28 / 33
許されたことではない
しおりを挟む いきなり現れたメアは己を神と名乗った。
少なくともトリナの知る神は竜であり、人ではない。
だが、有無を言わさぬ覇気があった。
威圧感を放っていた。
それだけで二人にメアが神だと信じさせるには充分だったのだ。
メアはフレーナに大きな傷がないことを確認して安堵する。
邪気を察して急いで来たかいがあった。
「そこの村人、少し痛むぞ」
メアはトリナに向けて言い放った。
何をされるかと身構えたトリナ。
だが、彼女の警戒は無意味だった。
メアの姿が一瞬にして掻き消え、気づけばトリナの側方に。
彼の手には紫色の石。
そして中空には金色の鎖が瓦解して待っていた。
「え……」
唖然として目を回すトリナ。
瞬間、彼女を虚脱感が襲って倒れ込んだ。
慌ててシーラが駆け出し、トリナの身体を支える。
「いったい何を……!」
「邪石でネックレスを作るとはな。これは拾った物か?」
一瞬の間に、メアはトリナのネックレスを破壊して奪い去ったのだ。
ネックレスの中核には件の邪石が嵌め込まれていた。
トリナが頭痛に悶えている代わりに、シーラが返答する。
「その石は森の中で見つけたものです。最初は私が見つけたのですが、トリナがネックレスにすると言って……」
「そっか。この石は人に災いをもたらす。
その村人が暴力に働きかけたのも、邪石の精神汚染の影響だろう。
……それはともかくとして、許されたことではないがな」
メアは邪石を入念に魔力で覆い、ひとまず無力化する。
それからフレーナのもとに歩み寄った。
「がんばったな、フレーナ。一人で心細い中、よく耐えたよ。
お前は村人を恐れてるのに……自分の意志を貫いた」
「私は……うん、がんばりました。言いたいことを言っただけで、大したことはしてないですけど。メア様のことを思うと勇気が湧いてきて」
そっとフレーナは抱きしめられる。
メアの抱擁とともに、どっと安堵が襲ってきた。
このまま泣き崩れてしまいそうだが、なんとか堪える。
「また買い物に行こう。破けてしまったドレスを買い直して、一緒に世界を歩こう。帰ったらお前の料理が食べたい。俺の家族として、やってくれるか?」
「はい……はい! ぜひ!」
メアは満足したように頷いた。
一方、ようやく頭痛が収まったトリナは前方の光景に目を見開いた。
神にフレーナが抱きしめられている。
まさか本当に、家畜ではなく家族だとでも言うのだろうか。
「っ……」
だが、怒りは先程のように上ってこない。
むしろトリナの胸中を支配したのは……後悔。
神の家族を相手に、あのような真似をしてしまったこと。
そもそも生贄に捧げられた時点で、フレーナは村の人間ではなく神殿の住人。
邪石による精神汚染が消えたおかげでトリナは冷静さを取り戻していた。
「あ、あの……神様」
「ん?」
「た、たいへん……失礼いたしました! 神様に対して無礼を働くつもりはなかったのです! あの、どうか罰は……」
「ああ、俺は別に罰とか下さない。ただし事実は記憶しているし、俺以外の人間が怒るかもしれないな。そこにいる……二人とか」
メアはおもむろに振り向いた。
彼の視線の先、茂みの中から赤髪の青年が姿を現した。
「いやはや、申し訳ない。盗み聞きをする気はなかったのですが、何やらお取り込み中のようでして。邪石は見つかったようで何よりです」
男……アイネロは笑顔で答えた。
笑顔を浮かべているが目は笑っていない。
そして、さらに後方より。
呆然とした様子のクレースが顔を出した。
「これは……どういうことだ? フレーナは引っ越したのではなかったのか?
なぜトリナとシーラが山の中に?」
彼は大量の疑問符を浮かべ、全員の顔を見渡した。
クレースの視線を受けてトリナは硬直する。
フレーナに関してついていた嘘がバレてしまう。
おまけに、今この瞬間の事実を暴露されればおしまいだ。
「すまないな、そこの二人。神は人間を罰しはしないが、公平でなければならない。
フレーナが村で遭っていた差別、今さっきの出来事、俺がアイネロとクレースに語らせてもらう。もちろん、訂正や追加の情報があればフレーナに話してもらおう」
青褪めた様子のトリナとシーラ。
そんな二人を差し置いて、メアは先程までの出来事を語り始めた。
少なくともトリナの知る神は竜であり、人ではない。
だが、有無を言わさぬ覇気があった。
威圧感を放っていた。
それだけで二人にメアが神だと信じさせるには充分だったのだ。
メアはフレーナに大きな傷がないことを確認して安堵する。
邪気を察して急いで来たかいがあった。
「そこの村人、少し痛むぞ」
メアはトリナに向けて言い放った。
何をされるかと身構えたトリナ。
だが、彼女の警戒は無意味だった。
メアの姿が一瞬にして掻き消え、気づけばトリナの側方に。
彼の手には紫色の石。
そして中空には金色の鎖が瓦解して待っていた。
「え……」
唖然として目を回すトリナ。
瞬間、彼女を虚脱感が襲って倒れ込んだ。
慌ててシーラが駆け出し、トリナの身体を支える。
「いったい何を……!」
「邪石でネックレスを作るとはな。これは拾った物か?」
一瞬の間に、メアはトリナのネックレスを破壊して奪い去ったのだ。
ネックレスの中核には件の邪石が嵌め込まれていた。
トリナが頭痛に悶えている代わりに、シーラが返答する。
「その石は森の中で見つけたものです。最初は私が見つけたのですが、トリナがネックレスにすると言って……」
「そっか。この石は人に災いをもたらす。
その村人が暴力に働きかけたのも、邪石の精神汚染の影響だろう。
……それはともかくとして、許されたことではないがな」
メアは邪石を入念に魔力で覆い、ひとまず無力化する。
それからフレーナのもとに歩み寄った。
「がんばったな、フレーナ。一人で心細い中、よく耐えたよ。
お前は村人を恐れてるのに……自分の意志を貫いた」
「私は……うん、がんばりました。言いたいことを言っただけで、大したことはしてないですけど。メア様のことを思うと勇気が湧いてきて」
そっとフレーナは抱きしめられる。
メアの抱擁とともに、どっと安堵が襲ってきた。
このまま泣き崩れてしまいそうだが、なんとか堪える。
