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とりあえず腹ごしらえを済ませた後、俺とレイラは勇者達を連れて、庭に来た。
勇者達がここに来る時に通った道と、丁度家を挟んだ反対側に位置する場所。ここが俺達の庭っていうか……えーっと、畑だ。
「これ、は……」
勇者は口をあんぐりと開け、それを見る。
――すなわち、支柱を立て、その周りに透明な魔力を張り巡らせた畑を見て、だ。
支柱になる木に、十日に一回程度、「ハァァァ!」と、気合で魔力を流し込む。すると、支柱の中に、俺の望むような効果を与えてくれるようになるのである。
「えっと、とりあえず入ってくれ。どこからでも入れる」
「あ、ああ」
促すと、ぎこちなく勇者が頷き、俺について入った。
魔力の壁を通り抜けると、中はかなり暖かくなっている。様々な植物を植えているが、一番目を引くのは木だろう。
各々好きなポーズをキメてこちらを見ている木。これが、今回の重要なものだ。
「えー、ごほん。本日はお日柄もよく」
「魔王様、その話は不要ではないか?」
不要だったのか。残念。
「これは、まるで温室じゃないか……」
「オンシツ?」
「なんかこう、ガラス張りで、あったかくて、植物がよく育つ環境を人工的に作っているものだよ」
へー、人間の方も中々発達してるじゃん。
理屈は同じだ。硝子のかわりに魔力で覆って、ぬくぬくにする。後は魔王パワーがあるから、普通の植物よりも成長が早く、のびのびと育つくらいだ。
「オンシツ……。聞いた事も無いわ」
「あー、えーっと、どこかで見た筈なんだけど、どこだったかな。アハハ」
「そんな文明、聞いた事も無いな」
なんとなく誤魔化している雰囲気の笑い声を上げた勇者に、レイラはぴしゃりと言い放った。
「レイラ、勇者って不思議な発想力でなんとかって、新聞に書いてただろ。大体そんなアレだよ。夢でお告げがあったり!」
「……まぁ、魔王様が言うのなら、納得してやろう」
何でちょっと不満げなんだろう。……あ、もしかして、食べ物とかこの魔力バーンみたいなのとか、レイラが名前をつけたかったのか!
「次はレイラが名前を付けてもいいからな」
「何の話だ、何の」
あれ、違うのか? 乙女心はドラゴンであっても繊細で分かり難いな。
気を取り直して、説明していくか。
「えーっとな、この木がポイントなんだよ」
「確かにこれは、魔王城にも多くあったが……」
「夜中に風が吹く声真似をする木ね」
うんうん、分かっているのなら話は早い。
「こいつの名前はドライアド。これこそが、瘴気の影響を減らす鍵だ」
俺が胸を張って言えば、オリヴィアがよろよろとへたり込んだ。
彼女、可愛いワンピースなんかを着ているから、下が土のここだと汚れないかと心配になるな。
こういうのを考えると、レイラのエプロンドレスは優秀だ。なんてったって、汚れても良い様に最初からエプロンがついている。
「き、伐っちゃったわ」
「伐っちゃったの!?」
オリヴィアがへたり込んだ理由は、その辺にあったのだろう。瘴気をどうにかするキーを、自らの手で潰していたのだから。
いや、潰した、と決めつけるのはまだ早い。確認しなくてはいけない事はまだある。そして、伐った後に色々と使うのだ。
「伐った物は?」
「一部は薪に……」
「まだ残ってる?」
オリヴィアは頷く。それなら、まだやりようはある。
「じゃあ、それを細かくして、火をつけて、乾かした食べ物を煙の中にポイって……えーっと、説明が難しいな」
いや、この話からするから難しいんだな。順序を変えよう。
「えーっとな、ざっくりと説明すると、この木自体が瘴気を浄化するんだ」
俺はドライアドをつつきながら説明を始めた。 ドライアドは「うぅぅん……」と少し悩ましげな声を上げた。
「こんなに不気味なのに?」
「そう、それ!」
それこそが、この瘴気の原因なのである。
「昔、人間はドライアドが不気味だと言う理由で伐採を繰り返した。そして減少し、今の瘴気が濃くなる事態に陥った」
彼女の言い分から察するに、どうしてこうなったのかをまるで分かっていない。そうだそうだ。ここから説明しなきゃいけなかったんだな。
「最近は伐っていないみたいだったから、やっと使い方を覚えたのかな、って思ってたんだけど……」
それにしても、魔王城を明け渡すときに、説明書とか書いて渡しておけばよかったなー。こんなに無知だとは思ってなかったから、何にも引き継ぎしなかったよ。失敗失敗。
「えっとな、とにかくそういう木で、悪魔とか魔王と呼ばれる奴らで一生懸命植樹して増やして、魔王パワーでにょきにょき成長させてー、っていうのを繰り返してたわけだ」
