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2章 氷王青葉杯
17. 超!エキサイティン!!
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リオートとケビンが交戦中、トシュアはOathのタワー制圧へ向かっていた。
友人のケビンには全幅の信頼を寄せている。リオートに負けることはないだろう、と。
「ガフティマが退場したか……これでこちらのチームは若干不利になった。
とはいえ、ケビンがいる時点で有利は覆らないが……迅速に制圧する必要があるな。視聴者には悪いが、魅せ場を作りながら勝利できるほど相手チームは甘くない」
トシュアは視聴者を説得するように独り言ちる。
視聴者もまた彼が慎重な性格であることを知っており、この決定は致し方ないと理解していた。相手チームのOathは新人杯の優勝者であるレヴリッツに加えて、プロ級に匹敵する実力を持つペリシュッシュも存在する。
故に、一瞬で勝負を決めなければならない。
勝利するためには、白熱した試合は実現不可能に近い。どの道、勝ちさえすればある程度のPPを視聴者は投げてくれる。そのポイントで優勝する可能性にトシュアは賭けていた。
「いける……邪魔は入っていない! このまま制圧を目指す!」
森林地帯を抜け、平野へ出る。
相手チームのタワーが見えてきた。トシュアはタワーへ疾走し、扉を開け放つ前に魔装を練る。
勝負はここから。相手指揮官のペリシュッシュは、良くも悪くも有名な性格。
タワーに罠を仕掛けまくったり、奇妙な演目で相手を翻弄したりする。とにかく厄介な手合いであり、トシュアも彼女のめんどくささは熟知していた。
「さて、ペリシュッシュ。いつまでもプロ級へ昇格せず、アマチュア級に浸っている怠け者め……俺の弓矢で貫いてやろう」
魔装を纏った後、トシュアは魔力で弓を作り出す。
トラップまみれのタワーと真面目に向き合う必要はない。
目の前に聳え立つのは「塔」。
つまり……
(内部の螺旋階段を使わず、外壁の窓から管制室へ侵入する……!)
アマチュア級ではなかなか見られない光景だが、プロ級以上では日常茶飯事。飛空能力を持つ者は、タワー最上部にある管制室の窓から直接乗り込むこともある。
マスター級にもなると、タワーごと爆破する輩も出てくるらしい。
腰に事前に持ち込んだ鋼糸を巻き付け、タワーの壁に足をかける。アマチュア用のタワーは外壁に凹凸が多く、上りやすくなっているという特徴がある。
「ふっ!」
息を切らさず、次々と上へ。
巧みに外壁を利用して進んでいくトシュアの様子は、観ているだけでも爽快感があった。
着実に進み、やがて管制室の窓へ手を掛ける。
もうペリシュッシュには気づかれているだろうが、このまま室内に入って速攻戦を仕掛け──
「……はあ?」
窓を開け放ったトシュアは、口が空いて塞がらなかった。
目の前の光景は一体。
こたつに入って茶をすすりながら、ペリシュッシュがくつろいでいた。
「あ、トシュアさん。お疲れ様です。ほら、見てくださいよ!
リオートくんとケビンさんの熱い決闘を!」
彼女が指さしたのは、闘技場の一部を映し出すモニター。
映像の中では、凄まじい気迫を持つリオートとケビンが争っていた。
氷剣と鋼刃が衝突し、激しく火花を散らしながら──両者が相克。二人の決闘は映像越しでも圧を感じ取れるほどに白熱していた。
「あ、ああ……いや。俺はこのタワーを制圧しに来たのだが……」
「みんなリオートくんとケビンさんの闘いに夢中で、私たちの闘いなんか興味ないですよ。レヴリッツくんもまだBandedのタワーに向かっていないようですし……のんびりしていきましょう。
あ、リオートくん吹っ飛んだ。レヴリッツくんはなんで木登りしてるんですかね……」
あまりの怠け具合に、相手といえどもトシュアは痺れを切らしてしまう。
「えぇい! ペリシュッシュ、お前は何故いつもそうなのだ!?
