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2章
2-36 健気に頑張って助けちゃう!
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「……一々煩い女ね」
「はいはい、助けてあげたんだから、文句言わないでね~~」
「ごめんなさいね、ヴェラ」
「ううん、仲間だもん♪ ヴェラ、健気に頑張って助けちゃう!」
ヴェラさんのハイテンションが気に入らないのか、ビデンスさんが毒づくも、結局彼女のテンションに変わりはない。
「まるで、ここから逃げられるかのような言い方ですね」
「そう言ってるんだよぅ」
試しに一言口にしてみれば、またポーズを変えながらヴェラさんは「きゃっ」と笑った。
「見逃さなかったら、さっき忠告した噂が広がっちゃうようにセットしておいたんだもーん☆ 困るでしょ?」
なるほど、風の属性を持つ精術師らしい戦い方か。クルトさんもこのくらい駆け引きが上手くなってくれればいいのだが。
「そ・れ・と! ヴェラ達、別にシュヴェルツェの仲間じゃないよ。これだけは名誉の為にはっきりさせておくけど」
何故かここで、フィラさんが「まあ!」と相槌を入れた。相変わらず何かに気を取られているクルトさんと、この間の抜けた相槌。どうにもこちらに勝ち目があるようには思えないメンバーだ。
「ヴェラ達の目的は、理不尽な世の中を変えるコト。例えば精術師の待遇なんかもソレだよぅ」
……なるほど。ずっとわからなかった目的は理解した。
「だから、執拗に狙われちゃったんだよ。お姫様とチャラ男君は」
クルトさんは納得がいかないようで首を傾げているが、彼女達の行動から考えれば妙に納得はいく。
クルトさんの事は助け、クルトさんを――つまり、精術師を馬鹿にしているように見えたルースは腹を刺された。更に、精術師だけではなく、1枚であるベルさんの事も見下すような言動を繰り返していたフィラさんは、国王の姪だ。生かして使うにはもってこいだろう。
本当に、彼女の命一つで待遇が変わるかどうかは分からないが。
「ねぇ、管理官さん。ここで油を売っている場合かしら?」
アマリネさんが、ゆるりと首を傾げた。
「たしかにあたし達は、ルース君とお姫様に関しては問題のある行為をしたわ」
自覚はあるが、彼女達の目的からいけばある程度は仕方がない。許すか許さないか、そして、捕まえるか捕まえないかは別として。
「けれど、今現在大変な事になっている街を放ってまで捕まえなくてはならない相手なのかしら?」
「あ、ここで見逃してくれたらぁ、クルト君に精術師のよしみでサービスしちゃうぞ☆」
ここまで行けば、勝機は無い。
名誉に関しては俺一人の問題ではない。信用される事の無くなった管理局は、犯罪の抑止力にもならない。加えて言えば、今優先すべきは、おそらくベルさん。
相手の情報が少ない以上、サービスしてくれると言うのなら、このタイミングしかない。
「……見逃しましょう」
俺が答えるのと同時に、二度目の爆発音が聞こえた。
「シュヴェルツェは存在そのものが感情……特に欲望を増強させるようなものだから、そばにいるだけで判断力を狂わされちゃうぞ☆ それと、自制も出来なくなっちゃうかも。心が強ければ影響は少ないんだけどぉ……」
「ちょ、ちょっと待て、シュヴェルツェが一枚噛んでるんじゃなくて、そのものがいるのか!?」
「うん、そう言ってるじゃん。ずーっと!」
心底不快そうな表情を浮かべるクルトさん。もしかして、精霊にも同じ事を言われたのだろうか。
「それじゃあ、ヴェラ達は行くね」
「遊んでくれてありがとう。あぁ、そこのランタンは持って帰ってもいいわよ」
「……次は、絶対に殺してやるから」
彼女達をここで逃がすのは惜しい。本当は捕まえてしまいたい。
俺が歯噛みしていると、ヴェラさんは「そんじゃ、あばよ!」と、低い方の声を出した。
「我はヴィントホーゼの名を継ぐ者。ヴィントホーゼの名のもとに、旋風の精霊の力を寸借致す。この場に強い風を」
最初に感じた、目も開けていられない、息も出来ない程の竜巻のような強い風が吹き荒れる。
俺達が目を開けた頃には、彼女達の姿は無かった。
「木の魔法陣、全部ボロボロだって」
クルトさんがポツリと俺に伝える。精霊に言われたのだろう。
「そうですか。おそらくは、どんな風に作られた魔法陣だったのかを解明させない為にそうしたのでしょう」
どこまでも周到だ。
「とりあえず今は、街に向う事を優先させましょう」
「おう!」
「わ、わたくしも、今度こそは役にたってみせますわ!」
