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夕食が出来て、かつて大勢の悪魔であふれていた食堂に運び、皆で食卓を囲った。
みんなとは言っても、勇者の奥さんの、オリヴィアを含む女の子三人と、勇者。それから俺とレイラの六人だけだ。
この城で四人だけで生活って、持て余さないのだろうか。それとも、いざという時には街の人の避難場所にするつもりかもしれない。
聞いてみると、昼間はここで仕事をしてくれている人が大勢いるのだそうだ。だが、夜になるとそれぞれ家庭があるので帰る、とか。
確かに既に家のある者であれば、敢えて共同生活をする必要もない。俺達は「手っ取り早く一緒に住もう」という感覚だったが、人間達は繊細だ。誰かと住むとなると、何らかのストレスがかかるのだろう。
「いただきます!」
勇者が手を合わせると、それにならって奥さん達も手を合わせた。郷に入っては郷に習え。俺も手を合わせておく。
食卓には、トマトのスープと、ミソのスープ。それからチャアシュウと、マンティコアのステーキが並んでいた。
あ、あと、一応持ってきたパン。
ベエコンは直ぐには出来ないので持ってこなかったが、この人数であれば、料理は余裕で残りそうだ。明日以降もこの人間達の食べ物が確保されている状態になって、その辺はちょっと安心した。
お腹が空くと、攻撃的になるしな!
まずはステーキ。ドナベした事を除けば、シンプルに焼いて、シンプルに塩のみでの味付けをした。これをフォークにぶっさし、あぐあぐと口に入れる。
比較的薄切りにしたとはいえ、やはり大物のマンティコア。他のお肉を使った時よりも厚みがある。
そして、結構な弾力。脂身に斬り込みは入れたし、フォークでブスブス刺したが、それでもしっかりとした歯ごたえがある事は変わらない。
俺達の手を離れ、のびのびと育ったマンティコアのお肉は、ジューシーというよりは、やはり噛み応えがあって満腹感が上がる。
だが、レイラは流石はドラゴンと言うべきか。特に硬さに悪戦苦闘する事も無く、がぶりと齧りつき、もぐもぐと咀嚼し、あっさりと飲み込んだ。
「魔王様、美味しいぞ」
「うん、ほいひいな!」
俺はまだ齧りついたまま。一口サイズにしてから出せばよかった。というか、相槌を打つならこれを飲み込んでからにすればよかった。
やっとの事で噛み千切ると、暫く咀嚼タイム。もの凄くもぐもぐする。獣特有の美味しさが口いっぱいに広がり、ちょっと顎が疲れた頃に、ようやく飲み込む事に成功した。
さすがにステーキには向かなかったか。美味しいんだけどさ。
周りも大人しいな、と見れば、皆ステーキに悪戦苦闘していた。そして、ちゃんとナイフで一口大に切ってから口に入れていた。
俺もナイフを使えばよかった。良いんだけど! がぶっといくといつもより美味しい気がするし!
「この噛み応え……確かに猪も豚よりは硬さがあるが、そこは流石マンティコア。思った以上に硬い。でも、旨味の十分に含まれた肉は、噛めば噛むほど味が出て、飲み込んだ時の爽快感ときたら!」
勇者はやっと飲み込んだらしい。いつもの演説が始まった。
それからミソのスープをズズっと啜り、具の根野菜やお肉を咀嚼する。こちらはステーキに比べて大分薄切りという事もあり、程なくして飲み込んだ。
「こ、これは牡丹鍋! 先程その話をしたばかりかと思いきや、こんなに直ぐに会えるなんて! 愛してる、牡丹鍋! 猪万歳!」
「いや、これ、マンティコア……」
「マンティコア万歳!」
このミソのスープ、ボタンナベって言うのか。ミソの液体は皆ボタンナベなのだろうか。
ボタンナベのナベは、ドナベのナベとおそろいなのか否か。
……あぁ! ドナベした食材が入ってるから、ドナベの名前をもじったんだな! なるほど、すっきり。
すっきりしたところで、俺も啜る。
マンティコアの噛み応えのある薄切りのお肉と、弾力のあるプリプリの内臓。ドナベしてしばらく放置した根野菜の味。それらをまとめ上げる、ミソの濃厚な豆の香りと味。
スープでありながら、しっかりと食事でもあるこれは、栄養もたっぷり入っているし、勇者達人間には嬉しい食べ物だろう。
ぐいぐい食べ進めて、次は、と、トマトのスープにスプーンを入れて啜れば、口の中いっぱいに、トマトの味が広がった。いいや、それだけではない。
口に運んだ時に一緒に入り込んだピーマンの味が凄く濃かったのだ。これ、きっと齧ったピーマンだ。ラッキー。
肝心なマンティコアのお肉も、果実酒を使って煮込んだおかげもあってか、オークのお肉のようなあまり癖の無いものに感じられた。オークとの違いは、噛み心地。マンティコアは、とにかくちょっと硬いのだ。のびのび育てた筋肉が、硬さを生んでいるのだろう。
硬いお肉もペロリのレイラを除いた女性陣は、もしかしたら食べるのに四苦八苦しているかもしれない。先程から、しきりにもぐもぐしている。
でも、よく噛む事はきっと良い事だから……いい、よな? お腹いっぱいになるし!