同期として恥ずかしい! お前もデビュー当初はやる気に満ちていたというのに……プロ昇格への声が掛かりながらも、ぬるま湯に浸かり!
俺は恥ずかしいぞ!」
「うっっさ……迷惑系とつるんでるトシュアに言われたくないんですけどー。闘いたけりゃ闘わせてやりますよ。
本日ペリのマジックショーは開演してないので、あちらへどうぞ」
「!?」
ペリが魔力を発すると同時。管制室の全体から熱風が吹き荒れる。
窓に足をかけたトシュアは、風圧から逃れようと身をよじる。
(この熱風は……窓からの侵入を想定した撃退装置か!
しかし、まだペリシュッシュにも闘う意思はあったということ!)
トシュアは外壁に密着して熱風が収まるのを待つ。
数秒後、熱風の消失を確認。
彼は矢を番えて再び窓に手を掛け、管制室へ突入を……
「いざ尋常に!」
「こたつをトシュアの顔面にシュゥゥゥーッ!!」
瞬間、彼に巨大な質量を持つ物体……こたつが吹っ飛んできた。
顔面とこたつを正面衝突させたトシュアは為すすべなく吹っ飛び、タワーの遥か彼方へ飛んでいく。
鼻血を空中に撒き散らしながら、彼は叫んだ。
「ペリシュッシュッー----!!!!」
ー----
トシュアの意識は吹き飛ばされている中でも明瞭だった。ペリシュッシュへの怒りを抑え、奇襲に備える。
こたつを盾に、空中から敵影を捜索。こんな非現実的な状況でも闘い抜くのがバトルパフォーマーというものだ。観客からの笑い声も無視して、彼は油断なくこたつにライドして森林地帯を飛んでいた。
『ヨミさん、予定通り相手のアーチャーがそっちに行きます。こたつと一緒に飛んで来るかと』
「こ、こたつ……?」
一瞬、頭の中が真っ白になったヨミ。
「kotatsu」という単語が混じっていて困惑したが、何者かが接近してくる気配だけは感じ取れた。
「──左」
左から風切り音。
ヨミは正確に迫った矢を掴み取り、敵影を確認する。常人離れした空間認識能力により、彼女は自身に迫る危機を防いだ。
ずっと遠くに、豆のように小さい人影が見える。相手のアーチャーだろう。
敵影の捕捉と同時、数十の矢が彼女に迫る。
「うへ……」
降り注ぐ矢の雨に辟易としながらも、持ち前の回避能力で矢をすべて回避。
トシュアの攻撃が一旦収まった後、腰から武器を引き抜いた。彼女の挙動をスコープで確認していたトシュアは、驚きのあまり手を止める。
「筆、だと……?
筆だのこたつだの、ふざけているのか……!?」
ヨミが取り出した武器は、筆である。
インクが染みていない、一本の筆。
「どうしよっかなー……」
ヨミは悩んでいた。
まるで芸術家がまっさらなキャンパスを前にした時のように。
ふと、彼女の真紅の瞳が揺れる。
視界いっぱいに広がる森林を、どのように彩るか。
答えは「荒野」。
全てが焼けただれ、灰塵と化した森林を見たかった。
燃える森ではなく、灰と化した森を。そこにヒトの姿は必要ないのだ。ヨミの間合いに入った時点で、全ては彼女の作品に成り代わる。
故に、相手のトシュアを抹消する。
「《ムキダシノシンリ》
──あたたかいものね、【太陽】」
彼女が右手で筆を振るうと、左手の掌に小さな赤い玉が出来上がる。
太陽。手のひらサイズの、本物の太陽である。
ヨミの能力、《ムキダシノシンリ》
何かを具現化し、使用者であるヨミ以外に影響を及ぼす能力。無論、具現化できる物質には一定の制限があるが、レヴリッツ以外は知る由もない。レヴリッツでさえも、彼女が何を具現化できるのか完全に把握しきってはいない。
「ぐ……なん、だ……この熱は……!?」
遥か彼方のトシュアは、凄まじい熱風に膝をつく。
