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5章 晩冬堕天戦

6. 記念ライブ#1

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 『【#レヴリッツ10万人記念live】初ライブ! Oathのみんなと歌う!!
 【レヴリッツ・シルヴァ/Oath】』

 〔待機〕
 〔きたああああああああ〕
 〔待機〕
 〔俺も現地行きたかったなー〕
 〔人の数すげえ〕

 ドームの中央には巨大なステージ。まぶしい光が夜闇の中で煌々と輝いている。
 周囲には無数のスクリーンとドローンが浮かび、このライブにかけられた金額は伊達ではないことが窺える。

 席は人で埋め尽くされていた。
 エジェティル主導の広報と、これまでのレヴリッツの活動。あらゆる導火線がつながり、ほぼ満席に至るまでドームの席を埋めることができたのだ。

 〔外国勢だから配信たすかる〕
 〔ドローンの数がやばいw〕
 〔エビがここまで成長するなんてなあ……泣〕
 〔現地組も楽しめよ〕

 そして舞台裏では。

 「ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん……コ゜ッ……!」

 「シュッシュセンパイがバイブレーションしてる……」

 「当たり前じゃないですか……こんな大規模なライブなんてこっ……初めてですよ。いくらライブ慣れしてる私でも、これは緊張しますします……ん゛」

 Oathの面々がライブの準備を進めていた。
 驚くべきことに、四人の中で最も緊張していないのはレヴリッツだった。

 「安心してよ、みんな。
 今回のライブはあくまで僕主催のものだから、そこまで気負わなくてもいい。
 リハーサルやってないけどね! はははは……」

 「そうだぞ、レヴリッツ。お前がリハーサルはしたくない、なんて言うから俺たち三人で練習するハメになったんだからな?」

 リオートの責めはもっともだ。
 レヴリッツは今日という今日に至るまで、Oathで歌の練習を行ってこなかった。

 理由は単純。自分の成長を本番で見せたいから。
 これまでレヴリッツは、他のメンバーに比べて歌唱スキルが劣っている自覚があった。視聴者だけではなく、共に歩んできた彼らにも自分の成長を感じ取ってほしいと思う。

 「大丈夫、僕が合わせるから。新曲は僕ソロの曲しかないし」

 「まあ、噛み合わないところがあれば私がカバーします。一応先輩ですからね、いちおう」

 「ありがとうございます、先輩。リオートとヨミもよろしく!」

 「おう。がんばろうな」

 「うん! 最高のライブにしようね!」

 皆の準備を確認したレヴリッツはコメントを確認する。

 〔あと五分!!〕
 〔わくわく〕
 〔現地から二窓してる〕
 〔(三・¥・三)つ♪〕

 「オーケー。行ってくるよ」

 まずはレヴリッツ単独での登場だ。
 彼はチームメイトに見送られ、ステージへ向かう。

 最初から最後まで、全力のパフォーマンスを届けて魅せる。

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 照明が暗転。ステージは期待をはらんだ静寂に包まれた。
 熱気と高揚と、ほんの少しの緊張感。