「こっちはトマトベースか」
勇者がスプーンで一掬い。ぱくりと口にすると、目を見開いた。
「ミネストローネ! 君はこんなところに居たのかい!」
誰だよ、ミネストローネ。
「魔王様のスープに人間なんぞ入っていない。それとも、あのマンティコアにミネストちゃん、とでも名前を付けたのか?」
「ち、違う。料理名だよ」
「……料理名、ね」
レイラが訝しげに見ているのは、まぁ、分かる。俺もミネストローネさんっていう人の名前かと思ったし。
ただ、奥さん三人組が、そろって勇者をジトっと見ているのはなんなのか。
「ランドルフ、また浮気?」
オリヴィアが、ジトっとした目のまま尋ねる。
「……は、はべらせる女の子を増やすのは、いかがなものかと」
「おいおい、これ以上競争率を高くして、どうするつもりだ?」
他二名も、オリヴィアに負けず、ジトっとした目をしている。おっと、雲行きが怪しくなって来たぞ。
奥さんもあんなにいると、皆一番に可愛がって貰いたい、とかあるのかもな。痴情の縺れとかで、勇者がスープの具材にならない事を、俺は祈っておく。
祈る相手はいないが……うーん、じゃあ、全ての実りに感謝する感覚で、勇者のお肉にも感謝……しちゃダメだ! それ、俺、勇者食べてる!
これは困るし、勇者には自力でどうにかして貰おう。そうしよう。
みんなとは言っても、勇者の奥さんの、オリヴィアを含む女の子三人と、勇者。それから俺とレイラの六人だけだ。
この城で四人だけで生活って、持て余さないのだろうか。それとも、いざという時には街の人の避難場所にするつもりかもしれない。
聞いてみると、昼間はここで仕事をしてくれている人が大勢いるのだそうだ。だが、夜になるとそれぞれ家庭があるので帰る、とか。
確かに既に家のある者であれば、敢えて共同生活をする必要もない。俺達は「手っ取り早く一緒に住もう」という感覚だったが、人間達は繊細だ。誰かと住むとなると、何らかのストレスがかかるのだろう。
「いただきます!」
勇者が手を合わせると、それにならって奥さん達も手を合わせた。郷に入っては郷に習え。俺も手を合わせておく。
食卓には、トマトのスープと、ミソのスープ。それからチャアシュウと、マンティコアのステーキが並んでいた。
あ、あと、一応持ってきたパン。
ベエコンは直ぐには出来ないので持ってこなかったが、この人数であれば、料理は余裕で残りそうだ。明日以降もこの人間達の食べ物が確保されている状態になって、その辺はちょっと安心した。
お腹が空くと、攻撃的になるしな!
まずはステーキ。ドナベした事を除けば、シンプルに焼いて、シンプルに塩のみでの味付けをした。これをフォークにぶっさし、あぐあぐと口に入れる。
比較的薄切りにしたとはいえ、やはり大物のマンティコア。他のお肉を使った時よりも厚みがある。
そして、結構な弾力。脂身に斬り込みは入れたし、フォークでブスブス刺したが、それでもしっかりとした歯ごたえがある事は変わらない。
俺達の手を離れ、のびのびと育ったマンティコアのお肉は、ジューシーというよりは、やはり噛み応えがあって満腹感が上がる。
だが、レイラは流石はドラゴンと言うべきか。特に硬さに悪戦苦闘する事も無く、がぶりと齧りつき、もぐもぐと咀嚼し、あっさりと飲み込んだ。
「魔王様、美味しいぞ」
「うん、ほいひいな!」
俺はまだ齧りついたまま。一口サイズにしてから出せばよかった。というか、相槌を打つならこれを飲み込んでからにすればよかった。
やっとの事で噛み千切ると、暫く咀嚼タイム。もの凄くもぐもぐする。獣特有の美味しさが口いっぱいに広がり、ちょっと顎が疲れた頃に、ようやく飲み込む事に成功した。
さすがにステーキには向かなかったか。美味しいんだけどさ。
周りも大人しいな、と見れば、皆ステーキに悪戦苦闘していた。そして、ちゃんとナイフで一口大に切ってから口に入れていた。
俺もナイフを使えばよかった。良いんだけど! がぶっといくといつもより美味しい気がするし!
