特注品だから」
「ああ! プレートかちーん!」
割れてたもんな、あれ。
見た事ないような武器だと思ったら、特注品だったんだな。高そう……。
「プレート部分作り直しだったからね。本当はもう新しいのが出来てるんだけど、まだベルに渡してないんだ」
「えー、何でッスか? フー先輩」
所長の言葉に、ベルと戯れていたルースが尋ねた。
「また無茶されたら嫌だから」
「持たせて無い方が不安じゃねーッスか?」
不思議そうに首を傾げる。オレもそこは疑問だわ。
持たせて無い時に変な目に遭ったら、その時不安そうだけど。
「いや、せめて怪我が完全に治るまでは渡せない」
「っていう訳で、俺、ずっと一個なんだ」
「でも、そういう理由ならオレもフー先輩に賛成ッス。可愛いベルが無茶しちゃったら嫌ッスもん」
ルースがベルを抱きしめる。こいつ、何なんだ。ベルも嫌そうじゃないし。
え、こんなもん? 友達ってこんなもんなの?
「ルース、もん、とかキモい」
「ひーどーいーッス!」
「……それにしても、スティアはどうして大体の料金を割り出せたんだか」
ベルとルースのベタベタは今に始まった話ではないのだろう。
所長はさして気にした様子も見せず、数え終えたお金を封筒にしまいながら零した。
「スティアだしなぁ」
「しかも、ちょっと割高目なんだけど」
「高いんだ……」
スティアらしいけど、あいつ、本当金の話好きだな。
「ま、迷惑料として貰っておくけどね」
「ええ、構いません。こちらもそれで処理してしまいましたし、大変ご迷惑をおかけしましたので」
ジギタリスは頷くと、「では、本題に入りましょう」と口にした。
「んげ」
今度こそ、完全に所長お終いのお知らせ。残念ながらスティアは帰ってこなかったのだ。
ま、やってる途中には帰って来るだろうし、気をしっかり持ってくれ。保証は出来ないけど。
なにこれ、セクハラ? 男相手だけど、セクハラか!?
「え、……え?」
ベルは目をまん丸くしながら、自分に抱き着いた相手を見る。至近距離過ぎてって、いうか、密着してるせいで、っていうか、至近距離なのにベルからも顔が窺えなかったのだろう。
すると男はベルから少し離れ、帽子のつばを上げて見せた。
猫を思わせる紫色の瞳にグラスチェーン付きのオシャレっぽい眼鏡、銀色の外跳ねの髪。人懐っこそうな表情を浮かべるそいつは、オレやベルとそれほど変わらない年齢に見える。
「ルース!」
「お久ッス、ベル!」
そのオレ達と同じくらいの男に向け、ベルは満面の笑みを浮かべた。
ジギタリスに対するものよりも更に明るい響きを持った声で、これまたかなり珍しく花が咲いたように無邪気に笑うベルは、男だが可愛い。
イケメンってズルいよな。無邪気に笑うだけでこれだけ魅力的に見えるんだから。同じ人間なのに、オレとはどうしてこうも違うのか。
「あー、ベルは今日もちょーカワイイッス! 持って帰って寮の部屋に置いて、行ってらっしゃいとお帰りを言って欲しいッス!」
「やだなぁ、ルース。それじゃあ俺が奥さんみたいだろ」
なんだその感覚。どっちもわかんねーぞ。
あと、こいつの存在も謎のままで、俺もシアも置いてけぼりだ。
アリアさんは……あ、肉体だけ置いていくとか止めて下さい。精神もこの世にしっかり置いておいて下さいね。
「オレの為に毎日パンを焼いて下さいッス」
「ヤーダよ。お前がたまに遊びに来ればいいだけの話なんだし」
「うわぁぁ、何言ってもカワイイッス。ベル、マジ天使」
オレの内心などなんのその。そいつはまたベルとの距離を詰めると、グイグイ頬ずりをかました。
ベルに嫌がっている様子は見られないし、まぁ、いいか。若干キモいけど。
「あ、フー先輩も、チーッス」
ベルに頬ずりをしながら、そいつはチラっと所長の方を見た。
「おやまぁ……相変わらずチャラチャラしてるね」
「お久の後輩に対して、キツくねーっスか?」
「ついでのように挨拶した君には言われたくないよ」
所長とも顔見知りだったようだが、そいつにそっけない態度をとる。だからといって、嫌な感情を持っている訳ではなさそうだ。
どこか親しみがあるような、あえてそっけなくしているような、そんな風に見える。
「……彼は――」
「チーッス、お初ッス。オレはフルゲンス・ドライツェーン・ヒルシュ。ルースでいいッス」
ジギタリスが紹介するよりも先に、チャラチャラした態度でチャラチャラしたやつが名乗る。
「オレはベルの幼馴染ッス。フー先輩は、同じ学校で先輩後輩だった時代があるんスよ」
「あー、ベルの幼馴染か」
それで仲がよさそうだったんだな。抱き着くくらい。
「うん。俺の幼馴染で友達。こんなにチャラついてるけど、成績は優秀だったんだぞ。チャラいけど」
「うッス。オレ、見た目通りチャラいッス」
自分で言うのか自分で。
