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悲鳴は、俺達が先程歩いて来た方から。人々は逃げ惑い、俺達を避ける精神的余裕すらも無い様子だ。
「なんだ?」
「……コカトリスだ」
ふむ。街に紛れ込んだのか。
俺はさっきの布屋さんに入ると、「何か刃物を貸してくれ!」と声を掛ける。
「あの、何か」
「コカトリスが出たから、仕留めてくる!」
「では、これを!」
この店員さん、本当はもう俺達の事、怖いって思ってないだろ。俺は店員さんから鋏を受け取ると、レイラと共にコカトリスの方へと走った。
俺達にかかれば、コカトリスなどそれほど強い物ではない。何しろ勇者とオリヴィアにドナベの説明をしている時に、レイラが暇だったからとさらっと一人で狩った程度の魔物なのだ。
「食べるぞ、コカトリス!」
「次は味噌味も味わいたい! コカトリス!」
二人で調理法を考えながらもコカトリスに向かい、人々が遠巻きに見る中で、出来るだけ暴れたり、グロくなったりしないように配慮しながら仕留める。
「サイラス、これは一体何?」
「あ、勇者。丁度良かった」
俺が目いっぱい配慮して仕留めると、不意に声が掛けられた。声の主は勇者。
このパニックの中で、どうにかしてほしくて勇者に頼った住民がいるのだろう。うん、正しい判断だ。
「買い物してたらこいつが出てきてな。でもまだ買い物の途中だから、捌くとちょっと……」
「……あー、街に出た魔物を、君が倒したと」
「おう、俺が狩った」
「それは、ありがとう」
ご飯を仕留めたらお礼を言われた。
「皆さん、このように魔王は既に恐怖する対象ではありません!」
勇者は胸を張り、街中に響く様な大きな声で語る。いつものご飯を食べている時よりも、ずっとしっかりとした演説だ。
「彼らを受け入れ、より良い生活にしていきませんか!」
勇者の演説に、街の人々がざわめいているのが分かる。
「う、受け入れます! でも鋏は弁償して下さい!」
やがて口火を切ったのは、あの布屋の店員さんだった。見れば、俺の手元で鋏は血まみれ。
あぁ、これ、商売道具だった筈だもんな……。ごめんな。
「ごめん! 勇者に頼んで!」
「いやいやいや、弁償するよ。当たり前でしょ」
「第一にして、ボク達は恩人だぞ。鋏は勇者がどうにかするに決まっているではないか」
「……あ、うん」
勇者が微妙な表情を浮かべながら頷く。
「それじゃあ、ウチの鋏を買って貰おうか」
次に声を上げたのは、がたいのいい男だった。この人、もしかして鋏屋さん? あ、違うか。刃物屋さんか。
この会話が皮切りになったのだろう。
街のあちこちから、俺達を歓迎するかのように拍手がわく。人間って、弱いけど逞しい。
「ありがとう。これから先、彼らはこの街に買い物に来る事になります。けれど、決して悪い者ではないのは保証します!」
今日の勇者の演説は理解出来るぞ! 凄い、分かる! 俺が街で買い物をしやすいようにしてくれている、という事が、本当によくわかった。
愛すべき脆弱な人間を、俺は決して食べる事は無いだろう。
俺はコカトリスを手に勇者に近づくと、無理やり握らせる。
「これ、頼んだ! 俺達は買い物の途中だから、捌いておいて」
「……えっ、僕? でも僕、捌くのは……」
ちょっとびっくりした顔をしているが、中々どうして。コカトリスを持つ姿は堂々としたものだ。
「行こう、レイラ」
「ああ!」
俺がレイラを促すと、彼女は嬉しそうに頷いた。
「後で寄るし、その時に調理してやるからな!」
「あ、ありが、とう」
勇者、なんでぎこちない顔をしたんだろう。その答えは後で聞けばいい。
俺は片手に鋏、もう片手にレイラの手を握って、目的の店へと走り出した。
願わくば、もっと人々の笑って過ごせる街を。それを叶えてくれる勇者に、俺はいつでも力を貸す事を心に決めて。
