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面影
しおりを挟む 王都スーディアを歩くこと数時間。
色々な店を巡った。
時刻はすでに夕暮れ時。
メアが物を買う度にメロアが飛んできて、神殿へ運んで行って。
自分の何倍も大きな家具を担いで往復していた。
その度に、フレーナは『ありがとうございます』とメロアに感謝を伝える。
「本当にメロア様には申し訳ないです……私のためにこんなに往復してもらって」
『これで最後ー? まったく、あるじも人使いが荒いのだ!』
「俺の役に立つのが眷属の仕事だろ。というかお前、全然苦労してないだろ」
『……バレたのだ。正直、ぜんぜん疲れてない。フレーナも気にするな、なのだ』
メロアはむしろ最初に出会った時よりも元気に見えた。
最後に買った天蓋つきのベッドも軽々と頭の上に乗せている。
遠巻きに見たらベッドが浮いている衝撃の光景だ。
もしも今、路地裏に人が来たらびっくりして腰を抜かすだろう。
「必要な物は一通り揃えたか。メロア、一足先に帰っててくれ」
『りょーかい! 早く戻るのだ』
そしてメロアは猛烈な勢いで空に飛んで行った。
飛ぶ家具の噂が王都に流行らないといいのだが。
大通りに出て、フレーナは欠伸をする。
「ふぁ……たくさん歩いたので眠くなってきました。昨日は生贄に捧げられると思っていて、ほとんど眠れませんでしたし」
「うん。早く帰って寝よう。またフレーナを担いで飛びたいから、人目につかない場所まで歩く。
もう少しがんばってくれ」
メアはフレーナの歩調に合わせてゆっくりと歩く。
そろそろ王都も夜の顔になる頃合い。
都会は夜も眠らないらしい。
夜の王都も見てみたいフレーナだったが、今は帰ることが優先だ。
王都の広間に差しかかった時、フレーナはふと顔を上げた。
聳え立つ銅像に既視感を覚えたのだ。
「この像……」
男性の像だ。
背には巨大な剣を担いでいて、天を見上げている。
髪や瞳の色は銅像なのでわからないが、どこか面立ちに見覚えがある。
「ん、どうした」
「なんだか見覚えがあるんです。この人」
「この像は……ふむ」
メアは像の下に歩み寄り、プレートに刻まれた文字を読んだ。
「英雄クレース、だってさ。竜を退けた英雄。
最近作られた像じゃないか。一年前に建造されたらしい」
「クレース……あっ!?」
その名は。
シシロ村から旅立った少年だった。
幼少期のフレーナが村長の娘のトリナや、近所のシーラと遊んでいたころ。
男の子が村にいたのだ。
彼は女子ばかりの村で退屈そうにしていて、いつも木剣を片隅で振るっていた。
人知れず村を去ってしまったが、同年代のフレーナたちには村を出ることを伝えていた。
曰く、王都に行って兵士になるのだと。
彼こそがクレース。
同名の別人の可能性もあるが、顔立ちがすごく似ている。
「知り合いか?」
「村にそういう名前の人がいました。人違いかもですけど」
「そっか。でも、村の話はあまりしたくないだろう?」
「そうですね……自分を生贄に選んだ村ですし。でも、小さいころはよくクレースと話していたんです。まあ、村に戻ってこなかった人ですし……今は無関係の間柄ですよね」
たぶん田舎の故郷のことなど、すっかり忘れている。
ましてや英雄と讃えられる人物に大成したのだ。
二度と帰ってくることはないかもしれない。
それに、フレーナはシシロ村とは縁を断ちたかったのだから。
「ん……まあいいや。人は意志により羽ばたき、時に英雄に、愚者になる。
その変化が面白くも残酷なところではあるんだけどな」
「……?」
メアは遠くを見つめて、そんなことを呟いた。
神の言葉はときに理解できない。
おそらく生きている時間が違い、生物の規模が違うから。
できることなら、フレーナはメアのすべてを理解できるようになりたい。