たとえ極小であっても、それは太陽。万里を照らし、人理を導く文明の礎。
ヨミが創造した太陽は次々と周囲を焦土へと変え、木々を灰へと変えていく。
ただ一人、術者のヨミだけは何も影響を受けずに。創造者である彼女だけが触れられない世界。どれだけ理想を創造しても、辿り着けぬ幻影。
「くっ……なんだ、あの術は……!?」
迫る灰の波から逃れるため、トシュアは後方へ退避する。
森林地帯を抜け、平野へ。ここまで来ればさすがに大丈夫だろう。
「まさか……レヴリッツ・シルヴァとペリシュッシュ以外に、あのような手練れがいたとは……」
先輩として負けたくはなかったが、今は退場しないことが最優先事項。
仕方なく彼は逃亡の道を選んだ。
特に頭にくるのはペリシュッシュの蛮行。まともな試合を拒絶し、あろうことか後輩のヨミに勝負を押しつけるとは。もう一度タワーへ行って、今度こそ痛い目に遭わせてやらねばならない。
再度Oathのタワーを目指し、トシュアは平野へと抜ける。
「そこはね、平野じゃないよ」
ふと、声がした。ヨミの声だ。
彼は相手がどこにいるのかと身構え、そして──
「《ムキダシノシンリ》
──見間違えたのね、【深いうみ】」
緑色の地面が、ふっ……と。緑青に染まった。
意識が当然のように塗り替えられていく。そう、トシュアは海に立っていたという事実を思い出し、沈んでいく。
藻掻き、苦しみ、空気を求めて。
(何だ……!? 何が起こった!?
ここは、海……? マズい、息が続かん。早く離脱しなくては……!)
相手の意識すらも具現化し、書き換える。
ヨミはトシュアの意識を歪めたのだ。
トシュアのセーフティ装置が作動し、闘技場のバトルフィールドから締め出される。
彼は異常な危機を察知し、この場から瞬時に離脱することを選択したのだ。
勝負の趨勢が、一歩傾いた。
友人のケビンには全幅の信頼を寄せている。リオートに負けることはないだろう、と。
「ガフティマが退場したか……これでこちらのチームは若干不利になった。
とはいえ、ケビンがいる時点で有利は覆らないが……迅速に制圧する必要があるな。視聴者には悪いが、魅せ場を作りながら勝利できるほど相手チームは甘くない」
トシュアは視聴者を説得するように独り言ちる。
視聴者もまた彼が慎重な性格であることを知っており、この決定は致し方ないと理解していた。相手チームのOathは新人杯の優勝者であるレヴリッツに加えて、プロ級に匹敵する実力を持つペリシュッシュも存在する。
故に、一瞬で勝負を決めなければならない。
勝利するためには、白熱した試合は実現不可能に近い。どの道、勝ちさえすればある程度のPPを視聴者は投げてくれる。そのポイントで優勝する可能性にトシュアは賭けていた。
「いける……邪魔は入っていない! このまま制圧を目指す!」
森林地帯を抜け、平野へ出る。
相手チームのタワーが見えてきた。トシュアはタワーへ疾走し、扉を開け放つ前に魔装を練る。
勝負はここから。相手指揮官のペリシュッシュは、良くも悪くも有名な性格。
タワーに罠を仕掛けまくったり、奇妙な演目で相手を翻弄したりする。とにかく厄介な手合いであり、トシュアも彼女のめんどくささは熟知していた。
「さて、ペリシュッシュ。いつまでもプロ級へ昇格せず、アマチュア級に浸っている怠け者め……俺の弓矢で貫いてやろう」
魔装を纏った後、トシュアは魔力で弓を作り出す。
トラップまみれのタワーと真面目に向き合う必要はない。
目の前に聳え立つのは「塔」。
つまり……
(内部の螺旋階段を使わず、外壁の窓から管制室へ侵入する……!)
