魔王様とスローライフ

二ノ宮明季

文字の大きさ
上 下
12 / 30

12

しおりを挟む
「魔王様、ウッドクンを出してきておいたぞ」
「おー、ありがとう」

 あ、蛇だけじゃなくて鶏もひっくり返そう。焦げ目からは食欲をそそる良い匂いが立ち上る。
「あのな、これ、ショーユなんだって」
「……アミが?」
「えっとなー、黒いシャバシャバの」
「美味しい調味料か!」
「そう、それ」

 話が早くて助かる。

「また勇者が名前を付けたのか?」

 あ、しまった。話しを変えよう。えーと、えーと。

「名前って言えば、モラエルカードって本当に貰えるのか?」
「モラエルカード?」

 何故か勇者が首を傾げる。

「お前が約束したんだろ。モラエルカード」
「スットコドッコイカードだったか?」
「あぁ、即興クレカの事か」

 ソッキョウクレカ?

「いやいや、これはレイラのモラエルカードかスットコドッコイカードの案を採用してくれ。いつもお前の名前を採用してるだろ?」
「……モラエルカードね」

 偉いぞ、勇者。ちゃんと希望を叶えてくれる!

「それ、帰ってから早速案をつめてきたし、街の人には告知してきたよ。カードは作成中」
「おお! ありがとう!」
「ふん、礼を言ってやろう。ありがとう」
「ツ、ツンデレ!」

 ツンデレって何だ、ツンデレって。ありがとうの返事はそれじゃあダメだろう。
 ここは俺がしっかり教えてあげないと。

「あのな、勇者。ありがとうの返事はどういたしまして、だぞ」
「ごめんごめん。レイラちゃんのありがとうの破壊力が半端無くて、デレ期が来たのかと思ってさ」
「デレキ?」

 相変わらず勇者は結構意味不明の言葉を口にする。デレキってなんだろう。
 少なくとも来るもので、レイラと関係があるもの? この場で勇者の元に行きそうなのは、煙くらいだが。

「あぁ、レイラのありがとうが可愛いから喜んだら、煙を思いっきり吸い込んで咽そうになったんだな」

 状況から考えて、これ以外は有り得まい。

「いやー、意外といいセンいってるのが凄い」
「ちょっと、ランドルフ。ランドルフにはあたしがいるでしょ? どうしてその子を見つめているのよ」
「一番は君だよ」
「もうっ、都合のいい事を言って……」

 いちゃいちゃしてるなー。
 あ、そろそろお肉が良い感じだな。俺はお肉をひっくり返し、ついでに火の通った蛇は網から外し、代わりに内臓を焼き始める。

「言っておくが、ボクは貴様に心揺さぶれたりしない。ボクが好きなのは魔王様だけだ」
「おー、ありがとうな」

 レイラ、永久に就職するって言ってくれたもんな。

「魔王様、心配はいらないからな。ボクはこんな勇者なんてこれっぽっちも好きじゃないし、そもそもボクが好きなのは魔王様だけだから!」

 レイラは俺から離れて行ったり、お嫁に行ったりしないんだな。ちょっと安心する。
 こういうのって、やっぱり口にした方がいいよなー。嬉しいし。

「塩対応は塩対応で中々」

 これ、ショーユ味なんだけどな。塩の方がよかったのかな。

「ちょっと、あたしが一番なんじゃないの?」
「勿論! 君は正妻だからね! もうまごう事なくヒロイン。失われた国の姫で気が強いけど弱さと優しさを兼ね備え、二人っきりの時はとっても可愛く甘える。こんなに完璧な女の子が他にどこにいるっていうんだよ!」
「ちょ、ちょっと、恥ずかしいから!」

 勇者にとっては理想の女性そのものらしい。仲が良いのは良い事だよな。

「でも、ありがとう。……ランドルフって、直ぐに女の子を見るし……モテるし……。だから、ちょっと不安になるっていうか」

 あー、一夫多妻だから、女の子の悩みとしてはその辺は大きいかもな。

「そういえば、貴様は何故そんなにモテるんだ? どう考えたって、魔王様の方が良いだろう」
「いやいや、勇者は顔がいいし、良い奴だろ」
「これだからサイラスも可愛いんだよな」

 なんだろう、今、ちょっとぞっとした。一体何に反応したんだか。

「駄目だ駄目だ! 魔王様はボクのものなんだから!」

 物ではないけど、まぁいいか。あ、お肉ももういいな。
 俺はお肉を網から下ろすと、「そこまでー!」と声を掛けた。
 勇者周辺の色恋はいいけど、先にドナベしないと。

「子孫繁栄は素晴らしいけど、ドナベ開始!」
「魔王様、ボクは魔王様以外の奴なんて眼中にない。こんな奴と子孫繁栄なんて絶対にありえない!」
「ごめんごめん」

 だよなー。レイラは勇者との子孫繁栄は関係なかったもんな。一緒にして悪かった。

「ここは言葉だけではないお詫びを要求する!」
「例えば?」

 お詫びって言われても、直ぐには出てこないしなぁ。
 俺がぼんやりと考えていると、レイラは俺の前に頭を差し出した。

「撫でろ」
「ん、え、お?」

 撫でるの? 撫でるのって、お詫び?