「また買い物に行こう。破けてしまったドレスを買い直して、一緒に世界を歩こう。帰ったらお前の料理が食べたい。俺の家族として、やってくれるか?」
「はい……はい! ぜひ!」
メアは満足したように頷いた。
一方、ようやく頭痛が収まったトリナは前方の光景に目を見開いた。
神にフレーナが抱きしめられている。
まさか本当に、家畜ではなく家族だとでも言うのだろうか。
「っ……」
だが、怒りは先程のように上ってこない。
むしろトリナの胸中を支配したのは……後悔。
神の家族を相手に、あのような真似をしてしまったこと。
そもそも生贄に捧げられた時点で、フレーナは村の人間ではなく神殿の住人。
邪石による精神汚染が消えたおかげでトリナは冷静さを取り戻していた。
「あ、あの……神様」
「ん?」
「た、たいへん……失礼いたしました! 神様に対して無礼を働くつもりはなかったのです! あの、どうか罰は……」
「ああ、俺は別に罰とか下さない。ただし事実は記憶しているし、俺以外の人間が怒るかもしれないな。そこにいる……二人とか」
メアはおもむろに振り向いた。
彼の視線の先、茂みの中から赤髪の青年が姿を現した。
「いやはや、申し訳ない。盗み聞きをする気はなかったのですが、何やらお取り込み中のようでして。邪石は見つかったようで何よりです」
男……アイネロは笑顔で答えた。
笑顔を浮かべているが目は笑っていない。
そして、さらに後方より。
呆然とした様子のクレースが顔を出した。
「これは……どういうことだ? フレーナは引っ越したのではなかったのか?
なぜトリナとシーラが山の中に?」
彼は大量の疑問符を浮かべ、全員の顔を見渡した。
クレースの視線を受けてトリナは硬直する。
フレーナに関してついていた嘘がバレてしまう。
おまけに、今この瞬間の事実を暴露されればおしまいだ。
「すまないな、そこの二人。神は人間を罰しはしないが、公平でなければならない。
フレーナが村で遭っていた差別、今さっきの出来事、俺がアイネロとクレースに語らせてもらう。もちろん、訂正や追加の情報があればフレーナに話してもらおう」
青褪めた様子のトリナとシーラ。
そんな二人を差し置いて、メアは先程までの出来事を語り始めた。
0
お気に入りに追加
490
あなたにおすすめの小説
【完結】生贄として育てられた少女は、魔術師団長に溺愛される
未知香
恋愛
【完結まで毎日1話~数話投稿します・最初はおおめ】
ミシェラは生贄として育てられている。
彼女が生まれた時から白い髪をしているという理由だけで。
生贄であるミシェラは、同じ人間として扱われず虐げ続けられてきた。
繰り返される苦痛の生活の中でミシェラは、次第に生贄になる時を心待ちにするようになった。
そんな時ミシェラが出会ったのは、村では竜神様と呼ばれるドラゴンの調査に来た魔術師団長だった。
生贄として育てられたミシェラが、魔術師団長に愛され、自分の生い立ちと決別するお話。
ハッピーエンドです!
※※※
他サイト様にものせてます
こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果
てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。
とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。
「とりあえずブラッシングさせてくれません?」
毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。
そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。
※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。
面倒くさがりやの異世界人〜微妙な美醜逆転世界で〜
波間柏
恋愛
仕事帰り電車で寝ていた雅は、目が覚めたら満天の夜空が広がる場所にいた。目の前には、やたら美形な青年が騒いでいる。どうしたもんか。面倒くさいが口癖の主人公の異世界生活。
短編ではありませんが短めです。
別視点あり
異世界で王城生活~陛下の隣で~
遥
恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。
グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます!
※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。
※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
大好きだけど、結婚はできません!〜強面彼氏に強引に溺愛されて、困っています〜
楠結衣
恋愛
冷たい川に落ちてしまったリス獣人のミーナは、薄れゆく意識の中、水中を飛ぶような速さで泳いできた一人の青年に助け出される。
ミーナを助けてくれた鍛冶屋のリュークは、鋭く睨むワイルドな人で。思わず身をすくませたけど、見た目と違って優しいリュークに次第に心惹かれていく。
さらに結婚を前提の告白をされてしまうのだけど、リュークの夢は故郷で鍛冶屋をひらくことだと告げられて。
(リュークのことは好きだけど、彼が住むのは北にある氷の国。寒すぎると冬眠してしまう私には無理!)
と断ったのに、なぜか諦めないリュークと期限付きでお試しの恋人に?!
「泊まっていい?」
「今日、泊まってけ」
「俺の故郷で結婚してほしい!」
あまく溺愛してくるリュークに、ミーナの好きの気持ちは加速していく。
やっぱり、氷の国に一緒に行きたい!寒さに慣れると決意したミーナはある行動に出る……。
ミーナの一途な想いの行方は?二人の恋の結末は?!
健気でかわいいリス獣人と、見た目が怖いのに甘々なペンギン獣人の恋物語。
一途で溺愛なハッピーエンドストーリーです。
*小説家になろう様でも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる