管理官と問題児

二ノ宮明季

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2章

2-37 街を壊す!?

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 森を抜けると、俺達と同じく真っ白な制服を汚した男が倒れていた。明らかに、ルースだ。

「お、おい、大丈夫か!」
「オレ、より……ベル、を」

 直ぐにクルトさんが声を掛け、ルースに肩を貸す。

「何があったのですか?」
「サフラン、が、現われて……黒い蛇、が……グロリオーサの、中に……」

 尋ねれば、奇妙な話が返ってきた。
 黒い蛇。おそらくこれはシュヴェルツェの事だ。それがグロリオーサさんの中に入った、というのが奇妙。
 蛇が……いや、この場合は精霊か。とにかくそれが身体に入り込む話を、俺はどこかで読んでいる。
 そもそも、気になる点としては、何故ルースにも精霊が見えていたのか。そして俺がどこかで読んでいるそれも、精術師によって書かれた物ではなかった気がする。
 と、すれば、もしかしたら、シュヴェルツェは人間に見えるのだろうか。そう仮定しよう。
 けれども疑問は湧く。何故なんだ?

「ベルは、そのグロリオーサ……に、つれられて、街に、入って」

 シュヴェルツェが入り込んだグロリオーサさん。元がどうだったのか。入り込んだらどうなったのかは不明だが、シュヴェルツェの案件は昔あった筈なのだ。

「あいつら、街を壊す気……ぽい、ッス」
「街を壊す!?」
「……クルトさん、ルースをお願い出来ますか」

 シュヴェルツェの近くにいると、心が乱されるらしい。
 俺が初めてこれを知ったのは、さっき聞いたからではない。その前に、どこかでこの件に触れた事がある筈なのだ。
 よくよく考えてみれば、二十二年前にジュヴェルツェが現れたという話の資料だった。
 残念ながら詳しくは書いていなかったし、当事者の名前も殆ど乗っていなかったが、どうやら管理局で捕まえた人の中にシュヴェルツェに協力していた奴がいた、という事だ。
 とはいえ、当時はまだ学生だったが。
 当事者達の殆ども学生だったらしい、という事を考えれば、シュヴェルツェが絡めば大人も子供も関係がない、という事かもしれない。

「おう。こいつにはオレが肩を貸す。だから先に追いかけてくれ」
「オレも、ベルを……」
「オ、オレと一緒に行くぞ! 先にジギタリスに足止めしてて貰うんだ!」
「ッス」

 目の前では、ルースとクルトさんが行く気満々になっている。
 きっとシュヴェルツェには、俺が知らない何らかの能力がある。人の感情を揺さぶる事も、どの程度なのかが分からない。
 分からない事が多い以上、あまり連れて行きたくはないが、この二人は絶対に意思を曲げないだろう。

「……出来れば逃げて頂きたい所ですが、この分ですと、何でも屋に居ても危険ですからね」
「わたくしも、ジス先輩について行きますわ」

 結局僅かに頷きながら答えれば、隣のフィラさんも手を上げた。この人を連れて行くのも怖いんだけどな……。一人にするともっと厄介か。

「思考を狂わされて馬鹿な真似をしないで下さいね」
「大丈夫ですわ!」

 本当に大丈夫、だろうか。その辺は信用出来ない。

「クルトさんも、ルースも、あまり無理をしないように」
「いや、無理はするぞ」
「するッスよ。……無理しねーと、行けねーじゃ、ねー……ッスか」

 俺は大きな大きなため息を吐く。

「あ・ま・り、無理をしないで下さい」
「無理の許可が出たぞ!」
「存分に無理するッス」
「馬鹿なんですか? それとも馬鹿なんですか?」

 仲、いいじゃないか。一時はピリピリしていたあの空気はどこに行ったのか。

「どっちに転んでも……馬鹿、って、言ってねーッスか?」
「言ってるよなぁ」
「とにかく、私は先に行きます。せめて今の最善の状態で来て下さい」

 暗に言ったのだが、肯定する必要はない。俺は二人に注意をするだけに留めた。

「オッケー、ッス」
「おう、オッケーッス! あ、間違った。オッケーだ!」
「行きますよ、フィラさん。貴女も無理をしないように」
「あまり、ですわね! 分かりましたわ」

 そこ、拾わないでくれ。貴女には全く無理をしないで欲しかったんだが。
 しかしルースとクルトさんに「あまり」を強調した以上、否定も出来ず、俺は肩をすくめてから、フィラさんと共に街へと向かった。

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