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フレーナの部屋

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 神殿に帰還。
 帰りもメアに抱かれて、フレーナは空を飛んだ。

 朝から晩まで王都を歩き、足はくたくた。
 おまけに眠気もすごい。

 神殿に入ると、メロアが飛んできた。

 『お帰りなのだ! フレーナ用の家具は、とりあえず西の部屋に全部置いておいたのだ。あるじ、あそこでよかった?』
 「どこでもいいんじゃないか? フレーナの要望があれば、日当たりのいい部屋とか涼しめの部屋とか……好きな部屋を選べばいい」
 「いえ、大丈夫です! ありがとうございます!」

 特に要望はない。
 こんなに色んな物を買い揃えてもらって、おまけに住む場所まで与えてくれた。
 村の生活に比べたら天と地の差だろう。

 「よし、メロア。お前の役割は終わりだ。また眠ってくれ」
 『えー……せっかく数百年ぶりに出番が来たのに。他に何かないのだ?』

 メロアは不服そうに空中で弧を描いた。
 一々動作がかわいくて、フレーナは思わず目で追ってしまう。

 「んー……そう言われてもな。あ、そうだ。フレーナの世話係にしょう」
 「えっ!? メロア様を私のお世話係に!?
 い、いいいえ恐れ多いです! むしろ私がメア様やメロア様のお世話をします……」

 神の家で世話されて生活するなど、到底認められない。
 せめてフレーナが奉仕する形で暮らすべきだ。

 「じゃ、フレーナとメロアで協力して暮らしてくれ。俺の世話とかは考えなくていい。どうせほとんどの時間、暇してるだけだしな」
 『任せろ、あるじ! ずっと寝てるより、フレーナと一緒に生活した方が楽しいのだ!』

 メロアは張り切っているようだ。
 フレーナとしても、孤独に暮らすよりは寄り添ってくれる者がいた方が安心できる。

 メアは満足そうに頷いた。

 「じゃ、俺は正面奥の大部屋にいるから。何かあったら遠慮せずに来てくれ。おやすみ、フレーナ」
 「はい、おやすみなさい」

 メアを見送ってフレーナはぺこりと頭を下げる。
 そんな彼女の頭を、メロアの尾がつつく。

 『フレーナー。今日はもう寝るのだ?』
 「そうですね、すごく眠いです」
 『じゃあ、明日の朝お風呂に入るのだ。朝ごはんも用意しなきゃなのだ』
 「メロア様は人間の生活に詳しいんですね!」

 メアはすごく人間の暮らしに無関心だが、メロアは一定の理解がありそうだ。
 メロアは得意気に羽をばたつかせた。

 『昔はあるじに命じられて、人間を守る仕事をしていたのだ! でも細かい作業は苦手で……ご飯を作るといつも焦げちゃう』
 「あはは……じゃあ、料理は私がしますね」
 『よろしく! あるじにもご飯を作ってやるといいのだ。あるじ、ぜんぜん人間の暮らしに興味がないから』
 「そうですね。興味を持ってもらえるようにがんばります!」

 メアのことだから、フレーナを邪険に扱ったりしないだろう。
 それでもフレーナは、メアに対してできるだけ持て成しをしたい。
 せめてもの返礼をしたかった。

 『じゃあ、部屋に案内するのだ。今日からここがフレーナの家!』

 ***

 案内された部屋は、まだずいぶんとスペースがあった。
 神殿の中では狭い部屋だ。
 しかし、買った家具を置いても余りある空間が広がっている。

 村で暮らしていた小屋の五倍はあるだろうか。
 ベッド、棚、テーブル、椅子……などなど。
 色々置いたが、未だに灰色のスペースが大半を占めている。

 窓からは綺麗な星空が見えた。
 山の上から見る景色は壮大だ。
 紫紺の夜空に輝く星が美しい。

 「きれい……」

 ベッドに腰かけたフレーナは感嘆の声を漏らす。
 村に暮らしていた当時は、景色を楽しむ余裕もなく。
 ただ無為に多忙な日々に追われていた。

 『じゃあ、ボクは外に行ってるのだ! 緊急事態のときは大声で叫ぶように!』
 「はい、わかりました。おやすみなさい」
 『おやすみなのだー』

 メロアは窓の外に飛んで行った。
 どこに行くのだろう。

 遠くなるメロアを見つめながら、フレーナはベッドに身を沈める。
 すごく柔らかい。
 いつも剥き出しの床で寝ていた彼女からすれば、これは極楽。

 「ふぁぁ……」

 彼女は一瞬で眠りに落ちてしまった。
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