やすやすと犯人を逃した俺達は、ベルさんのランタンを手に、街へと向かう。せめて向こうだけでも、解決する為に。
***
「はいはい、助けてあげたんだから、文句言わないでね~~」
「ごめんなさいね、ヴェラ」
「ううん、仲間だもん♪ ヴェラ、健気に頑張って助けちゃう!」
ヴェラさんのハイテンションが気に入らないのか、ビデンスさんが毒づくも、結局彼女のテンションに変わりはない。
「まるで、ここから逃げられるかのような言い方ですね」
「そう言ってるんだよぅ」
試しに一言口にしてみれば、またポーズを変えながらヴェラさんは「きゃっ」と笑った。
「見逃さなかったら、さっき忠告した噂が広がっちゃうようにセットしておいたんだもーん☆ 困るでしょ?」
なるほど、風の属性を持つ精術師らしい戦い方か。クルトさんもこのくらい駆け引きが上手くなってくれればいいのだが。
「そ・れ・と! ヴェラ達、別にシュヴェルツェの仲間じゃないよ。これだけは名誉の為にはっきりさせておくけど」
何故かここで、フィラさんが「まあ!」と相槌を入れた。相変わらず何かに気を取られているクルトさんと、この間の抜けた相槌。どうにもこちらに勝ち目があるようには思えないメンバーだ。
「ヴェラ達の目的は、理不尽な世の中を変えるコト。例えば精術師の待遇なんかもソレだよぅ」
……なるほど。ずっとわからなかった目的は理解した。
「だから、執拗に狙われちゃったんだよ。お姫様とチャラ男君は」
クルトさんは納得がいかないようで首を傾げているが、彼女達の行動から考えれば妙に納得はいく。
クルトさんの事は助け、クルトさんを――つまり、精術師を馬鹿にしているように見えたルースは腹を刺された。更に、精術師だけではなく、1枚であるベルさんの事も見下すような言動を繰り返していたフィラさんは、国王の姪だ。生かして使うにはもってこいだろう。
本当に、彼女の命一つで待遇が変わるかどうかは分からないが。
「ねぇ、管理官さん。ここで油を売っている場合かしら?」
アマリネさんが、ゆるりと首を傾げた。
「たしかにあたし達は、ルース君とお姫様に関しては問題のある行為をしたわ」
自覚はあるが、彼女達の目的からいけばある程度は仕方がない。許すか許さないか、そして、捕まえるか捕まえないかは別として。
「けれど、今現在大変な事になっている街を放ってまで捕まえなくてはならない相手なのかしら?」
「あ、ここで見逃してくれたらぁ、クルト君に精術師のよしみでサービスしちゃうぞ☆」
ここまで行けば、勝機は無い。
名誉に関しては俺一人の問題ではない。信用される事の無くなった管理局は、犯罪の抑止力にもならない。加えて言えば、今優先すべきは、おそらくベルさん。
相手の情報が少ない以上、サービスしてくれると言うのなら、このタイミングしかない。
「……見逃しましょう」
俺が答えるのと同時に、二度目の爆発音が聞こえた。
「シュヴェルツェは存在そのものが感情……特に欲望を増強させるようなものだから、そばにいるだけで判断力を狂わされちゃうぞ☆ それと、自制も出来なくなっちゃうかも。心が強ければ影響は少ないんだけどぉ……」
「ちょ、ちょっと待て、シュヴェルツェが一枚噛んでるんじゃなくて、そのものがいるのか!?」
「うん、そう言ってるじゃん。ずーっと!」
心底不快そうな表情を浮かべるクルトさん。もしかして、精霊にも同じ事を言われたのだろうか。
「それじゃあ、ヴェラ達は行くね」
「遊んでくれてありがとう。あぁ、そこのランタンは持って帰ってもいいわよ」
「……次は、絶対に殺してやるから」
彼女達をここで逃がすのは惜しい。本当は捕まえてしまいたい。
俺が歯噛みしていると、ヴェラさんは「そんじゃ、あばよ!」と、低い方の声を出した。
「我はヴィントホーゼの名を継ぐ者。ヴィントホーゼの名のもとに、旋風の精霊の力を寸借致す。この場に強い風を」
最初に感じた、目も開けていられない、息も出来ない程の竜巻のような強い風が吹き荒れる。
俺達が目を開けた頃には、彼女達の姿は無かった。
「木の魔法陣、全部ボロボロだって」
クルトさんがポツリと俺に伝える。精霊に言われたのだろう。
「そうですか。おそらくは、どんな風に作られた魔法陣だったのかを解明させない為にそうしたのでしょう」
どこまでも周到だ。
「とりあえず今は、街に向う事を優先させましょう」
「おう!」
「わ、わたくしも、今度こそは役にたってみせますわ!」
やすやすと犯人を逃した俺達は、ベルさんのランタンを手に、街へと向かう。せめて向こうだけでも、解決する為に。
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