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しおりを挟む勇者とオリヴィアが帰ると言った頃には、大分夜が更けていた。
最終的には果実酒を出してどんちゃんし、帰ると言う勇者にレイラが「モラエルカードは早めに」と念押ししていた。
その後片づけをして就寝したが、俺達の朝は早い。
どこかで聞こえるコカトリスだか鶏だかの声で目覚め、せっせと野菜やドライアドの世話をする。
豆の収穫の時が近いのが楽しみだ。
豆の他に、日々少しずつ収穫出来ているトマト。もう少し様子を見たいジャガイモ。病気が多いナス。それからハーブが数種類。これらの世話をしていると、朝から良い汗を流す事が出来る。
本来なら多少収穫時期にずれがあるのだが、そこは魔王パワー。俺の、普段の使いどころが火を起こすくらいしかない魔力も、植物にとってはいい栄養だ。
植物が俺の魔力を食べる。そして俺が植物を食べる。お互いにとっての完璧なメリットだ。
他、ちょっと離れたところにマンドラゴラもあるので抜き放題なのだが、如何せん、あいつらは人の心を折ってくるからな……。たまに収穫したくない日や、魔力を分けたくない日もある。
いや、ひいきはよくない。俺は皆に平等に魔力を分け与える! 立派な魔王だから!
……ちょっと違う。必需品のドライアドには多めの魔力を与えていた。
これはえこひいきにになる、のか?
「魔王様、トマトが食べ頃だぞ!」
日の光を浴びて、たっぷりと赤くなったトマト。俺の元に駆け寄るレイラの手には、それが握られていた。
よほど活きが良かったらしく、もがれた後でも彼女の手の中でブルルンブルルンと震えていた。美味しそうだなぁ。
「一回ドナベして、スープにしようか」
「それはいい! 美味しそうだ」
瘴気の影響がなければこのまま齧りつきたいところだが、あれの影響は極限まで減らしたい。
「それじゃあ、トマトの収穫は任せた」
「ああ、任せてくれ! 逃げないように注意しながらもいでやろう」
俺はレイラにトマトを任せ、ピーマンの収穫に移った。ピーマンは時々噛むから、注意しないと。
大体良さそうな程度に収穫し、蓋つきの籠の中に放り込むと、俺はうーんと伸びをした。
思いきり背中を伸ばした後に見た景色は、とても美しい。
ここは森の中――つまり、山だ。
人間よりも目の良い俺には、小さくだが街が見えた。魔王城はまた方角が違うから見えないが、小さくでも人間の営みを目にすると、少しだけ嬉しくなる。
人間は弱い。弱いからこそ、俺達を攻撃する。
けれども俺は、彼らを恨むつもりはないし、寧ろ日々平和に生きてほしいとすら願っている。
勇者達の事は嫌いではない。例えば街に行って、畏怖の感情を浮かべられても、それほど気にしないだろう。
種族は違っても、営む日常は同じなのだ。そんな共通点の多い相手を、ちょっと家を取られた程度で攻撃すると言うのは、どうにも大人げない。
大体にして、お腹が空いたら攻撃的になるのは、生き物であれば当たり前の事。ピーマンだって、お腹が空いたら共食いを始めるのだから。
「魔王様、収穫し終えたぞ!」
「ありがとう。戻って朝食にしよう」
レイラの持つ籠も、蓋つきだ。トマトも逃げるからなー。
朝から植物に水をやり、雑草を抜き、植物を食べる虫を取る。そして食べ頃の野菜をもいで家に戻るところまでが、朝の仕事だ。
俺達は朝の一仕事を終えると、二人で家へと戻った。
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