アマチュア級ではなかなか見られない光景だが、プロ級以上では日常茶飯事。飛空能力を持つ者は、タワー最上部にある管制室の窓から直接乗り込むこともある。
マスター級にもなると、タワーごと爆破する輩も出てくるらしい。
腰に事前に持ち込んだ鋼糸を巻き付け、タワーの壁に足をかける。アマチュア用のタワーは外壁に凹凸が多く、上りやすくなっているという特徴がある。
「ふっ!」
息を切らさず、次々と上へ。
巧みに外壁を利用して進んでいくトシュアの様子は、観ているだけでも爽快感があった。
着実に進み、やがて管制室の窓へ手を掛ける。
もうペリシュッシュには気づかれているだろうが、このまま室内に入って速攻戦を仕掛け──
「……はあ?」
窓を開け放ったトシュアは、口が空いて塞がらなかった。
目の前の光景は一体。
こたつに入って茶をすすりながら、ペリシュッシュがくつろいでいた。
「あ、トシュアさん。お疲れ様です。ほら、見てくださいよ!
リオートくんとケビンさんの熱い決闘を!」
彼女が指さしたのは、闘技場の一部を映し出すモニター。
映像の中では、凄まじい気迫を持つリオートとケビンが争っていた。
氷剣と鋼刃が衝突し、激しく火花を散らしながら──両者が相克。二人の決闘は映像越しでも圧を感じ取れるほどに白熱していた。
「あ、ああ……いや。俺はこのタワーを制圧しに来たのだが……」
「みんなリオートくんとケビンさんの闘いに夢中で、私たちの闘いなんか興味ないですよ。レヴリッツくんもまだBandedのタワーに向かっていないようですし……のんびりしていきましょう。
あ、リオートくん吹っ飛んだ。レヴリッツくんはなんで木登りしてるんですかね……」
あまりの怠け具合に、相手といえどもトシュアは痺れを切らしてしまう。
「えぇい! ペリシュッシュ、お前は何故いつもそうなのだ!?
同期として恥ずかしい! お前もデビュー当初はやる気に満ちていたというのに……プロ昇格への声が掛かりながらも、ぬるま湯に浸かり!
俺は恥ずかしいぞ!」
「うっっさ……迷惑系とつるんでるトシュアに言われたくないんですけどー。闘いたけりゃ闘わせてやりますよ。
本日ペリのマジックショーは開演してないので、あちらへどうぞ」
「!?」
ペリが魔力を発すると同時。管制室の全体から熱風が吹き荒れる。
窓に足をかけたトシュアは、風圧から逃れようと身をよじる。
(この熱風は……窓からの侵入を想定した撃退装置か!
しかし、まだペリシュッシュにも闘う意思はあったということ!)
トシュアは外壁に密着して熱風が収まるのを待つ。
数秒後、熱風の消失を確認。
彼は矢を番えて再び窓に手を掛け、管制室へ突入を……
「いざ尋常に!」
「こたつをトシュアの顔面にシュゥゥゥーッ!!」
瞬間、彼に巨大な質量を持つ物体……こたつが吹っ飛んできた。
顔面とこたつを正面衝突させたトシュアは為すすべなく吹っ飛び、タワーの遥か彼方へ飛んでいく。
鼻血を空中に撒き散らしながら、彼は叫んだ。
「ペリシュッシュッー----!!!!」
ー----
トシュアの意識は吹き飛ばされている中でも明瞭だった。ペリシュッシュへの怒りを抑え、奇襲に備える。
こたつを盾に、空中から敵影を捜索。こんな非現実的な状況でも闘い抜くのがバトルパフォーマーというものだ。観客からの笑い声も無視して、彼は油断なくこたつにライドして森林地帯を飛んでいた。
『ヨミさん、予定通り相手のアーチャーがそっちに行きます。こたつと一緒に飛んで来るかと』
「こ、こたつ……?」
一瞬、頭の中が真っ白になったヨミ。
「kotatsu」という単語が混じっていて困惑したが、何者かが接近してくる気配だけは感じ取れた。
「──左」
左から風切り音。
ヨミは正確に迫った矢を掴み取り、敵影を確認する。常人離れした空間認識能力により、彼女は自身に迫る危機を防いだ。
ずっと遠くに、豆のように小さい人影が見える。相手のアーチャーだろう。
敵影の捕捉と同時、数十の矢が彼女に迫る。
「うへ……」
降り注ぐ矢の雨に辟易としながらも、持ち前の回避能力で矢をすべて回避。
トシュアの攻撃が一旦収まった後、腰から武器を引き抜いた。彼女の挙動をスコープで確認していたトシュアは、驚きのあまり手を止める。
「筆、だと……?
