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1章
1-2 制服は正しく着こなして下さい
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ナスタチウムさんは、俺の、内勤をする上での直属の上司に当たる。
それどころか、彼が13枚で必然的にクラスは違った物の、学校も同じ第一学園出身。家も比較的近い。習い事が被る事もあったと言う、幼馴染三拍子がそろった相手。
ところが、就職管理局で対等な立場であるお互いの父の仲が非常に悪いせいか、よく競わされていた。競わされていた、とは、人聞きが良すぎるか。
俺は父から「あいつには負けるな。殺すつもりで泣かせてやれ」と圧力を掛けられていた。
対して、ナスタチウムさん自身も、俺とはあまり関わらないように言われていたようで、どこか怯えた目を向けて来る事が多い。
……俺は仲良くなりたいし、攻撃的な行動をした覚えはないのだが。
このように、幼馴染、というよりは、幼馴染まない、と言った関係。
「ジスさん!」
少し気が重かった俺の背に、言葉が投げかけられた。
立ち止まって振り向けば、後輩のペンステモンさんとノラナさん。今の声は、常に明るく陽気なペンステモンさんのものだろう。
「こんにちは!」
「うっす、こんにちは」
ペンステモンさんが明るく手をあげながら、ノラナさんがペンステモンさんの落とした書類を拾いながら挨拶をした。
「こんにちは。私に何か?」
「いや、全然ないけど、見かけたらとりあえず声を掛けておこっかなー、みたいな!」
「うっす。みたいな、です」
用事は無いけど声を掛ける。
確かに挨拶は大事だが、既に夕方にも近くなった時刻。まして彼らとは、朝挨拶を交わした筈だ。
不思議とこういった事が多い。
俺は表情を上手く変えられず、長身も相まって怖がられるのだが……これを不憫に思ってか、俺と関わった部下、時には上司もこうして声を掛けてくれる。最初こそ中々慣れずに、父の影響かとも余計な事を考えたりもしたが、今はごく普通に受け入れている。
多分声を掛けてくれる人は、社交的で優しい人なのだろう。
「どっか行くんですか?」
「ナスタチウムさんの所まで」
「あー」
ペンステモンさんは言いよどむ。
「あの人は……あのー、仕事熱心な方ですよね!」
フォロー、のようなものか。
何しろ今から書類を渡しに行くナスタチウムさんは、表情一つ変えず、規則に拘束されたような生活を好む人。部下からは中々つかめないように思われているのかもしれない。
「オレ、この前、服装で減点されました」
「制服は正しく着こなして下さい」
制服を乱して着れば、減点される。減点されれば給料が減る。
良い事は無い筈なのに、わざわざ減点対象の服装をしてしまう人が一定数いるのが、謎だ。俺は書類を脇に抱え直して、ノラナさんが緩めっぱなしにしていたネクタイを締め直す。
「ジス先輩、いいお母さんになれそう」
「うっす。毎朝スープ作って下さい」
「馬鹿な事を言っていないで、ちゃんとした服装で、しかるべき場所に書類を持って行って下さい」
わずかにため息を零せば、部下二人から「はーい」と間延びした返事が返ってくる。
お母さんって何だ。出来ればお父さんになりたいのだが。
「退勤時間まであともうひと頑張りですよ。なんとか乗り越えましょう」
「はい! んじゃ、ジス先輩も引き続き頑張って下さいね!」
「うっす。ジス先輩の健闘を祈ります」
健闘と言うほど、ナスタチウムさんの所に問題は無い。
ない、が、最近彼についた「秘書役」が問題か。俺は二人と別れると、もう一度ため息を吐いて、ナスタチウムさんの元へと急いだ。
それどころか、彼が13枚で必然的にクラスは違った物の、学校も同じ第一学園出身。家も比較的近い。習い事が被る事もあったと言う、幼馴染三拍子がそろった相手。
ところが、就職管理局で対等な立場であるお互いの父の仲が非常に悪いせいか、よく競わされていた。競わされていた、とは、人聞きが良すぎるか。
俺は父から「あいつには負けるな。殺すつもりで泣かせてやれ」と圧力を掛けられていた。
対して、ナスタチウムさん自身も、俺とはあまり関わらないように言われていたようで、どこか怯えた目を向けて来る事が多い。
……俺は仲良くなりたいし、攻撃的な行動をした覚えはないのだが。
このように、幼馴染、というよりは、幼馴染まない、と言った関係。
「ジスさん!」
少し気が重かった俺の背に、言葉が投げかけられた。
立ち止まって振り向けば、後輩のペンステモンさんとノラナさん。今の声は、常に明るく陽気なペンステモンさんのものだろう。
「こんにちは!」
「うっす、こんにちは」
ペンステモンさんが明るく手をあげながら、ノラナさんがペンステモンさんの落とした書類を拾いながら挨拶をした。
「こんにちは。私に何か?」
「いや、全然ないけど、見かけたらとりあえず声を掛けておこっかなー、みたいな!」
「うっす。みたいな、です」
用事は無いけど声を掛ける。
確かに挨拶は大事だが、既に夕方にも近くなった時刻。まして彼らとは、朝挨拶を交わした筈だ。
不思議とこういった事が多い。
俺は表情を上手く変えられず、長身も相まって怖がられるのだが……これを不憫に思ってか、俺と関わった部下、時には上司もこうして声を掛けてくれる。最初こそ中々慣れずに、父の影響かとも余計な事を考えたりもしたが、今はごく普通に受け入れている。
多分声を掛けてくれる人は、社交的で優しい人なのだろう。
「どっか行くんですか?」
「ナスタチウムさんの所まで」
「あー」
ペンステモンさんは言いよどむ。
「あの人は……あのー、仕事熱心な方ですよね!」
フォロー、のようなものか。
何しろ今から書類を渡しに行くナスタチウムさんは、表情一つ変えず、規則に拘束されたような生活を好む人。部下からは中々つかめないように思われているのかもしれない。
「オレ、この前、服装で減点されました」
「制服は正しく着こなして下さい」
制服を乱して着れば、減点される。減点されれば給料が減る。
良い事は無い筈なのに、わざわざ減点対象の服装をしてしまう人が一定数いるのが、謎だ。俺は書類を脇に抱え直して、ノラナさんが緩めっぱなしにしていたネクタイを締め直す。
「ジス先輩、いいお母さんになれそう」
「うっす。毎朝スープ作って下さい」
「馬鹿な事を言っていないで、ちゃんとした服装で、しかるべき場所に書類を持って行って下さい」
わずかにため息を零せば、部下二人から「はーい」と間延びした返事が返ってくる。
お母さんって何だ。出来ればお父さんになりたいのだが。
「退勤時間まであともうひと頑張りですよ。なんとか乗り越えましょう」
「はい! んじゃ、ジス先輩も引き続き頑張って下さいね!」
「うっす。ジス先輩の健闘を祈ります」
健闘と言うほど、ナスタチウムさんの所に問題は無い。
ない、が、最近彼についた「秘書役」が問題か。俺は二人と別れると、もう一度ため息を吐いて、ナスタチウムさんの元へと急いだ。
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