そんな日は来るのだろうか。
色々な店を巡った。
時刻はすでに夕暮れ時。
メアが物を買う度にメロアが飛んできて、神殿へ運んで行って。
自分の何倍も大きな家具を担いで往復していた。
その度に、フレーナは『ありがとうございます』とメロアに感謝を伝える。
「本当にメロア様には申し訳ないです……私のためにこんなに往復してもらって」
『これで最後ー? まったく、あるじも人使いが荒いのだ!』
「俺の役に立つのが眷属の仕事だろ。というかお前、全然苦労してないだろ」
『……バレたのだ。正直、ぜんぜん疲れてない。フレーナも気にするな、なのだ』
メロアはむしろ最初に出会った時よりも元気に見えた。
最後に買った天蓋つきのベッドも軽々と頭の上に乗せている。
遠巻きに見たらベッドが浮いている衝撃の光景だ。
もしも今、路地裏に人が来たらびっくりして腰を抜かすだろう。
「必要な物は一通り揃えたか。メロア、一足先に帰っててくれ」
『りょーかい! 早く戻るのだ』
そしてメロアは猛烈な勢いで空に飛んで行った。
飛ぶ家具の噂が王都に流行らないといいのだが。
大通りに出て、フレーナは欠伸をする。
「ふぁ……たくさん歩いたので眠くなってきました。昨日は生贄に捧げられると思っていて、ほとんど眠れませんでしたし」
「うん。早く帰って寝よう。またフレーナを担いで飛びたいから、人目につかない場所まで歩く。
もう少しがんばってくれ」
メアはフレーナの歩調に合わせてゆっくりと歩く。
そろそろ王都も夜の顔になる頃合い。
都会は夜も眠らないらしい。
夜の王都も見てみたいフレーナだったが、今は帰ることが優先だ。
王都の広間に差しかかった時、フレーナはふと顔を上げた。
聳え立つ銅像に既視感を覚えたのだ。
「この像……」
男性の像だ。
背には巨大な剣を担いでいて、天を見上げている。
髪や瞳の色は銅像なのでわからないが、どこか面立ちに見覚えがある。
「ん、どうした」
「なんだか見覚えがあるんです。この人」
「この像は……ふむ」
メアは像の下に歩み寄り、プレートに刻まれた文字を読んだ。
「英雄クレース、だってさ。竜を退けた英雄。
最近作られた像じゃないか。一年前に建造されたらしい」
「クレース……あっ!?」
その名は。
シシロ村から旅立った少年だった。
幼少期のフレーナが村長の娘のトリナや、近所のシーラと遊んでいたころ。
男の子が村にいたのだ。
彼は女子ばかりの村で退屈そうにしていて、いつも木剣を片隅で振るっていた。
人知れず村を去ってしまったが、同年代のフレーナたちには村を出ることを伝えていた。
曰く、王都に行って兵士になるのだと。
彼こそがクレース。
同名の別人の可能性もあるが、顔立ちがすごく似ている。
「知り合いか?」
「村にそういう名前の人がいました。人違いかもですけど」
「そっか。でも、村の話はあまりしたくないだろう?」
「そうですね……自分を生贄に選んだ村ですし。でも、小さいころはよくクレースと話していたんです。まあ、村に戻ってこなかった人ですし……今は無関係の間柄ですよね」
たぶん田舎の故郷のことなど、すっかり忘れている。
ましてや英雄と讃えられる人物に大成したのだ。
二度と帰ってくることはないかもしれない。
それに、フレーナはシシロ村とは縁を断ちたかったのだから。
「ん……まあいいや。人は意志により羽ばたき、時に英雄に、愚者になる。
その変化が面白くも残酷なところではあるんだけどな」
「……?」
メアは遠くを見つめて、そんなことを呟いた。
神の言葉はときに理解できない。
おそらく生きている時間が違い、生物の規模が違うから。
できることなら、フレーナはメアのすべてを理解できるようになりたい。
そんな日は来るのだろうか。
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