無理やり『陰険侯爵』に嫁がされた私は、侯爵家で幸せな日々を送っています

朝露ココア

文字の大きさ
上 下
27 / 31

拭えない過去

しおりを挟む
私の告白と共に場の空気が一変する。
単にお父様が離縁を公表するだけに留まらず、罪の如何を問う場へと変わってしまった。

「お姉様は私に対し、数多くの暴言や暴行を加えてきました。お母様も同様に私を邪険にし、夜会に出ることや物を買うことすら許してくださらなかった。他にも私を庇う使用人を排除して、自分たちの味方をしてくれる使用人ばかりを残して……」

「……ディアナの言うことはまことだ。私も妻とドリカの行動を認識はしていたが、あまり強く諫めることはできなかった。……すまん、ディアナ」

お父様が深々と頭を下げる。
たしかに、どうして助けてくれないんだって思うこともあった。
それでも最低限の生活ができるように工面してくれていたのは知っていたし、時々庇ってくれることだってあった。

お母様とお姉様は注意のひとつでもすれば激怒する。
何を言っても逆鱗に触れるような母娘に、どう接すればいいか悩むお父様の苦悩も理解はできる。
私が自分の気持ちを口にしようとした瞬間。

「――嘘ね。ディアナもお父様も、私たちを切り離したくて嘘を吐いているのよ。たしかに私はお金づかいは荒いこともあったけれど、決して家族をないがしろに扱ったりしないわ。そうでしょう、お母様?」

「え……えぇ、そうよ。たしかにドリカは浮気相手との子で、ディアナは夫との子。それは認めましょう。だからと言って、二人の子どもに優劣をつけるような真似はしていないわ。信じてくださいな、大公閣下!」

エッカルト大公閣下は肩をすくめた。
必死になればなるほど、二人の信用が落ちていく。
しかし私に対するいじめの証拠がないのは事実だ。
罪に問うことは難しいかもしれない。
せめて離縁だけでも……。

「なるほど。これを見せても虚勢を張れるだろうか」

証言者であるリアさんがおもむろに顔を上げた。
彼女が取り出したのは一枚の……手紙?

「先日、スリタール子爵家の侍女が当家を訪ねてきた。曰く、ドリカ嬢の使いだそうで。ドレスの購入費を工面しろだの、信じ難いことを言ってきたので適当にあしらったが……その際に義姉上に手紙を書いてもらった」

「そ、それって……パウラのことかしら?」

「ああ。ドリカ嬢つきの侍女だというパウラ殿が綴った手紙。中身を見ればわかるが……読み上げるのも憚られるような、罵詈雑言が義姉上に向けられている。内容を要約すると『義姉上の奥ゆかしさに付け込み、自分を侯爵家の使用人に雇うように命令する』ものだ。反抗すればドリカ嬢に言いつける旨も書かれている。大公閣下にもご覧いただこう」

パウラが侯爵家に来ていた……そういえばそんな話もしていた。
きっとすごく無礼な態度を取ったに違いない。
あの侍女は特に私を嫌っていたから。

リアさんから手紙を受け取った大公閣下。
初めは冷静に読んでいた大公閣下だが、次第にその顔つきは険しくなっていく。

「……酷いものだな。侍女にここまで言われるとは。ディアナ嬢が実家でどのような境遇だったのか、文面から察せられる。虐待を受けていたという話も虚偽ではないだろう」

……私は手紙の内容を見ないようにしよう。
その方が精神衛生上、健全なはずだ。

「そ、それも嘘よ! 捏造したのでしょう!」

「その手紙には、スリタール子爵家の印章を写しとして焼き付けてある。仮にも子爵令嬢の代理として侍女が来たのだから、それを証明する印章くらいは取らせてもらったとも」

「…………」

お姉様は言葉に詰まった。
その隙を見逃すまいと大公閣下が口を開いた。

「どうやらスリタール子爵夫人とドリカ嬢には離縁するだけではなく、罪に対する責任も取ってもらわねばならんようだな。……では、これまでにスリタール子爵家で浪費した資金。それらすべてを、離縁後の夫人とドリカ嬢に払ってもらおう」

「……!? た、大公閣下! そんなの、あまりに酷すぎますわ! ディアナへのいじめには使用人たちも関与していましたから、彼らにも責任を負わせるべきではなくて!?」

お母様は真っ先に大公閣下の決定に抗議した。
不敬だとか、そういう感情はもうなくなっているのだろう。
抗議に対し、お父様が煩わしそうに言い放つ。

「もちろん、お前とディアナの息がかかった使用人はすべて解雇する。妻にドリカもいなくなり、ディアナは嫁ぎ……子爵家は寂しくなるな。だが、新たな一歩だと考えることにしよう」

これで話は終わりだろうか。
なんだか暗い話ばかりで嫌になってきた。
私はただ……エルヴィスと幸せになりたいだけなのに。


議論がまとまったかと思われたとき。
わなわなと肩を震わせていたお姉様が動く。

「あんたのせいで……」

テーブル上の燭台を掴み、私の方へ走り出して。
嘘、でしょ……?

