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眷属

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 服が入った紙袋を持って、メアは雑踏を歩いていた。
 ふらふらと往く彼の隣をフレーナは歩く。

 王都スーディアは見たことのない景色ばかりで目移りしてしまいそうだ。
 シシロ村の地味な景色とは全く違う。

 「あの、アメ様。荷物多くないですか? 私が持ちますよ」
 「ん……たしかに。言われてみると邪魔かもな。でも、フレーナが持つ必要はない」

 メアは周囲を見渡し、人気のない路地裏に入っていく。
 フレーナも何事かと後に続いた。

 「よし、誰もいないな」

 周りに人がいないことを確認したメア。
 彼は中空に手をかざす。

 空間が歪み、その割れ目から細長い『何か』がぬるりと出た。
 全長1メートルほどで、茶褐色の体。
 背には羽が生えた……蛇が出てきたのだ。

 「きゃっ!? 魔物!?」
 「落ち着け。魔物じゃない」

 飛び退いたフレーナをメアが支える。
 メアが呼び出したと思われる蛇は、きょろきょろと辺りを見回した。
 二人を交互に見つめ、そしてずいと接近。

 『あるじ! 久しぶりなのだ!』
 「しゃべった!?」

 蛇が喋った。
 突飛な出来事の連続に、フレーナの思考は混乱する。

 蛇はたしかにメアの方を見て「あるじ」と話した。
 メアは気さくに蛇に返事をする。

 「うん、久しぶり。ちょっと用があって呼ばせてもらったよ」
 『この女のひとはだれー?』
 「フレーナだ。故あって知り合った人間。フレーナ、この蛇は俺の眷属だ。名前をメロアって言う」
 『蛇じゃないのだ、あるじ! ボクは竜なのだ!』

 メロアと呼ばれた蛇……いや竜は、怒ってパタパタと翼をはためかせる。

 「か、かわいい……! メロア様、ですね!
 フレーナ・シヴです、よろしくお願いします!」
 『む、礼儀正しい人間なのだ。ボクは命神メアの眷属、メロア! 敬うのだ!』

 くるくるとフレーナの周りを飛び、やがてメアの頭の上に乗ったメロア。
 頭の先でメアの頭頂部をつつく。

 『で、何の用なのだ? あるじの護衛? それともフレーナのお世話? なんでも頼りにしていいのだ!』
 「荷物、運んどいてくれ」
 『え』

 メアは紙袋を持ち上げる。
 フレーナのドレスや服が何着か入った袋だ。

 「山頂の神殿に置いといて。また他の物も買う予定だから、その荷物もよろしくな」
 『ちょっと待つのだ。荷物持ちのために呼ばれたの?』
 「そうですよ。アメ様、こんな小さいメロア様に荷物を持たせるのは酷では?」

 別に服はそこまで重くないが、王都から神殿まで結構な距離がある。
 荷物を運ぶために何往復もさせるのは気が引ける。
 自分のために買ってもらった物なので、なおさらフレーナは引け目を感じた。

 『な、なぬっ! 小さいからフレーナに舐められているのだ! こんな袋、一瞬で運んでくるぞ!』

 メロアはかえってフレーナの配慮に反発し、袋を咥える。
 そしてパタパタと空の彼方へ飛んで行ってしまった。

 「よし、計算どおり。メロアの性格とフレーナの性格、互いに考えるとこうなることは読めていた」
 「そ、そこまで考えていたのですか?」
 「ああ。神の眷属なんだから、神の役に立たせるのが道理なんだよ。遠慮しないで何でも命令してやらないと、かえってメロアに失礼だ。仕事の押しつけすぎはダメだけどな」

 仕事の押しつけすぎ。
 その言葉で、フレーナはシシロ村での待遇を思い出す。
 自分にも過剰な仕事が与えられ、村のほとんどの労働をさせられていた。

 「そ、そうですね……メロア様を労わってあげてください」
 「ん。まあ、あいつを呼ぶのは百年ぶりだからな。久々の仕事で張り切ってるだろう。それじゃ、次の店に行こうか」
 「百年ぶり……やっぱり規模が違いますよね、神様は。次はどこへ行くのですか?」

 どこへ行くのか。
 そう言った瞬間に、ぐうと音が響いた。
 音源はフレーナのお腹。

 「あっ……」

 腹を鳴らしてしまい、フレーナは赤面する。
 これでは次に行きたい場所を言ったようなものだ。

 「ははっ。じゃ、飯を食いに行くか」
 「は、はい……」

 再び大通りに出て、二人はいい匂いのする方角へ向かって行った。
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