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「食べられる物を作る方法を、教えてくれないかな。お願いします」
そして、テーブルに額がつくのではないかと言うほど、頭を下げた。
「おいおい、そこまでしなくたって教えるよ。大体にして、俺は人間がもっと知っているもんだと思い込んでたから、これまで話さなかっただけなんだし」
「少し待て、魔王様」
俺がペラペラと喋りだそうとしたのを止めたのは、レイラだった。何か気になる事があったらしい。
「おい、貴様は頭を下げないのか?」
チロっとオリヴィアを見た。うわぁ、レイラったら悪い顔……。
「これは人間の問題だ。人間が食料を確保する為に、どうしたらいいのかとそちらが問うているのだな? 主にそこの変態勇者が」
まぁ、この状況から考えれば、間違っては無いな。
お腹空いたから作り方を教えて、っていう簡単な話じゃないのか? レイラは、色んな事をいっぱい考えるからなぁ。
「ここでボク達が食料品の秘密を語るのは簡単だろう。だが、人間達に伝えるのは勇者か貴様かのどちらか。こちらが沢山の時間を費やしてやっと見つけた方法を、功績としてもぎ取ってしまうだろう」
功績……。
あー、確かに、こうしたらご飯を食べれるよーって言われたら、お祭り騒ぎかな。レイラが窓の掃除に使ってしまった新聞のように、勇者凄ーい、みたいな話題で持ちきりになりそうだ。
「そもそもは、貴様達の勝手な思い込みにより襲撃してきたのだ。そんなやつらの功績になる様になる事を、何故ボク達が教えてやらねばならない。こちらにとってのメリットは何だ?」
考えた事は無かったが、お腹が空いてるしな。ここで意地悪するのもよくないだろう。
「レイラ、こいつらはお腹が空いているんだぞ」
「だからなんだ」
止めようとしたが、鼻で笑われた。切ない。
「こちらを家から追い出し、危害を加え、食料を奪い、家畜を放し、樽を壊して酒を捨てる。悪逆の限りを尽くす人間に、どうして同情出来る」
「どうしてって、お腹が空いてるから」
やっぱりこんな風に羅列されると、酷い目に遭った気がするけど! でも、案外大丈夫だったしいいんじゃないのかな。
どうもレイラ的に腹の虫が治まらないようだが。
「……あんな街、魔王様さえ望めば、ボクは簡単に壊せるんだぞ。それでもわざわざ生かしてやっている」
偉い! 俺が人間達には普通の生活をさせてあげてって言ったから、やらないでいてくれていたのか!
確かに魔王城を追い出された後、キレて奇襲をかけようとしたのを止めた記憶がある。
「それに感謝もせず、失礼なふるまいを繰り返す。それをどう思っている」
「僕は――」
「勇者ではない。そこの、オリヴィアに聞いているのだ」
じっとりと、瞳孔が縦に割れたドラゴン特有の瞳がオリヴィアを捉えた。彼女は身体を強張らせる。
だよなー、怖いよなー。
「勇者は変態で頭が可笑しいとは思っているが、それでもこちらに対しての態度で大目に見ている。嫌いではあるが、魔王様が人間の事情があると言うのなら許せるレベルだ」
窓から見えた時に、げって言ってたけどな。
「だが、貴様は……いや、勇者の腰ぎんちゃく共は、どいつもこいつもなっていない」
レイラが怒っていた相手は、オリヴィアだったのか。お腹が空いていても、「お願いします」くらい言えよ、っていう話か。うん、礼儀だもんな。
レイラは言葉がきついから、時々直ぐに分からないんだよな。
「今だって頭の一つも下げなかったな。こちらに対して下げる頭が無いのなら、実際に取ってやろうか。何、死んだらただの肉だ。ちゃんと食事として食らってやる。安心して首を出せ」
礼儀を教えているのなら、俺が口を出すのも悪いか。実際に首を取りそうになったときは止めるとして。
「……だって、嘘を吐くかも……」
「ああ、嘘を吐くかもしれないな。それならば聞かなければいい」
ふん、と再び鼻が鳴った。
「ランドルフ、本当に……」
「僕は、彼らが嘘を吐くとは思っていないよ」
「根拠は」
オリヴィアは勇者へと向き直ると、問う。
