無理やり『陰険侯爵』に嫁がされた私は、侯爵家で幸せな日々を送っています

朝露ココア

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拭えない過去

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私の告白と共に場の空気が一変する。
単にお父様が離縁を公表するだけに留まらず、罪の如何を問う場へと変わってしまった。

「お姉様は私に対し、数多くの暴言や暴行を加えてきました。お母様も同様に私を邪険にし、夜会に出ることや物を買うことすら許してくださらなかった。他にも私を庇う使用人を排除して、自分たちの味方をしてくれる使用人ばかりを残して……」

「……ディアナの言うことはまことだ。私も妻とドリカの行動を認識はしていたが、あまり強く諫めることはできなかった。……すまん、ディアナ」

お父様が深々と頭を下げる。
たしかに、どうして助けてくれないんだって思うこともあった。
それでも最低限の生活ができるように工面してくれていたのは知っていたし、時々庇ってくれることだってあった。

お母様とお姉様は注意のひとつでもすれば激怒する。
何を言っても逆鱗に触れるような母娘に、どう接すればいいか悩むお父様の苦悩も理解はできる。
私が自分の気持ちを口にしようとした瞬間。

「――嘘ね。ディアナもお父様も、私たちを切り離したくて嘘を吐いているのよ。たしかに私はお金づかいは荒いこともあったけれど、決して家族をないがしろに扱ったりしないわ。そうでしょう、お母様?」

「え……えぇ、そうよ。たしかにドリカは浮気相手との子で、ディアナは夫との子。それは認めましょう。だからと言って、二人の子どもに優劣をつけるような真似はしていないわ。信じてくださいな、大公閣下!」

エッカルト大公閣下は肩をすくめた。
必死になればなるほど、二人の信用が落ちていく。
しかし私に対するいじめの証拠がないのは事実だ。
罪に問うことは難しいかもしれない。
せめて離縁だけでも……。

「なるほど。これを見せても虚勢を張れるだろうか」

証言者であるリアさんがおもむろに顔を上げた。
彼女が取り出したのは一枚の……手紙?

「先日、スリタール子爵家の侍女が当家を訪ねてきた。曰く、ドリカ嬢の使いだそうで。ドレスの購入費を工面しろだの、信じ難いことを言ってきたので適当にあしらったが……その際に義姉上に手紙を書いてもらった」

「そ、それって……パウラのことかしら?」

「ああ。ドリカ嬢つきの侍女だというパウラ殿が綴った手紙。中身を見ればわかるが……読み上げるのも憚られるような、罵詈雑言が義姉上に向けられている。内容を要約すると『義姉上の奥ゆかしさに付け込み、自分を侯爵家の使用人に雇うように命令する』ものだ。反抗すればドリカ嬢に言いつける旨も書かれている。大公閣下にもご覧いただこう」

パウラが侯爵家に来ていた……そういえばそんな話もしていた。
きっとすごく無礼な態度を取ったに違いない。
あの侍女は特に私を嫌っていたから。

リアさんから手紙を受け取った大公閣下。
初めは冷静に読んでいた大公閣下だが、次第にその顔つきは険しくなっていく。

「……酷いものだな。侍女にここまで言われるとは。ディアナ嬢が実家でどのような境遇だったのか、文面から察せられる。虐待を受けていたという話も虚偽ではないだろう」

……私は手紙の内容を見ないようにしよう。
その方が精神衛生上、健全なはずだ。

「そ、それも嘘よ! 捏造したのでしょう!」

「その手紙には、スリタール子爵家の印章を写しとして焼き付けてある。仮にも子爵令嬢の代理として侍女が来たのだから、それを証明する印章くらいは取らせてもらったとも」

「…………」

お姉様は言葉に詰まった。
その隙を見逃すまいと大公閣下が口を開いた。

「どうやらスリタール子爵夫人とドリカ嬢には離縁するだけではなく、罪に対する責任も取ってもらわねばならんようだな。……では、これまでにスリタール子爵家で浪費した資金。それらすべてを、離縁後の夫人とドリカ嬢に払ってもらおう」

「……!? た、大公閣下! そんなの、あまりに酷すぎますわ! ディアナへのいじめには使用人たちも関与していましたから、彼らにも責任を負わせるべきではなくて!?」

お母様は真っ先に大公閣下の決定に抗議した。
不敬だとか、そういう感情はもうなくなっているのだろう。
抗議に対し、お父様が煩わしそうに言い放つ。

「もちろん、お前とディアナの息がかかった使用人はすべて解雇する。妻にドリカもいなくなり、ディアナは嫁ぎ……子爵家は寂しくなるな。だが、新たな一歩だと考えることにしよう」

これで話は終わりだろうか。
なんだか暗い話ばかりで嫌になってきた。
私はただ……エルヴィスと幸せになりたいだけなのに。


議論がまとまったかと思われたとき。
わなわなと肩を震わせていたお姉様が動く。

「あんたのせいで……」

テーブル上の燭台を掴み、私の方へ走り出して。
嘘、でしょ……?

「あんたのせいで、何もかもめちゃくちゃじゃない!」
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