「サイラスが撫でないなら僕が」
「貴様に撫でさせるくらいなら、今ここで貴様の腕を二本とももいでやる」
「さっきのデレはどこに!」

 勇者ってたまにデレって言うけど、どこに行くつもりなんだろうな。今日は家に入ってないから、出る場所も無いだろうに。

「ほら、魔王様。早く」
「はいはい」

 俺はレイラの頭を撫でる。
 角に当たるとひんやりとするが、頭部自体は暖かい。人肌程度の温もり。
 彼女は撫でられて余程心地が良かったのか、目を細めている。

「良かろう!」

 やがて目をカッと開くと、突然お許しいただけた。

「続きは勇者達が帰ってからにしよう」
「あ、続行だった」

 完全なるお許しではなかったらしい。けれど、まぁいいか。
 俺だって別にレイラを撫でるのが嫌な訳ではない。ちょっと今は、直ぐにドナベしたいなー、とは思ってたけど。

「ドナベしてもいいか?」
「良かろう!」

 レイラの許可が得られたところで、先程まで火を通していたお肉と蛇を持って、四角柱になっているタイプのドナベの元へと移動した。

「さっき見せたのとはタイプが違うけど、これでドナベするぞ」
「これ、土鍋じゃなくて燻製器」
「ん? ドナベだろ?」
「あ、はい。土鍋ですね」

 勇者は時々自分で言った事を忘れるのだろうか。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

異世界転生者〜バケモノ級ダンジョンの攻略〜

海月 結城
ファンタジー
私こと、佐賀 花蓮が地球で、建設途中だったビルの近くを歩いてる時に上から降ってきた柱に押しつぶされて死に、この世界最強の2人、賢王マーリンと剣王アーサーにカレンとして転生してすぐに拾われた。そこから、厳しい訓練という試練が始まり、あらゆるものを吸収していったカレンが最後の試練だと言われ、世界最難関のダンジョンに挑む、異世界転生ダンジョン攻略物語である。

1000歳の魔女の代わりに嫁に行きます ~王子様、私の運命の人を探してください~

菱沼あゆ
ファンタジー
異世界に迷い込んだ藤堂アキ。 老婆の魔女に、お前、私の代わりに嫁に行けと言われてしまう。 だが、現れた王子が理想的すぎてうさんくさいと感じたアキは王子に頼む。 「王子、私の結婚相手を探してくださいっ。  王子のコネで!」 「俺じゃなくてかっ!」 (小説家になろうにも掲載しています。)

アイムキャット❕~異世界キャット驚く漫遊記~

ma-no
ファンタジー
 神様のミスで森に住む猫に転生させられた元人間。猫として第二の人生を歩むがこの世界は何かがおかしい。引っ掛かりはあるものの、猫家族と楽しく過ごしていた主人公は、ミスに気付いた神様に詫びの品を受け取る。  その品とは、全世界で使われた魔法が載っている魔法書。元人間の性からか、魔法書で変身魔法を探した主人公は、立って歩く猫へと変身する。  世界でただ一匹の歩く猫は、人間の住む街に行けば騒動勃発。  そして何故かハンターになって、王様に即位!?  この物語りは、歩く猫となった主人公がやらかしながら異世界を自由気ままに生きるドタバタコメディである。 注:イラストはイメージであって、登場猫物と異なります。   R指定は念の為です。   登場人物紹介は「11、15、19章」の手前にあります。   「小説家になろう」「カクヨム」にて、同時掲載しております。   一番最後にも登場人物紹介がありますので、途中でキャラを忘れている方はそちらをお読みください。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

転生テイマー、異世界生活を楽しむ

さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-

ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。 断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。 彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。 通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。 お惣菜お安いですよ?いかがです? 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-

ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。 困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。 はい、ご注文は? 調味料、それとも武器ですか? カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。 村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。 いずれは世界へ通じる道を繋げるために。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

処理中です...