「この噛み応え……確かに猪も豚よりは硬さがあるが、そこは流石マンティコア。思った以上に硬い。でも、旨味の十分に含まれた肉は、噛めば噛むほど味が出て、飲み込んだ時の爽快感ときたら!」
勇者はやっと飲み込んだらしい。いつもの演説が始まった。
それからミソのスープをズズっと啜り、具の根野菜やお肉を咀嚼する。こちらはステーキに比べて大分薄切りという事もあり、程なくして飲み込んだ。
「こ、これは牡丹鍋! 先程その話をしたばかりかと思いきや、こんなに直ぐに会えるなんて! 愛してる、牡丹鍋! 猪万歳!」
「いや、これ、マンティコア……」
「マンティコア万歳!」
このミソのスープ、ボタンナベって言うのか。ミソの液体は皆ボタンナベなのだろうか。
ボタンナベのナベは、ドナベのナベとおそろいなのか否か。
……あぁ! ドナベした食材が入ってるから、ドナベの名前をもじったんだな! なるほど、すっきり。
すっきりしたところで、俺も啜る。
マンティコアの噛み応えのある薄切りのお肉と、弾力のあるプリプリの内臓。ドナベしてしばらく放置した根野菜の味。それらをまとめ上げる、ミソの濃厚な豆の香りと味。
スープでありながら、しっかりと食事でもあるこれは、栄養もたっぷり入っているし、勇者達人間には嬉しい食べ物だろう。
ぐいぐい食べ進めて、次は、と、トマトのスープにスプーンを入れて啜れば、口の中いっぱいに、トマトの味が広がった。いいや、それだけではない。
口に運んだ時に一緒に入り込んだピーマンの味が凄く濃かったのだ。これ、きっと齧ったピーマンだ。ラッキー。
肝心なマンティコアのお肉も、果実酒を使って煮込んだおかげもあってか、オークのお肉のようなあまり癖の無いものに感じられた。オークとの違いは、噛み心地。マンティコアは、とにかくちょっと硬いのだ。のびのび育てた筋肉が、硬さを生んでいるのだろう。
硬いお肉もペロリのレイラを除いた女性陣は、もしかしたら食べるのに四苦八苦しているかもしれない。先程から、しきりにもぐもぐしている。
でも、よく噛む事はきっと良い事だから……いい、よな? お腹いっぱいになるし!
「こっちはトマトベースか」
勇者がスプーンで一掬い。ぱくりと口にすると、目を見開いた。
「ミネストローネ! 君はこんなところに居たのかい!」
誰だよ、ミネストローネ。
「魔王様のスープに人間なんぞ入っていない。それとも、あのマンティコアにミネストちゃん、とでも名前を付けたのか?」
「ち、違う。料理名だよ」
「……料理名、ね」
レイラが訝しげに見ているのは、まぁ、分かる。俺もミネストローネさんっていう人の名前かと思ったし。
ただ、奥さん三人組が、そろって勇者をジトっと見ているのはなんなのか。
「ランドルフ、また浮気?」
オリヴィアが、ジトっとした目のまま尋ねる。
「……は、はべらせる女の子を増やすのは、いかがなものかと」
「おいおい、これ以上競争率を高くして、どうするつもりだ?」
他二名も、オリヴィアに負けず、ジトっとした目をしている。おっと、雲行きが怪しくなって来たぞ。
奥さんもあんなにいると、皆一番に可愛がって貰いたい、とかあるのかもな。痴情の縺れとかで、勇者がスープの具材にならない事を、俺は祈っておく。
祈る相手はいないが……うーん、じゃあ、全ての実りに感謝する感覚で、勇者のお肉にも感謝……しちゃダメだ! それ、俺、勇者食べてる!
これは困るし、勇者には自力でどうにかして貰おう。そうしよう。
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