管理官と問題児

二ノ宮明季

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2章

2-23 ……ご協力、ありがとうございました

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 アマリネさんは「続けますね」と苦笑いを浮かべた。

「あたしがあの森に居たのは、恋人以上友人未満の男性と金銭を絡む行為をする為でした」
「……汚らしい」

 ビデンスさんが吐き捨てたが、それに対しても苦笑いでやり過ごす。
 それにしても、あの場にもう一人男がいた、という主張は、どうにも胡散臭い。

「そうしていると、木々の隙間からキラキラとしたものが見えて……。魔法陣だと気が付いた時には、悲鳴を上げていました」

 木々の隙間から魔法陣が、というのは、嘘とは言い切れない。だが、どこかに嘘が混じっている気がするのだ。

「あたしの相手の男性も、そこの、クルトさん? に魔法を放った長身の男性も直ぐに逃げてしまったのですけれど」

 ……どう考えても、彼女が男性を相手にしていたのは嘘だ。
 アマリネさんは香りのきつい香水をつけている。彼女と一緒に居たと言う男性には、当然移り香があったはずだ。
 それがどうだろうか。あの場所で、彼女以外からは香水の匂いがしなかった。逃げたと言うのなら、逃げた方向からしてもおかしくは無いのに。
 と、すれば、いよいよ彼女達に何らかの企みがあり、偶然この一件に居合わせてしまったという線が濃厚になってくる。

「魔法を使った方は、きっとあたしの悲鳴で逃げてしまったんでしょうね。ああ、その方の外見は、ひょろりと背が高くて、金色の髪をした方でした」

 ……外見的特徴と照らし合わせれば、紙面で見たグロリオーサさんで間違いはなさそうだ。

「とにかくその方が逃げてしまった後、あたしは一人だけになってしまいましたし、魔法をかけられて倒れている男の子を一人にするわけにもいかず、彼に近寄りました」

 それで、クルトさんの近くにしゃがみ込む、という構図が出来上がった訳か。

「幸い、呼吸はしっかりと確認出来ましたし、胸も規則的に上下しているのは見て取れました。けれど、何度呼んでも反応が無くて……」

 彼女の語るものは、先程のクルトさんの状態と違いがない。

「不安になって、どうしたらいいのかと動けなくなっていたところに、管理官さんたちが来て下さったんです」
「……私が呼んだのよ」

 ぼそり、と、ビデンスさんが口を挟んだ。

「馬鹿な姉が馬鹿な事をして、馬鹿みたいに固まっていたから。私が悲鳴を上げていた事すら、気付いてなかったようだけど」
「そうだったの。ありがとう。でも、どうしてあんなところに?」
「関係ないでしょ」

 ビデンスさんはふん、と鼻を鳴らす。その態度は、「これでおしまい」と話を打ち切ってしまっているようだ。

「もういい? 話せる事は話したと思うんですけど」

 語っていたアマリネさんを無視し、彼女が全員を見回してから尋ねる。

「いつまでもここで茶番に付き合っている程、私は暇じゃないんですよ」
「まぁ、確かにそうですわね。お帰りになります?」

 やはり話を打ちきりにかかっていたようだ。
 ネモフィラさんは何の疑問もなく、帰す方向で話を進めている。
 暇ではない、という割に、姉をつけていたと言うのだから、言動が一致しない。

「ええ、帰らせて頂きます。そこの男の子も、元気そうだし」
「まって、ビス。あたしも一緒に――」
「勝手にしてもいいけど、気安く私の名前を呼ばないで」

 席を立った二人に合せ、俺も立ち上がる。

「……ご協力、ありがとうございました」

 これ以上は、引き留める事が出来ない。帰る事を促してしまった上に、彼女達の目的が見えてこない以上は、何の情報を引き出すべきかが分からなかったのだ。

「お役に立てて良かったです」

 俺に対し、アマリネさんが薄く微笑む。それからクルトさんの方を向いた。

「それと、クルトさん。無事で良かったわ」
「え、あ、ありが、とう」

 彼女はクルトさんにも微笑み、それを見たビデンスさんは更に不機嫌そうな表情を浮かべて何でも屋を出て行った。
 ドアの閉められた何でも屋は、二人がいなくなってからも香水の匂いが充満している。

「……ドアドア」

 かと思えば、クルトさんはドアの方へと向かい、開け放った。外の空気が入り込み、換気されている。
クルトさんが外に頭を出してすーはーと深呼吸をした。
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