「そりゃあ、彼ら……特にサイラスに敵対の意思がないからだ」
「おう、無いぞー」
「その気になれば、人間なんてひとたまりもない」
俺の相槌に勇者は頷き一つ。それから、じっとオリヴィアを見つめた。
まぁなー。レイラにかかれば街の一つくらい、簡単にドーンだ。
問題は、一々威力が強すぎるから、ちょっとだけ何かしたい時には不向きっていうところ。例えば、野生の魔物を狩るとか。それは俺も同じなんだけどさ。
「けれども魔王城でワイワイ生活していただけの彼らを迫害してしまった。それも、こちらの思い込みで。申し訳なかった」
「いいって。お腹が空くと、魔物だって凶暴化するもんなんだし、人間だって凶暴化するんだろ?」
勇者は「魔物と同じ扱いか」と小さく笑う。
何かを食べて生きる以上、同じだと思うんだけどな。勿論必要だから、魔物は家畜として食べるけど。このベエコンだって、その一つだし。
「君が心配なら、最初に食べ物を口にするのは僕の役目にしよう」
「そんな――」
「何より、美味しいしね」
二人の会話を、レイラは足を組み直してみている。レイラって、よく足を組んでるよな。
ドラゴンの姿の時って足は組みにくいから、人の形をとっている時は積極的に組みたいのだろうか。
「今食べているこのサンドイッチもコーヒーも、とっても美味しいとは思わないかい?」
「思う、けれど」
「皆にも食べさせてあげたい、って思わない?」
「……思うわ」
お腹が空いていても、分け合う心がある! 素晴らしい!
「……お願いします。作り方を教えて下さい」
「おお、いい――」
「まだだ」
俺が快諾しようとしたところを、またしても遮られる。
うーん、仕方ないなぁ。こういう時はレイラにお任せしよう。
そして、テーブルに額がつくのではないかと言うほど、頭を下げた。
「おいおい、そこまでしなくたって教えるよ。大体にして、俺は人間がもっと知っているもんだと思い込んでたから、これまで話さなかっただけなんだし」
「少し待て、魔王様」
俺がペラペラと喋りだそうとしたのを止めたのは、レイラだった。何か気になる事があったらしい。
「おい、貴様は頭を下げないのか?」
チロっとオリヴィアを見た。うわぁ、レイラったら悪い顔……。
「これは人間の問題だ。人間が食料を確保する為に、どうしたらいいのかとそちらが問うているのだな? 主にそこの変態勇者が」
まぁ、この状況から考えれば、間違っては無いな。
お腹空いたから作り方を教えて、っていう簡単な話じゃないのか? レイラは、色んな事をいっぱい考えるからなぁ。
「ここでボク達が食料品の秘密を語るのは簡単だろう。だが、人間達に伝えるのは勇者か貴様かのどちらか。こちらが沢山の時間を費やしてやっと見つけた方法を、功績としてもぎ取ってしまうだろう」
功績……。
あー、確かに、こうしたらご飯を食べれるよーって言われたら、お祭り騒ぎかな。レイラが窓の掃除に使ってしまった新聞のように、勇者凄ーい、みたいな話題で持ちきりになりそうだ。
「そもそもは、貴様達の勝手な思い込みにより襲撃してきたのだ。そんなやつらの功績になる様になる事を、何故ボク達が教えてやらねばならない。こちらにとってのメリットは何だ?」
考えた事は無かったが、お腹が空いてるしな。ここで意地悪するのもよくないだろう。
「レイラ、こいつらはお腹が空いているんだぞ」
「だからなんだ」
止めようとしたが、鼻で笑われた。切ない。
「こちらを家から追い出し、危害を加え、食料を奪い、家畜を放し、樽を壊して酒を捨てる。悪逆の限りを尽くす人間に、どうして同情出来る」
「どうしてって、お腹が空いてるから」
やっぱりこんな風に羅列されると、酷い目に遭った気がするけど! でも、案外大丈夫だったしいいんじゃないのかな。
どうもレイラ的に腹の虫が治まらないようだが。
「……あんな街、魔王様さえ望めば、ボクは簡単に壊せるんだぞ。それでもわざわざ生かしてやっている」
偉い! 俺が人間達には普通の生活をさせてあげてって言ったから、やらないでいてくれていたのか!
