嫌われ令嬢が冷酷公爵に嫁ぐ話~幸せになるおまじない~

朝露ココア

文字の大きさ
上 下
4 / 30

公爵様の大豪邸

しおりを挟む
 「はえー……」

 白亜の城の前に広がる花畑と噴水庭園。
 視界の端でも途切れぬほど、広大な土地。

 あまりに規格外な土地に感嘆するマイアの下に、使用人と思わしき男性がやってきた。
 栗毛色の髪に、紅の瞳。
 きっちりとしたスーツに身を包んだ美少年。

 「お待ちしておりました、マイア・ハベリア様。私はジョシュア様直属の使用人、アラン・ティールと申します。以後お見知りおきを」
 「は、はい! 本日はどうぞよろしくお願いいたします!」
 「……ふむ。ご案内いたします、こちらへどうぞ」

 マイアの名乗りに目を丸くしていたアランだったが、少し考え込んでから案内を促す。
 緊張のあまり、おかしな挨拶になってしまった。
 いきなり悪印象を与えてしまっただろうか……とマイアは後悔する。

 アランの後に続き、彼女は城の中へ。
 内装ももちろん見事なものだった。
 鏡のようにピカピカな床、価値のほどがまったくわからない壺や絵画、絢爛豪華なシャンデリア。

 実家の伯爵家とは比べ物にならない。
 二人が廊下を通ると、使用人がお辞儀をして道を開ける。
 しかしマイアの噂もあってか、使用人たちが向ける視線は好印象のものとは言えなかった。

 マイアは使用人の傍を通るたび、ぺこぺことお辞儀をして通り去って行く。
 そんな彼女の様子を、アランは怪訝な視線で盗み見ていた。

 ***

 「少々お待ちください」

 応接間に通され、マイアはソファに座る。
 どうやらジョシュア公は多忙を極めているらしく、今も執務室で働いているとのこと。アランがジョシュアを呼びに行くと、応接室には静寂が訪れた。


 マイアはこれから面会することになる夫について考える。
 彼女と同様に、ジョシュアの評判はすこぶる悪い。

 仕事面に関しては非常に優秀な手腕を持っており、国王陛下の右腕とも称される。しかし、人格面は悪い噂ばかり。

 大の女嫌いで、すぐに暴力を振るい、どんな美女でも近づけないと。
 しかも冗談が通じない超堅物で、仕事人間。

 (でも実家の待遇に比べたらマシよね……)

 実家でも暴力を振るわれて虐められていたのだから。
 何がどう転んでも伯爵家の待遇よりはマシになる。
 マイアには確信があった。

 とりあえず一日一食は欲しい。
 おまじないで治せる程度の怪我や空腹であれば構わない。

 (あ、そうそう。支度金の話もしないと……)

 父からは到着してすぐに支度金の話を通すようにと、言いつけられていた。
 この豪邸を見る限り、支度金など端金だろう。
 憂いはまだ完全に消えたわけではない。
 とりあえず、婚約破棄されないように振る舞わなくては。

 そんなこんなで思考に耽っていると、部屋の外から足音が聞こえた。
 そして応接間のドアノブが回り、ガチャという音と共に扉が開く。

 マイアはすぐに立ち上がった。
 挨拶を交わそうと扉の方を見て……固まってしまう。

 「ジョシュア・エリオットだ。お待たせしてすまない、マイア嬢」

 見たこともないような美青年が立っていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

変態婚約者を無事妹に奪わせて婚約破棄されたので気ままな城下町ライフを送っていたらなぜだか王太子に溺愛されることになってしまいました?!

utsugi
恋愛
私、こんなにも婚約者として貴方に尽くしてまいりましたのにひどすぎますわ!(笑) 妹に婚約者を奪われ婚約破棄された令嬢マリアベルは悲しみのあまり(?)生家を抜け出し城下町で庶民として気ままな生活を送ることになった。身分を隠して自由に生きようと思っていたのにひょんなことから光魔法の能力が開花し半強制的に魔法学校に入学させられることに。そのうちなぜか王太子から溺愛されるようになったけれど王太子にはなにやら秘密がありそうで……?! ※適宜内容を修正する場合があります

【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。

扇 レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋 伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。 それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。 途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。 その真意が、テレジアにはわからなくて……。 *hotランキング 最高68位ありがとうございます♡ ▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス

