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食事の問題点

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 都の一角にあるレストランに入った二人。
 昼時。店内は客で賑わっていた。

 フレーナは魚のバターソテーを。
 メアはステーキを注文する。
 料理を待つ間、二人は沈黙していた。
 とはいえ気まずい沈黙ではなく、どこか心地よい静けさ。

 「お待たせしました」

 テーブルに二人の料理が置かれる。
 香ばしい匂いが漂い、フレーナの頭がくらくらした。

 「お、おいしそう……」

 こんな料理、幼少期から食べていない。
 両親が死んでからは余り物の食材だけを渡され、まともな料理を食べることは許されなかった。
 魚の皮や、筋張った肉。野菜の芯などがメインの食生活で。

 「好きなだけ食え。おかわりしていいからな」
 「はい! いただきます」

 口に入れると、とろけるような食感が広がる。
 バターの風味が絶妙だ。
 そこまで高くないレストランを選んだのに、ここまで美味だとは。
 今までの食生活がどれだけ酷かったかわかる。

 「うん、美味いな。神は食事を必要としないが、味を楽しむのは好きだ。料理ってのは人間独自の文化だからな。フレーナが俺に食べられようとして山に来たのを思い出した」
 「う……だって、そう伝承されていたのだから仕方ないじゃないですか。神様は人間を食べるものだと認識していました」
 「別に食おうと思えば食えるけどな?」
 「ひえっ!」
 「冗談だ」

 質の悪い冗談だ。
 びくびくするフレーナを見て、メアは愉快そうに笑った。

 そんなこんなで、食事は進んでいく。
 あまりのおいしさに、フレーナの手が止まることはない。
 そう思っていたのだが……

 ***

 「ん、フレーナ。どうした?」

 徐々にフレーナの手が止まっていく。
 ソテーを食べ終えて、サラダを食べていたときのこと。

 「うーん……すごくおいしいんですけど、お腹がいっぱいかもしれないです」
 「まだそれしか食ってないのに? ……あ、そうか」

 メアは思い出す。
 推定だが、フレーナは村で碌な生活を送っていなかった。
 食生活も貧相だってので、胃袋が小さいのだろう。

 神の目は誤魔化せない。
 フレーナを傷付けまいと、あまり言及はしていなかったが。

 「無理しなくてもいいぞ。余ったのは俺が食う」
 「いえ、大丈夫です。このサラダくらいは食べられますから」
 「そっか」

 神殿でフレーナを生活させるなら、食事の件もどうにかする必要がある。
 どうしたものかとメアは悩んだ。
 いっそメロアに料理を勉強させてしまおうか。
 それともフレーナ自身に料理してもらうか。

 「フレーナ、料理はできるか?」
 「えっ? はい、できますよ。食べられないものを食べれるようにするのが得意です」
 「そ、そうか……神殿での生活を考えると、お前に料理を作ってもらうべきかと思ってな」
 「たしかに、毎日のように王都に行くのも大変ですからね。食材を買い込んだり、山で採ったりしながら料理をする必要がありそうです」

 恵山は名前とは裏腹に、食物には恵まれない山だ。
 ゆえに食材を買い込んで料理するスタイルが主になるだろうか。
 シシロ村には行きたくないので、食材の購入は王都からが一番近いだろう。

 「じゃ、次は調理器具でも買いに行くか。あとはタンスとかの家具、ベッド……他には何が必要なんだ?」
 「うーん……いえ、それくらいで十分だと思います。あんまり買いすぎても申し訳ないですから。……ところで、その。タンスとかベッドとか、全部メロア様に運ばせるのですか?」
 「あいつ、ああ見えてすごい馬鹿力だからな。心配しなくていいぞ」
 「な、なるほど……」

 あの小さな体のどこにそんなパワーが?
 フレーナには想像できなかった。
 やはり神の眷属は測り知れない。

 「必要な物があれば、適宜言ってくれ。人間の暮らしには疎いんだ」
 「ありがとうございます!」

 メアは人間とあまり関わってこなかったのだろうか。
 山に籠りきりで、出不精な性格なのかもしれない。

 「ちなみに、メアさ……アメ様は人間が好きですか?」

 もしかしたら人間が嫌いなのでは、と。
 フレーナはぼんやりと不安に思った。

 「ああ、大好きだよ。この世界に生きる命はすべて神の子。嫌いな命なんてない」
 「わ、すごい。神様オーラが出てます!」
 「なんだそれ。人間が嫌いな神もいるから、そこらへんは留意しておくようにな。まあ、他の神と会うことなんてないと思うが」

 そこまで話したところで、ようやくサラダを食べ終えた。
 フレーナは満腹になって感度する。
 こんなに食べられたのはいつ以来だろう。
 もしかしたら、人生で初の満腹度かもしれない。

 「ごちそうさまでした! おいしかったです!」
 「よし、じゃあ行くか」

 メアは先程宝石を売った金を使い、支払いを終える。
 二人は店を出て午後の買い物に向かった。
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