確かに魔王城を追い出された後、キレて奇襲をかけようとしたのを止めた記憶がある。
「それに感謝もせず、失礼なふるまいを繰り返す。それをどう思っている」
「僕は――」
「勇者ではない。そこの、オリヴィアに聞いているのだ」
じっとりと、瞳孔が縦に割れたドラゴン特有の瞳がオリヴィアを捉えた。彼女は身体を強張らせる。
だよなー、怖いよなー。
「勇者は変態で頭が可笑しいとは思っているが、それでもこちらに対しての態度で大目に見ている。嫌いではあるが、魔王様が人間の事情があると言うのなら許せるレベルだ」
窓から見えた時に、げって言ってたけどな。
「だが、貴様は……いや、勇者の腰ぎんちゃく共は、どいつもこいつもなっていない」
レイラが怒っていた相手は、オリヴィアだったのか。お腹が空いていても、「お願いします」くらい言えよ、っていう話か。うん、礼儀だもんな。
レイラは言葉がきついから、時々直ぐに分からないんだよな。
「今だって頭の一つも下げなかったな。こちらに対して下げる頭が無いのなら、実際に取ってやろうか。何、死んだらただの肉だ。ちゃんと食事として食らってやる。安心して首を出せ」
礼儀を教えているのなら、俺が口を出すのも悪いか。実際に首を取りそうになったときは止めるとして。
「……だって、嘘を吐くかも……」
「ああ、嘘を吐くかもしれないな。それならば聞かなければいい」
ふん、と再び鼻が鳴った。
「ランドルフ、本当に……」
「僕は、彼らが嘘を吐くとは思っていないよ」
「根拠は」
オリヴィアは勇者へと向き直ると、問う。
「そりゃあ、彼ら……特にサイラスに敵対の意思がないからだ」
「おう、無いぞー」
「その気になれば、人間なんてひとたまりもない」
俺の相槌に勇者は頷き一つ。それから、じっとオリヴィアを見つめた。
まぁなー。レイラにかかれば街の一つくらい、簡単にドーンだ。
問題は、一々威力が強すぎるから、ちょっとだけ何かしたい時には不向きっていうところ。例えば、野生の魔物を狩るとか。それは俺も同じなんだけどさ。
「けれども魔王城でワイワイ生活していただけの彼らを迫害してしまった。それも、こちらの思い込みで。申し訳なかった」
「いいって。お腹が空くと、魔物だって凶暴化するもんなんだし、人間だって凶暴化するんだろ?」
勇者は「魔物と同じ扱いか」と小さく笑う。
何かを食べて生きる以上、同じだと思うんだけどな。勿論必要だから、魔物は家畜として食べるけど。このベエコンだって、その一つだし。
「君が心配なら、最初に食べ物を口にするのは僕の役目にしよう」
「そんな――」
「何より、美味しいしね」
二人の会話を、レイラは足を組み直してみている。レイラって、よく足を組んでるよな。
ドラゴンの姿の時って足は組みにくいから、人の形をとっている時は積極的に組みたいのだろうか。
「今食べているこのサンドイッチもコーヒーも、とっても美味しいとは思わないかい?」
「思う、けれど」
「皆にも食べさせてあげたい、って思わない?」
「……思うわ」
お腹が空いていても、分け合う心がある! 素晴らしい!
「……お願いします。作り方を教えて下さい」
「おお、いい――」
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俺が快諾しようとしたところを、またしても遮られる。
うーん、仕方ないなぁ。こういう時はレイラにお任せしよう。
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