人質王女の婚約者生活(仮)〜「君を愛することはない」と言われたのでひとときの自由を満喫していたら、皇太子殿下との秘密ができました〜

清川和泉
恋愛
幼い頃に半ば騙し討ちの形で人質としてブラウ帝国に連れて来られた、隣国ユーリ王国の王女クレア。 クレアは皇女宮で毎日皇女らに下女として過ごすように強要されていたが、ある日属国で暮らしていた皇太子であるアーサーから「彼から愛されないこと」を条件に婚約を申し込まれる。 (過去に、婚約するはずの女性がいたと聞いたことはあるけれど…) そう考えたクレアは、彼らの仲が公になるまでの繋ぎの婚約者を演じることにした。 移住先では夢のような好待遇、自由な時間をもつことができ、仮初めの婚約者生活を満喫する。 また、ある出来事がきっかけでクレア自身に秘められた力が解放され、それはアーサーとクレアの二人だけの秘密に。行動を共にすることも増え徐々にアーサーとの距離も縮まっていく。 「俺は君を愛する資格を得たい」 (皇太子殿下には想い人がいたのでは。もしかして、私を愛せないのは別のことが理由だった…?) これは、不遇な人質王女のクレアが不思議な力で周囲の人々を幸せにし、クレア自身も幸せになっていく物語。

妹ばかりを贔屓し溺愛する婚約者にウンザリなので、わたしも辺境の大公様と婚約しちゃいます

新世界のウサギさん
恋愛
わたし、リエナは今日婚約者であるローウェンとデートをする予定だった。 ところが、いつになっても彼が現れる気配は無く、待ちぼうけを喰らう羽目になる。 「私はレイナが好きなんだ!」 それなりの誠実さが売りだった彼は突如としてわたしを捨て、妹のレイナにぞっこんになっていく。 こうなったら仕方ないので、わたしも前から繋がりがあった大公様と付き合うことにします!

駆け落ちした姉に代わって、悪辣公爵のもとへ嫁ぎましたところ 〜えっ?姉が帰ってきた?こっちは幸せに暮らしているので、お構いなく!〜

あーもんど
恋愛
『私は恋に生きるから、探さないでそっとしておいてほしい』 という置き手紙を残して、駆け落ちした姉のクラリス。 それにより、主人公のレイチェルは姉の婚約者────“悪辣公爵”と呼ばれるヘレスと結婚することに。 そうして、始まった新婚生活はやはり前途多難で……。 まず、夫が会いに来ない。 次に、使用人が仕事をしてくれない。 なので、レイチェル自ら家事などをしないといけず……とても大変。 でも────自由気ままに一人で過ごせる生活は、案外悪くなく……? そんな時、夫が現れて使用人達の職務放棄を知る。 すると、まさかの大激怒!? あっという間に使用人達を懲らしめ、それからはレイチェルとの時間も持つように。 ────もっと残忍で冷酷な方かと思ったけど、結構優しいわね。 と夫を見直すようになった頃、姉が帰ってきて……? 善意の押し付けとでも言うべきか、「あんな男とは、離婚しなさい!」と迫ってきた。 ────いやいや!こっちは幸せに暮らしているので、放っておいてください! ◆小説家になろう様でも、公開中◆

喋ることができなくなった行き遅れ令嬢ですが、幸せです。

加藤ラスク
恋愛
セシル = マクラグレンは昔とある事件のせいで喋ることができなくなっていた。今は王室内事務局で働いており、真面目で誠実だと評判だ。しかし後輩のラーラからは、行き遅れ令嬢などと嫌味を言われる日々。 そんなセシルの密かな喜びは、今大人気のイケメン騎士団長クレイグ = エヴェレストに会えること。クレイグはなぜか毎日事務局に顔を出し、要件がある時は必ずセシルを指名していた。そんなある日、重要な書類が紛失する事件が起きて……

【完結】 私を忌み嫌って義妹を贔屓したいのなら、家を出て行くのでお好きにしてください

ゆうき
恋愛
苦しむ民を救う使命を持つ、国のお抱えの聖女でありながら、悪魔の子と呼ばれて忌み嫌われている者が持つ、赤い目を持っているせいで、民に恐れられ、陰口を叩かれ、家族には忌み嫌われて劣悪な環境に置かれている少女、サーシャはある日、義妹が屋敷にやってきたことをきっかけに、聖女の座と婚約者を義妹に奪われてしまった。 義父は義妹を贔屓し、なにを言っても聞き入れてもらえない。これでは聖女としての使命も、幼い頃にとある男の子と交わした誓いも果たせない……そう思ったサーシャは、誰にも言わずに外の世界に飛び出した。 外の世界に出てから間もなく、サーシャも知っている、とある家からの捜索願が出されていたことを知ったサーシャは、急いでその家に向かうと、その家のご子息様に迎えられた。 彼とは何度か社交界で顔を合わせていたが、なぜかサーシャにだけは冷たかった。なのに、出会うなりサーシャのことを抱きしめて、衝撃の一言を口にする。 「おお、サーシャ! 我が愛しの人よ!」 ――これは一人の少女が、溺愛されながらも、聖女の使命と大切な人との誓いを果たすために奮闘しながら、愛を育む物語。 ⭐︎小説家になろう様にも投稿されています⭐︎

【完結】身を引いたつもりが逆効果でした

風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。 一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。 平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません! というか、婚約者にされそうです!

処理中です...