「あんたのせいで、何もかもめちゃくちゃじゃない!」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】私、四女なんですけど…?〜四女ってもう少しお気楽だと思ったのに〜

まりぃべる
恋愛
ルジェナ=カフリークは、上に三人の姉と、弟がいる十六歳の女の子。 ルジェナが小さな頃は、三人の姉に囲まれて好きな事を好きな時に好きなだけ学んでいた。 父ヘルベルト伯爵も母アレンカ伯爵夫人も、そんな好奇心旺盛なルジェナに甘く好きな事を好きなようにさせ、良く言えば自主性を尊重させていた。 それが、成長し、上の姉達が思わぬ結婚などで家から出て行くと、ルジェナはだんだんとこの家の行く末が心配となってくる。 両親は、貴族ではあるが貴族らしくなく領地で育てているブドウの事しか考えていないように見える為、ルジェナはこのカフリーク家の未来をどうにかしなければ、と思い立ち年頃の男女の交流会に出席する事を決める。 そして、そこで皆のルジェナを想う気持ちも相まって、無事に幸せを見つける。 そんなお話。 ☆まりぃべるの世界観です。現実とは似ていても違う世界です。 ☆現実世界と似たような名前、土地などありますが現実世界とは関係ありません。 ☆現実世界でも使うような単語や言葉を使っていますが、現実世界とは違う場合もあります。 楽しんでいただけると幸いです。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完】夫から冷遇される伯爵夫人でしたが、身分を隠して踊り子として夜働いていたら、その夫に見初められました。

112
恋愛
伯爵家同士の結婚、申し分ない筈だった。 エッジワーズ家の娘、エリシアは踊り子の娘だったが為に嫁ぎ先の夫に冷遇され、虐げられ、屋敷を追い出される。 庭の片隅、掘っ立て小屋で生活していたエリシアは、街で祝祭が開かれることを耳にする。どうせ誰からも顧みられないからと、こっそり抜け出して街へ向かう。すると街の中心部で民衆が音楽に合わせて踊っていた。その輪の中にエリシアも入り一緒になって踊っていると──

一年後に離婚すると言われてから三年が経ちましたが、まだその気配はありません。

木山楽斗
恋愛
「君とは一年後に離婚するつもりだ」 結婚して早々、私は夫であるマグナスからそんなことを告げられた。 彼曰く、これは親に言われて仕方なくした結婚であり、義理を果たした後は自由な独り身に戻りたいらしい。 身勝手な要求ではあったが、その気持ちが理解できない訳ではなかった。私もまた、親に言われて結婚したからだ。 こうして私は、一年間の期限付きで夫婦生活を送ることになった。 マグナスは紳士的な人物であり、最初に言ってきた要求以外は良き夫であった。故に私は、それなりに楽しい生活を送ることができた。 「もう少し様子を見たいと思っている。流石に一年では両親も納得しそうにない」 一年が経った後、マグナスはそんなことを言ってきた。 それに関しては、私も納得した。彼の言う通り、流石に離婚までが早すぎると思ったからだ。 それから一年後も、マグナスは離婚の話をしなかった。まだ様子を見たいということなのだろう。 夫がいつ離婚を切り出してくるのか、そんなことを思いながら私は日々を過ごしている。今の所、その気配はまったくないのだが。

【電子書籍化進行中】声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました

八重
恋愛
※発売日少し前を目安に作品を引き下げます 修道院で生まれ育ったローゼマリーは、14歳の時火事に巻き込まれる。 その火事の唯一の生き残りとなった彼女は、領主であるヴィルフェルト公爵に拾われ、彼の養子になる。 彼には息子が一人おり、名をラルス・ヴィルフェルトといった。 ラルスは容姿端麗で文武両道の次期公爵として申し分なく、社交界でも評価されていた。 一方、怠惰なシスターが文字を教えなかったため、ローゼマリーは読み書きができなかった。 必死になんとか義理の父や兄に身振り手振りで伝えようとも、なかなか伝わらない。 なぜなら、彼女は火事で声を失ってしまっていたからだ── そして次第に優しく文字を教えてくれたり、面倒を見てくれるラルスに恋をしてしまって……。 これは、義理の家族の役に立ちたくて頑張りながら、言えない「好き」を内に秘める、そんな物語。 ※小説家になろうが先行公開です

【完結】余命三年ですが、怖いと評判の宰相様と契約結婚します

佐倉えび
恋愛
断罪→偽装結婚(離婚)→契約結婚 不遇の人生を繰り返してきた令嬢の物語。 私はきっとまた、二十歳を越えられないーー  一周目、王立学園にて、第二王子ヴィヴィアン殿下の婚約者である公爵令嬢マイナに罪を被せたという、身に覚えのない罪で断罪され、修道院へ。  二周目、学園卒業後、夜会で助けてくれた公爵令息レイと結婚するも「あなたを愛することはない」と初夜を拒否された偽装結婚だった。後に離婚。  三周目、学園への入学は回避。しかし評判の悪い王太子の妾にされる。その後、下賜されることになったが、手渡された契約書を見て、契約結婚だと理解する。そうして、怖いと評判の宰相との結婚生活が始まったのだが――? *ムーンライトノベルズにも掲載

【完結】義母が来てからの虐げられた生活から抜け出したいけれど…

まりぃべる
恋愛
私はエミーリエ。 お母様が四歳の頃に亡くなって、それまでは幸せでしたのに、人生が酷くつまらなくなりました。 なぜって? お母様が亡くなってすぐに、お父様は再婚したのです。それは仕方のないことと分かります。けれど、義理の母や妹が、私に事ある毎に嫌味を言いにくるのですもの。 どんな方法でもいいから、こんな生活から抜け出したいと思うのですが、どうすればいいのか分かりません。 でも…。 ☆★ 全16話です。 書き終わっておりますので、随時更新していきます。 読んで下さると嬉しいです。

泣き虫令嬢は自称商人(本当は公爵)に愛される

琴葉悠
恋愛
 エステル・アッシュベリーは泣き虫令嬢と一部から呼ばれていた。  そんな彼女に婚約者がいた。  彼女は婚約者が熱を出して寝込んでいると聞き、彼の屋敷に見舞いにいった時、彼と幼なじみの令嬢との不貞行為を目撃してしまう。  エステルは見舞い品を投げつけて、馬車にも乗らずに泣きながら夜道を走った。  冷静になった途端、ごろつきに囲まれるが謎の商人に助けられ──

処理中です...