筆だのこたつだの、ふざけているのか……!?」
ヨミが取り出した武器は、筆である。
インクが染みていない、一本の筆。
「どうしよっかなー……」
ヨミは悩んでいた。
まるで芸術家がまっさらなキャンパスを前にした時のように。
ふと、彼女の真紅の瞳が揺れる。
視界いっぱいに広がる森林を、どのように彩るか。
答えは「荒野」。
全てが焼けただれ、灰塵と化した森林を見たかった。
燃える森ではなく、灰と化した森を。そこにヒトの姿は必要ないのだ。ヨミの間合いに入った時点で、全ては彼女の作品に成り代わる。
故に、相手のトシュアを抹消する。
「《ムキダシノシンリ》
──あたたかいものね、【太陽】」
彼女が右手で筆を振るうと、左手の掌に小さな赤い玉が出来上がる。
太陽。手のひらサイズの、本物の太陽である。
ヨミの能力、《ムキダシノシンリ》
何かを具現化し、使用者であるヨミ以外に影響を及ぼす能力。無論、具現化できる物質には一定の制限があるが、レヴリッツ以外は知る由もない。レヴリッツでさえも、彼女が何を具現化できるのか完全に把握しきってはいない。
「ぐ……なん、だ……この熱は……!?」
遥か彼方のトシュアは、凄まじい熱風に膝をつく。
たとえ極小であっても、それは太陽。万里を照らし、人理を導く文明の礎。
ヨミが創造した太陽は次々と周囲を焦土へと変え、木々を灰へと変えていく。
ただ一人、術者のヨミだけは何も影響を受けずに。創造者である彼女だけが触れられない世界。どれだけ理想を創造しても、辿り着けぬ幻影。
「くっ……なんだ、あの術は……!?」
迫る灰の波から逃れるため、トシュアは後方へ退避する。
森林地帯を抜け、平野へ。ここまで来ればさすがに大丈夫だろう。
「まさか……レヴリッツ・シルヴァとペリシュッシュ以外に、あのような手練れがいたとは……」
先輩として負けたくはなかったが、今は退場しないことが最優先事項。
仕方なく彼は逃亡の道を選んだ。
特に頭にくるのはペリシュッシュの蛮行。まともな試合を拒絶し、あろうことか後輩のヨミに勝負を押しつけるとは。もう一度タワーへ行って、今度こそ痛い目に遭わせてやらねばならない。
再度Oathのタワーを目指し、トシュアは平野へと抜ける。
「そこはね、平野じゃないよ」
ふと、声がした。ヨミの声だ。
彼は相手がどこにいるのかと身構え、そして──
「《ムキダシノシンリ》
──見間違えたのね、【深いうみ】」
緑色の地面が、ふっ……と。緑青に染まった。
意識が当然のように塗り替えられていく。そう、トシュアは海に立っていたという事実を思い出し、沈んでいく。
藻掻き、苦しみ、空気を求めて。
(何だ……!? 何が起こった!?
ここは、海……? マズい、息が続かん。早く離脱しなくては……!)
相手の意識すらも具現化し、書き換える。
ヨミはトシュアの意識を歪めたのだ。
トシュアのセーフティ装置が作動し、闘技場のバトルフィールドから締め出される。
彼は異常な危機を察知し、この場から瞬時に離脱することを選択したのだ。
勝負の趨勢が、一歩傾いた。
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