 わずかな沈黙を破り、スポットライトが降り注ぐ。
 ステージに立っていたのは今日の主役。

 「『レヴリッツ・シルヴァの十万人記念ライブ』へようこそ!!
 ファンも初見も、誰でもライブを楽しんでいってほしい!」

 〔きたあああああああああ〕
 〔レヴリッツや!〕
 〔でたあああああああああああああ〕
 〔推し、です!!〕

 「さあ、今日は最高のライブにしよう!
 一曲目──『オリジンコントラクト』」

 同時、ステージ周辺が淡い青色にライトアップされる。
 空を飛ぶドローンにはMVの映像が映し出された。

 〔オリコンきたあああああああああ〕
 〔うおおおおお〕
 〔エビの代表曲!〕

 オリジンコントラクト。
 レヴリッツが投稿したオリジナルMVの中で、もっとも再生数が伸びた曲だ。
 初めて100万回再生を超えた曲でもある。

 力強さとスピード感を重視した曲で、歌詞はややダーク寄り。
 これまで投稿していたメロディーから一転、激しい曲調へと切り替えたところ再生数が大きく伸びた。

 だが、これまで歌った『オリジンコントラクト』は大きく異なる点がある。
 それは……

 『──♪』

 歌声だ。
 レヴリッツの歌声は、入りから強烈な衝撃を聴き手にもたらした。

 〔!?〕
 〔うっま〕
 〔歌うまくね?〕
 〔かっけえ〕

 これまで何度もライブ配信で歌うことはあった曲だが、それまでとは一線を画している出来だ。
 エジェティルの下で訓練した結果、彼は人を惹きつける歌声を手に入れた。

 「レヴリッツ……あの歌い方は……!?」

 「レヴ、すごいね……!」

 舞台裏、Oathの皆も衝撃を受ける。
 リハーサルをしていなかったため、彼がここまで上達していることを知らなかったのだ。

 最も驚いているのはペリだった。
 彼女はパフォーマーとしての歴が長い。だからこそ、レヴリッツの成長はあり得ないと知っている。

 「すごい……あの輝きは、まるで……」

 同時にペリは知っていた、レヴリッツの持つ輝きは「スター」のものであると。
 過去に何度も見てきた、彼女を追いこして来た天才たち……彼らの才能に比肩する輝きがある。

 『──!』

 サビに入れば、もはや観客は彼以外の一切が視界に入らなくなる。
 歌唱とダンスのスキルはアマチュアの域をとうに超えていた。プロ級の中でも高レベルと言えるだろう。

 サイリウムが歌声と共に波を作る。
 視線、足さばき、抑揚。すべてが計算され尽くされたパフォーマンス。

 〔うおおおおおおおおお!!〕
 〔会場ぶちあげてけー!〕
 〔推しが成長している…〕
 〔今目あった!〕

 一曲目は順調に進み幕を下ろした。
 だが、まだ始まったばかり。最初から最後まで全力で挑む。

 次はOathの登場だ。
 レヴリッツは頷き、チームメンバーに合図を出す。

 「……というわけで、『オリジンコントラクト』でしたー!
 盛り上がってくれたかな? これを機に僕を推してくれてもいいんだよー!」

 〔もう推してるぞ〕
 〔めっちゃ歌うまくなってたね〕
 〔推します!!〕
 〔一曲目からこれはアツい〕

 「さて……次だ。
 ここまで僕が歩んできた道は、決して一人では進めなかった」

 スモークが立ち昇り、氷、炎、虹色の光と……Oathの皆を表す演出が巻き起こる。ステージ上に降り立ったリオート、ペリ、ヨミは笑顔で観客たちに手を振った。

 各々が自己紹介を終えて、いよいよ二曲目だ。

 「それじゃあ二曲目。『Take in advance』!」

 『Take in advance』──ペリが昇格する直前に出した曲。
 主に女性陣がボーカルを分担し、男性陣は低音パートを担当する。クールな曲調が多いOathにしては珍しく、ポップでリズミカルな曲となっている。

 〔この曲すき〕
 〔元気になれる歌だ!〕
 〔いいなあ〕
 〔これダンスもめっちゃいいよね〕

 『『──♪』』

 ペリとヨミが息を合わせて歌い出す。
 何度も練習しただけあって、連携は完璧だ。
 あとはダンスを乱さないように注意する必要がある。

 (前に練習した時よりも踊りやすい……レヴリッツの動きが変わったからか?)

 リオートは女性陣の後ろで踊りながら、パフォーマンスの向上を感じ取った。
 やはりレヴリッツは異様な成長を遂げている。他のメンバーがパフォーマンスしやすいように見事な動きを見せていた。

 バックコーラスの技能も向上している。
 これまではヨミの歌声を食い気味だったレヴリッツが、完璧な塩梅で声を抑えられていた。

 ペリはステージ上から場内を見回して微笑む。

 (うん……この曲を歌うと、今でも思い出せる。
 デビューしたばかりの憧れ、プロ昇格を決めた時の熱意。エリフの病気とか、アンチの粘着とか……いろいろ苦しいことはあったけど……
 やっぱり私は、この業界が好きだ!)

 揺るがぬ熱意を籠めて彼女は歌いきる。

 「『Take in advance』、どうでしたか?
 まだまだ盛り上げていきますよー!」

 ペリのかけ声に場内が沸く。
 見事な連携を見せたOathは、二曲目も無事に歌い終えた。

 本番前は異様な緊張を見せていた彼女も、ステージに立てば一人前。
 場への順応速度は一番高い。

 「さあさあ、このまま熱気を保って次の曲へ行こうか。
 みんな、休ませないけどいいかな?」

 「大丈夫! レヴ、ガンガンいこう!」

 ヨミの頼もしい返事も受けたところで、彼は次の舞台を用意する。

 彼が指を鳴らすと同時──ステージが七色に染まった。

 
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