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3章 猛花薫風事件

8. チキンを冷ますな

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 画面の先でレヴリッツが嘔吐して死亡状態(おそらく毒死)になり、ヨミがショック死し、リオートが二人を抱きかかえて探索から離脱した。
 ペリシュッシュはOathの仲間たちの配信を見て笑みを漏らす。

 「ふふっ……」

 相変わらず愉快な人たちだ。
 この輪の中にペリが入ることは許されない。

 彼女はアマチュア界では孤立していた。一年前までチームを組んでいた三人のパフォーマーは、一人は昇格して二人は引退していった。それきり元チームメイトとの関係は途絶し、他のアマチュアパフォーマーと関わることもなく。
 レヴリッツたちとチームを組んだのは一時的なものであり、偶発的なものだ。これ以上、無闇に交流するわけにもいかないだろう。きっとあの三人もプロ級へ昇格していくのだから。

 「はぁ……」

 この後、配信をしなければならない。
 もちろんソロ配信だ。昇格もせず、他のパフォーマーとのコラボを断ってきたのは自分で選んだ道。後悔はしていない。
 実際、こうしなければならなかったのだ。必要なお金を稼ぐためには、この道を選ぶしかなかった。

 彼女は重い身体を引きずって、画面上の配信開始をクリックした。

 ー----

 『【ボケモン】命を軽く扱わない女のボケモンその3!!! ペリ』

 〔ペリペリしてきた〕
 〔ペリペリしてきた〕
 〔いくぞおおおおおお〕

 いつもの流れ。
 いつも通りゲーム実況の設定を済ませ、この配信に最適なマイクを用意。喉も正常に動く。

 「ん゛っ……こんペリー
 !!!!!!!!!!!!!」

 〔こんペリー!〕
 〔こんペリー〕
 〔こんペリー!〕
 〔ペリち今日も元気だねww〕

 そしていつも通りのコメント。
 ここまでの流れがルーティーン。実家のような安心感。
 アマチュアのパフォーマーとは思えないほど、チャット欄の流れが速い。それどころか平均的なプロ級よりも勢いがある。

 「今日も今日とてボケモンやってきますー! 
 えっと……昨日はね、陽キャみたいなジムリーダーぶっ飛ばして、相棒のムンダーが進化したんだ! ……でも進化前の方がかわいかった気がする。まあ、進化後もかわいいけどさ」

 〔わかる〕
 〔陽キャは問答無用で処せ〕
 〔ペリちが一番かわいいよ〕
 〔ちょっとブサイクになったよねw〕

 「じゃあやってくぞ! ……あれ? 次どこ行けばいいんだっけ?」

 〔右の方の海〕
 〔波に乗れ〕
 〔どこやっけ〕
 〔ライバルくるよ〕
 〔回復した?〕

 配信におけるゲーム選びでは、基本的に三種類の点を重視しなければならない。
 同時接続が稼げるゲーム、プレイングが楽なゲーム、視聴者をイライラさせないゲームの三つだ。

 現在ペリがプレイしている『ボケモン』は、若年層と中年層を取り込める。また、子供向けに作られているので難易度も低く、視聴者のコメントのラジコンになっていれば楽に進める。
 そこまで長く擦れるゲームではないが、安定択と言えるだろう。

 「おっけー右ね! えっと、こっち……ふぁ!?
 え、ちょ、ここでライバル戦? 回復してないやんけ!! 卑怯だぞお前ぺっ!」

 〔回復しろ言ったのにw〕
 〔こいつペリってやがる・・・〕
 〔いつものポン〕

 「まあいいや。回復とか甘えだから。ペリが勝ちまーすwwwww」

 今日も順調だ。
 配信における順調とは即ち、アクシデントの連続である。



 配信開始から三時間後。

 「甘えましたね…電磁波に頼るのは…
 †強者の翼ではない†

 ──いよっしゃああああああ!!
 ジムリーダー倒したー!!!! ざっっっこ!!」

 〔やったああああ〕
 〔祝祝〕
 〔うおおおおおおおお!〕
 〔祝祝〕
 〔¥ 12,000
 おめでとう!!〕

 一つの難所を乗り越えた。
 配信開始からある程度の時間が経ち、区切るにはちょうどいい塩梅。

 スタミナも切れてきたし、この後さらに配信があるので切り上げる。

 「よし、じゃあ今日はここら辺で終わりにしようかな! いやー面白かった。
 ……あ、この後はメン限でasmrやるのでよろしくねー」

 〔おつペリー〕
 〔面白かった!〕
 〔三回行動たすかる〕
 〔¥ 10,000
 ペリーちいつもありがとう!最近ペリーちへ感謝するのが日課になりつつあります!単刀直入に我慢してたこと書いちゃう!ペリーち愛してるぞおおおお(ps.厄介ぺリスナーだと思われてそうですが長文赤スパ失礼!ちなみに読まれてる頃にはあまりの恥ずかしさにユニバーサル大回転ぺりぺりの舞(◝(‘ω’)◟ ))(( ◝(‘ω’)◜ ))しながらベットの上で暴れてると思うので率直な一言もらってもいいですか?w最後に一言!配信をはじめ本当にいつもありがとう!ぺリスナー達を大切に思ってくれてる姿勢冗談抜きで本当に好きです。応援するしがいがあります!〕
 〔asmrきちゃ!〕

 「あ、おゼウスさんPPありがとー♡ カニネズミさんもありがとー♡
 最近は配信モチベ高いので、今月は多めに配信できるかも? じゃあ、一時間後のasmrでまた会おうねー! おつペリいいいいい!!!!!!!」

 適当に切り上げ、配信を終了。
 しっかり配信が切れていることを入念に確認し、ペリは椅子へ身を沈めた。

 「…………」

 糸が切れた人形のように彼女は動かない。何もする気が起きないのだ。
 配信のモチベが高いと言ったが、アレは嘘。配信を増やさなければならない事情があるだけ。

 一時間後には再び配信だ。早いところ調子を取り戻し、コンディションを整えなければならない。
 弱音を吐くつもりはない。視聴者に媚び続けることが彼女の仕事なのだから。

 「……きっつ」

 最近、特に倦怠感が強くなっている気がする。青葉杯で優勝した時は調子がよかったが、再び金欠になって、どんどん精神が擦り減っていた。
 指先一つも動かせない体に鞭を打ち、彼女は机の引き出しに手を伸ばす。

 「薬……」

 精神安定剤をペットボトルの水と共に飲み下す。
 これがないとやっていられない。

 お金を稼ぐためには休んでいられなかった。いくら稼いでも金が消えてしまう。
 しかし、それは仕方ないことだと割り切っている。もしもペリが貯金をする選択肢を取れば、それは妹の命を捨てることと同義になるから。

 「…………あー。だるすぎうち」

 薬が効き始めるのを待って俯いていると、まっくらな部屋の中に光が瞬いた。
 誰かが連絡してきたようだ。

 「ヨミさん……?」

 ペリは気だるげに画面に書かれた文字に目を走らせる。

 『シュッシュ先輩、お疲れ様です!
 今度私とコラボ配信しませんかー!? お忙しかったら大丈夫です! お返事お待ちしてます!』
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