まずは買い物を楽しむ事にしたのだった。
「なんだ?」
「……コカトリスだ」
ふむ。街に紛れ込んだのか。
俺はさっきの布屋さんに入ると、「何か刃物を貸してくれ!」と声を掛ける。
「あの、何か」
「コカトリスが出たから、仕留めてくる!」
「では、これを!」
この店員さん、本当はもう俺達の事、怖いって思ってないだろ。俺は店員さんから鋏を受け取ると、レイラと共にコカトリスの方へと走った。
俺達にかかれば、コカトリスなどそれほど強い物ではない。何しろ勇者とオリヴィアにドナベの説明をしている時に、レイラが暇だったからとさらっと一人で狩った程度の魔物なのだ。
「食べるぞ、コカトリス!」
「次は味噌味も味わいたい! コカトリス!」
二人で調理法を考えながらもコカトリスに向かい、人々が遠巻きに見る中で、出来るだけ暴れたり、グロくなったりしないように配慮しながら仕留める。
「サイラス、これは一体何?」
「あ、勇者。丁度良かった」
俺が目いっぱい配慮して仕留めると、不意に声が掛けられた。声の主は勇者。
このパニックの中で、どうにかしてほしくて勇者に頼った住民がいるのだろう。うん、正しい判断だ。
「買い物してたらこいつが出てきてな。でもまだ買い物の途中だから、捌くとちょっと……」
「……あー、街に出た魔物を、君が倒したと」
「おう、俺が狩った」
「それは、ありがとう」
ご飯を仕留めたらお礼を言われた。
「皆さん、このように魔王は既に恐怖する対象ではありません!」
勇者は胸を張り、街中に響く様な大きな声で語る。いつものご飯を食べている時よりも、ずっとしっかりとした演説だ。
「彼らを受け入れ、より良い生活にしていきませんか!」
勇者の演説に、街の人々がざわめいているのが分かる。
「う、受け入れます! でも鋏は弁償して下さい!」
やがて口火を切ったのは、あの布屋の店員さんだった。見れば、俺の手元で鋏は血まみれ。
あぁ、これ、商売道具だった筈だもんな……。ごめんな。
「ごめん! 勇者に頼んで!」
「いやいやいや、弁償するよ。当たり前でしょ」
「第一にして、ボク達は恩人だぞ。鋏は勇者がどうにかするに決まっているではないか」
「……あ、うん」
勇者が微妙な表情を浮かべながら頷く。
「それじゃあ、ウチの鋏を買って貰おうか」
次に声を上げたのは、がたいのいい男だった。この人、もしかして鋏屋さん? あ、違うか。刃物屋さんか。
この会話が皮切りになったのだろう。
街のあちこちから、俺達を歓迎するかのように拍手がわく。人間って、弱いけど逞しい。
「ありがとう。これから先、彼らはこの街に買い物に来る事になります。けれど、決して悪い者ではないのは保証します!」
今日の勇者の演説は理解出来るぞ! 凄い、分かる! 俺が街で買い物をしやすいようにしてくれている、という事が、本当によくわかった。
愛すべき脆弱な人間を、俺は決して食べる事は無いだろう。
俺はコカトリスを手に勇者に近づくと、無理やり握らせる。
「これ、頼んだ! 俺達は買い物の途中だから、捌いておいて」
「……えっ、僕? でも僕、捌くのは……」
ちょっとびっくりした顔をしているが、中々どうして。コカトリスを持つ姿は堂々としたものだ。
「行こう、レイラ」
「ああ!」
俺がレイラを促すと、彼女は嬉しそうに頷いた。
「後で寄るし、その時に調理してやるからな!」
「あ、ありが、とう」
勇者、なんでぎこちない顔をしたんだろう。その答えは後で聞けばいい。
俺は片手に鋏、もう片手にレイラの手を握って、目的の店へと走り出した。
願わくば、もっと人々の笑って過ごせる街を。それを叶えてくれる勇者に、俺はいつでも力を貸す事を心に決めて。
まずは買い物を楽しむ事にしたのだった。
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