幸いにも、俺の魔力と植物の相性は良い。魔力を与えると、自生する物よりも成長が早い。
「更にこの木で作った樽に食べ物を入れておくと、瘴気が抜けて美味しい物が出来上がる。果実酒もその一つだし、さっき食べさせたミソ? まぁ、ようは豆の発酵調味料なんかもそれにあたる」
ミソ、美味しかったなー。次はどんな物を作ってみるか……おっと、今は説明が先だった。
「樽に入れた食べ物の瘴気をゆっくりと中和してくれるんだ。だから、樽を壊したっていうのがもったいないって言った」
「そういう理由、だったのね……」
ぽつりと呟いたオリヴィアを見ると、ここまでズバッと言わなくてもよかったのではないか、という気にもなってくる。いや、でも言わないと分からないからなぁ。
言わないと分からないから、レイラが時々ドライアドをつついては、木とドラゴン二人で「フゥゥゥゥ!」と騒いでいるのも注意しないと止めてくれないかもしれない。
ちょっと気が散るんだけどなぁ。レイラ、この話に飽きてるんだろうなぁ。
「この木を燃やした煙を纏わせると、これまた瘴気の中和が出来る」
とりあえずレイラをスルーしつつ、話しを進める事にした。
「さっきの、えーっと、ベエコンとかいうやつがそれだな」
「わかった」
意外にも……でもないか。この場で最初に理解を示したのは勇者だった。
「樽を使った発酵系全般と、ウッドチップを使った燻製によって、害の無い物が出来上がるんだな」
「ウッド……クン?」
勇者は分かったかもしれないが、俺は分からない。
「……また勝手に名前を付けた」
レイラが不機嫌そうに唇を尖らせている。しまった、次はレイラにつけさせるって言ってたのにな!
だから「フゥゥゥ!」って言うのを止めてまで、唇を尖らせてるわけか。うーん。
「レイラ! レイラは何て名前にする?」
「は? レイラはレイラだが」
「そうだな!」
あっ、通じない!
「えっと、だから、えーっと!」
「何を勘違いしているのかは知らないが、おそらく魔王様が思っているような事でボクが怒っている訳ではない」
「そうなの?」
本当に? 拗ねてない?
「ああ、そうだ。それよりも、説明は終わったのだろう。早くお引き取りを願おうではないか」
「いや、ちょっと待って」
まだ見せたいものがある。実物を見せた方が早い。あと、まだ言ってない事も。
「折角だから、ウッドクンとか見ていって貰おう」
「ウッドクンって、混ざってるなぁ。どっちの事だか分からないけど、是非見せてくれ。」
ん? 混ざってたか? まぁいい。多分通じてるだろ。
勇者達がここに来る時に通った道と、丁度家を挟んだ反対側に位置する場所。ここが俺達の庭っていうか……えーっと、畑だ。
「これ、は……」
勇者は口をあんぐりと開け、それを見る。
――すなわち、支柱を立て、その周りに透明な魔力を張り巡らせた畑を見て、だ。
支柱になる木に、十日に一回程度、「ハァァァ!」と、気合で魔力を流し込む。すると、支柱の中に、俺の望むような効果を与えてくれるようになるのである。
「えっと、とりあえず入ってくれ。どこからでも入れる」
「あ、ああ」
促すと、ぎこちなく勇者が頷き、俺について入った。
魔力の壁を通り抜けると、中はかなり暖かくなっている。様々な植物を植えているが、一番目を引くのは木だろう。
各々好きなポーズをキメてこちらを見ている木。これが、今回の重要なものだ。
「えー、ごほん。本日はお日柄もよく」
「魔王様、その話は不要ではないか?」
不要だったのか。残念。
「これは、まるで温室じゃないか……」
「オンシツ?」
「なんかこう、ガラス張りで、あったかくて、植物がよく育つ環境を人工的に作っているものだよ」
へー、人間の方も中々発達してるじゃん。
理屈は同じだ。硝子のかわりに魔力で覆って、ぬくぬくにする。後は魔王パワーがあるから、普通の植物よりも成長が早く、のびのびと育つくらいだ。
「オンシツ……。聞いた事も無いわ」
「あー、えーっと、どこかで見た筈なんだけど、どこだったかな。アハハ」
「そんな文明、聞いた事も無いな」
なんとなく誤魔化している雰囲気の笑い声を上げた勇者に、レイラはぴしゃりと言い放った。
「レイラ、勇者って不思議な発想力でなんとかって、新聞に書いてただろ。大体そんなアレだよ。夢でお告げがあったり!」
「……まぁ、魔王様が言うのなら、納得してやろう」
何でちょっと不満げなんだろう。……あ、もしかして、食べ物とかこの魔力バーンみたいなのとか、レイラが名前をつけたかったのか!
