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帰還

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 その後、メアはクレースと一緒に結界を修復。
 魔物が残っていないかを確認して作業を終えた。

 鏡を通して見ていたフレーナは驚いた。
 あのクレースが十年ぶりに村の方に戻ってきたのだから。
 もう一生帰ってこないと思っていた。

 「ただいま」

 役目を終えて早々、メアは神殿に帰宅。
 後始末は村に帰るクレースに任せることにした。

 「あ、メア様! お帰りなさい!」
 「うん。フレーナとメロア、俺のこと見てただろ?」
 「気づいてたんですね……」

 竜化して身体を動かしたメアは、疲労の様子を見せない。
 フレーナの覗き見も特に気にしている様子はなかった。

 「村の方は問題ない。村に行くついでに見てきたが、お前が心配していた家畜たちも無事だったよ。ただ衰弱はしてるみたいだった」
 「そうですか……」

 メアは事前にフレーナから家畜たちが心配だと聞いていた。
 曰く、今まではフレーナが家畜の世話をほとんどしていたという。
 家族同然の家畜たちが、健康に暮らせているのか。
 それが気がかりだった。

 「クレースに言っておいた。村で飼ってる馬や牛の様子を見てやってくれ、とな。これであいつらも健康な状態に戻るだろう」
 「……! ありがとうございます!」

 人の暮らしを守ることも神の務め。
 どこか荒廃の兆しが見えるシシロ村だが、メアはひとまず様子を観察してみることにした。

 「これで俺の仕事はいったん終わり。また村から人間が来るかもしれないが……少し検討していることがあるんだ」
 「検討していること?」
 「神殿の警備を少し厳重にしようと思う」

 メアの検討。
 その意はフレーナには解せないものだった。
 警備を厳重にしたところで、メアに恐れるものなんてないと思うが。

 「どうしてですか? 何か心配ごとでも?」
 「ほら、今朝のこと。茶髪の悪意ある人間が、お前に危害を加えようとしてただろ?」
 「シーラのことですね……ええ、たぶん彼女は私をいじめようと思ってたはずです。
 でも、それくらいで警備の厳重化なんて……大袈裟では?」

 たしかに大袈裟かもしれない。
 だが、今回の一件でフレーナが生きていることは知れ渡ってしまった。

 メアは人間の性質を知っているからこそ、警備を厳重にする必要があると思っていた。
 仮にフレーナ狙いでなくとも、それに付随した利益を狙ってくる可能性がある。

 「これは俺の個人的な判断だ。悪いが、フレーナが大袈裟だと言っても警備は厳しくさせてもらうぞ」
 「は、はい。メア様が仰るのでしたら」

 メアは首肯し、神殿の整備に取り掛かった。

 ***

 一方、麓のシシロ村では。

 「あんた、クレースなの!? 久しぶりじゃない!」

 村の人々がクレースの十年ぶりの帰還を喜んでいた。
 幼馴染であるトリナとシーラも思わぬ再会に歓声を上げる。

 「長らく村に帰れなくて悪かったな。王都の方で忙しくて」

 久々に見たクレースは、昔の面影を残したまま逞しくなっていた。
 引き締まった体格、勇ましくも美しい顔つき。

 村長が両手を広げて彼を迎える。

 「おお、クレース! 噂は聞いているぞ!
 スーディアで邪竜を倒した英雄!」
 「村長! 俺の名声はこちらにも届いていたか。今は王城の騎士として働いている。お飾りだが爵位ももらったんだぞ」

 村人はクレースの活躍を聞いてさらに盛り上がった。
 彼は思い出す。
 そうだ、神からの言葉を伝えなければと。

 「さっき命神様にお会いした。
 『闇縫い蝙蝠は討伐し、結界も修復した。礼は必要ない』とのこと。俺も結界の修復に同行させていただいたから、間違いないぞ」
 「おお、さすがは神様だ!
 しかし、どうしたものか……お帰りになった神様を歓待するために、宴の用意をしていたのだが」

 村長は困り果てる。
 村に並べられたテーブルには、数々の料理や酒。

 貧乏な村だが神に粗相があってはいけない。
 奮発して宴の用意をしたが、神は帰ってしまったようだ。
 困る村長にトリナが進言する。

 「お父さん、せっかくだしクレース帰還の宴ってことにしない? クレースも今夜くらいは村に止まっていきなさいよ」
 「ああ、そのつもりだ。実は休暇を取って、数日はこちらに滞在しようと思っていた」
 「おお、それはいい! クレースよ、お前の活躍を聞かせてくれ!
 さあ、皆の者! 宴を始めるぞ!」

 異様な熱気の中で迎えられるクレースは歯がゆさを感じながらも、素直に歓待を受け入れることにした。
 そうだ、この村はそういう環境だった。
 どこか閉鎖的で、関係性が重要な場所。

 人との付き合いが淡泊な王都とは違う空気だ。
 久々の雰囲気にクレースは酔い、故郷の景色を眺める。

 フレーナの一家が差別されていたことなど、知る由もなく。
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