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 3月13日。被害者が分かった時点で、次の場所をある程度割り出し、張っていたはずだった。
 それなのになぜか、刑事が出入り口を張っていた伊詞村の職場で頭部が見つかった。
 職場の中庭のベンチで、職員の女性が発見し悲鳴を上げたのである。
「い、い、伊詞村さんが!」
 阿部が駆け付けた時、第一発見者の女性がパニックを起こしていた。なんでも彼女が昼食を取ろうとベンチに腰掛けようとしたときに、その下に違和感があってのぞき込んだらしい。すると、そこには伊詞村の頭部があったのだ。
 安らかに眠った顔をしている、伊詞村の頭部が。
「あの、貴女は、足の第一発見者の……」
「そ、そうです。でもまさかあれが伊詞村さんだったなんて」
 左足の第一発見者が、今度は警備されていたはずの職場内で第一発見者になってしまったのである。ショックは大きいだろう。
「どうしてぇ……」
 彼女は崩れ落ちるようにして泣き続けた。

 すぐに全員集められ、持ち物検査をしたが怪しいものを持っている人間はいなかった。ただ、職場内には焼却炉があり、発見されたとき、すでに火がついていた。もしも何かに包んで彼の頭部をあの場所へと運んでいたとしても、もう証拠品は灰になっているだろう。
 出入口は警察が見張っていた。そんな中、この職場内で頭部が見つかったという事は、ここの職員の犯行で間違いはなさそうだ、と、阿部は表情を険しくした。
 聞くところによると、念のために、出勤時に全員の鞄の中をあらためていたそうだ。
 それでも見つからなかったとなれば、警察がここに張り込む前から頭部は設置されていた。あるいは、頭部が隠されていたのだろう。
「くそっ。あと一日しかないのに」
 阿部は毒づく。
「……誰が怪しいと思ってるんだ?」
 同僚に話しかけられると、阿部は大きく息を吐く。
「正直に言えば、婚約者か、二回も第一発見者になった彼女だ」
 今回捜査にあたっているチームに、どんよりとした雰囲気が漂っていた。そんな中でも同僚は努めて明るく振舞い、阿部の背を叩いた。
「どちらにしても、動機をつける事は出来る。婚約者が犯人であれば、彼の浮気癖に我慢がならず、女性職員であれば、浮気相手であった可能性だ。おそらく痴情のもつれではないかと思っているんだ」
「しかし証拠がない、と」
 相槌に頷く。
「家の中を捜査したくとも、令状が取れるところまではいっていない」
 彼は、どちらかの家の中を捜査すれば痕跡は見つかるのではないかと思っているのだ。
 理由は簡単だ。
 人間一人がバラバラにされ、6日にわたって部位が少しずつ置かれているにしては、腐敗が比較的ゆっくりだからである。これは、解体した後のものを、冷蔵庫か何かに入れて保管していたのではないかと考えられる。
「動機だって、言ってしまえば完全に俺の想像の領域を超えない」
 死人に口なし。犯人は名乗り出ない。これで想像ではなく事実であると断言するのは不可能だ。
「……俺は無力だ」
「お前が無力だったら、俺だってそうだ」
 このチーム全員が、事件解決の為に尽力を尽くしているのだ。
「夜、張り込むか」
「どっちに?」
「二手に分かれよう。お前はどっちに行く?」
 阿部はしばし考えて、そして――。

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