「次はレイラが名前を付けてもいいからな」
「何の話だ、何の」
あれ、違うのか? 乙女心はドラゴンであっても繊細で分かり難いな。
気を取り直して、説明していくか。
「えーっとな、この木がポイントなんだよ」
「確かにこれは、魔王城にも多くあったが……」
「夜中に風が吹く声真似をする木ね」
うんうん、分かっているのなら話は早い。
「こいつの名前はドライアド。これこそが、瘴気の影響を減らす鍵だ」
俺が胸を張って言えば、オリヴィアがよろよろとへたり込んだ。
彼女、可愛いワンピースなんかを着ているから、下が土のここだと汚れないかと心配になるな。
こういうのを考えると、レイラのエプロンドレスは優秀だ。なんてったって、汚れても良い様に最初からエプロンがついている。
「き、伐っちゃったわ」
「伐っちゃったの!?」
オリヴィアがへたり込んだ理由は、その辺にあったのだろう。瘴気をどうにかするキーを、自らの手で潰していたのだから。
いや、潰した、と決めつけるのはまだ早い。確認しなくてはいけない事はまだある。そして、伐った後に色々と使うのだ。
「伐った物は?」
「一部は薪に……」
「まだ残ってる?」
オリヴィアは頷く。それなら、まだやりようはある。
「じゃあ、それを細かくして、火をつけて、乾かした食べ物を煙の中にポイって……えーっと、説明が難しいな」
いや、この話からするから難しいんだな。順序を変えよう。
「えーっとな、ざっくりと説明すると、この木自体が瘴気を浄化するんだ」
俺はドライアドをつつきながら説明を始めた。 ドライアドは「うぅぅん……」と少し悩ましげな声を上げた。
「こんなに不気味なのに?」
「そう、それ!」
それこそが、この瘴気の原因なのである。
「昔、人間はドライアドが不気味だと言う理由で伐採を繰り返した。そして減少し、今の瘴気が濃くなる事態に陥った」
彼女の言い分から察するに、どうしてこうなったのかをまるで分かっていない。そうだそうだ。ここから説明しなきゃいけなかったんだな。
「最近は伐っていないみたいだったから、やっと使い方を覚えたのかな、って思ってたんだけど……」
それにしても、魔王城を明け渡すときに、説明書とか書いて渡しておけばよかったなー。こんなに無知だとは思ってなかったから、何にも引き継ぎしなかったよ。失敗失敗。
「えっとな、とにかくそういう木で、悪魔とか魔王と呼ばれる奴らで一生懸命植樹して増やして、魔王パワーでにょきにょき成長させてー、っていうのを繰り返してたわけだ」
幸いにも、俺の魔力と植物の相性は良い。魔力を与えると、自生する物よりも成長が早い。
「更にこの木で作った樽に食べ物を入れておくと、瘴気が抜けて美味しい物が出来上がる。果実酒もその一つだし、さっき食べさせたミソ? まぁ、ようは豆の発酵調味料なんかもそれにあたる」
ミソ、美味しかったなー。次はどんな物を作ってみるか……おっと、今は説明が先だった。
「樽に入れた食べ物の瘴気をゆっくりと中和してくれるんだ。だから、樽を壊したっていうのがもったいないって言った」
「そういう理由、だったのね……」
ぽつりと呟いたオリヴィアを見ると、ここまでズバッと言わなくてもよかったのではないか、という気にもなってくる。いや、でも言わないと分からないからなぁ。
言わないと分からないから、レイラが時々ドライアドをつついては、木とドラゴン二人で「フゥゥゥゥ!」と騒いでいるのも注意しないと止めてくれないかもしれない。
ちょっと気が散るんだけどなぁ。レイラ、この話に飽きてるんだろうなぁ。
「この木を燃やした煙を纏わせると、これまた瘴気の中和が出来る」
とりあえずレイラをスルーしつつ、話しを進める事にした。
「さっきの、えーっと、ベエコンとかいうやつがそれだな」
「わかった」
意外にも……でもないか。この場で最初に理解を示したのは勇者だった。
「樽を使った発酵系全般と、ウッドチップを使った燻製によって、害の無い物が出来上がるんだな」
「ウッド……クン?」
勇者は分かったかもしれないが、俺は分からない。
「……また勝手に名前を付けた」
レイラが不機嫌そうに唇を尖らせている。しまった、次はレイラにつけさせるって言ってたのにな!
だから「フゥゥゥ!」って言うのを止めてまで、唇を尖らせてるわけか。うーん。
「レイラ! レイラは何て名前にする?」
「は? レイラはレイラだが」
「そうだな!」
あっ、通じない!
「えっと、だから、えーっと!」
「何を勘違いしているのかは知らないが、おそらく魔王様が思っているような事でボクが怒っている訳ではない」
「そうなの?」
本当に? 拗ねてない?
「ああ、そうだ。それよりも、説明は終わったのだろう。早くお引き取りを願おうではないか」
「いや、ちょっと待って」
まだ見せたいものがある。実物を見せた方が早い。あと、まだ言ってない事も。
「折角だから、ウッドクンとか見ていって貰おう」
「ウッドクンって、混ざってるなぁ。どっちの事だか分からないけど、是非見せてくれ。」
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