ベルみたいな品行方正っぽい雰囲気のヤツの友達というにはチャラチャラし過ぎている気はするが、仲が良いし、友達っていうのはジャンル分け出来るものではないのだろう。友達のいないオレは憶測でしか語れないのが切ないが。
「つーワケで、オレと仲良くしてほしいッス。ボインのー……シアちゃん!」
ルースは少し考えた後に、シアに向かってウインクした。多分事前資料で覚えて来たのだろう。
「うわー、寄らないで。チャラメ」
「チャラメって何ッスか」
「チャラチャラしたメガネ。略してチャラメだよ」
シアがにっこりと答える。今回のニックネームは距離を感じる。
あーよかった、オレはルトで。ルトの方が明らかに仲良さそうじゃん。
「オッケーッス。オレ、今日からシアちゃんのチャラメッス」
「……ルト、あたしは逃げ隠れたい」
にっこり笑っていたはずのシアは、ジリっと下がってルースと距離を取った。本人的にもまさかの反応だったらしい。
「アリアちゃん、大丈夫なんッスかー?」
シアに逃げ腰になられたのもなんのその。全く気にした様子も見せず、今度はソファーに横たわる麗しきアリアさんを見た。
「ルース、アリアに近づいたら容赦なく攻撃するよ」
「えー、フー先輩キツくねーッスか?」
「体調の悪いか弱い女の子にお前を近づけたら、きっと後悔する事になると思うんだ」
所長に同意同意! オレの麗しきアリアさんを変な目で見んなー!
「んな事ねーッス。オレ、チャラい系紳士ッス」
「チャラいと紳士は同居しないと思うの……」
シアがじりじりと逃げ続け、ついにはオレの後ろに隠れながら呟いた。
「えー、そこまで言うなら、シアちゃんオレとデートしないッスか? そしたら紳士なのを証明できると思うッス」
「その前に絶対食べられる」
「それよりも先に、絶対お前は迷子になる」
「そんでもって、絶対行方不明大事件になるな」
「ホントだ! 容易に想像できちゃう!」
衝撃の事実! シアはデートっぽいものでも迷子になれる!
「……あー、続けてもいいですか?」
いつまでも何も始まらないオレ達にしびれを切らしたのか、ジギタリスが割って入る。割って入るっていうか、割って頂いたっていうか。
「え、えー? 久しぶりの再会なんだし、もうちょっとゆっくりとかー?」
「続けさせて頂きますね」
スティアがいないのでどうにか先延ばしさせようとした所長だったが、あえなく撃沈。そりゃそうだ。
「こちら、請求された前回の損害に対しての金額になります」
「はぇ!? え、あ、え?」
所長、動揺し過ぎ。
ジギタリスは懐から分厚い封筒を出すと、所長に手渡した。
「前回こちらの依頼により破損した衣類や、治療費などになります」
所長は早速袋から札束を出して数える。
「……所長、なんかちょっと多くないですか?」
オレ達の治療費と、シアのタイツ、あと制服って考えると、どうも計算が合わない。尤も、この計算をしたのはスティアだし、なにか水増ししている可能性があるわけだが。
「あぁ、多分金額が高いのはベルの武器だよ。あれ、特注品だから」
「ああ! プレートかちーん!」
割れてたもんな、あれ。
見た事ないような武器だと思ったら、特注品だったんだな。高そう……。
「プレート部分作り直しだったからね。本当はもう新しいのが出来てるんだけど、まだベルに渡してないんだ」
「えー、何でッスか? フー先輩」
所長の言葉に、ベルと戯れていたルースが尋ねた。
「また無茶されたら嫌だから」
「持たせて無い方が不安じゃねーッスか?」
不思議そうに首を傾げる。オレもそこは疑問だわ。
持たせて無い時に変な目に遭ったら、その時不安そうだけど。
「いや、せめて怪我が完全に治るまでは渡せない」
「っていう訳で、俺、ずっと一個なんだ」
「でも、そういう理由ならオレもフー先輩に賛成ッス。可愛いベルが無茶しちゃったら嫌ッスもん」
ルースがベルを抱きしめる。こいつ、何なんだ。ベルも嫌そうじゃないし。
え、こんなもん? 友達ってこんなもんなの?
「ルース、もん、とかキモい」
「ひーどーいーッス!」
「……それにしても、スティアはどうして大体の料金を割り出せたんだか」
ベルとルースのベタベタは今に始まった話ではないのだろう。
所長はさして気にした様子も見せず、数え終えたお金を封筒にしまいながら零した。
「スティアだしなぁ」
「しかも、ちょっと割高目なんだけど」
「高いんだ……」
スティアらしいけど、あいつ、本当金の話好きだな。
「ま、迷惑料として貰っておくけどね」
「ええ、構いません。こちらもそれで処理してしまいましたし、大変ご迷惑をおかけしましたので」
ジギタリスは頷くと、「では、本題に入りましょう」と口にした。
「んげ」
今度こそ、完全に所長お終いのお知らせ。残念ながらスティアは帰ってこなかったのだ。
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